株式会社SIGNING 亀山 淳史郎
「社会の課題」と「ビジネスの課題」を同時に解決できるようなクリエイティブなアイデアを生み出す株式会社SIGNING。代表の亀山淳史郎氏は、「やらなければならない」という意識ではなく、人の生きがいと社会課題・ビジネス課題が一直線につながり「やりたい」と思えるような働き方ができないかを模索していると語っている。今回はそんな株式会社SIGNINGの代表である亀山氏に、事業内容や起業の経緯、今後の展望などを詳しく伺いました。
社会課題に対応するクリエイティブな「ソーシャルビジネススタジオ」とは
さっそくですが、事業内容をお聞かせください。
弊社は自分たちのことを「ソーシャルビジネススタジオ」と呼んでいます。もともとは博報堂DY ホールディングスでマーケティングコミュニケーションのクリエイティブを主軸として活躍していたメンバーが集まり立ち上げました。博報堂で勤務している中で、クライアントからも社会課題に取り組みたいという意向をいただいたり、世の中の課題感からも、我々のような存在がクリエイティブなアイデアを提供することで対応できないか、と考えたのが大元です。社会課題に対応するクリエイティブチームということで「ソーシャルビジネススタジオ」としています。
また、現在力を入れている事業に「SIGNAL」と「iBASHOプロジェクト」があります。
「SIGNAL」は虎ノ門にあるソーシャルイシューギャラリー&カフェです。世の中のさまざまな社会課題をテーマに私たちクリエイター、マーケターと、アーティストがコラボレーションをして作品展示をしています。
リサーチデータとアート作品を共通の社会課題に紐づいて提示して、理性と感性の両側面で課題について考えていただくことが目的です。お客様には帰りにアンケートに記入していただくのですが、現在(※)は「リテラシー」をテーマに第1回目の特別展を開催しています。(※2024年1月まで)
詳細リンクはこちら:https://signing.co.jp/signal/
弊社は、社会課題や社会の兆しを見つけるために、日頃からテーマを決めてプロジェクト化し、独自に調査・レポート発信を行っています。
その中で取り組んでいる「iBASHOプロジェクト」は、世の中の新しい兆しを調査し、レポートとして提供することで、ビジネスを生み出すことを目的としたものです。新型コロナウイルス禍で変わった「人と場所の関係性」をテーマにしています。
「iBASHOレポート」はこちらから:https://signing.co.jp/report/ibasho-report/
多くの方は、職場と家とその他に一箇所くらいサードプレイスがあるものです。その3つの場所とアイデンティティをそれぞれ紐づけることで、ストレスの発散やリフレッシュに効果があるとされています。
しかし、当社は新型コロナウイルス禍によって移動がなくなり居場所が減ったのではないかと考えました。調査をした結果2.64箇所とやはり減っていることが分かりました。さらに、居場所が欲しいかと問うと10〜80代までの方の9割がイエスと答えたのです。
居場所が欲しいのに減ってしまっているという現状は課題なのではないかと考えたときに、どうしたらその場所が増やせるだろうかというのを提案するような内容をレポートにまとめました。
特にリモートワークの普及によってオフィスに行く機会が減ったので、滞在時間こそ長いけど居場所とは認識していないということが分かっています。どうしたらオフィスが居場所になるか、アイデンティティの帰属先となるか、というような研究をしてそのレポートのなかで発表しています。
当社のオフィスもその居場所という考え方に基づいて、どうしたら社員がオフィス環境をアイデンティティの帰属先として捉えてくれるかと考えて設計しました。ポイントは丸がモチーフになっていて、皆が自然と輪になる場所をつくったところです。
人が偶然出会う場所や1人で使用する場所も大切なのですが、1対1で出会える場所も大事なのではないかと考え、2人くらいでリラックスできるようなスペースも意図的にたくさん設けています。
前職の博報堂DYホールディングスでグループ会社を設立した経緯を教えていただけますか?
博報堂DYホールディングスは広告会社で、クライアントのためにマーケティングに必要なソリューションを提供すること、そして広告を制作するのが主な事業でした。
しかし、クライアントもそれだけではなく、社会課題を解決しながらビジネス成長もしなければならないという企業が増えていました。、そこへのサポートに特化したくて社内起業をしました。クリエイター、プランナー、リサーチャーと、それぞれが専門的な知識を持っているメンバーを集め、現在4期目です。
現在の事業を始めた経緯を教えていただけますか?
2017年頃に月末の金曜日に少し早めに仕事を終わらせて豊かな暮らしをしましょうという日本政府と経済界が提唱した「プレミアムフライデー」を担当させていただきました。そのときに商品やサービスを魅力的にするのではなく、生活者の暮らしや価値観を新しく提示したのですが、その経験が今に繋がっています
人の動きに変化を与え、新たな市場やビジネスチャンスが生まれ、結果企業活動の支援につながるといった順番でプランニングをしました。そこから、生活者の新しい暮らしのスタイルを生み出して、企業支援につながるようなことをしたいと考え、起業に至っています。
「社会の課題」と「ビジネスの課題」を同時に解決できるようなアイデアを提供する
仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。
こだわりは、「社会の課題」と「ビジネスの課題」を同時に解決できるようなアイデアを提供することです。
たとえば、ボランティア活動とても素晴らしいのですが、資金や資材などの確保といった課題がいつもあり、そういう面では活動自体がサステナブル(持続可能)ではなかったり、人の思いに支えられている部分があったりするので、そこにビジネスの力も加えて継続的かつインパクトのあるものを生み出したほうが良いのではないかと考えています。
つまり世の中だけでなくビジネスにとってもメリットがあるのか?を考えて、私たちはアイデアを出すことにこだわっています。
「社会の課題」と「ビジネスの課題」を同時に解決できるアイデアは、どのように生まれるのでしょうか?
