RELATIONS株式会社 長谷川 博章 氏
「人や組織の可能性を拓きたい」という想いでコスト最適化と組織活性化のコンサルティングを手掛けている長谷川 博章 氏。資本主義社会が主流のなか、情熱を持って働くことができていない社会人が多い現代に危機感を覚え、自社で自律分散型の運営手法である「ホラクラシー」を導入している。
今回は、パーパスに掲げた「会社に生命力を」という想いを世の中に広めたいと語る長谷川 博章 氏に、具体的な事業内容や事業を始めた経緯、今後の展望、起業する方へのアドバイスなどを伺いました。
コスト最適化と組織活性化のコンサルティング
さっそくですが、事業内容をお聞かせください。
当社の主な事業は、コスト最適化と組織活性化のコンサルティングです。
コスト最適化コンサルティングは、顧客企業が使用している間接費などのコストを調査・分析し、先方の社内の方々とプロジェクトチームを組ませていただいて、1つひとつのコストを最適化することをいいます。
例えば、食品スーパーマーケットは店舗清掃やレジ保守、照明、電子決済などにコストがかかります。これらの契約形態や取引先、運用状況などすべてを分析し、適正化の余地がないかを確認する作業です。
当社の場合はさまざまな顧客企業と関わっているので、先ほど述べた項目を調査しながら、どれが一番最適化なのかを単価や契約形態、運用状況などの観点からプロジェクトチームと一緒に判断し、理想の運用形態に整えています。単純に単価を下げるのではなく、背景を大切にしながら品質を担保して適正化することがこだわりです。
当社は2009年から1,000社以上の顧客企業を支援してきた実績があるので、これまで培ってきた知識や経験を活かせます。また、通常のコンサルティングは机上で設計して顧客に実行をお任せするケースが多いのですが、当社では顧客に伴走しながら一緒にプロジェクトを進めるため、サポート力が強みです。実際に顧客企業と深夜の清掃現場を確認し、契約内容との相違がないかチェックすることもあります。
自分たちで起業してでもお客様を支援したい
現在の事業を始めた際8名での共同創業だと聞きましたが、どのような経緯かを教えてください。
もともとベンチャー・リンクという会社にいたこともあり、創業メンバーの全員が営業やコンサルを経験していました。私は事業責任者として、20数名のメンバーとベンチャー・リンクの1事業部に所属していたのですが、リーマンショックにより事業部自体が撤退することになりました。
当時は会社経営が厳しい時代であり、目の前のお客様を支援するための人員を確保できないのが実情でしたが、私としては契約したからにはしっかりと支援していきたいという気持ちがあり、ジレンマを感じていたのです。
そのため、自分たちで起業してでもお客様を支援したいという想いから、チーム内の8名で起業したのが共同創業の流れです。
もともと起業を視野に入れていましたか?
祖父や父、一部の親戚も起業家であるため、幼少期から影響は受けていました。30歳くらいでの起業を検討していましたが、実際に起業したのは27歳と想像よりも若い年齢でした。ただそれは、ベンチャー・リンクの判断もありましたし、私としては「ここがタイミングだな」と自然に思えたので結果的には良かったですね。
仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。
「会社に生命力を」。これは当社がパーパス(存在目的)にしている言葉であり、こだわりや譲れない軸に該当します。現在は資本主義社会が社会の仕組みとして主流であり、企業が成長してきた背景には資本主義やマネジメントがあることも事実だと思います。
しかし、利益を追求するあまり、働く人間そのものの感情が後回しになっているのではないかと感じるのです。
例えば、アメリカの世論調査会社のギャラップが行った世界的なエンゲージメントサーベイによると、楽しく働いている日本人の割合は5%しかないことが分かりました。これを高いか低いかを判断するのは人それぞれですが、私は低いと思っています。
当社が顧客企業のプロジェクトをコンサルティングするときに、楽しく働いていない社員が多い場合は、話し合いの場でも熱意を宿しておらず、「その人や企業が持つ可能性が狭まっている」という見方ができます。
”なぜその会社に所属しているのか?”、”なぜその事業を展開するのか?”といった問いを扱うことが「会社に生命力を」という言葉の根源にあると思っています。そういうものを大切に扱える会社や組織、プロジェクトを世の中に少しでも広めていきたいのです。
当社では組織活性化コンサルティングという事業を手掛けていますが、あくまでも手段であり、「会社に生命力を」という想いを世の中に広めていくことこそが根幹にある願いです。
関係性を大事にするあまり、本音で話し合えない
起業から今までの最大の壁を教えてください。
当社は創業から7、8年くらいで50名ほど人材が増え、売上も伸びたのですが、そのような過程のなかでも設立当初の8名の関係性をすごく大切にしていました。だからこそ一線を超えてフィードバックができなくなってしまったことが壁でした。
経営に関わることは耳の痛いことであっても伝えるべきなのですが、関係性を大事にするあまり伝え方がマイルドになったり、本音で話し合えなかったりする時期があったのです。
私がためらって本音を伝えなかったため、”会社の方向性が見えない”という社員たちからの声が多くあがっていました。
結果として、一番大切にしたいと思っていた”メンバーとの関係性”がこじれかけたので、それからは個人やチームと向き合っていく「システムコーチング」を活用したり、対話の場を多く設けるようになりました。自分が少しでも他者とのつながりを断つと、会社全体の推進力を妨げかねないことに気づいてからは気を付けるようにしていますね。
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
人の可能性が拓かれていく瞬間を見るのが好きで、そういうことに自分の時間を捧げていきたいという想いがモチベーションになっています。自分が箱に入るのは人の可能性を閉じることと同義だと最近思い始めているので、人の可能性を拓くことに貢献するのが自分にとって使命のように感じていますね。
