株式会社hitohinto 代表取締役 大野千香氏

「人と人との関係をより良くすること」をコンセプトに設立された株式会社hitohintoでは、人と人の相互理解を深める「ヒント」となるウェブツール「ヒトヒント」の開発、展開、データ活用による組織改善施策の提供を行っています。

 

今回は、株式会社hitohintoの代表取締役である大野千香氏に事業内容や「ヒトヒント」の誕生秘話、今後の展望などについて伺いました。

 

弾まない会話、タスク管理に終始するマネジメントを「ヒトヒント」で解決

事業の内容をお聞かせください。

 

弊社では、人と人との関係性をより良くするために、ライフジャーニーシェアリングツール「ヒトヒント」を提供しています。人的資本経営が求められる中、職場の人間関係やマネジメントにおける相互理解という一番基礎の部分が足りていないにも関わらず、それを具体的に改善できるソリューションが世の中には乏しいことが問題だと考えています。

 

たとえば、上司と部下が面談を実施したとしても「最近どう?」と聞いてから話が弾まなかったり、仕事の進捗を確認するタスク管理に終始してしまったり。表面上問題なくやっていたとしても、上司が部下の成長促進のためのヒトマネジメントができていない場合が多いのではないでしょうか。同僚間のコミュニケーションも含め、あらゆる職場のコミュニケーションにおいて土台となる相互理解が足りていませんが、ハラスメントの意識が強まったこともあり、ニーズに反し相互理解の難度が高まっています。

 

このような具体的なソリューションが乏しい組織課題を解決する手段として、弊社では「ライフジャーニーシェアリング」という取り組みを企業や組織に提案する事業を展開しています。

 

ライフジャーニーシェアリングとは、一人ひとりの幼少期からこれまでの辛かったこと、嬉しかったこと、それを踏まえてどのような未来にしたいかということを一緒に働くチームの仲間と共有し、お互いの強みや価値観を見つけあってフィードバックすることで、相互理解をぐんと深める取り組みのことです。

 

前職のリクルートでも同じような取り組みは実施されていたのですが、丸一日かけてパワーポイントに小さな文字でエピソードを記入するなど、非常に工数がかかるやり方を採用していました。そこで弊社では、誰でも効果的・効率的にライフジャーニーシェアリングを実施できるウェブツールを開発し、実施のハードルを下げて、ご提案しております。

 

さらに、「自分の人生を深掘りできない」「相手の経験を聞いても浅いフィードバックしかできない」というライフジャーニーシェアリングをする際のつまずきポイントを解決するAI機能も実装しております。組織全体でアカウント導入をしていただくほか、新入社員研修やマネージャーのヒトマネジメント研修などでスポットでご利用いただくこともあります。

 

そして2024年からは、自己分析に苦戦する就活生や、キャリアに悩む社会人などの一般ユーザー向けにもサービスをリリースしました。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

前職では新卒採用のマッチングメディア領域において、営業・商品企画・組織開発などに10年ほど携わってきました。

 

特に商品企画職の頃は「就活生ができるだけ納得してファーストキャリアを決められるように、社会的に支援をしたい」という思いで一生懸命働いていたのですが、入社後に人間関係で辛い思いをしてしまう人を大勢見てきました。

 

次第に「ファーストキャリアの納得感も大事だが、長い人生においては入社したあと誰とどういう関係性で働き、どう自分らしさを活かして働くかということがより重要だ」ということに気づきました。そして、どうしたら現状を打破できるだろうと考えて手段を探し回り、相互受容関係構築の効果が非常に高いライフジャーニーシェアリングに行きつきました。

 

私のゴールは「世の中の、特に職場の人間関係を良くすること」なので、大企業のアセットを使うことでスピーディーにインパクトを出せることなら大企業でやった方が良いと思っていました。ただ、顕在化していないマーケットに自分の信じるやり方でチャレンジするには自分でやるしかないと、起業を決心しました。

 

人をカテゴライズせず、一人ひとりの個性を何より大事に

仕事におけるこだわりや、譲れない軸を教えてください。

人のことを断定したり分類したりして「あなたはこういうタイプだよね」と、決めつけることがとても嫌です。

 

人材系サービスでは「あなたはこのタイプで、この仕事が向いています」というように、人を分類することが多いです。その方が大量の人のデータを扱うには便利です。ただ、弊社は「人と人の関係を変えたい」という思いからスタートしており、人と人の関係が良くならない原因はこの分類、カテゴライズという現象だと考えているので、プロダクト開発においても断定や分類は絶対にしません。「一人一人を一人一人のまま捉える」ことがこだわりです。

 

弊社が提供しているヒトヒントは、あくまで人と人とが相互理解し合うための「ヒント」であるという意味を込めて、社名も「人」+「人」+「ヒント」というワードを合わせて「hitohinto」と名付けています。本来「ヒント」のスペルに「o」はつきませんが、「hito」と「hito」の間に「hint」が入っているので、社名の最後には「o」が入っています。

 

今後も、人をカテゴライズ、ラベリングせず、一人ひとりの個性を見つけて受容することを何よりも大事にし、そのような組織づくりのお手伝いをしたいと考えています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください。

今まさに壁を感じています。

 

