株式会社FarEastCraft 代表取締役社長 前田亮

 

京都生まれ。カナダの高校を卒業、関西学院大学卒業後に入社したP&Gで仕事をしていく中で、「自分もモノづくりで世界に挑戦したい」という気持ちが芽生えた、株式会社FarEastCraft代表の前田氏。独立して自らジンの蒸留所を建設し、ジンのおいしさを広める事業を立ち上げた経緯や日々の苦労、そして進み続けるためのモチベーションについてお話をお聞きしました。

 

日本を背負ったものづくりで世界の人々を喜ばせたい

ではさっそくですが、まずはどのような事業をされているかお伺いできますか?

大きな2つの事業としては、ジンの酒造りと、できたジンを楽しんでもらえる飲食店です。

 

元々ジンの酒造りをすることを決めていたのですが、ジンは日本国内においてまだまだ黎明期、お客様にもっとジンに触れて知っていただける場所が必要だということでジン専門の飲食店を先に作りました。

 

こういうムーブメントってすごく小さいところから始まると思ってます。最初は小さくてもいいから少しずつ発信していきたいなという思いがあります。

 

東京の池尻大橋ではジンを楽しんでいただける飲食店、京都ではお酒ってこうやってできていて飲んだら美味しいんだよということを体験していただくために、蒸留所の隣に飲食できる場を設けています。

 

(上:京都 下:東京 池尻大橋 の店舗外観)

 

お店の名前(SiCX)にはどんな意味が込められているのでしょうか?

読み方は「シックス」ですが2つの意味を込めています。一つ目は19世紀の発明家であるニコラ・テスラという人物の考えからきています。

 

彼が見つけた「369の法則」の話がとても好きで、そこから「6」という数字を取りました。

 

もう一つは英語の「sick」です。「病気の」などの意味がぱっと思い浮かぶと思うのですが、実はスラングで「カッコイイ!」というときにも使うんです。

数字の「6」と、「イケてる!」みたいな意味をかけ合わせた造語ですね。

 

スペルや大文字と小文字は、見た目のバランスが自分好みだったので「SiCX」としました。 

他にもいろいろと意味を込めていますが・・・気になったら直接聞いてみてください(笑)

 

この事業をやろうと決めたきっかけや経緯をお伺いできますか?

一度P&Gという会社に就職をしているのですが、当時その会社の作ったものを人に届けて実際に使って喜んでもらえるというシンプルな商いが自分の中で腑に落ちた経験があり、いずれ何かしらの「ものづくり」をして世界に挑戦したいなぁと思いながら過ごしていました。

 

ものづくりで世の中に一石投じたいという気持ちがあったものの、商品やサービスを作って売るときに、僕自身がペルソナに当てはまるものじゃないとできないなと思ったんです。

 

「何か売れそうなものを作る」とすると例えば女性をターゲットにした商品だったりとか、トレンドから入っていくマーケットインが賢いとは思いますが、僕の場合はとにかく自分が欲しいものを作って人に売る、要はプロダクトアウトでなければ気持ちが入っていかないんです。それができるテーマは何かなと考えていた一つがお酒です。

 

日本を背負って世界で勝負できるもの、喜ぶ人の顔が見えるものということを考えました。

 

実はP&Gに入社する前後は自分自身で会社をやるという考えは全く無く、今ある目の前のお仕事を一生懸命頑張って、それに結果がついてきたらいいと思っていました。

ところがそのうち会社で出来ることが増え、周囲にいるチャレンジしている人たちと出会う機会も増えてきまして、そういう人たちを見ていると自分も挑戦して「そちら側」に行きたいなという思いがどんどん強くなったんです。

 

大規模な会社だと深くものづくりに関わるという機会が無いので、もっと仕事に責任を負いながら全て自分で決めてみたいということをぼんやりと考え始めました。

 

そこからお金の集め方や会社の立ち上げ方の勉強を少しずつ始めました。何でも感覚的に決断して能動的に進める性格なので、「自分で酒蔵をやるぞ」と決めてから2ヶ月後に会社を登記しました。

 

好きな場所で好きなことを 

池尻大橋と京都という拠点はどういった理由で選ばれたのでしょうか?

