【#107】理念は「ジェンダー平等の実現に貢献すること」。女性比率の低いドローン業界や宇宙業界におけるコミュニティを形成|代表 井口 恵(株式会社Kanatta)
株式会社Kanatta 代表 井口 恵
監査法人やファッション業界での経験を通して、女性の働き方や社会進出の場が限られていることを問題視する井口恵 氏。この問題を解決すべく、ジェンダー平等の実現に貢献することを理念に株式会社Kanattaを立ち上げています。今回はそんな株式会社Kanattaの代表である井口恵氏に、事業内容や起業するまでの想い、今後の展望などを詳しく伺いました。
女性の活躍や社会進出を支援するコミュニティの形成
さっそくですが、事業内容をお聞かせください。
当社はジェンダー平等の実現に貢献することを理念に、コミュニティ事業や宇宙サービス事業を手掛けています。ドローン業界や宇宙業界における女性の活躍や社会進出を支援するため、それぞれ「ドローンジョプラス」と「コスモ女子」というコミュニティの形成に尽力しているのが特徴です。
「ドローンジョプラス」は、ドローンの魅力を発信する女性限定のコミュニティです。女性が未経験からドローンパイロットになるまでの育成やお仕事紹介をしており、現在約80名もの女性が活躍しています。
お仕事紹介に関しては、昨今、物流や農業などさまざまな場面でドローンが活用されているため、産業ドローンの分野でお仕事を紹介したり、当社主催でお子様向けにドローンの操縦体験会を開いたりしているのですが、そこでの講師やインストラクターもドローンジョプラスから派遣しているのが特徴です。
「コスモ女子」は、「宇宙を身近な存在に」をテーマに2020年春に立ち上がった、宇宙業界で働きたい女性をサポートするコミュニティです。宇宙分野で活躍する方をゲストに迎えて勉強会を開催しており、学びを通して宇宙業界で働ける女性を輩出したいと考えています。
ドローンの操縦士は国家資格が必要だと思いますが、資格取得に向けたサポートについて教えてください。
当社は国家ライセンスを発行できる登録講習機関であるため、学んでいただいたあとに登録講習を受けていただき、合格した方にライセンスを発行しています。また、ドローン操縦体験会やドローン×プログラミング体験会、ドローンの実証実験サポートなどのイベントも行っているのが特徴です。
スクール自体の強みは、1人ひとり丁寧に指導するマンツーマン指導を行っていることや、資格取得後もドローンジョプラス公式LINEでいつでも相談できるようになっていることなどです。
女性にフォーカスしている理由はございますか?
女性にフォーカスしているのは、私のこれまでの経験が関係しています。私は幼いころ海外で暮らしていたのですが、そこで貧富の差を感じることが多くありました。もしこの差が努力の差で生まれているのであれば自分は家族を養えるくらいの経済力がほしいと思ったことや、男性と対等に働きたいと考えたことから、公認会計士として3年間ほど働いていました。
当時は男性が8割を占める男性社会でしたが、私が所属していた国際事業部の女性比率は多いほうでした。しかし、管理職に就いている女性は2人しかおらず、お子さんがいる方も朝まで働いていたので、ここで働き続けるのは厳しいと感じ転職しています。
転職後はルイ・ヴィトンの親会社であるLVMHで働いており、そこは女性が8割と男女比率が逆転しました。女性が多かったこともあり定時上がりで働きやすかったのですが、役員陣は全員男性だったのです。そこで「女性が活躍できる機会は限られている」と改めて実感しました。
そのような経験があり、もともと起業したいと考えていたので、女性にフォーカスするような事業で会社を立ち上げました。やはり、せっかく起業するのであれば女性が少ない業界かつ、これから成長する分野で、女性が活躍できるフィールドを自分でつくって、女性が活躍できるようなサポートをしたいと考えていました。
ドローン業界・宇宙業界に注目した理由を教えてください。
2015年、私がまだLVMHで働いていたころ、首相官邸の屋上にドローンが落下する事件がありました。私の勤務地はその事件現場に近く、テロの可能性も考えられていたため、とても恐ろしく感じたことを覚えています。この出来事を通じて初めてドローンの存在も知りました。
当時、アメリカや中国ではすでにドローン業界が急成長しており日本でも拡大の兆しを見せ、さらに男性が約9割と業界に圧倒的に多く参加していました。これはラジコン世代の男性が参入していることが主な理由だったので、この仕事は男性にしかできない訳ではないと感じたのです。
そのため、現在手掛けているドローンジョプラスを立ち上げました。当時は事業拡大を検討していませんでしたが参加者が100名を超えたときに、他の業界でも同じようなことをしたいよねという話が上がったのです。
そこから、たまたま宇宙業界に興味を持っていた方が身近にいたことや、宇宙業界も成長する業界だけれど男性比率が多いことなど、起業した理由と合致したので、その流れで宇宙業界に関する事業も立ち上げました。
働き方に自由な選択肢がほしい
起業した理由を教えてください。
自分自身が監査法人やファッション業界を経験して、どちらの働き方も好ましくないと感じました。働けるときは働きたい、子どもを出産したら育児をしながら両立したいというように自由な選択肢がほしいと考えたときに、起業するしかないと思いました。そこから、私がやりたかった女性支援に貢献したかったので今の事業につながっています。
ライフイベントに囚われずに働き続けたい
仕事におけるこだわりや譲れない軸を教えてください。
