【#227】医療・福祉モビリティ領域のDX化を進め、誰もが自由に移動できる健康で豊かな未来の実現を目指す|代表取締役 大村 慧/取締役 田上 愛(株式会社mairu tech)
株式会社mairu tech 代表取締役 大村 慧(右)/取締役 田上 愛(左)
医療・福祉モビリティ領域のDX化を推進している株式会社mairu techは、要介護者や高齢者、障がい者などの方々が安心して移動できる社会の構築を目指しています。「人々の健康を支える、移動インフラになりたい」と語る代表取締役の大村 慧氏と、取締役の田上 愛氏に事業内容や起業の経緯、今後の展望などを詳しく伺いました。
誰もが自由に移動できる社会を作りたい
事業の内容をお聞かせください。
大村氏:
医療・福祉モビリティと呼ばれる領域で活動しています。提供しているサービスは主に2つあります。一つは、入力条件に適したお住まいの地域の搬送サービスをWeb上・短時間で予約できる「mairuシステム」で、もう一つは、医療資格を持ったクルーによる搬送サービス「mairuモビリティ」です。この両方を通じて、介護・医療領域内における移動手段の確保や移動自体が困難と感じる方々が、自由に動ける社会を作りたいと考えています。
医療・福祉モビリティの主な利用者は、一般的な移動手段を使えないことが多い要介護や要支援の方、障害を抱えている方、高齢者の方です。足腰が弱くて普通の椅子に座れない方、車椅子やストレッチャーが必要な方々などに向けて、私たちは移動手段を提供しています。
公的な救急車との違いについてですが、救急車は急いで人の命を救うことが主目的である一方で、私たちは、急ぎではないけれど通常の移動手段では担えない「非緊急性」の医療搬送の領域に取り組んでいます。こういった搬送サービスは、都市部や地方部関係なく不足しているのが現状です。そのため、現在は都市部で展開していますが、将来的には地方部でも展開したいと考えています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
大村氏:
新型コロナウイルスの流行を経て、移動の重要性を感じ、「あらゆる人に移動を届けたい」と思ったことが事業を始めたきっかけです。
もともと旅行や新しい人と出会うことが好きだったのですが、行動が制限された新型コロナウイルス感染症の影響を受け、移動の重要性に改めて気付かされました。そうした中で、移動の自由がない方々のことを考え、彼らの移動を支援する事業を立ち上げたいと思いました。
田上氏:
この領域に足を踏み入れた理由は私も同じです。
また、私たちは効果的にデジタルを活用して医療・福祉モビリティ領域を活性化していきたいと考えています。よく「ターゲットの方々はデジタルを使えない方が多いのでは?」と言われますが、実は移動者ではなく「予約者」がmairuシステムを使います。病院や施設の職員さんがメインのユーザーになります。
頭ごなしに「デジタルを使うと良いよね」と位置づけているわけではなく、彼らの予約作業含む搬送体験を簡単に・安心にする、本当に意味のあるデジタルの導入だと思っていますし、デジタルに苦手意識のある方にも使いやすいサービスを提供することに意義を感じています。
高齢化社会が進んでいく中で、持続可能な医療を作るためのプロダクトを作る
仕事におけるこだわりを教えてください。
大村氏:
「高齢化社会が進んでいく中で、持続可能な医療・福祉体制を作るためのプロダクトを作る」といった強い目的意識を持って、事業を進めています。
事業を始めてから、この領域はなかなかDX化が進まず、様々な人が困っていることを知りました。ただ単に人が困っているレベルだけではなく、高齢化社会が進んでいく中で、人々が生活していくためにしっかり変わっていかなければいけない領域だと確信を持って言えます。
そうしないと日本だけではなく、日本と同じ状況になっていく世界中の国々において、人の命を支えることや、豊かな人生を過ごすことが難しくなってしまうのではないかと感じています。。この危機感に対して、社会全体に普及させるプロダクトを送り出したいです。
田上氏:
私のこだわりは、ユーザーが快適に使えるデジタルツールを提供することです。
システム上だけに限ったことではありませんが、サービスの利用中に一つでも分からない単語が出てきてしまうと、それが恐怖感や不安感に直結し、使用することに抵抗を感じてしまう方が多くいらっしゃいます。そうならないように最後まで誰もが安心して快適に使えるツールの開発やコミュニケーションを心がけています。
起業から今までの最大の壁を教えてください。
田上氏:
事業を立ち上げた当初の話ですが、アイデアやプロトタイプはあったのですが、実証ができないことが課題でした。
実際に使っていただかないと実用性があるのか自分たちも分からないため、本格的な開発に移れなかったのです。とにかく全国の自治体にメールを送ったり、電話をかけたり、あらゆるイベントに参加して直接お話したりと試行錯誤しました。
その結果、最初の2ヶ月間は門前払いだったのですが、結果的に神戸市が協力してくれることになり、私たちの事業も動き始めました。
大村氏:
補足になるのですが、神戸市は消防機関が非常に先進的でした。救急医療体制に危機感を持っていて、私たちがお声がけする前から民間救急に対する取り組みを模索していたようです。
そして、私たちのニーズと神戸市のシーズが一致し、ついに協力が実現しました。今後は他の自治体とも積極的に連携していきたいと考えています。
仕事としてではなく、まるで人生の目的のように楽しい
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
大村氏:
プロダクトや事業を作ることが、仕事としてではなく、まるで人生の目的のように楽しいので、進み続けられているのだと思います。自分たちが作ったものが社会に出て、それに期待してくれている人がいて、実際に移動している人がいることを考えると、達成感や意義を感じます。
