株式会社ナムフォト 代表取締役 楢 侑子

株式会社ナムフォトは、撮影した写真を使って人の認知を読み解くワークショップ「miit」や、ポートレート撮影サービスを展開しています。同社の代表取締役の楢 侑子氏は「写真心理学®」という独自メソッドを考案し、その人の社会の捉え方や潜在的な興味を探ることで創造性や多様性の育成に取り組んでいます。今回は、同社の代表取締役の楢 侑子氏に事業の詳しい内容や今後の展望を伺いました。

 

写真を通して撮影者の深層心理を探る

事業の内容をお聞かせください

当社は「写真の力で、アイが巡る世界をつくろう」のビジョンのもと、写真を使って人々の創造性や感性及び知性を掘り起こして開花させるようなワークショップを行っています。BtoB向けの企業の研修事業「miitや、BtoC向けの「ユーデミーというコンテンツを展開中です。また、自分に自信を持てるようにポートレートの撮影サービスも提供しています。

 

写真には、撮影者が社会をどう捉えていているか、どのようなコミュニケーションの特徴や思考傾向があるのかなどの深層心理が写っています。なので、写真心理学®という独自のフレームワークを用いることで、写真からその人が世界をどのように認知しているのかという特徴を診断することができます。

 

人は写真を撮影する時、自分の認知を通して撮影するため一人ひとり癖が表れます。何を被写体として撮っているのか、視野の範囲はどのくらいなのかなど、その人の特徴が現れています。その特徴を知ることで自己理解が深められます。そして、お互いの写真を見合って対話をすることでその人の考え方や思考パターンが分かり他者理解や総合理解に繋げることができます。

 

どのような仕事が向いているか、どのようなものの見方をするのかなどの参考にもなるため、新入社員の研修などにも適したワークショップです。

 

診断は、皆さんが撮ってくれた写真を14項目の定量分析と、3項目の定性分析を実施してます。診断書には、写真から読み解ける創造性がパーセンテージ化されており、さらに詳しいコメントが掲載されますまた、プログラムの最初には自分の創造性や所属しているチームとの関係を、今自分がどう捉えているかをBefore診断します。その後写真を投稿してもらって、写真心理学®診断書を発行して、対話を実施します。最終的にAfter診断をするとBeforeとAfterの違いがしっかり点数にも反映されて、創造性やチームの協力関係が高まっていることを実感できるのです。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私が起業したのは、病気を患ったことがきっかけです。私は、32歳の時に乳がんを経験しました。その時撮ってもらった自分の写真がとても笑顔で、そんな自分の姿から心の元気を取り戻すことができました。

 

また、Instagramを開設して1日1枚写真をポストしていたのですが、病気になっても空が綺麗だなとかコーヒーが美味しいなと感じることができていて、病気であることと自分が幸せを感じることって全く別次元なのだと実感しました。がんでも幸せでいていいんだという大きな気付きがあり、それまでの鬱々とした気持ちから自分の気持ちが移り変わっていきました。

 

現代は、写真というものが他者に見せるものという他者視点が強い世の中になっています。でも、写真で自分の内側を掘り下げたり自分の内観に使ったりするカルチャーを広めたいと思い起業を決意しました。

 

当社のビジョンは「写真の力で、アイが巡る世界をつくろう」ですが、この「アイ」というのは自分自身を指し示す「I」と、そして自分や他者、社会に向けてなど様々な「愛」を掛けておりカタカナで表現しています。私のように、世の中には写真を通して元気になる人がたくさんいるのではないかと思っています。

 

自分がどうありたいかがサービスの原点

仕事におけるこだわりを教えてください

「創造性」「自律」「多様性」という価値観を大切にしています。自分もそうありたいですし、人々が創造的であること、自律していること、同時に多様性を受容していること、これらの状態をナムフォトを通してサポートするサービスを提供したいという思いが軸になっています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

「写真心理学®」というのは、他に類似するものがなく勝手に名乗り出したものです。まだ写真の研究が世界的にもあまり進んでいない中で、写真心理学®をどういう言葉でマーケティングし、訴求するかが大変でした。

 

写真の著作権は死後70年経つまで撮影者に帰属します。しかし、人々がスマートフォンなどで写真を撮ることが習慣になってからまだ70年経っていません。そういったことから類似の研究は進んでおらず、価値を届ける方法が全然わかりませんでした。しかし、写真心理学®を体験した方から「すごくいいね」と喜んでいただけることから、やっていることは間違いないのだろうと思いつつ、現在は心理学を専門的に学び、研究しながら取り組んでいます。

 

サービス当初はたくさんのお客様に写真対話のフォーマット「miit」を体験してもらって、修正して、フレームワークを作っていき、また修正するという繰り返しでブラッシュアップしてきました。そしてプログラムとして汎用化した後にトライアルセッションの提供やイベントを実施して、魅力を感じてくれた人から受注するという流れでこれまでやってきました。

 

想いが誰かに届くことが最高の喜び

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

自分の好奇心のアンテナが立ったところを追求していくことは面白いですし、それが誰かに届き良い気づきをもたらすことができた時は非常に嬉しいです。

 

