株式会社ABABA 代表取締役社長 久保駿貴

最終面接で不採用となった友人の姿から、解決すべき社会課題を感じて大学4年生のときに起業。あと一歩で行きたい会社に届かなかった学生たちに手を差し伸べ、優秀な人材を熱望する企業とのマッチングサービス「ABABA」を立ち上げました。リリース1年で300社超の企業からの共感と2000名超の就活生による利用を獲得。経済産業大臣賞を受賞した注目サービスの誕生秘話と、今後の展望を久保社長に伺いました。

 

鬱にまでなった親友を救いたい一心からの起業

事業の内容をお聞かせください

端的に言うと、最終面接で不採用になってしまった学生と企業のマッチングサービスです。イメージ的には敗者救済サービス、救済プラットフォーム的な立ち位置で、サービスインしたのは私が大学4年生のときになります。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

起業のきっかけは大学4年時の実体験でした。友人が最終面接で落ちて、ひどく落ち込んだんです。鬱にまでなってしまい、1ヶ月ほど連絡が取れないようになって……。

 

ついには落ちた企業にネガティヴな印象を抱くまでになったのですが、せっかく入社して活躍したいと思えるほどファンでいたのに、1通のメールで印象がガラリと変わってしまうことに勿体なさを感じました。

 

同時に、最終面接に残るまで積み上げた努力や頑張りは現実のものであり、他のどこかで評価される必要性を感じました。この2つの課題を解決したいと考えたのが、創業のきっかけとなります。

 

また、創業にあたって他のスカウトサービスとの差別化も検討したのですが、私たちのサービスには「最終面接」というパワーワードがあり、キャッチーで分かりやすく、訴求すると考えました。最終面接までいった人が登録しているサービスであることが、すでに大きく差別化されていると言うことですね。

 

実際のところ、最終面接まで行けずに不採用となった要因は努力不足であることが大きいと思うので「もっと頑張れ!」というのが正直な気持ちです。しかし最終面接まで行った人については、「こんなに頑張ったのに報われない世界はよくないな」と。どうにかしてあげたいという気持ちが、コンセプトの根本にはあるんです。

 

一方で企業側のメリットについてですが、最終面接まで行く学生は残念ながら縁がなかっただけで、人材としては安心して評価できる点です。創業当初には「落ちた人を採用するのはどうなんだ」という議論がありました。しかし今となっては、そのような人材の紹介は企業さんにとってメリットであることに間違いはないと感じています。

 

全力で働ける時間は短い。だから20代の今は疾走し続ける

仕事におけるこだわりを教えてください

個人的には、“量も質もすべて求める”ということでしょうか。従業員に求めるものとは違いますが、自分には「996で働け」という言葉を課しています。

 

「996」とは、アリババ創業者をはじめとする中国のIT企業家第一世代がみずからの成功体験をもとに推奨する働き方で、「朝9時から夜21時まで、週に6日働く」というものです。批判の声が大きいのも知っていますが、私自身は「超一流の人がそれほど働いているのだから、同様に多くの時間を仕事に注ぐべきだ」と感じています。

 

おかげで毎日睡眠不足です(笑)平均3〜4時間という日が続くときもザラにありますが、全力で働ける時間はきっと20年くらい。若い20代のときに、自分に搭載されているエンジンの回転数を上げることは重要で、死なない程度に働き成長したいと思います。

 

何より10年後に残るベンチャーは10%ほどと言われますよね。やはり経営者としては生き残る経営をしなければなりません。そのためにも、まずは身を削ってやるしかない。同世代の起業家にも「まずは量をやろう」と伝えたいですね。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

いくつかありましたが、その中でも最大の壁は、当サービスのプラットフォームを開発したことでしょうか。というのも開発したのは、エンジニアではなく、プログラミングできない私自身だったからです。

 

それでも開発しないとならない状況で出会ったのが、プログラミングの必要性がないノーコードによるプラットフォーム開発でした。とはいえノーコード自体は1から勉強する必要があったので、かなり大変で……。

 

全身に蕁麻疹が出たりとか、かなりしんどかったですね。しかもサービスを思いついたのが6月。翌年の就活生に使ってもらうためには遅くとも秋にリリースする必要がありました。自分で自分の尻を叩きながら走り抜いた感じです。

 

今解決しなければ、次世代以降も悩まされる

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

きっとこのサービスは、新卒採用の市場自体が大きくないこともあり、弊社以外ではやらないのではないかなと思います。ただ私からしてみると、友人の問題を解決しないといけないし、後輩や後々の就活生や次の世代が引き続き困っていく課題だと感じた当事者意識がありました。

 

そして、事業を営むにあたり応援してくださる方がいるので、期待に応えるためにやり切らないといけない。責任感とでもいうのでしょうか。

 

現実には途中で辞めてしまう起業家は多くいますし、鬱などの病を抱えて引かざるを得なくなる人もいます。そのような心配は私にはないと思っていて、成功するまでしっかりと継続していこうと。やり切ろうと。そういう思いが強いんですよね。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

 

