株式会社ピーカブー 代表取締役 松成紀公子

赤ちゃんから大人まで、敏感肌から難病までを有害紫外線から守るために紫外線対策製品を手掛ける株式会社ピーカブー。人の肌と健康を守るために、予防医学の視点からUVカットウェアを研究し販売している日本唯一の会社です。

 

代表取締役の松成紀公子氏は、創業から22年間女性だけで会社を運営しつつ、主婦を本業としながら家庭も守り続けています。今回はそんな松成氏に、事業の詳しい内容や今後の展望を伺いました。

 

機能性に長けたUV対策ウェア開発で現代人の肌を守る

事業の内容をお聞かせください

弊社は、紫外線対策専門のウェアを中心とした、日本で唯一のUVカット総合ブランド「エポカル」を運営しています。紫外線対策だけに特化した製品作りをメインとしていて、薄くて軽いUVカット効果が高いウェアを着るだけで紫外線対策ができる様々な製品を開発、販売しています。

 

「人の肌と健康を有害紫外線から守る」をミッションとして掲げ、赤ちゃんから大人、敏感肌から難病の人までを守ることが弊社の使命です。最近は紫外線だけではなく、可視光線や近赤外線などもあり、光からどう守っていくかを考えなければならない時代になりました。昔は、肌が黒いことが健康という考え方が浸透していましたが、気象庁公表の紫外線照射量「日積算UV-B量」の年間平均値は1997年〜2023年の間で約22%も増加しており、皮膚疾患のない人にとっても直射日光や紫外線対策の必要性は高くなってきています。

 

また、光線過敏性皮膚疾患や色素性乾皮症などの難病を抱える方も多く、安全で快適な生活を送るための手助けをすることが社会的課題であると考えています。

 

具体的な事業内容としては、個人のお客様向けのECサイト「エポカル」の運営、幼稚園や小学校への卸、そしてOEMの請負、この3つの事業を軸にしつつ海外展開も進めています。

 

中でも力を入れているのが、熱中症や紫外線対策、そして怪我を予防できる制帽です。毎日歩いて登校する小学生を、暑さや日焼け、また突然の地震災害や交通事故から守ってあげたい、そう願って簡易メルメット入りの制帽を作りました。遮熱性のある素材でUVカット率が99%以上、そして洗濯可能で6年間清潔に使える機能性の高い商品です。児童の安全と健康を守る時代の先を行く制帽として、たくさんの教育機関から支持をいただいています。

 

当社はアパレルという位置付けではなく、科学者や皮膚科医と繋がりを持ち予防医学の部類の中で紫外線対策のサポートをしているのが特徴です。他のブランドでは一部の製品を紫外線対策していたりしますが、当社は全製品に紫外線対策を行っています。和光理研インキュベーションプラザに拠点を構え、理化学研究所と連携した製品開発や研究を進めており、さらに製品に関してはオーストラリアのARPANSA(アルパンサ)という政府検査機関の企業認証を得て検査を行っている点も強みです。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

事業を始めたきっかけは、私の子どもがアトピーだったことです。長男が1歳の時、外に出たら肌が赤くなってしまい、急いで皮膚科に駆け込んだところアトピーと診断されました。医師から日焼け対策をするように言われたものの、当時はUV対策できる製品は全くありませんでした。大きなバスタオルを持ってベビーカーに陰を作って出掛ける毎日で、持って歩ける日陰があればいいなと思っていました。そんな中、手芸店で偶然UVカット素材を見つけて服を作ろうと思ったのですが、生地は1反からの販売で個人では購入できないと断られました。そして布を購入するために2002年、友人と共に合資会社を設立することになったのです。その布で作った90cmサイズのパーカー1枚を皮切りにこのブランドが始まりました。

 

会社名の「ピーカブー」は英語でいないいないばぁを意味しており、長男がその頃いないいないばぁができるようになったこと、そして太陽の下には出るけれど皮膚を隠し紫外線の危険から保護するというかくれんぼゲームにかけて社名にしました。

息子に着せた、今一番売れているUVカットメッシュパーカー第1号

 

人の想いを形にできるようなものづくりをしたい

仕事におけるこだわりを教えてください

世の中にないものを作ることがこだわりです。例えば、制帽でいうと、つばが長く作られているため日除けになったり、上げ下げすることで視野の確保ができたりする機能性デザインは他にありません。製品1つ1つに思いやこだわりがあるからこそ、製品を受け取ったお客様から「とても良い商品だ、購入できてうれしい、買ってよかった」と言われることがとても喜びになります。

 

それから、人とのコミュニケーションを大切にしたいと思っています。想いを形にするためにはどうしたら実現できるのかを考えることがとても好きです。人の役に立ってこその会社の存在だと思いますし、それがやりがいにもなっています。

 

私たちが行っているのはファッションデザインではないため、アパレルと言われたくないのが正直なところです。予防医学の1つとしてUVカットウェアを捉えてもらえるような製品作りをしていくために、素材だけでなく縫い目まで徹底的に紫外線遮蔽率を検査をしたり病気の方が安心して着られるように研究をしたりして、お客様が望まれること、またそれ以上のことを精一杯やるのが当社の良さだと思っています。製品の機能性を最大限に引きだして人の役に立つものにすること、そして社会の宝である子どもを守ること、このような使命感を持って取り組んでいます。

 

そして、従業員に関しては創業から今まで女性だけで会社を運営してきました。スタッフである主婦は非常に能力が高く、出産・育児をするまでに働いた経験がある人ばかりで、例え短時間労働でも驚くほど有能な働きぶりを見せてくれます。当社で働くことで女性のキャリアを途切れさせず、社会との繋がりを保ってもらうために女性を採用することもこだわりの1つです。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

