【#130】「レンディング=未来への投資」エンベデッド・ファイナンスを通して消費者が可能性を広げていける社会へ|代表取締役社長 齊藤 雄一郎(GeNiE株式会社)
GeNiE株式会社 代表取締役社長 齊藤 雄一郎
非金融事業者とパートナーシップを組み、エンドユーザーへ新しい金融サービスを提供するためのサポートをするGeNiE。GeNiEが行うサービスは「エンベデッド・ファイナンス」と呼ばれるものであり、日本でも通信サービス会社や自動車メーカーなどが徐々に取り入れ始めています。
今回は、代表取締役社長の齊藤氏へインタビューし、事業内容やモチベーションの保ち方、今後の展望などについて詳しくお伺いしました。イントレプレナーである齊藤氏は、もともと一社員として働きながらも、より良い社会の実現を目標に7年間も構想を温めていました。今後、起業したい方や、イントレプレナーを目指している方にとって勇気がもらえる内容も盛りだくさんです。ぜひ最後までご覧ください。
個人が飛躍するため、より良くなるためのサポートをしたい
事業の内容をお聞かせください
三菱UFJフィナンシャル・グループ、アコムの100%持ち株の子会社です。今年で創業2年を迎えます。アコムで培ったノウハウをもとに、金融事業を手掛けたい企業にレンディング機能を組み込むサービスを、今年の夏頃に提供開始予定です。通称エンべデッドファイナンスと呼ばれる金融サービスです。
もともと金融を専門としていない企業が金融サービスを提供するためには、それなりの金額の投資やライセンスの取得、体制づくりから始めなければなりません。しかし、専門としていないサービスにそこまでリソースを割くことは、難しい場合が多いです。そこで、我々がサポートしていきたいと思っています。
企業がサービスを導入するメリットとしては、例えば小売の場合、消費者が商品の購入に至るまでのハードルを下げることができます。欲しい商品をカゴに入れたものの、資金が足りなくて決済されないことも多い、という課題をよく耳にします。
そこで、そのサービスを提供している会社の名前で個人ローンという新たな決済方法を提供できれば、購買される機会を増やすことが可能です。当社では、30分程度で審査し、すぐに金額を提示します。消費者に銀行や金融機関へわざわざ行ってもらわなくても完結させられるという点も、企業にとっての大きなメリットです。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
もともとはアコムの社員でした。今の仕事の前には、アコムのマーケティング部門の責任者として業務に長く携わっていました。そして、消費者へのインタビューを通して、消費者金融や個人ローンの利用はハードルが高く、抵抗感のある方が多いということを知りました。
そこで、消費者にとってより馴染みのある小売店などの既存サービスを通して、個人の信用の範囲でローンを利用できたら良いのではないか、という発想が生まれました。
ただ、入社当時から、起業したいと思っていた訳ではありません。マーケティングを通して、「消費者金融を含め、金融機関はただの『お金を借りる場所』としかみられていない」という事実にもったいなさを感じ、世の中を変えたいと思い始めました。
例えば、お金を理由に新しい経験や欲しいものを諦めてしまえば、自分の可能性を狭めてしまうことになります。「人生の選択肢を増やして、未来の自分へ投資をして欲しい」という応援の意味も込めて、サービスを展開していきたいと今でも強く思っています。
エンベデッド・ファイナンスを普及すべく、起業に興味を持ってからは、企画書を書き、会社に後押ししてもらう形で起業しました。いわゆるイントレプレナーです。実は2015年にはGeNiEの原型となるアイデアがすでにあり、企画提案をしていました。ただ、当時は過去の法改正や利息返還請求等の影響により、業界全体が低迷していたため、新規事業への投資の優先順位が低く、見送りとなりました。業績が上向き始めた2021年に改めて事業計画書をつくり、7年越しで提案を通すことができました。
マーケティングの部署の前には、グループ経営や組織づくり、戦略づくりなどを経験していました。アコムの社員時代の一つひとつの経験が、起業や経営に活きています。
エンベデッド・ファイナンスは、欧米では既に日本よりも広く普及しています。しかし、日本でも意外と身近に存在します。エンべデット・ファイナンスの例は、旅行のキャンセル料を支払ってくれる保険や、携帯電話を破損させてしまった際に修理代を補填してくれる保険などです。必要なタイミングで、適切な価値を提供できるということが、エンべデッド・ファイナンスの魅力です。個人ローンの分野でもこれらのサービスと同様に、必要とされるサービスを提供したいと考えました。
「努力は夢中に勝てない」この仕事を好きになることが成果への近道
仕事におけるこだわりを教えてください。
2つあります。
1つ目が、仕事を好きになることです。仕事で成果を出すためには、他の人よりも多くの努力をしなければなりません。しかし、それは並大抵のことではありません。そこで、まずはこの仕事を好きになり、自然とそこに思考が向くようなマインドセットを保つように意識しています。
「努力は夢中に勝てない」という言葉がありますが、その通りだと信じて実践し続けています。まずはその仕事を好きであることがベースになければ、仕事の成果を出すことがなかなか難しいように思っています。
2つ目は、ビジョンを仕事の指針としていることです。会社の中で働く場合、会社のビジョンにかなうやり方かどうかを常に問うことが必要だと考えています。上司の指示する方法よりも、ビジョンにそった方法が正しいということや、会社ではなくビジョンに雇われよう、ということは、社員にも伝えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
起業したときに目的としていたメイン事業を、計画通りに進められなかった期間です。
起業当時、とあるパートナー企業と一緒に金融サービスの立ち上げをスタートさせる予定でしたが、サービス設計のイメージのすり合わせがなかなか上手くいかず、双方が納得いく落とし所を見つけられなかったことで、スタートから約8ヶ月後に契約解除の決断をしました。商品のイメージのすり合わせがなかなか上手くいかず、双方が納得いく落とし所を見つけられませんでした。
