株式会社TechBowl 小澤 政生 氏

株式会社TechBowlの代表取締役である小澤 政生氏は、前職での採用担当の経験からエンジニアの育成に焦点を当て、現役エンジニアから実務が学べるオンラインコミュニティ「TechTrain(テックトレイン)」を運営しています。

 

今回は、「エンジニアリングで日本の国力を上げたい」と語る小澤 政生氏に、事業内容や起業した経緯、今後の展望などを詳しく伺いました。

現役エンジニアから実務が学べるオンラインコミュニティ「TechTrain」を運営

さっそくですが、事業内容をお聞かせください。

私は前職のサイバーエージェントで新卒採用責任者をしていたときに、エンジニア志望の学生さんが増えている一方で、企業が求めているエンジニアが少ないと感じました。ただ採用するのではなく、自らエンジニアを育てて増やしたいと思い、起業を決意しました。

 

そのような経緯があり、当社では「TechTrain」というサービスをつくり、本気でエンジニアとして実力を上げたい方向けに学習の場を提供しています。Trainには電車(Train)とトレーニング(Training)の2つの意味合いがありまして、それぞれのレベル感や要望に合わせてプロのメンターがオンラインで開発した制作物にアドバイスをする仕組みです。

 

メンターはIT・WEB系の有名企業で働くCTO・テックリードクラスのエンジニアで、60社120名程度の方々が私たちの事業を手伝ってくれています。受講生のスキルレベルによって5段階のクラス分けをしており、Rank(ランク)と呼んでいます。全くの未経験者がRank1、自社開発企業でも戦えるエンジニアがRank3以上、といった感じです。お一人おひとりのレベル感に合わせた個別最適学習を行うことができます。

 

受講生が課題をクリアしていくとRankが上がり、TechTrain内で利用できる機能が増えるだけでなく、Rank3になるとプロのエンジニアと面談ができるようになります。Rank3になるとエンジニアとして転職できます。実務未経験の方でも3~6ヶ月程度かければ、カリキュラムに沿ってストイックにコードを書けばエンジニアとしてのファーストキャリアを歩むことが可能です。

 

受講生を育てた後、育った方々を企業に紹介する人材紹介事業も行っています。2023年10月からは紹介事業に加え、IT・WEB系エンジニアに特化したダイレクトスカウトツール「DirecTrain(ダイレクトレイン)」も販売を開始します。Rank3以上のしっかりコードがかけるエンジニアだけが登録できる招待制のスカウトサービスで、企業の方は効率的に採用活動を進めることができます。また弊社でスカウト代行も行う為、採用担当の方が他の業務に集中いただくことも可能です。DirecTrainは23年5月から5社でテスト運用を実施したのですが、スカウト返信率は45%を超えました。一般的なスカウトツールが5-10%程度の返信率ですので、約4倍以上の返信率です。プロのエンジニアがしっかり手厚く厳しく鍛え、その成長記録がカルテとして残っているからこその踏み込んだスカウトが打てるのも当社のサービスの特長の1つですね。 

 

また、TechTrainは多くの企業様で従業員のリスキリングツールとしてもご活用いただいています。日本政府は向こう5年間でリスキリングに対し1兆円の予算を費やすと発表しています。そんななかで、当社は経済産業省が実施する「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」というものに先日採択いただき、すでに多くの受講生がスキルアップ、キャリアアップを実現されています。

 

つまり、個人で利用することに加えて、事業法人様向けの従業員のスキルアップの機会としても当社の「TechTrain」を使っていただくことができるのです。例えば、営業社員25名を3ヶ月間でRank1からRank3まで引き上げ、優秀な社員を開発部署に抜擢・異動させるといったお取り組みを金融系上場企業様とご一緒させていただきました。結果的に受講者の7割以上がRank3まで到達し、中にはRank4までUPされた方もいらっしゃいました。e-learning等で漠然と受講して学んだ「つもり」になるインプット型の学習ではなく、作るものを見せ、自分で調べながら、メンターに聞きながら形にしていくアウトプット型の学習を凝縮したものがTechTrainです。

DX人材育成に特化した初学者向け教材「SQL Railway」の情報は下記リンクよりご確認いただけます。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000051.000040741.html

早いうちに学生さんと出会って、就活時の選択肢を広げたい

サイバーエージェントへ入社したときから起業を考えていましたか?

