【#081】医療チームが「24時間365日」遠隔で介護施設をサポート。デジタルを活用し、医療介護の課題へアプローチ|代表取締役 青柳 直樹(ドクターメイト株式会社)
ドクターメイト株式会社 代表取締役 青柳 直樹
ドクターメイト株式会社は「介護における医療課題をデジタルの力でゼロに」をテーマに、介護施設向けに遠隔医療相談サービスを提供しています。医療チームによるオンライン医療相談に加え、夜間の緊急時には介護施設の看護師に代わり、オンコール対応も行っています。高齢化が進む日本社会が抱える、医療介護の課題にアプローチする同社。代表取締役を務める青柳 直樹氏に、起業の経緯や事業内容を詳しくお聞きしました。
専任の医療チームが遠隔で介護施設をサポート
事業の内容をお聞かせください
弊社は、介護施設向けの医療相談サービスをオンラインで提供しています。具体的に言うと、専任の看護師や医師に相談できるオンライン医療相談サービスと夜間のオンコール代行、介護施設の職員が医療知識を学べる、e-ラーニングサービスを提供しています。
夜間オンコール代行は、夜間の緊急時に弊社の医療チームに電話相談ができるサービスです。多くの場合、介護施設に看護師がいるのは昼間のみで少人数制の施設だと看護師は帰宅した後も、緊急時に備えて待機しておかなければなりません。待機中は旅行にも行けませんし、お酒も飲めませんから、それが負担となって離職する人も少なくありません。そうした負担になっている部分を我々が肩代わりし、24時間介護施設をサポートしたいと考え、夜間オンコール代行を始めました。
介護施設側で夜間のオンコール対応をする必要がなくなると、スタッフの負担を大きく軽減できます。いま働いているスタッフの離職を防げるだけでなく、新規スタッフも採用しやすくなるため、採用活動にも有利だといえます。
また、我々のサービスを使っていただくことで、入所者の不要な救急搬送や通院を無くせることがメリットです。と言うのも、我々のサービスは現在、全国800施設でご利用いただいており、相談件数でいうと3万件以上に上ります。入所者の方の体調が悪化した際、各施設で判断するより我々に任せていただいた方が、これまで蓄積されたデータを基により的確な判断を下せるのです。
そうした我々の専門性を高く評価してくださった介護施設から「うちのスタッフの教育をしてくれないか?」との声をいただくようになり、それがきっかけとなってe-ラーニングサービスも始めました。
介護施設に入所する方の高齢化・重症化が進んでいるため、スタッフも医療知識を持っていないと適切なケアができません。しかし、介護向けの医療知識を教育できる施設は少ないのが現状です。そこで我々が現場の声に応えて、介護に必要な医療知識を学べるe-ラーニングサービスを作りました。
仕事に必要な知識が学べると人材の定着にも繋がりますし、介護スタッフが医療の知識を持つことで、医療チームとのコミュニケーションが活発化していると、利用者より聞いています。共通言語があると、コミュニケーションが円滑になって職場の人間関係も良くなったと嬉しい報告もいただきました。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は以前、ドクターとして総合病院で働いていました。当時、介護施設から来る患者さんが非常に多かったのですが、「何でここまで悪化するまで病院に来なかったのか?」と驚くこともあれば、反対に、転んで擦りむいただけで救急車で搬送されて来たというケースもありました。介護施設によって、入所者を病院に送る理由が本当にバラバラだったんです。
また、病院で治療を受けて回復しても、介護施設で数日過ごしているうちにまた悪化してすぐに戻って来るというケースもありました。こうした経験を何度もしたことで、将来さらに高齢化が進む中で、これまでのように「医療」と「介護」で別に考えていてはダメだと気付いたんです。そこで、医療と介護を連携させ、これまでになかった「医療介護」の枠で、仕組み化が必要だと痛感したことが、今の事業を立ち上げたきっかけです。
人の頑張りだけに頼るのではなく、仕組みがないと持続可能性も成り立ちません。その仕組みを作るためにも、会社を設立しました。
関わる人全員が幸せになる「WIN-WIN-WIN」な仕組み作りを意識
仕事におけるこだわりを教えてください。
大事にしているひとつのテーマに「持続可能性」があります。弊社のバリューに「WIN-WIN-WIN」というのがあるのですが、それも根本的には持続可能性に繋がっています。相手が損をし、自分だけが得をするやり方では持続可能性がなく、どこかで破綻しますよね。逆も然りで、相手だけが得をし、自分が損をする形では物事は続きません。
しかし、医療介護の現場ではこうしたことが頻繫に起きています。患者のために医療チームがものすごく無理をしていたり、よかれと思ってやったことが事業ではなくボランティアになってしまい、結局続かなかったりといったことが、よく起きています。