働けるうちはできるだけ働きたいという考え方が軸になっています。公認会計士として監査業務を行っていた時代は朝まで働いており、一般的に見ればブラックなのですが、自分が成長したいと思いやっていたことなのであまり気にしていませんでした。
逆に転職後は物足りなさを感じてしまい、結果起業しました。そのため、働けるうちはハードワークにしたいと考えています。
また、私のミッションはライフイベントに囚われずに働き続けることです。自分自身だけでなく私の周りの女性もそうです。出産や育児によって仕事を辞める選択をしてほしくないので、できるだけ休まず働けるようにいろいろと調整をしています。
実は私も4ヶ月前に出産を経験しており、1ヶ月間はオンラインで仕事をし、2ヶ月目からは普通に働いています。自分がそれをすることでプレッシャーをかけたいわけではなく、同じ境遇にいる女性に自分の乗り越え方を伝えられたら良いなと思っています。
起業から今までの最大の壁を教えてください。
私が壁に感じたことは2つあります。1つは、ジェンダー平等自体があまり理解されないことです。
特に、2016年に公表された「ジェンダー・ギャップ指数」では、144カ国中111位でした。これは、ロシアを含む先進8カ国の中で断トツの最下位です。義務教育や健康など基本的な項目は男女平等が確立できていますが、女性の社会進出に関しては、各国に比べ差別があるという結果になっています。
2021年のユーキャン新語・流行語大賞で「ジェンダー平等」がトップ10入りしたことにより、今でこそジェンダーを認識する方が増えてきていますが、これまで「強い女性が自分の権利だけを主張している」とバッシングを受けることもありました。
しかし、今は世の中も変わってきて、女性比率を上げることで得られるメリットが広まってきたので、当社でもその流れに貢献できるようこれからも女性が活躍できるようなサポートをしたいと思います。
もう1つは、2019年ごろにドローンジョプラスが100名から10名まで減ったことです。起業当初にリーダーのような存在だった方が方向性があわずに退職しました。その方はとにかくご自身のドローンのスキルを磨きたい、私はドローンを通じて女性支援をしたいと考えていたので噛み合わなくなり、別々に活動したほうがいいねという話でまとまったのです。
しかし、彼女に憧れてドローンジョプラスに入ってくれた女性が多かったことから、9割退会してしまいました。自分自身のコミュニティの作り方を反省し、残ってくれた10名とゼロから再建していったのが今のドローンジョプラスです。
そのため、以前よりも私のビジョンが反映されていると思います。1人が目立ってその方を中心にコミュニティができているというよりは、1人ひとりにスポットライトが当たるような環境づくりを心がけています。
再建できたのは仲間のおかげ
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
私にとって仲間の存在は大きいですね。ドローンジョプラスが100名から10名に減ったときも、残ってくれた方は本当の仲間だと思います。当時は辞めるかどうかを話したこともあったのですが、一緒に再建したいと言ってくれたので、今があります。私1人では再建できなかったかもしれません。
今後の展望をお聞かせください。
今後の展望として考えていることは3つです。1つ目は、私が携わっているドローン業界で男女比率を対等にすることです。
2つ目は、宇宙業界で2040年に月面に1000人の長期滞在を計画されており、恐らくそのうちの半分は女性になると思うので、女性比率を増やしたいと考えています。宇宙業界の8割が男性であり、2割しか女性がいないと女性特有の事情や出産・育児などに関する意見が漏れてしまうかもしれないので、当社にとっては急務だと感じています。
理想の男女比率は5対5ですが、3割いないとマイノリティの意見が反映されないというデータがあるため、少なくとも3割には持っていきたいです。
3つ目は、5年以内に海外進出することです。ドローンも宇宙もアメリカのほうが発展していますし、活動領域を日本以外にも増やしていきたいですね。
周囲から認められなくてもチャレンジし続けてほしい
起業しようとしている方へのメッセージをお願いします。
私は、ぜひチャレンジしてもらいたいと思っています。もともと起業前はすごい人しかしないと考えていたのですが、今は若い方でもSNSを通じていろいろな社長の話を聞ける機会があるため、昔よりは身近にあるのではないでしょうか。
ただ、海外に比べると日本には起業のチャンスが少ないようなので、ジェンダーじゃないですけど批判されることも多いと思います。私は批判されても理想に向かって突き進んできたので、もし周囲から認められなくてもチャレンジし続けてほしいですね。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:井口恵 氏
2010年横浜国立大学経営学部卒。監査法人やファッション業界での経験を経て、2016年に株式会社Kanattaを創業。SDGsの取り組みの一つである「ジェンダー平等の実現に貢献する」ことを理念に、さまざまな分野での女性の活躍や社会進出を支援するコミュニティの形成に尽力している。その代表格である、ドローンの魅力を社会に発信する女性チーム「ドローンジョプラス」は約100名に成長。女性が社会で活躍する場を提供している。
【企業情報】
法人名 |
株式会社 Kanatta |
HP |
|
設立 |
2016 年 6 月 |
事業内容 |
コミュニティ運営事業 ドローンジョプラス コスモ女子 宇宙サービス事業 |
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