東京の池尻大橋は自分が住んでいましたから、まず好きな場所で好きなことをやりたいというシンプルな理由です。

 

立地として東京の中心部ということもメリットとしてあるのですが、それよりも路面の一階でジンを愛する人と知り合うきっかけを作りたいという思いから場所を選びました。

 

一見さんが見つけて入ってきやすい場所で、ジン以外は置きませんという尖ったメニュー構成にすることで、半強制的にジンに触れてもらい、「ジンってこんなに美味しかったんだ!」という瞬間を作ることが、僕らがメーカーとしてお酒造りをしていくことにつながると考えました。

 

蒸留拠点である京都は僕の地元です。育ててもらったという恩を感じているので、その場所を代表する商品を作って世界に「日本(京都)すげえじゃん」って言わせたいと思いました。だからお酒造りの拠点は絶対に京都じゃないとダメというのが譲れないポイントでしたね。

 

実は今、日本で最も成功しているクラフトジンと言われている蒸留所がすでに京都にありまして、そのライバルになることは重々わかりながらもあえて選びました。

 

仕事におけるこだわりや、ここは譲れない軸というものをぜひお聞きしたいです。

迷った時は“Do the right thing”(ドゥー・ザ・ライト・シング)という選択をするのが、僕の信条にあります。

 

誠意を持って取り組むだとか、大義をもって何かを成し遂げるということが今の時代だからこそ大切なんじゃないかと思っています。なんでもかんでも、効率やROIを気にしたセオリー通りのビジネスなんて教科書通りに書いてありますから、僕じゃなくても良いし、何もエキサイティングじゃないですよね。

 

今は色々と便利な時代で、業務委託などの働き方も珍しくなくなってきていて、1つの企業の理念に自分の魂を乗せて一生懸命頑張ろうという姿勢って何だか時代遅れだと思われるようになっていると感じることがあります。

 

それが間違っているとは思っていないのですが、一方で少し寂しいような気持ちもありますね。子供の頃の、部活や運動会で「チームのために一生懸命頑張る、一致団結する、結果に一喜一憂する」みたいなことって、心が動く大切な経験だったと思うんです。

 

その中で、“Do the right thing”というのは「ルールを破るな、正しいことをしろ」というようなことではなく、「俺たちがやっていることは間違ってないぞ。絶対人のためになるぞ。他の会社には絶対負けてないぞ。」ということをしっかり腹落ちしながらやることだと思っています。

 

会社なので売上を上げることも大切ですが、短期的にはうまくいかなくてもいいと思っています。うまくいかない時にこそ、頑張れば必ず後々の糧になってくるし、その時にもっと簡単な間違ったことを選ばなかった自分を誇らしく思い、その経験が血となり肉となり自信や人間の厚みにつながります。それが最終的に人の心を動かすんだと思います。

 

自分が社長として舵を取る立場になってリスクを背負っている以上は、ついてきてくれた人たちをしっかり守るということも大事にしています。

例えば会社の調子が悪くなったり、人手が必要なくなったから解雇して終わりにするということは自分の中では”right thing”ではないので。

 

自分自身で納得できるかどうかを大事にしたいです。

 

 日本で一番有名な酒蔵になりたいという強い思い

ありがとうございます。では、起業から今までの最大の壁を教えていただきたいです。

毎日ですよ(笑)。でも特にと言えば蒸留所の建設と酒造免許の交付、それから資金繰りですね。

 

日本は既得権益を守るという考え方が強く、新規の事業者へ参入のハードルを下げてみんなで利益を上げていこうというよりも、すでにある企業を守っていこうとする力が強くあります。

 

酒蔵が増えると競合が増えることになるため、国税局は管轄の酒造免許の発行数を意図的に抑えているということがあるんですね。

 

日本酒に関しては新規免許の発行が止まっているという状況です。

 

弊社の場合はジンなので国際協会が出している免許を取得することになりますが、この取得もかなり難しく、11か月くらいかかりました。それでもかなり早い方と言われましたね。

 

新規参入者には非常に厳しい業界だと言えます。

 

そのような壁を乗り越えながら進み続けるモチベーションは何でしょう?