我々は、自分よし、相手よし、社会よしの「WIN-WIN-WIN」にこだわり、その循環を広げることで持続可能な仕組みを構築していきたいと考えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
現在手掛けているオンライン医療相談サービスは、最初の2年間は上手くいっていませんでした。結局、9回ほど方向転換した後に今の事業形態に辿り着いたのですが、上手くいかなかった時期は銀行残高が30万円しかなく、あと20日で会社が潰れるというところまで追い込まれたこともありました。
我々のサービスは介護施設の現場の方には好評だったのですが、決裁権を持っている方の承認が下りないことが続き、売上が立たず苦しんでいた時期がありました。そして追い打ちをかけるように、予定していた銀行融資がスケジュール通りにおりなかったんです。
銀行の担当者が変わったこともあり予定通りに進まなかったのですが、資金ギリギリで経営しなければいけなかったあの時期が一番の壁でした。
幸い人材面ではご縁に恵まれ、力強いメンバーが一緒にいてくれたのが救いでしたね。
医療介護の問題を解決することが、未来の世代への投資にも繋がっている
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
我々のサービスは、社会に対して非常にインパクトが大きい事業だと思っています。医療介護は高齢者だけの問題だと思われがちですが、実はそうとも限りません。この問題を解決することが、回り回って次世代を育てることにも繋がっているからです。
国が使っている社会保障費の内訳をみると、医療費が40兆円、介護費は15兆円です。そして、その8割を65歳以上の高齢者が使用しています。
対して、未来の世代への教育費は20年前から変わっていません。高齢者にはお金を使うが、未来の世代には投資できていないのが現状です。
社会保障費の3%を適正化し、それを未来の世代への教育費に回せたら、いま国が教育でやりたいと思っていることを全部やったとしても、お釣りが返ってくるくらいです。医療介護の問題を解決することが、次の世代への投資にも繋がる。我々が手掛けているのは、それくらいインパクトのある事業だと思っています。
日本は世界の中でも群を抜いて高齢化が進んでいますから、日本がこの問題をどう解決していくのかを海外の人も注目しています。
日本で素晴らしい事業の仕組みを作れたら、それが他の国のお手本にもなり、世界中で同様の課題を解決できる。我々が世界のお手本になるモデルケースを構築していきたいと思っています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
介護施設の現場にお話を聞きに行くと色々な課題が見えてきて、今の事業だけでは課題を解決しきれないと感じています。そのため、今後あと2、3個の新規事業を立ち上げる予定です。
また、現在我々のサービスを利用してくださっているのは全国の介護施設の一部ですので、医療介護の「仕組になる」という目標からは、まだ遠く離れた場所にいます。これから認知度をもっと高め、より多くの方にサービスを届けたいと思っています。
今後に向けて、在宅介護向けのサービスも設計しているところです。将来は介護施設のみでなく、より広い層の方に我々のサービスを届けたいと考えています。
起業の初期段階では、考えるより仮説を立てて即実行する
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
やはり、起業への想いが一番大切だと思います。起業を考えている方は、起業への想いを自分の口から積極的に語ってみてください。また、初期段階であればあるほど、考えていても進まないので「仮説を立てて、やって学ぶ」のサイクルをどんどん回すのも大事だと思います。結局のところ、事業は人です。いい人に応援してもらえるよう、真剣に取り組むのが一番大事かもしれません。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
【起業家データ】:青柳直樹
- 2013年 千葉大学医学部卒業後、千葉市立病院で初期研修。
- 2015年 千葉大学皮膚科学教室入局。皮膚悪性腫瘍手術を専門に診察。
- 2017年 ドクターメイト株式会社創業、代表取締役医師に就任。
- 2019年 医療法人淳仁会理事長就任。土日に外来診察、介護施設への往診も行っている。
【企業情報】
法人名 |
ドクターメイト株式会社 |
HP |
|
設立 |
2017年12月8日 |
事業内容 |
介護事業所向け医療サービスの提供 |
沿革 |
2017年
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
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