Degas株式会社 代表取締役 牧浦土雅

ガーナなどのサブサハラアフリカの小規模農家に対して、生産性と収益性の高い農業を可能にするためのパッケージを提供するDegas株式会社。1家族あたり1日2ドルで生活している現状を打破すべく、2030年には小規模農家の収入を3倍にすることを目指して事業を展開しています。

今回は、そんな代表の牧浦氏から、事業を始めた経緯や最大の壁、今後の展望について詳しくお伺いしました。採用についても記載していますので、ぜひ興味のある方はチェックしてみてください。

 

2030年にアフリカの小規模農家の収入を3倍増やすことが目標

事業の内容をお聞かせください。

本社を東京に構えており、100%出資の子会社をガーナで運営しています。アフリカに6億人いるといわれている、1〜2エーカーの農地を所有する小規模農家の生産性を高めるために活動しています。

※1エーカーあたりサッカーグラウンド1つ分の広さを指します。

 

具体的には、肥料や農業資材の提供、並びに指導を行っています。農家からは農作物で返済してもらい、回収した生産物を大手企業へ売ることで、我々は収入を得ています。

 

小規模農家は、金融機関から融資を受けることが難しく、肥料などを購入することが難しくなります。弊社は、与信を作ることも含めて、テクノロジーの力でサポートしています。

 

過去には弊社の管理している農家から、チョコレートの原材料であるシアカーネルを買取り、食品素材加工会社である不二精油さんに販売したこともあります。不二製油さんとは業務提携をしており、アプリをカスタマイズしてサステナブルな形でシアカーネルが調達できるようなサポートをしました。

 

農業の生産性を向上させるためのサービスはもちろん、ビジネス上での信頼や、商品を売るためのネットワークの提供などによって支援をして、2030年には小規模農家の収入が3倍増えることを目指しています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

誰かがアプローチしなければならないという使命感を持ったことが、現在の事業の始まりです。半生を海外で過ごしていくうちに、文化や価値観の異なる地域において「正しい」と思うことに対し、自発的に行動し大きな渦を作ることが得意だったからこそこのような使命感を抱いたのではないかと思います。

 

例えば、高校2年生の時に留学したインドで発展途上国の子供が学ぶ時間も教材も少ない環境を目の当たりにしたことです。この状況を看過することはできないといった思いを抱えていました。

 

その後東アフリカのルワンダに1年ほど住み、同様の実態を目の当たりにし、現状を変えるべくヘルスケアやオンライン教育のサービスを提供していました。

 

その後、2018年にアフリカに戻りました。過去と比べると都市部だけは発展していたものの、郊外に出れば儲からない小さな農家がたくさんいるのが現状でした。

 

現在アフリカには12億人もの人が住んでいますが、6〜7割が小規模農家です。1日2ドルで生活している、いわゆる貧困層です。彼ら彼女たちの所得を上げて生活を変えるためには、生産性を上げることが鍵だと考えました。

 

テクノロジーの力でサポートをし、多くの人を救い中長期的に成長できる世界を作りたいという思いから事業を始めました。

 

ファイナンシャルリターンと「劇的に」というインパクトの両者を追う

仕事におけるこだわりを教えてください。

1つ目は、会社のビジョンでもある「人々の生活を劇的に変える」です。現在はガーナの小規模農家の方々の生活を劇的に変えたいと考えています。進学したい、3食お腹いっぱい食べたい、という願いを叶えられるようにサポートします。

 

2つ目が、ファイナンシャルリターンと、社会的インパクトを同時に追うことです。弊社は多くの投資会社や事業会社と関わっているため、もちろんファイナンシャルリターンは欠かせません。しかし第三者インパクト評価機関に事業におけるインパクトを精査してもらっているほど、インパクトを追うことも重視しています。

 

現在、弊社で直接融資させて頂いている農家の72%が1日3ドル以下で生活しています。その人たちへサービスを提供した結果、農家の97%の所得が倍増したという成果が出ており、我々の収益にも結びついています。

 

経済性と社会的インパクトを与えることは、常にトレードオンの関係性でいられるように今後もこだわって事業を展開します。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください。

壁はいくつもあったのだと思いますが、残念ながら覚えていません。私自身が壁を乗り越えたら大変さはすぐに忘れてしまうという性分です。

 

今思いつく壁は直近ですが、ロシアのウクライナ侵攻により事業にかかる費用が増えたことです。ロシアは肥料を多く生産、保有していますが、侵攻によって輸出に制限がかかり、制裁によってロシア産の肥料の輸入も困難になったことから、過去と比べウクライナ侵攻に伴って、肥料の価格が3倍上がってしまいました。

 

我々は、農業資材を購入し、それらの現物でガーナの農家へ融資を行なっているのですが、計画通りだと3分の1の農家しかサービスを提供できないという問題に直面しました。

 

そこで、事業計画を0から立て直して、6月の種まきの時期に間に合うように資金と肥料を調達。農業資材費用が上がった分、生産物の価格も同様に上がるということは見込めていたため、何とか乗り切れました。

 

またガーナにいた頃、私は事故に巻き込まれたのも壁の一つです。忘れもしない2020年1月のとある日、地方都市を走っていたところ、羊が突然飛び出して来たためドライバーが急ハンドルを切ったところ車が横転し、頭を8針縫う羽目になりました。麻酔がない状態で処置をしてもらい、なんとか一命を取り留めました。

 

ガーナは地政学的にリスクが低いといわれていますが、アフリカならではのこのような出来事に遭遇することもあります。

 