やはり「一番になりたい」という強い気持ちです。

 

何かを成し遂げるためには辛いこともあるのが当たり前で、「日本で一番有名な酒蔵になろう」ということを日々思い浮かべながら今日も頑張っています。

 

例えばアスリートの方たちはキラキラと活躍されている面しか見られないことが多いですが、そういう人たちだって、しんどいときや、朝起きたくない日もあれば夜更かししたい日もあると思うんです。

 

でも、アスリートの方たちはそれでもやり続けるからこそ表舞台に立てるわけです。

 

僕も家を出るのが嫌だなという日もありますが、それを超えてやり続けるのが大事だと思っていて、とにかくコマを前に進めることが大きな光に繋がるという信念がモチベーションになっています。

 

今後の野望をぜひお伺いしたいです。

定量的では無いですが、日本で一番のジンの酒蔵になることですね。

 

一番というのは生産量ということではなくて、「一番かっこいいんじゃない?」ということが諸外国や本場ヨーロッパから聞かれるようになったら成し遂げたことになると思っています。

 

では、起業したいなと思っている方、迷っている方に向けてアドバイスやメッセージを頂けますか?

そうですね、まずは「やっちゃいましょう」(笑)。

 

少なくともこの文章が届いてる人たちは「起業してみたいな」と思っていますよね。

でも、天秤にかけた時に現状維持やリスクが大きくて踏み出せないと。

 

「起業してみたい気持ち」と「怖いな、不安だな」 この2つを解消する方法はたった一つ、やってみるしか無いんですよね。

自分でやってみる以外に自分の不安が消えたり、やってみたいという気持ちが収まったりすることは絶対にないですから。

 

何事も踏み出してみないと始まらないです。

 

和洋折衷でジンの良さを知ってもらいたい

最後に、お店の内装でこだわりのポイントを教えてください!

和洋折衷という点です。

 

「日本」が自分の好きなテーマの一つなので、日本を感じてもらうことができて、なおかつヨーロッパ発祥であるジンのラフなイメージを感じてもらえるようなデザインにしています。

 

京都のお店には縁側を作りました。京都のお店ではお客様の6割くらいが外国の人なので、縁側が人気です。

 

本日は貴重なお話、ありがとうございました!

 

起業家データ:前田亮 氏

1987年 京都府生まれ、亀岡市で中学まで暮らした後、アメリカとカナダへ単身留学、現地で高校を卒業。その後、関西学院大学 商学部に入学。

卒業と同時にP&Gジャパンへ入社。営業、マーケティング、ラウンダー組織の統括など忙しい日々を過ごす中、「いつか自分もメーカーになって、モノづくりして世界で勝負したいな」という気持ちが芽生える。2019年に株式会社Far East Craftを設立。

「世界で勝負できるモノづくり」「お客様の喜ぶ顔が見える」の2つの軸が原動力となっている。

 

企業情報

法人名

株式会社FarEastCraft(SiCX by FarEastCraft)

HP

https://www.fec-inc.jp/

設立

2019年08月

事業内容

飲食業/酒類製造販売業/海外販路開拓コンサルティング

沿革

2019年8月 株式会社FarEastCraft設立

2020年1月 SiCX東京 by FarEastCraft 開店

2022年9月 SiCX京都東山蒸溜所 by FarEastCraft 開店

2022年12月  酒類製造免許取得

2023年3月 EBISU GIN発売予定

 

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