例えば、机の上にあるお茶はいつの間にかラベルがなくなりました。もともとはお茶の色が見えたほうが美味しいのではないかというメーカーさんのアイデアだったのですが、それを確かめるためにフィルムを外すというエコアクションもセットになっています。
結果、今までのお茶よりも売上が伸びました。必ずしも「エコ」と「商品を魅せたい」はバラバラにならないということが分かります。
創業してすぐ「緊急事態宣言」。大変なときだからこそ新しい一歩を踏み出す。
起業から今までの最大の壁を教えてください。
当社は、2020年4月に創業しましたが4月7日に一度目の緊急事態宣言が出され、予定していた仕事がほとんどなくなってしまいました。創業して1週間で危機を迎え、「まずい」と感じていましたが、「でも止められない」というなかでのスタートでした。
私たちは、新型コロナウイルス禍の生活者の意識や行動の変化を知りたいと感じたため、調査を行い「Covid-19 Social Impact Report」を発表しました。5月1日に緊急事態宣言から約2週間というスピードで最初のレポートを世に出して、その結果これから先どうしようか悩んでいる企業からたくさんのお問い合わせをいただき、仕事が増えていきました。
新型コロナウイルス禍で大変なときだからこそ新しい一歩を踏みだすためのアクションとして、すぐにレポートを発信したということが失敗からの成功エピソードです。
ちなみにこのときのレポートのテーマは、新型コロナウイルス禍でもポジティブに対応できている人がいると仮定したものでした。やはりそういう動きはあって、具体的には、リモートワークの導入によって家族との時間が増えたと答えるワーキングペアレンツの方がいました。
こういった事例をもとに前向きなレポートを発信したことで、先行き不透明な世の中でも明るい兆しを提供することができたと思っています。社名であるSIGNINGには「兆し」の意味があり、私は世の中の兆しを捉えて次のビジネスに変えていく事業を手掛けたいと思いましたし、現在でもしていることです。
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
共感してくれる新しいパートナーやクライアントとの出会いがモチベーションになっています。最近は当社がやっていることを仕事にしたいと言ってくれる若い方が多いため、その方々自身が持つ課題を一緒に解決していくこともモチベーションの1つです。
1人で課題解決を試みても限界がありますが、みんなで行うと意外とおおもとの悩みは同じだったりします。個々人がそれぞれの専門家になり複数のテーマに同時に取り組むことができれば、解決できる課題はもっと多くなります。なので、人とのつながりが広がることはモチベーションになっています。
「やらなければならない」ではなく「やりたい」と思える方法を模索
今後の展望をお聞かせください。
旅や食、アート、スポーツなど人の営みと社会課題やビジネスを同時に捉えて仕事を生み出していきたいと考えています。しかし、お金を稼ぐことと社会課題を解決することを同時に叶えるのは、やりがいがあるぶん大変です。
SDGs ( 持続可能な開発目標 )の達成率が18%くらいなので、あと7年で80%以上進めていく必要があります。こうした「~しなければならない」感が景気も良くない中で強まっていますし、国際競争力も含めてビジネスを頑張らなければなりません。
地球の課題を解決しつつ稼がなければならないというのは、とても大変なことです。そうなったときに、例えば、食をテーマにフードロスを解決していこうと考えている方がいて、それによって新しい食のブランドやレストランが生み出されると、その方らしいチャレンジとして素敵ですよね。
また、旅が好きな方がさまざまな地域を観光しつつ共通する課題を解決するために観光業のDXを行うとすれば、それも素敵だと思います。このように「やらなければならない」ではなく、自分自身が生きがいとしているものと、社会課題・ビジネス課題が一直線につながるような働き方ができないかと考えています。虎ノ門にアートギャラリーをオープンしたのもその一つです。
「やらなければならない」ではなく、「やりたい」と思える方法でビジネスと社会課題を解決する方法を探しているのです。
competitionの「競争」ではなくCo-Creationの「共創」が大事
起業しようとしている方へのメッセージをお願いします。
起業しようとすると1人で何かを始めると考えがちですが、社員や取引先など色々な方との出会いがあります。そのため、色々な方々と新しいことを始めたいと思って起業してほしいです。どのようなビジネスをするかではなく、どのような人と結びつきながら仕事をするか考えてみるのも良いと思います。
今の世の中は、competitionの「競争」ではなくCo-Creationの「共創」が大事だといわれている通り、それがビジネスのスタンダードになるので、共創をイメージして起業すると上手くいくと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:亀山淳史郎 氏
亀山氏は1981年生まれ、東京都出身。2006年に早稲田大学文学研究科を卒業。広告会社を経て、博報堂に入社した。博報堂時代は、営業職として大手飲料メーカーやブランドの広告マーケティングコミュニケーション業務に従事していた。
その後、2018年7月にSIGNINGの前身組織となる博報堂DYホールディングスのグループ会社を設立。およそ2年後の2020年4月に、博報堂DYホールディングス傘下にソーシャルビジネススタジオSIGNING(サイニング)を設立し、代表取締役・共同CEOを務めている。
【企業情報】
法人名 |
株式会社SIGNING / SIGNING Ltd. |
HP |
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設立 |
2020.04.01 |
事業内容 |
1)社会課題を解決しソーシャルグッドを推進していく「Social Design」 2)事業の新たな成長機会を発見し新市場を創造していく「New Market Design」 |
沿革 |
2020年4月1日 設立 |
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