【#116】給与前払いやキャッシュフロー改善サービスなどを通じて、ペイメント領域のイノベーションを促進|代表取締役 上野 亨(株式会社Payment Technology)
株式会社Payment Technology 代表取締役 上野 亨
Payment Technologyは、給与前払いや法人向けキャッシュフロー改善サービスを始めとした幅広いペイメント事業を手掛け、注目を集めています。代表取締役を務める上野亨氏に、サービスの特徴やこれまでの経歴などを詳しくお聞きしました。
新卒でソフトバンクに入社。グループ企業で働いた後に起業
事業の内容をお聞かせください
大きく分けて2つの事業を展開しています。
ひとつ目は給与事業です。給与の前払いサービスと、まだ正式にスタートしていないのですが、資金移動業者、いわゆる○○Payと呼ばれるサービスを通じて給与を受け取れるようにするツールを開発しています。
これまでは銀行口座で給与を受け取るのが一般的でしたが、法令が変わり、今後デジタル給与の受け取りが可能になります。そこで新サービスとして、○○Payを通じて給与を受け取れる専用ツールを提供する予定です。
給与の前払いサービス「前払いできるくん」は、従業員にとって便利なサービスなのはもちろんなのですが、採用活動で他社と差別化できるという点で企業側にも大きなメリットがあります。
「前払いできるくん」はアルバイトなどの非正規労働者を採用する際によく使われるサービスで、給与の前払いが可能なことを求人広告に書いておくと応募数が2倍以上に増えることがほとんどです。
もうひとつの事業は、BtoBの決済事業です。
請求書の発行と受領を一括管理できる「請求クラウド」と、クレジットカードを使った決済サービス「ハヤメル」と「オクラス」を提供しています。BtoBは銀行振込による決済が一般的ですが、利便性を上げるために我々はクレジットカードで決済が可能なシステムを開発しました。
売掛金の早期回収を実現するサービス「ハヤメル」を使って請求書を発行していただくと、入金を約1ヶ月早められます。また、取引先から発行された請求書を「オクラス」を使って支払うことで、支払いのタイミングを1ヶ月以上延長できます。請求金額を弊社が立て替える形で請求者に即時入金することで、キャッシュフローの改善をサポートしています。
これまでのご経歴を詳しくお伺いできますか?
私は1997年に新卒でソフトバンクに入社しました。当時は1,000人ほどが働いていて、事業部ごとに会社を作る形で5つぐらいに分社していました。
私は「ソフトバンクファイナンス」という財務と経理を担当する会社で働いていて、1999年にその会社の名称が「SBI」に変わりました。同時に「イー・トレード株式会社」(現:SBI証券)という新会社が立ち上がり、私はそちらに転籍して上場に向けたプロジェクトに携わることになったのです。
当時はベンチャーで50人ほどしかいなかったので、私は財務と経理担当でしたが人事、営業、IR、システム開発もすべて担当しました。法務以外の全業務を担当した記憶があります。
ソフトバンク/SBIグループで計17年間働いた中で一番長く在籍したのが、IPOの法人営業部です。チームの立ち上げからフロントで営業までおこない、約10年間その法人営業部で働きました。
金融庁による、株式新規上場IPOに係る監査事務所の選任にも携わられていると伺いました。そちらも詳しくお聞かせいただけますか。
IPO(株式上場)を実現するためには、監査法人や証券会社と契約しなければなりません。しかし、3大監査法人がIPOにあまり積極的ではない時代がありました。そのため、IPOの準備を進めたくても監査法人と契約できない「監査難民」と呼ばれる会社が多くあり、私はそのことに問題意識を持っていました。
そんな中、ご縁があって金融庁の方とお会いすることになり、どうにかこの問題を是正していこうと、IPOに係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会が立ち上がることになりました。私は、ベンチャー企業関係者として協議会のメンバーに入っています。
諦めなければ負けではない
仕事におけるこだわりを教えてください。
多くの社員を抱えるようになったいま、改めて大切だと思うのは「諦めないこと」です。
諦めなければ負けではないと思うからです。これはサラリーマンだった頃から大事な言葉として心に刻まれています。
もうひとつ大切にしているのは、自分の頭で考えることです。そう思うようになったのは、新卒の頃のあるエピソードが関係しています。
私は当時、まったく仕事ができなかったのですが、それでも私のことを見捨てないで根気強く面倒を見てくれた先輩がいました。しかし、ある時「上野さん全然考えていないね。考えていない人は嫌いだよ」と言われてしまったんです。
私は「この人に嫌われてしまったら終わりだ!」と焦り、それからは自分の行動から何もかもを深く考えるようになりました。一つひとつに何か意味があると思ったのです。
どのような時でも意味を考えながら動く習慣は、サラリーマン時代に身に付けたもののひとつです。
起業から今までの最大の壁を教えてください
新しいサービスを立ち上げたら、存在をまずは世の中に知っていただかなければなりません。新サービスを作る度にその過程を繰り返すため、何度もスタートアップを立ち上げているような感覚です。
「前払いできるくん」を立ち上げた時は給与を前払いできるサービスが珍しく、営業に行ってもサービス内容を理解していただけないことがよくありました。
地方は特に厳しかったです。営業に行っても「前払いはいらん!」と跳ね返されて、30秒で商談が終わったこともあります。2泊3日の出張で15社も回ったのに、1件もお客さんを獲得できなかったのは苦い思い出ですね。
