株式会社FiT 代表取締役 加藤恵多(右) COO取締役 小林幸平(左)

株式会社FiTは、代表取締役の加藤恵多氏が大学在学中に立ち上げた1つのパーソナルジムから事業がスタートしました。現在は京都を中心に全国約50店舗のフィットネスジムをこの1年で急速に展開し、今後はITとフィットネス事業、オンラインとオフラインのサービスを掛け合わせ、「運動機会の民主化」を実現させていきたいという構想があります。

 

本記事では、加藤氏と、2024年よりCOOに就任した小林幸平氏に、起業の経緯や事業内容、今後の展望などを詳しく伺いました。

 

フィットネスの本質的な価値を届ける

さっそくですが、事業の内容をお聞かせください。

加藤氏:

現在メインで行なっているのは、「LifeFit」というフィットネスジムサービスの展開です。京都大学在学中の2020年12月に創業し、サービスを開始して約2年ほど経っています。

 

現在は、全国で約50店舗を構えており、今後も今以上のペースで店舗数を拡大させていきたいという展望もあります。

 

その一方でジムを運営する会社にとどまらず、運動、食事、誰かと運動するコミュニティの形成等を軸にヘルステック領域まで広げながら、健康サービスを作っていく会社に成長できたらと思っています。

 

現在の事業を始めた経緯を教えてください。

加藤氏:

当初は起業をしようとは思っておらず、大学院まで進学して、医療の道での研究職を目指していました。ただ、医療の研究はどうしても10年20年かけてようやく成果が出るか出ないかという厳しい世界です。

 

私はそこに時間を使えないなと感じ、分かりやすく自分の人生を良くしてくれるフィットネスという分野で心身の健康を作っていきたいという思いが強まっていました。

 

また同じ時期にラグビーをやっており、24時間筋トレについて考える日々を送っておりました。そして進路に悩む時期と筋トレについて考える時期は、ぴったりコロナ禍と重なっていました。

 

コロナ禍で時間がたっぷり余ってしまったので「パーソナルジムを作ってみよう!」「最悪無理だったらジムに住めばいいや!」という気持ちで、資本金50万円でジムを作ったのが事業の始まりです。

 

改めてスタートアップとしてやっていく決意をしたのは、ジムをスタートさせて半年から1年くらいの時期でした。やればやるほどこの業界は課題も可能性も大きいことを知り、本格的に起業しています。

 

COOに小林幸平さんが就任した経緯を教えてください。

小林氏:

私と加藤さんは歳は9個違うのですが、大学と学部が一緒で、私は京都大学大学院・医学部研究科まで進学し、このまま大学院に残ったら「20年後にアルツハイマーの解明ができるかもしれない」という研究に携わっていました。

 

素晴らしい研究をしている自負がある一方、気持ちの面では「20年かかるのは少しきついな」「もう少し身近な笑顔をお客さんに届けたい」という思いもありました。

 

とはいえ当時はビジネスへの理解がなかったので、フランスの化粧品会社であるロレアルのアジアHQでマーケティングを勉強したり、ラクスル・ノバセル株式会社で執行役員を務めて経営を学んだりと、「事業を作ること」について学んできました。

 

ビジネスについて学んでいる最中、2年ほど前に加藤さんと出会い、志がマッチしたので「ヘルステック領域をやっていこう」と決心し、共に経営していくことになりました。

 

これまで日本人が成し得なかった常識をフィットネス分野から覆す

「フィットネス×IT」というフレーズが印象的だったのですが、具体的にどのような掛け合わせ方をしているのですか?

加藤氏:

人が運動を続けるためには「誰かに応援される」ことが、必要なモチベーションだと考えています。その一方で人ばかりに注力しているとお金がかかってしまい、なかなか低価格でお客様に価値を届けることが難しいという問題もあります。

 

そこでITで応援される仕組みづくりを構築しつつ、お客様にフィットネスの本質的な価値も届けるように注力しています。

 

フィットネスジムは昔から、最初にハコ(店舗)を作って、リリースしてみて儲かるか儲からないか判断するという不動産寄りの業界でした。そのような業態だったため、弊社のようにITを活用してアプリケーションなどのソフトウェアを作るほどITに強い企業がなかったのです。

 