新しい可能性を世の中に提示するための手段を試していく
今後の展望をお聞かせください。
自社は実験的に「ホラクラシー」という組織運営の手法を採用しています。ホラクラシーとは、旧来的なピラミッド型(トップダウン型)の組織ではなく、個々が自律的で役割がフラットであり、仕組みの概念自体が異なるものです。
組織論や構造の在り方など、当たり前に採用されてきたものが沢山ありますが、それが当たり前ではないかもしれません。例えば、DAOも中央集権型ではなく自律分散型で組織をつくっていくものですが、それに近いものにホラクラシーがあります。DAOやホラクラシーのように、新しい可能性を世の中に提示するための手段を今後も試していきたいと考えています。
そうすることで人の可能性を拓くことにつながりますし、コンサルティングにおいてもコストと組織という切り口だけでなく、あらゆるプロジェクトが上手くいくやり方を他に見つけられると思うのです。
これまでは機械論的に捉えすぎていて、人の感情や考えに問いかけることはされてこなかったと思います。しかし、そこの問いかけというのは本当はとても重要なのです。「なぜこの会社にいるのか?」と問われることは普段ありませんよね。ですがその理由がきちんと自分のなかにあれば強いですし、頭でコントロールできない領域でもあります。頭で考えるのではなく体が自然に動くことが「衝動」です。
この「衝動」は人が誰かを好きになることと一緒で、頭で好きを説明するのは難しいことです。しかし、説明はできなくても好きであることには確信が持てるでしょう。これと同じ状態を仕事でも抱いていることが、私にとっての「生命力」に近いわけです。
この「生命力」を世の中の皆さんがどれだけ持っているのかが大切なのですが、企業文脈ではそれを大切にしていないので、結果として人や企業の可能性が狭まっているという見方をしています。つまり、「生命力」を当社のコンサルティングを通して一般化していきたいというのが今後の展望です。
自律分散型のメリットをお聞かせください。
自律分散型のメリットは、社内の1人ひとりが組織経営に参加しているという意識や責任感を持てることです。
現在の中央集権型のビジネスは、トップがすべてを判断しなければいけませんし、優秀であれば成り立つメカニズムだと思います。孫正義さんのように人並み外れた行動力や頭脳があればピラミッドは上手く機能しますが、構造上、その下にいる人たちが、受動的になってしまうのです。
自律分散型の一形態であるホラクラシーでは権限と構造を捉え直しており、「力の構造の再定義」をしています。例えば、手を動かすときは誰かが意図的に動かしているのではなく、1つひとつの細胞が感知したものが脳に送られて、そこの相互作用によって動いています。これは自己組織化というメカニズムが人間の体内で働いていることに起因するのですが、そのメカニズムをベースに組織の在り方を再構築するのがホラクラシーです。
ホラクラシーが進められることで権限と構造が再定義されるので、1人ひとりが自己決定していきながらも、組織全体として前進していくことができ、これが最大のメリットといえます。
情報が透明化されている時代だからこそ、分散型のほうが今後は普及していくのではないかと想定しているので、そのような理由からも自社での実験を続けています。
頭と体をつなげられたとき、パワーの発揮に違いが見られる
起業しようとしている方へのメッセージをお願いします。
覚悟や衝動につながるのですが、自分自身がなぜそれをするのかという理由を突き詰めることが重要です。例えば、言葉ではかっこいいことを言っていても行動がズレていることがあると思います。それに気づいて修正できれば良いのですが、体が感じていることが本当の行動を生み出すものなのです。
言葉は幻想を生み出しやすいですが、体は現実情報を基にしているので、これまでの経験や感情から行動をきちんと実現していけます。頭と体をつなげられたとき、パワーの発揮に違いが見られると思うので、「なぜ」を突き詰めてほしいです。
ただ、簡単にできることではないので、やりたいことをやっていきながら、ズレがないかを常に意識していくことをおすすめします。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:長谷川 博章 氏
2009年に8名で共同創業。
コスト最適化コンサルティングサービスを立ち上げ、累計1,000社以上に、コストやそれに係る経営課題の解決を支援。自社の組織づくりにも力を入れており、2017年に役員会を廃止し、2019年にホラクラシーを導入。
現在はパーパス「会社に生命力を」を掲げ、コスト最適化と組織活性化のコンサルティングサービスを提供。
2022年ホワイト企業大賞特別賞「次世代パーパス経営賞」受賞
2023年キャリアオーナーシップ経営 AWARD 2023「優秀賞(中小企業の部)」受賞
2023年Forbes JAPAN 5月号 掲載
企業情報
法人名 |
RELATIONS株式会社 |
HP |
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設立 |
2009年2月17日 |
事業内容 |
コスト最適化・組織活性化コンサルティング事業 |
沿革 |
2009年2月 大阪市中央区南久宝寺にリレーションズ株式会社を設立 6月 コスト最適化コンサルティング事業を開始 2011年3月 東京都千代田区麹町に本社移転 2015年3月 ビジネスメディア「SELECK」を開始 同年9月 マネジメントツール「Wistant」をリリース 同年10月 RELATIONS株式会社を設立 2018年1月 会社分割により、リレーションズ(株)の事業売却、RELATIONS(株)への事業継承を実施 2019年8月 ホラクラシーによる組織運営を開始 2020年5月 組織活性化コンサルティング事業を開始 2021年4月 「SELECK」事業を譲渡 同年6月 「Wistant」事業を譲渡 2022年1月 東京都港区虎ノ門1丁目(WeWork虎ノ門)に移転 12月 コンサルティング事業の支援社数1,000社を越える |