株式会社wead 代表取締役 井川 桃花
株式会社weadは、ゴミの活用が当たり前の世界を実現するため、独自の環境資材の研究開発に取り組み、今までにない商品を生み出しています。商品の製造や事業化まで包括的なサポートを提供し、幅広い分野の企業から高い評価と信頼を集めています。日本にとどまらず、世界のゴミ処理やエネルギー問題の解決に向けて進み続ける、同社の代表取締役、井川桃花氏に事業内容や起業の経緯、今後の展望などを詳しく伺いました。
ゴミの研究開発から商品化・事業化までサポート
事業の内容をお聞かせください
当社の事業を簡単に言うと「ゴミから新しい商品やサービスをつくる」ことです。今まで捨てられていたものから新しい商品をつくり、企業とのコラボレーションを通じて事業化するといった内容です。
多くの企業がサステナビリティやSDGsへの取り組みを模索しています。その中で、廃棄物から新しいものを生み出す取り組みをしたいけれど「やり方がわからない」「廃棄物から新しい商品をつくっても、本当に顧客が望むものができるのか」といったお悩みを当社で解決しています。
当社では解決策を提案するだけではなく研究まで請け負い、エビデンスを取りながら商品開発しています。例えば、飲料メーカーのコーヒーかすや印刷会社の紙くずなど、業種ごとに異なる廃棄物に対し、それぞれに適した再利用方法を開発しているのです。
さらに、ゴミの用途開発にも力を入れています。農業資材やエネルギーとしての利用はもちろん、畜産資材、さらには化粧品への活用などとしての利用はもちろん、畜産動物の飼料や化粧品など、さまざまな可能性を模索中です。大学との共同研究も進行中で、常に新しいゴミの活用法を探しています。
また、独自の環境資材「greevy(グリービー)」の開発・販売をおこなっています。これは紙ごみや生分解性プラスチックの分解を促進する製品です。10年以上前から生分解性プラスチックは世界で使用されていますが、分解されずに海に流れ着いてしまい、プラスチックと同様の海洋汚染を引き起こすといった大きな課題があります。
海を汚染せず地球に還元する方法はないかと模索する中で、過去に研究に携わった経験から、greevyが生まれました。
現在、製紙工場やスーパーマーケットなどさまざまな業種の企業のみならず、自治体との協力関係を築いています。greevyは紙ゴミや生分解性のゴミ、生ゴミなどは分解速度が早いのが特徴です。そのため、greevyを使って自社や地域から出るゴミを解決したいと思う企業や自治体から、お話をいただく機会が増えています。
貴社の環境ビジネスにおける強みは何ですか?
当社の強みは、単にゴミを商品化するだけではなく、その後の事業化までトータルでサポートすることです。
例えば、開発した商品の売り先が分からない場合、当社の幅広い業種とのネットワークを活かして、「今まで関りのなさそうなこの企業とコラボレーションしたら面白い事業になるのでは」といった提案ができます。研究や製造についても社内でおこない、その後の事業展開まで一緒に進められるのです。
クライアントのニーズに応じて、研究だけ、あるいは事業化まで含めた全過程など、サービスの範囲を選択することも可能です。この包括的かつ柔軟なサポート体制が、他社にはない当社の大きな強みとなっています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
事業を始めるきっかけは、オーストラリアのタスマニア島にある大学での経験にさかのぼります。そこで植物学を学んでいるときに、環境問題に関する授業に参加しました。
当時の私は環境意識が非常に低く、「ゴミはただ捨てるもの」といった考えでした。しかし、現地のオーストラリア人と議論する中で、彼らの環境に対する高い意識と自分の認識との大きな差にショックを受けました。
この経験から、日本の環境に対する教育やライフスタイルにおける環境意識の低さを痛感し、変えたいと思ったのがきっかけです。環境意識が低いと言われる日本から、世界に向けて発信できるゴミを活用した面白いサービスや商品を自分でつくりたいと強く感じるようになりました。
また、日本は世界の焼却炉の半数を保有する「焼却大国」です。一方で、お隣の韓国では生分解性の袋を使用した生ゴミ回収をしていますが、「生分解性の袋を焼却」しています。各国でさまざまなアプローチが取られていますが、どの国でもまだまだ課題は多いです。
その中で、日本で生ゴミの分別から始めるといったやり方は現実的ではありません。より簡単に、よりラクにリサイクルやアップサイクルを可能にするプロジェクトや取り組みを日本で展開することで、環境問題に貢献できると考えています。
顧客ニーズに応えながら環境問題を解決する
仕事におけるこだわりを教えてください。
最大のこだわりは、自分たちがつくりたいものをつくるのではなく「ユーザーや顧客が本当に求めるものを提供すること」です。ここは譲れないところです。
近年、アップサイクルやゴミから商品をつくる事業が増えています。当社のアプローチはゴミからつくったことを前面に出すのではなく、まずユーザーや顧客が求める製品をつくり、その後で「実はこの商品はゴミからつくっています」と伝える商品づくりをおこなっています。
このこだわりのもと、商品開発や研究に取り組んでいます。例えば、100個ある製品や素材のうち1つだけをアップサイクルするのは簡単ですが、100個すべてをアップサイクルすることはハードルが非常に高いです。
残りの99個についても顧客ニーズに応えた製品開発をする必要があり、単に1つをアップサイクルしても、ゴミの削減には大きな影響を与えません。そのため、当社では全体的なアプローチにこだわっています。
例えば、自治体の課題として、イベント等で排出されるゴミの処理が大きな課題になっています。例えば、京都府の祇園祭では毎年ニュースにもなるほどのゴミの散乱や河川流出が大きな課題になっています。祇園祭ほどではなくとも、全国の自治体は同様の課題を抱えています。この問題を解決すべく、この冬には自治体と協力し、スポーツイベントで排出されるゴミの堆肥化検証をおこないました。