今後は、人材不足の壁を突破しなければならないと考えています。弊社は世界的にも希少なデータを持っており、ありがたいことに、世界中から優秀なエンジニアが集まってきています。今後は、事業開発を担ってくれる方の採用も強化していきます。

 

「チェンジ・ザ・ワールド」をテクノロジーでいかに実現するか

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

「ここまできたら、もうやり切るしかない」という使命感がモチベーションの源泉です。

 

現在私たちの抱えるユーザー数は、ますます増えています。もし、私が足を止めてしまったら、サービスを提供している農家が困ってしまいます。

 

ちなみに、稼ぐために働く、という理由であれば、起業家にはなっていません。志があるため起業しており、今は、もう簡単には引き下がれないところまできています。

 

数年前であれば、今よりも簡単に辞めることができたのかもしれません。今は、モチベーションに左右されずに仕事をすることが当たり前の日常です。電車で、ご高齢の方に席を譲るくらい自然で当然のことをしています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください。

一言で表すなら「チェンジ・ザ・ワールド」です。

 

「チェンジ・ザ・ワールド」のワールドの内容は、人によって異なるかと思います。例えば職場の生産性を上げるために奮闘したり、もっとグローバルな視点で農家の生産性を上げたりなど、その人が見ている世界や、とりまく環境がワールドです。

 

チェンジザワールドを実現するためには、ロジカルな思考回路が必要です。

 

我々で例えると、チェンジ・ザ・ワールドとは、アフリカの電気が通っていない人や小学校までしか卒業できない人の現実を変えることを指します。実現するためには、農家の生産性を上げなければならず、そのためには肥料の調達が必要です。

 

これらを実現するためには、資金調達が必要であり、ビジネスをしなければならないというように順番をさかのぼった結果、今の事業があります。営利事業ではありますが、前述した通り、株主価値とインパクトの最大化が二項対立ではない会社を作り上げていくことに尽力しています。

 

チェンジザ・ワールドをいかに早く実現するかを突き詰めると、テクノロジーが必要という結論に辿り着きました。現在の220人の従業員のうち、人件費の半分を占めているのがエンジニアです。直近1年で、人件費の比率が大きく高まりました。

 

創業して3〜4年目まではリアルな現場のオペレーション強化に時間とお金と労力を使っていました。それが整って初めて、テクノロジーを活かせると考えていました。現在は、エンジニアの採用を強化し、複数のシステムを全て自社開発しました。

 

去年は、再生型農業に関わるサービスを整え、ビル&メリンダゲイツ財団から補助金をいただき、大規模言語ベースのチャットボット作りや他システムの整備などを行いました。

 

2024年は、農業やファイナンスの可能性を広げるため、さらにAIを駆使したモデルづくりに挑戦しています。テクノロジーを掛け算して、世界の小規模農家の方々の生活水準を底上げして、チェンジ・ザ・ワールドを実現します。

 

指数関数的に伸ばす事業は特に覚悟を持って挑戦を

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします。

私もまだまだ道半ばなので逆にアドバイスを仰ぎたいくらいですが、強いて言えば、起業にはやはり覚悟が必要です。

 

ざっくり分けると、毎年売り上げを徐々に伸ばす事業(小売や製造業等)と、サービスを0から構築して国内や世界に拡大していく事業(IT系等)との2種類があるかと思います。

 

もし、指数関数的に売り上げを増やす後者を選択するのであれば、相当な覚悟が必要です。前者と後者では、最初の1歩が異なるため、自分がどちらを目指すのかを、まずは明確にする必要があるかと思います。

 

そして現在、弊社では事業拡大に伴い採用を強化しています。新たなことに挑戦したい、意欲のある方を募集しています。

 

弊社は、世界的に希少なデータを持っていることにも強みがあり、世界的なビッグテック企業はじめ、グローバルで優秀な人材が集まっています。今後は、事業開発などの部門でも採用を強化していきます。

 

採用にあたって1番の条件は、当然ですがやる気のある人です。愚直に学ぶ姿勢がある人を求めています。また、海外との取引をメインとしているため、英話力は必須です。

 

また、学生インターンの採用実績もあります。国内だけではなく、ガーナの現場で働いてくれた学生もいます。採用直結型インターンにも力をいれており、弊社ならではの経験をたくさん積んでもらっています。

 

私たちの事業に興味を持ってくださる、グローバルレベルでご活躍できる方からのご応募を、心からお待ちしています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

起業家データ:牧浦土雅 氏

泥臭いオフラインオペレーションとテクノロジーの両輪の重要性を理解しているのが強み。2012年以降、東アフリカはじめ5ヶ国以上(ルワンダ、インドネシア、フィリピンetc)に住み、オンライン教育からヘルスケアまで幅広い事業を立ち上げる。第28回国家戦略特別区域諮問会議に出席し、サンドボックス特区創設を首相・関係閣僚に提言(2018年5月参院本会議で可決)。秋田県仙北市アドバイザー等を歴任。2020年7月、ガーナ・アクフォアド大統領から感謝状を受領。Wedge誌『平成から令和へ 新時代に挑む30人』等に選出。趣味はアート鑑賞と観世流能楽(国立能楽堂での演能実績あり)。在住はガーナだが、無類のエチオピア料理好き。

 

企業情報

法人名

Degas株式会社

HP

https://degasafrica.com/

設立

2018年11月

事業内容

西アフリカ・ガーナを拠点に、テクノロジーを用いた農家へのファイナンス事業や、脱炭素化などのサービスを提供。。国内最大級のトウモロコシ生産量、同大陸最大規模の農家データ、再生農業実績を有する。

 

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