新サービスを立ち上げる度に、そうした壮絶な経験をしています(笑)。
短期労働者と企業をつなぐ新規事業を構想
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
ひとつは、お世話になっている株主へ恩返しをしたいという想いです。
もうひとつは社員の存在です。社員の多くは会社の成長に期待して入社してくれたため、これからさらに事業を拡大させて皆でハッピーになるのが目標です。いまは一番しんどい時期ですが、事業が成長したら相当楽しくなるでしょう。
今後の展望をお聞かせください
「働く」の価値を向上させることをミッションとしている当社は、これまで「前払いできるくん」や「エニペイ」の提供を通し、多様化する働き方に対応するサービスを提供してきました。
昨今のスポットワークのニーズ増加を受け、企業が直接スポットで労働者を雇えるスキマバイト採用サービス「エニジョブ」を立ち上げました。スキマ時間に働きたい人とアルバイトを採用したい企業をマッチングする仕組みを、それぞれの企業が持てるようにするサービスです。
これまでのスキマバイトサービスは、どちらかというとベクトルが労働者向きでした。
スポットで働けてすぐにお金も受け取れるため、アルバイトをしたい方々にとっては非常に便利なサービスといえます。スポットワーカーのニーズをうまく掘り起こし高い人気を集めているわけですが、企業からはワーカーのスキルのミスマッチや、報酬の30%前後のサービス利用手数料が発生するなどの課題があると伺っています。
そこで我々は、各企業の退職した従業員を対象にスキマバイトの募集を行い、出退勤管理から給与日払いまで実現できるサービスを作ろうと考えました。
退職者は一度その企業で働いた経験を持っているわけですから、どのような人物なのか、どのようなスキルを持っているのかを事前に知ることができ、企業とワーカーの間でミスマッチが発生しづらいというのがポイントです。
また、エニジョブは自社の退職者を対象にスポットワークの募集を行うため、人材紹介手数料も発生しません。企業はシステム利用料のみでスキマバイト採用ができるため、スキマバイト採用のコストを大幅に削減することが可能です。また、エニジョブを利用して退職者を労働力として再利用することで、採用コストが使い捨てにならず、「採用広告費の資産化」をすることができます。
今後は、ワーカーのスキル登録を充実させていくとともに、ワーカーのスキルを企業が認定することで、ワーカーのスキルの価値、ひいてはワーカーが働くことの価値を高められるような仕組みを提供していく予定です。
優秀な人ほど起業を
これから起業しようとしている方へアドバイスをお願いします
優秀な人こそ、積極的に起業して欲しいですね。起業したほうが自分の才覚でビジネスができますし、リスクコントロールも効くと思います。
起業にはリスクが付き物だと思われるかもしれませんが、サラリーマンにもリスクはあります。会社が傾いたら自分の人生も傾いてしまうわけですから、ある意味人生を他の人に預けているようなものです。起業家もサラリーマンも負うリスクは一緒です。
私はIPO関連の仕事をずっとしてきたため、その経験を活かしてIPOを目指す人を支援する事業もおこなっています。現在は主な取り組みとして、証券会社難民を支援しています。
監査難民問題もまだ完全に解決していないのですが、いま深刻化しているのは証券会社側のリソースが足りなくなったことにより、証券会社難民が増えてきていることです。証券会社と契約できなくて困っている起業家をどうにか救いたいという想いで、支援をおこなっています。
私が他の起業家を応援する理由は、私1人でできることには限界があると考えているためです。優秀な人を集めて支援できたら、大きな輪が広がり皆でさらに豊かになれる。そう思い、起業家の支援を続けています。
いま一番枯渇しているのは起業家ですから、優秀な人ほどぜひ起業してください。
成長期のスタートアップがファイナンスで重視すべきなのは、どのような点でしょうか?
会社が資金調達をする場合には、お金を借り入れるデットと、株式を発行することで資金調達をおこなうエクイティの2つの方法があります。
デット、すなわち借入金は返さなければなりません。したがって、M&Aのように長期の投資が必要なことに借入金を使ってしまうと、後々大変なことになります。投資から回収までの時間が長い場合は、エクイティ資金を使うのが基本です。
一方、事業を回転させるための資金にはデットを使います。デットとエクイティを区別しながらファイナンスを考えないと本当に危ないのですが、そこを理解していない経営者も少なからずいるのが現状です。ただ、ファイナンスを勉強すれば皆さんすぐに理解できるでしょう。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:上野亨 氏
ソフトバンク経理財務部にて資金調達やBPR プロジェクトに従事した後、SBIグループの創業メンバーとして転籍し、 SBI証券及びIPO部門の立ち上げに携わる。2013年にSBI証券法人部長に就任。2016年8月に株式会社Payment Technologyを設立し、代表取締役を務める。
金融庁による「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」のメンバーにも選任されている。
企業情報
法人名 |
株式会社Payment Technology |
HP |
|
設立 |
2016年3月25日 |
事業内容 |
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