企業に協賛いただき、生分解性の紙コップでドリンクを配布し、使用済みの紙コップを回収し、堆肥化してスポーツイベントが行われた自治体へ還元するという取り組みをおこないました。自治体にとっては、イベントで廃棄されるゴミを削減するのみならず、地域の緑化や地元農産物の高付加価値化も可能にします。
また、農家さんの課題として、現在の海外情勢の中で、円安により海外からの農業資材の価格が高騰しています。その中で、国内の廃棄物やゴミを使って、美味しく高品質な野菜を生産できることは、農家さんにとっても大きなメリットとなると思っています。
実際の成果として、本社がある愛媛県を中心に、ごみを分解した後の堆肥はさまざまな農家さんから好評をいただいています。みかん、お米、レタスなどの生産者に当社の製品を使用していただき、良い反応を得ています。
このようなWin-Winの関係を築くことも、当社のこだわりのひとつです。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大の壁は「信頼できる仲間づくり」でした。
会社を立ち上げたばかりの頃は、誰も私たちの事業を知らないですし、この会社に何ができるだろうと疑問を持たれることもありました。その中で、いかに面白い事業だと思ってもらえるか、どうやって企業とディスカッションの機会を増やすか、同じ立場で話ができるようになるかが大きな課題でした。
この壁を乗り越えるため、さまざまなコミュニティに参加し、コンテストやピッチに出場しました。本社がある愛媛県はもちろん、東京でも積極的に活動することで、当社の事業に興味を持ってもらえる方が徐々に増えたと感じています。
しかし、サステナビリティビジネスには独自の課題もあります。サステナビリティはブームの最中にありますが、ブームが過ぎ去った後も事業を継続しマネタイズする方法について、検討する必要があります。
最近受けたアドバイスにより、この課題の重要性を再認識しました。長期的にこのビジネスを成功させるには、サステナビリティ以外の部分で興味を持ってもらえることや、マネタイズする必要があります。今後の事業展開において、この点を考慮し進める予定です。
ゴミの活用が当たり前の世界を実現する
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
「ゴミは資源になる」という考えを、世界中に広めることです。
現在、当社ではサステナビリティを推進する内容のため、BtoB事業が多いです。これを一般消費者にまで拡大していくことが、次の大きな目標です。企業だけではなく、日々の生活で一般の人々が生み出すゴミも多くの量があります。
今後は一般の人々にも当社の活動を知ってもらい、参加してもらうことが大切だと考えています。毎日の生活で出るゴミであっても、実は貴重な資源になることを多くの人に知ってもらいたいです。
さらに、日本だけにとどまらず、世界で問題となっているゴミ処理や農業の資材の不足、エネルギーの課題に取り組んでいきたいと考えています。先進国だけでなく後発途上国でも、「ゴミはゴミじゃない」といった考え方が当たり前になる世界をめざします。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
当社の企業理念でもある「捨てる、を捨てる」が当たり前の社会を実現することです。当社がゴミから新しい商品やサービスを開発し、世の中へ普及させることでゴミを捨てるという概念自体を捨てる、そのような世界を目指しています。
具体的には、今までは何も考えずに捨てていた紙コップやストロー、紙食器などの身近な製品が、greevyによってごく自然にアップサイクルされ、一般の人々が、「まだごみを『捨てる』って言ってるの?」というような一般の人々にとってアップリサイクルが特別な行動ではなく、日常生活の自然な一部となる世界の実現をめざしています。
「妄想力」は起業家として大切な才能
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
「やりたいこと」に積極的に挑戦してください。
私自身、タスマニア大学での経験がきっかけとなり、新しい世界をつくりたいと思うようになりました。思っただけでは夢に過ぎません。ですが「こういうことができたらいいな」といった「妄想力」は、起業家として大切な才能です。
私自身、小学生の頃から「猪突猛進」と評されるほど、先のことを考えずに突き進むタイプでした。インスピレーションを大事に行動することで、素晴らしい事業が生まれる可能性は高いです。
しかし、起業する上では、慎重な準備も重要です。私自身、起業する前に仲間づくりや地方自治体とのつながり、東京での活動基盤づくりなど、1年半かけて丁寧に準備したことが、今の事業の土台となっています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:井川 桃花 氏
2016年8月 タスマニア大学語学学校 入学
2016年12月 タスマニア大学語学学校 卒業
2017年2月 タスマニア大学 サイエンス学部 入学
2017年7月 タスマニア大学 南極学部 転科
2018年2月 タスマニア大学 サイエンス学部 転科
2020年12月 タスマニア大学 サイエンス学部 卒業
2021年2月 四国ケージ株式会社 入社
2022年4月 合同会社liveR 兼任
2023年7月 四国ケージ株式会社・合同会社liveR 退社
2023年8月 株式会社wead設立
企業情報
法人名 |
株式会社wead |
HP |
https://www.wead-inc.com/ |
設立 |
2023年8月 |
事業内容 |
研究開発・製造・コンサルティング |
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