最初は「写真で一体何がわかるの?」と言われることが多いですが、その後、驚きや発見があったという言葉を毎回いただきます。また、自分だけでなく他人の認知のパターンを知ることで相手のことを許容することができ、深い他者理解に繋がります。そういった結果に結びつくことが私にとっての喜びです。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

今後は、写真心理学®を心理学の歴史の中にしっかりと確立させて、第一人者として世界に届けたいと思っています。一生をかけてやるつもりですし、長い目で見て事業を育てていきたいです。

 

250分の1秒のシャッタースピード、その一瞬でその人が変わるきっかけが生まれるのが写真のいいところ。誰もが簡単に創造性を広げてほしいですし、簡単に変わって自信を持ってほしいと思います。そのためのツールとして写真心理学®を使っていただき、自分をクリエイトする状態を届けられたらハッピーですし、それが会社としてやっている理由です。

 

行動することが人生を豊かにする

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

人生に間違いはないです。私は、ビジネスとしてはまだ成功と言えるところにはいませんが、様々な経験をすることが人生の豊かさだと思うので、起業して良かったです。経験は減らないので、やりたいことは何でもやってみてほしいし、その一つに起業という形があるのなら、やってみたらいいのではないでしょうか。

 

また、私の場合は、過去の経験がすべて今に繋がっていると感じています。私は美術大学に通い、アーティストとしてクリエーションし、自分の視点と向き合って追求する時間がたくさんありました。

 

その後、編集の仕事に従事する中で様々なメディアの企画編集ディレクションをしてきました。そこでは20文字くらいのキャッチコピーから5,000文字のロングインタビューまで様々な文章を書き分け、世の中の情報を繋ぎ合わせて言語で伝える能力を身に付けることができたため、とても良い経験になったと思っています。

 

そしてその後に経験したのがコミュニティデザインというもので、地域活性や地方創生を目的として地域の魅力を発信し経済を盛り上げるために尽力しました。実際に地域に出向いて現地の人たちと一緒にプロジェクトを立ち上げるなど、支援しながら創造していくトライアルはとても有意義なものでした。

 

起業する前のこれらの経験すべてが、現在提供しているサービスや社内のチーム作りにうまく活かされているため、起業するしないに限らず様々なことにチャレンジすることはきっと自分の資産になるはずです。

 

写真心理学®はどのような使い方ができますか?

写真心理学®は、写真を使うため楽しく学べます。診断は、◯◯系といった固定観念が生まれないように配慮しているので、診断に抵抗がある方でも、自己認知できることがメリットです。これからのAI時代に向けて自分らしいクリエイションをしていきたい方、アウトプットする能力を身に付けたい方、個人やチームの創造性を醸成したい方など、個人や企業にお気軽にトライアルしていただきたいと思います。

 

近年、STEMやSTEAMとして注目されているのですが、心理学の研究の中で、アートや芸術などの視覚情報を解析する脳の領野が、テクノロジーをはじめとした理系の知能と同じであることが証明されています。つまり、視覚と高度な解析は密接に関係しているということです。このアートや芸術の力の重要性はたくさんのエビデンスで証明され、世界が取り入れているにも関わらず、心理学後進国の日本はうまく活用できていません。視覚と創造性や知能との相関関係が実証されている今、写真心理学®を活用しない手はありません。

 

ユーデミーでは、写真心理学®【基礎】コースを開講しました。視覚や脳のメカニズムを初学者の方が楽しく学んでいただけますので、、興味のある方は一度見ていただけると嬉しいです。

 

Udemyリンクはこちら

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:楢 侑子 氏

多摩美術大学で写真を学び、フォトグラファーとして活動。第28回写真新世紀入選。その後mixi、TOKYO FM、エイベックス・マーケティングなどでメディアの企画や編集に従事する他、新企画立ち上げを担当。2010年にフリーランスとなりコミュニティデザイナーとして「まちづくり」に関わるように。 写真ワークショップを2000名以上に提供して2万3000枚以上の写真をレビューする中で、写真から撮影者の認知を読み解く「写真心理学®」という独自のフレームワークが誕生。2020年に研修サービス「miit」をリリース。2022年より心理学を体系的に学び、写真と心理学の関係を研究しながら事業を行っている。

 

《実績》

*アクセラレーション採択

・NTT DOCOMO Ventures 「HUB/」

・東京都女性ベンチャー成長促進事業「APT Women」第8期

*コミュニティデザイン

・三井不動産「WORK STYLING」

・co-ba ebisu

 

*研修やワークショップ

・ワコール:hall study

・TRI-AD(現 Woven by TOYOTA)

・TIS

・NEC

・京都リサーチパーク

・コマニー 他

 

企業情報

法人名

株式会社ナムフォト

HP

https://numphoto.com/

設立

2016年5月13日

事業内容

①写真撮影及び写真教室開催

②研修、セミナー、講演及びカウンセリングの実施

③現代人の幸福、生活に関する研究、コンテンツ企画、開発

④イベントの企画、運営

⑤雑貨の製造及び販売

⑥全各号に付帯または関連する一切の業務

 

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