また、チームメンバーに恵まれたことも大きいです。私ができない分野に精通している魅力的な人たちの集まりであるため、刺激を受けますし、自分自身も成長していると感じています。
田上氏:
しんどい、けど楽しい、と日々感じています。実際、会社見学に来てくださった方から、「全員が「しんどい」と言いつつも楽しそうにされている姿が印象的でした」というコメントをいただいたことがあります。
チームメンバーの存在はかなり大きいモチベーションになっています。当社のメンバーは議論好きが多く、一人ひとりが各分野のプロフェッショナルとして意見をしっかり持っています。時には意見が合わないこともありますが、「ユーザーが最も快適になる方法はどれか」「予約体験を簡単にする方法はどれか」といった基本的な軸に立ち返って日々議論を重ねるようにしています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください。
大村氏:
医療・福祉モビリティ領域のインフラになることが目標です。仕組み自体を変えていきたいと考えています。このサービスを課題先進国と言われている日本から世界に向けて発信していき、最終的には世界中のハンディキャップを抱えている人たちが自由に移動できる社会を作りたいです。
田上氏:
自分自身にとって介護や通院が必要になっても、安心して移動できる社会を作りたいです。移動が治療や体験を阻害するものになってほしくないと強く思います。実はこの領域はテクノロジーと相性が良いので、サービスのチャネルを作った先でも、イノベーションを起こしていきたいです。
大村氏:
これまでは一つの病院で急性期から回復期まで一貫して診療する流れでしたが、現在では急性期と回復期を別々の病院で診るように機能が分けられてきています。その結果、回復期の病院へ転院することが必須となります。この移動を私たちが担えると考えています。もし私たちのサービスがなければ、この新しい流れは止まってしまう可能性もあるのではないでしょうか。この機会を逃さず、必要とされている役割を果たしたいと考えています。
また、在宅医療の重要性も増しており、これまで入院していた患者さんが通院しながら治療を続けることが基本となっています。この通院にも移動が必要です。特に寝たきりの方が在宅医療を受けるには、私たちの移動サービスが不可欠です。私たちはこれらの方々にとって、役に立つかけ橋のような存在となりたいと考えています。
リスクを恐れずに、やれることを全部やりきる
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします。
田上氏:
自分が情熱を持てる分野を見つけることが重要かと思います。私たちはもともとプロジェクトとしてmairuの構想を進めていたのですが、大きなお金を使いながら短期間で急速にサービスを普及させたいと思い、大企業のプロジェクトに採択されたことを受けて法人化しました。しかし、会社を立ち上げると想定外のことが発生したり、思うような進捗が長期間出せなかったり、メンバーとなかなか意見が合わなかったりと、辛いことが多々起こります。しかし、この分野への強い興味や情熱を持っていたため、試練があっても続けてこられました。ぜひ軸となる情熱を見つけ出し、チャレンジしていくとどんどん楽しくなるかと思います。
大村氏:
自分ができることを全部やるのが大事です。怖いこともありますが、リスクがなければ全部やってみるのが良いと思います。怖いといって一歩引いてしまうのは、自分の可能性を狭めているに過ぎません。とれるリスクはとって、できることは全部やることが重要です。
また、想定外のことがたくさん起きた時、創業者だからこそ、メンタル的にきつくなりますが、「それでも自分のやりたいことはこれだ」と笑いながら死ぬ気で頑張るしかありません。自分が好きでやっているため、やらされてる感を感じないように自分をコントロールすることも大切だと思います。
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
大村氏:
お互いを尊重しあって切磋琢磨できる方を募集しています。現在いるメンバーは専門領域が違うため意見の違いも出てきますが、その状況自体も楽しめる方だとすごくフィットするのではないでしょうか。
この領域は社会貢献性があり、市場も年間10%伸びています。社会性×経済性のクロスポイントに立って、新しいことに取り組める面白さと喜びは日々感じられるはずです。また、マネージメントとプレイヤーを同時にやりながら新しいものを作っていきます。ゼロを一にする力、そして一をより多くの人に届ける力も身に着けられます。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:
大村 慧氏(代表取締役)
「テクノロジーを活用した人の生活の変革」をテーマとし、事業開発の世界に飛び込む。介護施設におけるストレスの可視化や防災観点での海中防波堤の開発などの複数プロジェクト立ち上げ、またその失敗経験を経て、モビリティ分野での挑戦を決意。mairu techを立ち上げる。あらゆる人が安心して使うことのできる移動のインフラを構築することを目指し、次世代の医療・福祉搬送サービスの開発・展開を推進。
田上 愛氏(取締役)
活火山のある鹿児島で育ち、ユース国連大使や模擬国連、ディベートの活動を通して世界の問題について考える。環境問題やまちづくりに向き合い奮闘する人々との出会いをきっかけに、技術を使って大きく世界を変えにいくスタートアップという選択肢に惹かれる。多様なステークホルダーとの協働・開発経験を活かし、サービスのコンセプト開発・戦略・組織づくりを統括。
企業情報
法人名 |
株式会社 mairu tech |
HP |
|
設立 |
2023年5月22日 |
事業内容 |
情報提供サービス業及び情報処理サービス業 患者搬送サービスに関する事業 |
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