昨年までは企画や開発、営業、納品などをほぼ全て1人でやっていたのですが、事業を次のステージに進めるため、現在は新しく入ってくれた社員・業務委託の仲間たちと一緒に頑張っています。

 

1人では対処できなかったことを仲間がやってくれるありがたさの反面、1人では出てこない課題と直面することも多くあります。一気に増えた数字のプレッシャーと戦いながら、仲間と沢山の時間をかけて対話し、お互いに学び、もがきながら前に進んでいます。

 

2024年のテーマは「仲間を増やして、次の町へ。」なので、意図して向き合った壁でもあります。みんなで必ず乗り越えたいと思います。

 

「ムハマド・ユヌスさんのような仕事をして死にたい」大学時代から1ミリも変わらない思い

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

大学生の時に「この人みたいな仕事をして死にたい」と思える人物に出会い、その思いが今でもモチベーションになっています。

 

大学生の時に感銘を受けたのは、バングラデシュの経済学者・ムハマド・ユヌスさんです。彼は、BOPビジネスの生みの親でもありグラミン銀行創設者で、マイクロファイナンスにより1日2ドル未満で生活していた数千万人の人生をたった1世代で劇的に変化させ、最低限の機会と選択肢を得られる状態にしました。

ムハマド・ユヌスさんの仕事を知った時に「私がやりたかったのはこういうことだ!」と衝撃を受け、自伝もすべて読みました。私もこの人ほどじゃなくても、理不尽に機会を奪われてマイナス状態にいる人をゼロ状態に戻したり、人間関係で苦しんでいる人が本来の力を発揮できるようにサポートしたりしたいと強く感じました。

 

そしてムハマド・ユヌスさんは、ビジネスパーソンで唯一「ノーベル平和賞」を受賞している方です。彼と同じように、政治やNPOではなく市場原理に基づく「ビジネス」によって、フェアに、スピーディーに、自分があるべきと思う社会に近づけていきたいと考えるようになりました。

 

この思いは、大学時代から1ミリも変わっていません。就職して、あるべき社会に向けて職場の人間関係を変えたいという想いが芽生え、あるべき社会に近づける具体的な手段としてライフジャーニーシェアリングに行き着き、今ビジネスとして挑戦中です。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください。

実現したいことが2つあります。

 

1つは、組織の「当たり前」としてヒトヒントを使ってもらえるようにしたいということです。現在は1日限りの研修で使用いただくことも多いのですが、今後は組織全体で導入していただき、一人ひとりの個性をありのまま深く捉え、その人の人生が幸せになるように応援するマネジメントを一般化したいと考えています。

 

さらに具体的な話だと、名刺を作るのと同じくらい当たり前にヒトヒントを作り、社内の誰もがヒトヒントを持っている世界が理想です。3ヶ月ごとに更新して「この期間にこんなことができるようになった」「この出来事は悲しかった」などと、自分自身の変化にも向き合い、仲間と人生の歩みを共有できるような環境にしたいと思っています。

 

2つ目は、現在弊社が行っている「企業の組織開発を支援する」事業と、始めたばかりの「就活生の自己理解を支援する」事業をつなげていくことです。

 

まず就活生に、就活の自己PRで悩むタイミングでヒトヒントを使ってもらいます。そしてヒトヒントで自分の個性を理解し、他人に伝え、自分が納得できる就活をしてもらいたい。

 

その後、その就活生が入社する組織や会社で自己紹介代わりに「ヒトヒントのURLを共有するので、よかったらこれを見てください」というコミュニケーションが取れます。上司からすれば部下が職場で開示していいと思う範囲で最大限の情報を出してもらえるので、ハラスメントのリスクなく部下理解が一気に進みます。さらに組織メンバー全員がヒトヒントを作成していれば、新入社員側からも、上司や先輩がどんな価値観を持っていて、これまでどんな経験をしてきたのかをすぐさま知ることができます。

 

就活のタイミングから社会人になってもずっと人生の横にヒトヒントがあり、ヒトヒントを通じて自分の個性やキャリア、人の個性や価値観と向き合える状態にしていきたいと考えています。

 

誰のどんな「不」を解決したいのか

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします。

ぶれてはいけないのは、誰のどんな「不」を解決したいのかということだと思います。不安や不満、不合理など、誰のどんな「不」を解決したいのか、なぜ自分なら解決できるのかという部分だけは、ずっとクリアに持っておく必要があると思います。それさえあれば、あとは試行錯誤しながら不の解消に向けて進むだけだと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ
名前 大野 千香

役職

代表取締役
経歴

2013年3月
東京大学文学部行動文化学科社会学専修課程 卒業

2014年4月
株式会社リクルートホールディングス 入社
新卒メディア事業 新規開拓営業職・大手企業へのコンサルティング営業職

2018年4月
企画職へ異動
商品企画・財務戦略企画・販促企画・組織開発

2018年8月
副業でのマーケティングコンサルティング・オリジナルプロダクト(ヒトヒント)の企画開発を開始

2020年10月
株式会社hitohinto創業

 

企業情報

法人名

株式会社hitohinto

HP

https://www.hitohinto.com/

設立

2020年10月29日

事業内容

ライフジャーニーシェアリングツール「ヒトヒント」の開発・展開・データ活用による組織改善施策の提供

 

送る 送る

関連記事