そこで弊社では、他社と差別化するために、アプリケーションを通じて入会登録ができたり、ジムを無人化して低価格で通えるようにしたりと、ITを活用しつつ、お客様には質を担保するような事業を展開しています。

 

仕事におけるこだわりや、譲れない軸を教えてください。

小林氏:

ストレートに「お客様に価値のあるものを作り、提供したい」という思いですね。さまざまな会社でいろんな働き方を経験してきたので、時には腕の良い営業マンを採用し、商品としては微妙なものでも売り込むような働き方も見てきました。それはそれで人材をレバレッジした素晴らしいビジネスモデルです。ただ、私個人としてはそれは自分の意志に反していて、やりたくないなというのが正直な感想です。

 

とはいえ、真正面から売り込むと時間がかかってしまうのがビジネスの難しい部分です。それでもこの業界が変わり、新しい価値を作るためには、10年単位の視座で市場を見通し、お客様に対して真正面から真摯に向き合うことが1番だと考えています。

 

値上げをしたり、付加価値のあるサービスをつけたり、入会金をいただいたりと、ちょこちょこお金を稼ぐ方法はあるのですがそれ以上に「お客様に必要で、使い続けてもらえるものを作ろう」という軸があります。その1つが、私たちで言うフィットネスジム店舗の提供です。

 

しかし「どうしたら健康でいられるか」という大きな問題は、フィットネスだけでは解決しません。そのため弊社では運動、食事、誰かと運動するコミュニティの形成など、1つずつの要素を掛け合わせて、日本人の健康のあり方を変えるような新しい価値を作りたいと考えています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください。

加藤氏:

ジムを1店舗、数十店舗作り続けることだけに特化するのであれば、正直可能なことだなと感じています。しかし本当に目指しているのは店舗数の拡大ではなく、ジムとしての価値を健康領域にどう広げていくのかという部分なんです。

どうやったらお客様の層を拡大しつつ、価値を最大化できるのかという課題が、いまの1番の壁だなと思っています。

 

小林氏:

日本の景気を例に挙げると、この先続くであろう不景気に対して個人単位でできる手段はなく、強いて言うなら「政府が何をしているのか情報を得る」くらいしかできることがありませんよね。健康も景気と同じくらい課題が大きいと思っていて、「ファストフードばかり食べているな」「最近彼氏、メタボ気味かも」などと、日々気付く点はあっても、心のどこかで「改善は無理だろうな」と諦めがちではないでしょうか。

 

弊社では、このように日本人が何十年、何百年と向き合ってきて実現できなかったことに対して、新しい価値を作り、答えを出そうとしているんです。「健康であること」は世間的に当たり前のことであるがゆえに、皆さんが思っている以上に難しく、大きな課題の壁だなと感じています。

 

実現できる具体的なイメージがモチベーションに

進み続けられるモチベーションの理由を教えてください。

加藤氏:

乗り越えなければいけない壁が高いからですかね。

 

弊社の存在意義は、世の中にないものを生み出していくという部分だと思っています。そのため、近い将来「うちのサービスを使って健康になりました」「病気にならずに済みました」という社会を見てみたいというのが私のモチベーションになっているのだと思います。

 

小林氏:

「やらないといけないことだ!」という思いが1番大きいです。

 

「これを叶えて世の中変わるんだっけ?」という程度の課題なら正直頑張れませんが、現在弊社が掲げていることが実現できたら、ものすごく価値があり、その効果は疑いようがありません。「価値があり、やらねればいけないこと」という認識があるため、前に進み続けられるのだと思います。

 

もう1つは、弊社が掲げる将来を実現できるイメージが湧いているという部分です。

 

フィットネス会社や健康食品会社の中には「幽霊会員がいるから儲かっています」「解約されないように解約手続きボタンを分かりにくくしています」という手法で、利益を出している企業もあります。ただこれらの方法は、目先の利益ばかりを重視していて、10年20年でマーケットを変えるチャレンジではないと考えています。

 

その点弊社では、お客様の健康を第一に考え、1番真摯に向き合っているという自負があります。マーケットを変えるのは10年、20年かかる挑戦ではありますが、必ず成し遂げられると確信しています。この「実現できるイメージ」こそが、そしてそれを支えるパッションと努力が、挑戦し続けられるモチベーションになっています。

 