大きな壁は2つありまして、1つは時間がないことです。実は、私の本業は会社の運営ではなく母親業です。主人と相談し、主婦であることを前提にこの会社を立ち上げました。母親業と会社運営、2足の草鞋を履いているためいつも時間がなく、どうやって時間を捻出するかが常に課題となっています。

 

もう1つの壁は、他社に当社のアイデアを盗まれてしまったことです。赤ちゃんから大人、また難病の人までの紫外線対策製品を手掛けるブランドは国内に当社しかなく、「紫外線対策」という言葉は当社が生み出したほどでこの分野では第一人者だと自負しています。しかし、20万円の資金で合資会社を始めた時には特許を取るお金などあるわけもなく、自分たちのアイデアが盗用されてしまうことが心から苦しかったです。大手企業のPR力や資金力にいつも負けを感じる辛さがあります。

 

それでも、当社は20年間で1円も借りたことはなく、20万円の自己資金だけでやってきました。お金を借りずに主婦の力だけで事業を行うことが励みになると信じ、少しずつコツコツと頑張ってきた経験が今に生きていると感じます。

 

次から次へと湧いてくる好奇心が原動力

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

元々は銀行員として働き、ノルマに追われる日々を送っていましたが、起業してからは自分の思い通りに仕事ができることが楽しいです。作りたいと思ったものが実際に作れて、それを購入したお客様から喜びの声をいただける、その循環が頑張る気持ちをまた加速させてくれます。そのため仕事である「ものづくり」は趣味ともいえる程です。

 

それから、好奇心が絶えることなくずっと続いていることがモチベーションになっています。1つの目標を作ると、そこに行き着く前にすでに新しい目標ができていてずっと走っている状態なのです。好奇心が湧くとそれを知りたくて動く力になるため、私は好奇心を持つことを大切にしています。そして何より、お客様の言葉、人の思い、支えてくれるスタッフのパワーがモチベーションを大きく支えてくれています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

まず、全国60万人の小学生に当社の「簡易ヘルメット入りのUVカット校帽」をかぶってもらうことが目標です。簡易ヘルメット入りの校帽なら、万が一の際の頭の怪我や事故の影響を最小限にできるでしょう。最近では南海トラフ地震の懸念もあり、より一層災害に対して備えていくことが求められます。また、紫外線対策により肌の健康と免疫力を落とさない体づくりを支え、熱中症を防ぐこともできます。このように、全国の小学生に安心して通学していただきたい、守りたい、また、保護者の方々に少しでも安心してお子さんを送り出してほしい、という思いが1つです。

 

それから、当社のUV防護服で世界中にいる、外に出ることができない色素性乾皮症を患う人や光線過敏症の人たちの生活を支えたいと思っています。1つのアイディアとして、ファッションの大舞台であるパリコレの最後、ほんの数分の出演をさせてもらうことで、これを着ないと生きていけない人たちがいる、ということを世界に知ってもらいたい。一見シンプルで宇宙服のように見えますが、30秒だけでもステージに立たせてあげることが出来たなら、これは大きな意味があると思います。

 

さらに、パリコレで募金を行い、モロッコの皮膚疾患の人たちに防護服を届ける支援や販売を行いたいと思っています。夢のような話ですね。自力でも、モロッコの患者さんたちに防護服を届けられたら、日本のここ数十年の紫外線対策の変化やUV防護服、また世界への支援についてWHOに報告したいです。

 

今後も世界と未来を見据えながら「環境を汚さない」ではなく、一歩進んだ考えを持ち「環境を良くする」製品づくりを行うことが、当社として社会に貢献できることだと考えています。

 

やってみようかなと思った時がその時

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

女性、特に出産後の女性は起業家に向いていると思っています。まだ言葉で意志を話すことができない子どもに対して泣いている理由を探す想像力や、こういうものがあったらいいなという発想力が消費者目線となって好奇心に繋がる気がします。

 

やってみようかなと思った時がその時です。その時が過ぎればもう起業はしないでしょう。やれば良かったと後悔するくらいなら、やってみて失敗した方が人生の糧になります。是非心に熱のある時に自分の思いを形にしてみてください。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:松成紀公子 氏

まつなり・きくこ 1969年生まれ。

岐阜県出身。同志社女子大学短期大学部日本語日本文学科卒業。

元銀行員。結婚を機に埼玉に在住、出産後、子供が1歳の時アトピーと診断され、皮膚科医に子供の日焼け対策を指導されたことをきっかけに、紫外線対策ウエアを企画・制作・販売するため合資会社ピーカブーを起業。

経産省後援のVECからの助成金を機にエポカルブランド(EPOCHAL)を立ち上げ、有限会社に、さらに株式会社へと組織変更。

日本学校保健会推薦の紫外線対策スクールシリーズ、オーストラリア政府検査機関の企業認証、和光理研インキュベーションプラザへの入居、子供の紫外線対策協会の設立など、チャレンジを続けている。

今年22年目の会社は、設立からずっと女性スタッフだけの会社。

 

埼玉ニュービジネス協議会会員、日豪ニュージーランド協会会員、和光国際高校評議員など仕事以外の活動にも力を入れています。

 

企業情報

法人名

株式会社ピーカブー

HP

https://epochal.co.jp/  エポカル:https://www.epochal.jp

設立

2002年4月18日

事業内容

紫外線対策に特化したウエアブランド:エポカル(EPOCHAL)をプロデュース

 

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