いえ、全く考えていなかったです。私が起業するときも周囲からは「まさかおまえが起業するとは!」と言われたくらいです(笑)。

 

起業を考えたきっかけは、学生と毎日朝から夜まで話す中で、だんだん自分が『占い師』のようになってきてしまい、大好きな採用の仕事がこれ以上やると嫌いになるかもしれない、と感じた時ですね。

 

面談や面接をやっていると、「この学生は(自社ではなく)他社のほうが合っているのではないか」「他社が第一志望みたいだけど、絶対うち(自社)のほうが合っている!」とパッと見て、ビビッとくるような感覚がたまにあるんです。

 

「他社のほうが就職先としてマッチしているよ」と伝えるのは、学生のみなさんからしてみれば嬉しいアドバイスなのかもしれないのですが、「自分の役割はあくまで採用担当」。この役割と、話している内容が乖離することが増えてきたんですよね。

 エンジニア採用という天職を与えてくれたサイバーエージェントには本当に感謝していますし、それがあったからこそ「エンジニアを育てて増やす」「エンジニアリングで日本の国力を上げる」という目標を明確に持って今の事業に取り組むことができています。

 

就活生は一夜漬けで作ってきたアプリを面接時にアピールしてくれるのですが、私としてはただ単に徹夜で頑張れる方がほしいわけではありません。

 

料理で例えると、美味しい料理やまずい料理、見栄えの良い料理や早く作れる料理、そういうのをすべて自分で作ってみて、まずい!うまい!もっと楽に作りたい!とあれこれ試行錯誤する。嫌になることも投げ出したくなることもあるでしょうが、総じて「料理が好き」って思える方がほしいのです。 

 

おこがましいですが、「もっと早いうちからこの学生さんと出会っていれば、もっといろいろな選択肢を広げてあげられたかもしれないのにな」と思うことが増えてきました。”君はこういうことが強くて、興味があると思うからこういう会社でインターンをやると活躍できるし会社に貢献できると思うよ!”といった支援に興味が湧いてきたのです。

 

ありがたいことに大学や専門学校で行われる就職活動セミナーに客員教授や講師として呼んでいただいたことも何度かありまして、そのときにスイッチを押せば学生さんって伸びるんだなと感じました。

 

私としてはコレだ!と思ったのですが、ただ教育ビジネスというのは時間がかかりますし、儲かりにくい。また、人材紹介の仕事はなんとなくですが人身売買のようなイメージがあって抵抗感がありました。そのため、ビジネスしてどう成り立たせるかが難しかったですし、今も日々格闘しています。

 

ご機嫌に成果を出す

仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。

社内でみんなに伝えているのは「ご機嫌に成果を出す」です。成果ばかりを重視するとしんどくなりますし、ご機嫌だけだとサークルになってしまいます。そのため、2つセットがこだわりです。

 

事業フェーズに合わせて注力するポイントが波乗りのように変わると思います。今は資金調達を終え、組織を拡大し、特に売上を大きく伸ばす時期なので、メンバーにも過程より成果を重視するようなコミュニケーションをとっています。さらに今後組織が大きくなった時にはまた違った波乗りをすると思います。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください。

最初の1、2期目は1人でやっていましたが家族もいるので、稼いで食べていくことに必死でした。また、乗り越えた壁とは少し違うのですが今後壁になるであろう要素としては、「停滞すること」だと思っています。

 

例えば、サービスが軌道に乗っているはずなのになぜかユーザーの数が増えない。企業と候補者がマッチしているはずのに、なぜか売上に繋がっていない。

 