その後、なんとか新たなパートナー企業と出会うことでき、この難局を乗り切ることができました。その後は、順調に準備が進み、サービスローンチの目処も見えてきました。この絶体絶命とも言える局面を乗り切った結果、チームに自信と一体感をもたらす経験として、組織力の向上に寄与する出来事だったと今では前向きに捉えています。
信用の力で個人が飛躍できるサービスを、安心して利用してもらいたい
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
3つあります。
1つ目に、憧れて入社した会社で、新規事業に着手できていることです。当時、アコムは自動契約機の導入によって業界をスケールさせるきっかけを作ったり、国内で初めてATMを24時間稼働させる仕組みを取り入れたりなど業界をリードしていました。他にも、レンタルビデオ事業や旅行事業への進出など常に新規ビジネスに挑戦してきました。こうした歴史を見て「この会社の一員になりたい」という思いを持って入社した環境で今現在新規事業に携われていることが、モチベーションの源泉の1つです。
ちなみに、私自身はここまで順調に進み続けてきたわけではありません。入社後は、貸金業法の改正などによって業界全体の業績が悪化し、アコムの経営の建て直しが迫られる環境でした。そのため、私も若手時代は、経営の安定化・健全化に向けた効率化や組織のスリム化に追われる日々でした。そこから15年ほど経過し、業績が回復したことに伴い、ようやく新規事業が検討できる環境になりました。やりたいことができなかった時期は長かったですが、その15年間の蓄積が原動力になっているように感じます。
2つ目に、エンベデッド・ファイナンス市場の拡大が予想される中で、市場の健全な発展により、安心してご利用いただけるサービスにまで成長させることが、私たちに課せられた使命だと感じており、仕事のモチベーションに繋がっています。
3つ目は、グループ会社の社員も含めて、周りの人たちが期待してくれていることです。私には「やりましょうよ」と背中を押してくれる仲間が沢山います。その方々が「新たな”信用のカタチ”をデザインする」というミッションと事業の方向性に共感してくださっていることも大きいですね。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
2024年夏頃にシステム基盤を構築し、秋頃には事業ローンチを予定しています。まずは、そこに向けて徹底的に準備をしていきます。また、事業ローンチ後は、2〜3年くらいかけて各業界に合わせたベストプラクティスを確立し、横展開していく上で、各業界のスタンダードを生み出していきたいです。
各業界の一部で当社のサービスが浸透し、成功事例が増えていくと、2番手、3番手と徐々に手を挙げていただける企業が増えていくと考えています。サービスを徐々に拡大させて、3年ほどで知名度を上げて行き、エンベデッド・ファイナンスを普及させていきたいと考えています。
また、個人の信用を有効活用できる人が増えていくような社会基盤をつくることも、私の野望のひとつです。みなさんがお金にとらわれず、自分を高められるサービスを安心して受けられるように、黒子になって支えていきたいです。
スタートアップには新しい価値観が浸透しやすく、挑戦しやすい環境という強みがある
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
アントレプレナーではないため、直接的なアドバイスができていないかもしれません。そして、まだ私も奮闘している最中であるため、アドバイスするには時期が早いかもしれません。ただ、一社員からイントレプレナーとして起業し、仕事をしてきた経験を軸にお話します。
大企業の一社員でいる時と、起業しスタートアップで働いている時の明確な違いは、自分が発話するかどうか、つまり「変化の起点になること」です。
大企業にいる時には、安定したリソースやストックがあるため、これで良いのかという問いを重ねるような場面が多いかと思います。一方で、起業はゼロスタートであるため「これからはこうするよ」と周りの人に言い続ける必要があります。なぜなら、暗黙の了解が通じるのは企業の安定性や歴史があってこそだからです。また、起業から間もない時期では社員一人一人のポジションも安定していないため「当然理解してもらえている」という思い込みは捨てた方が良いです。社員と一丸となって進み続けるためには、ビジョンや事業プランをしつこいくらいに共有することが大切だと感じています。
また、大企業には確かに魅力がありますが、スタートアップだからこその良さも多くあると思います。具体的には、新しい価値観が浸透しやすく、挑戦しやすい環境があります。そんな強みを打ち出し、理解してくれる大企業と上手く手を組むことができれば会社の成長も加速します。自分たちの魅力を活かし、一緒に進んでいってくれる人々と出会い、良いお付き合いができるようにぜひこだわってみてください。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:齊藤 雄一郎 氏
2005年成城大学卒業。2022年3月慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士課程(Executive MBA)修了、経営学修士号を取得。
大学卒業後、アコム株式会社に新卒入社。支店勤務を経て経営企画部へ。以降、企画部門を中心に全社戦略の立案やマーケティング業務に従事。2016年、フィンテックが日本で注目され始めた頃、テクノロジー活用を推進すべく、イノベーション企画室を立ち上げ。デジタル領域におけるサービス企画・立案、新規事業開発などに取り組む。マーケティング部門の責任者を経て、2022年4月、アコムの社内起業家としてGeNiE株式会社を設立。
企業情報
法人名 |
GeNiE株式会社 |
HP |
|
設立 |
2022年4月1日 |
事業内容 |
エンベデッド・ファイナンス事業、コンサルティング事業 |
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