FiTのサービスで社会全体が健康になる未来を作りたい

今後やりたいことや、展望をお聞かせください。

加藤氏:

弊社は「暮らしにフィットネス」というスローガンを掲げており、この言葉通り「健康の民主化」を実現させていきたいと考えています。

 

現状、健康であり続けることはサプリを購入したり、時に騙されてしまったりと、お金もかかり、課題も多くあります。この部分を改善し、弊社のサービスによって社会全体が健康になる事業を展開していきたいです。

 

小林氏:

弊社では今後よりヘルステックの領域に進出することを決めています。現在フィットネス事業が中軸ですが、今後は食事やコミュニティー、モチベーションという健康を支える部分まで進出していきたいと考えています。

 

例えば、フィットネスジムユーザーに対して、アプリを通したオンラインコーチングを提供したり、ジム利用後すぐに健康的な食事を摂ることのできる食事スペース併設型の店舗を6月にオープンしたり、ジムの来店回数が健康ポイントとして還元されるモチベーションアップを目的としたプログラムをを展開していく予定です。

 

こういった新しい進化をしていくために、最近弊社では「Cheer’s up our Life Fit.」というキーワードを制定しました。この言葉には、面白くない健康法をお薦めするのではなく、私たちが「これをリリースしたら皆んな使いたくなるんじゃない?」「お互いにお薦めして、お互いに応援しあうきっかけになりそう!」という製品や事業を発信していきたいという気持ちが込められています。

 

さらに「Cheer’s up our life Fit.」というワードには、わざと複数形にして、みんなを巻き込みながらコミュニティを作りたいという思いも詰まっています。先ほども話したように、本当に行動を変えようと思っても、人間1人だけでは根本的に変えられる部分に限界があります。低いハードルで変えるには、コミュニティを作ったり、誰かとモチベーションを高めあったりという、みんなでできる部分を強化していくことが必要だと思うんです。

 

一人ではできないけれどみんなでなら健康になれる、無理なく楽しく続けられるというのが「Cheer’s up our fit.」の言葉の裏にある弊社の思いです。

 

起業しようとしている人へのメッセージや、アドバイスをお願いします。

加藤氏:

まずは、やりたいことをやりまくったら良いのかなと思います。

 

私も最初は「巨大産業の健康分野で成功しよう!」とは思ってなくて、ただ筋トレが好きで、趣味が高じて事業としてスタートしています。このようなスタートの形でも、やればやるほど事業への解像度や、社会的にこんなことがやりたい、という気持ちが高まっていくと思います。

 

まずは自分のやりたいことをやりまくって、スタートしていくのが1番ではないでしょうか。

 

小林氏:

死ぬ時に後悔しないようにチャレンジするのが良いと思います。

 

私は「常に新しいことにチャレンジしていないと終わってしまう」と自分にプレッシャーをかけているんです。そのためこれまでに3回の転職をしているのですが、一度もネガティブな転職はしていません。どの会社も大好きなのですが、辞めなければ次に進めない、死ぬ時に後悔しそう、という気持ちが強くて転職に踏み切ってきました。

 

ポジションにつく選択肢が出てきた時「やりたい!」と思っているのであれば、死ぬ時に後悔しないように挑戦してみると良いのではないでしょうか。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

起業家データ:代表取締役 加藤恵多 氏/COO取締役 小林幸平 氏

 

お名前

加藤恵多

役職

代表取締役

経歴

1999年生まれ。

京都大学医学部在学時の2020年12月株式会社FiTを設立、代表取締役に就任。

2022年2月にLifeFitをリリースした。

2023年にはアジアを代表する30歳以下の起業家 Forbes Asia Under 30にも選出されている。

 

お名前

小林幸平

役職

COO取締役

経歴

1990年生まれ。京都大学大学院医学研究科を卒業後、新卒でロレアルに入社。

日本でプロダクトマーケティング、デジタル、イーコマースを経験したのち、上海でアジア地域統括を担当。

その後、2021年2月にラクスル株式会社/ノバセル株式会社に入社し、執行役員として同社事業を牽引。

2022年から株式会社FiTの外部顧問、2024年から同社COOに就任。

 

企業情報

法人名

株式会社FiT

HP

https://fitinc.jp/

設立

2020年12月3日

事業内容

次世代型フィットネスジム「LifeFit」

 

送る 送る

関連記事