このような停滞が1番怖いです。状況が悪くても良くても振れ幅が大きければ何かしらのアクションが打てるのですが、停滞しているということは成長していないことと同義なので、それが1番怖いです。

 

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションはコレというものは特にありません。週に1回は辛いと思いますし、同じくらい楽しいと思うこともあります。よく「HARD THINGS(困難)は何ですか?」と聞かれるのですが、本当に覚えていないんです。

 

それは楽しいことや未知のモノを探求して何か答えを見いだそうとしているからだと思います。

 

エンジニアが増えるとサービスが増えたり質が上がったりします。売上が上がると日本のGDPが上がる。「エンジニアリングで日本の国力を上げる」というのはそういうことなのです。

 

そこに向かって私たちがやれることは、エンジニアになりたい卵たちをプロが会社の垣根を超えて育てて、次世代のプロエンジニアを増やすことだと思います。また、レベルが上がったエンジニアの受講生同士で何かを生み出すこともあると期待しています。

 

「Tech(技術の)」「Bowl(サラダボウル)」を創るというのが社名の由来です。世界中のエンジニアがサラダのように集い、交じって、混ざり合うことで面白いサービスや新しい技術が生まれるような場所にします。そこからブレることなくやるべきことが私たちにはあるので、飽きることがそもそもありません。

 

ただ、息抜きとして運動を週に1回はするようにしています。ありきたりですがサウナとか他の起業家がやってて良いなと思ったものは真似するようにもしていますね。

 

エンジニアリングで日本の国力を上げたい

今後の展望をお聞かせください。

エンジニアリングで日本の国力を上げたいと考えています。

 

いまは私たちが人を育てて企業に供給することにとどまっているのですが、アイデアを供給したりレベルの上がった受講生をチーム単位で供給したり、ヒトだけでなくコトやモノにも貢献できたら嬉しいです。

 

私たちは、営業マンをエンジニアにしたいわけではありません。ただ、プログラミングの知識を知っておくことで、開発側とのコミュニケーションが円滑になり、業務効率化が図れます。採用・育成・リスキリング・開発相談、全部含めて『エンジニアといえばTechTrain』と思ってもらえるような会社にしたいです。

 

起業しようとしている方へのメッセージをお願いします。

私は起業したいと思って起業したわけではないので、学生起業はすごいバイタリティーだと思います。悩むならやってみて、ダメならやめればいいと思います。

 

また、起業したいと思っていない方でも、自分がこれまでに取り組んだものの中でのめり込んだものが何かを振り返ってみると良いのではないでしょうか。人と話すのが好きなのであれば接客業や営業をしてみたら良いですし、1人で黙々と作業したい人であればエンジニアも良いと思います。

 

やりたいことがなく、ただ起業したいと考えている場合は、相当なバイタリティーが必要です。「なんとなく起業がかっこいいから」「上司に指示されるのが嫌だから」といった消去法で起業するのはうまくいかないと思うのでやめたほうが良いです。

 

やりたいことや自分が今までのめり込んだものを突き詰めて、そこから自分で仕事にできそうであれば起業したらいいと思います。

 

サラリーマンから起業を考えている方に対して言えることは、とにかく自分で決断する経験をたくさんしておいたほうが良いということです。私もまだまだ経営者としてひよっこですが、決める仕事しかないんです。決めないと停滞するんです。停滞が1番怖いです。

 

小さなことでもいいので思考を停止することなく、自分で決める。間違っててもいいので決める。これができる人は素敵だなと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

起業家データ:小澤政生 氏

株式会社TechBowl代表取締役

株式会社サイバーエージェントで新卒採用責任者を経験

 

【企業情報】

法人名

株式会社TechBowl(テックボウル)

HP

https://techbowl.co.jp/

設立

2018年10月19日

事業内容

インターネットサービス業

人材紹介事業

教育事業

有料職業紹介事業許可番号  13-ユ-310691

 

送る 送る

関連記事