まずは、1兆円企業を作りたいという目標があります。たしか創業から1代で作り上げたソフトバンクが5兆円ほどで、楽天はグループで2兆円弱。そう考えたときに、1兆円企業を作り上げることは夢ではないな、と。

 

もちろんABABAだけでは絶対に無理だと思いますから、付随する事業を手掛け、グループ企業として成長していく先の目標として見据えています。

 

この点を少し掘り下げますと、私は地元が兵庫の明石市。田舎の漁師町で、海まで5分ほどの場所で生まれ育ちました。大学も岡山大学。企業の派閥もなければ、〇〇大学の〇〇会といったコミュニティもありません。

 

親は普通のサラリーマン。といった環境で育ちながらも、何か社会にインパクトを残すことができれば、次世代に「ワンチャン俺らにもやれるんじゃないか」と、未来への希望を抱いてもらえるのではないかと思っています。

 

そのためにもまずは「地方出身の人間でもここまでできるぞ」というモデルケースを作る必要がある。引き続き邁進し、しっかりと売上を計上し、利益を上げ、税金を納めていきたい。そうして社会に、若い人たちの未来に貢献していきたいのです。

 

もう一つは、最近政治への関心が強くなってきました。社会起業家という言葉がありますが、事業内容の中には、政治家として手掛ける方が良いのではないかと思うものもあるのです。

 

保育士さんの待遇を改善する、中高生にしっかりとした性教育を施す、ペットの殺処分をなくす、とか。これらは一例ですが、いずれも政治の世界で手掛けた方が、よりスピーディに状況を変えられるのではないかな、と。

 

まさに明石市の市長がそのような人で、保育士さんの待遇改善なんかは明石が先進的なに改善が行われていると思います。ペットの殺処分ゼロを目指した政策なども聞いたことがあります。ビジネスでの解決を模索する人がいる社会課題を政治で解決しているのです。

 

「弁護士ドットコム」創業者の元榮太一郎さんは参議院議員になられていましたし、ビジネスと政治の双方に関わる生き方もありなのかなと思うので、様々なかたちで社会に貢献していきたいです。

 

起業をするなら、最後までやり切ってほしい

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

まずは「最後までやりきれ」ということです。途中で辞めると次世代に迷惑がかかることがあるからです。

 

講演でもよく最後に話すエピソードとして、ABABAの事業を成長させようというタイミングの頃の話があります。当時、非常に近しいビジネスモデルを手掛けていた人がいたのですが、その人たちはグロースする前に途中で辞めてしまいました。その事例があるから、ABABAを支援してくださいと投資家に伝えた際に、「その事業モデルは失敗したよね? 無理だよね?」と対応されました。

 

この経験を踏まえて伝えたいのは「簡単に諦めるな」ということです。この先に現れる、高い志を胸に秘めた若者に悪しき影響を及ぼす可能性があるためです。起業したからには、きちんと責任を持って最後までやり切って欲しいと言いたいですね。

 

また学生には「起業は強い覚悟がないとやり抜けない」と伝えたいです。覚悟を持てないなら、起業はやめた方が良い。このことは同世代の経営者たちともよく話していて、「この事業を続けている理由がわからなくなってきたと言って、早々に退場するのはやめよう」と言い合っています。

 

起業を考えているなら、まずやり切れるのか否かをしっかり自問自答することが大切です。その上で、誇りと覚悟を持って取り組んでもらいたいと思っています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

 

起業家データ:久保駿貴 氏

兵庫県明石市出身。岡山大学大学院社会文化科学研究科国際社会専攻。岡山大学3年次に「訪日外国人を日本人学生がガイドして案内するツアーサービス GUIBO」をリリース。→「店舗の常連客から支援を始めるクラウドファンディング はろとくわ」をリリース。 大学4年次に友人の就職活動をきっかけにスカウト型サービス ABABAを起業。

 

企業情報

法人名

株式会社 ABABA

HP

https://hr.ababa.co.jp/ababa

設立

2020年10月

事業内容

新卒向けダイレクトリクルーティングサービス

沿革

2020年10月 大阪府吹田市にて株式会社ABABAを創業

2020年度スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA

  アクセラレータープログラムに採択

 

2020年11月 「ABABA」をリリース

2020年度 岡山イノベーションコンテストにてグランプリを受賞

 

2020年12月 第2回 立命館大学総長ピッチコンテストにて、「総長賞」「オーディエンス賞」を受賞

 

2021年1月 2020年度 The Global Student Entrepreneur

  Awards (GSEA)にて関西大会で2位に

 

2021年2月 第17回キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)全国大会で最優秀賞を獲得し、「経済産業大臣賞」を受賞

 

2021年4月 ABABAの学生ユーザーが1000名、企業ユーザーが100社を突破

NEXs Tokyoモデル事業創出プログラムに採択

 

2021年7月 NTTドコモ・ベンチャーズが提供する伴走型インキュベーションプログラム第5期に採択

第5回価値デザインコンテストでSDGs日本賞を受賞

 

2021年12月 第15回ビジネスプランコンテスト ドリームDASH!で優勝

金の卵発掘プロジェクト2021で「審査員特別賞」を受賞

 

 

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