株式会社ジェイエルネス 代表取締役CEO 樗澤 一樹

株式会社ジェイエルネスは、定年世代に特化したイベントSNSアプリ「シュミタイム」の開発・普及をおこなっています。リリースからわずか3ヶ月で500名以上のユーザーを獲得し、93%という驚異的な継続率を誇ります。「シニア層に楽しみな予定を届け、社会的孤立をなくしたい」と語る代表取締役CEO樗澤一樹 氏に事業内容や今後の展望も含めて、詳しくお聞きしました。

 

趣味でつながるシニアコミュニティの未来

事業の内容をお聞かせください

当社では、現在2つの事業を展開しています。

 

一つ目は2016年から始めた創業事業で、フィットネストレーナーやインストラクター向けの学校です。

 

二つ目が、定年世代向けのイベントSNS「シュミタイム」です。

 

シュミタイムは、シニア層向けのイベントアプリです。アプリを開くと個人の企画者がつくったさまざまツアーが掲載され、ユーザーが自由に参加して楽しむことが可能です。近年は情報収集能力の向上やスマホネイティブな高齢者の増加に伴い、より個人化され、多様な地域コンテンツを楽しめるようになっています。

 

「趣味」の切り口にしている理由は、定年前後の方にとって「暇になること」自体が大きな悩みだからです。私自身、祖母が60代で祖父を亡くし、趣味のつながりもなく社会から孤立してしまった経験があります。そういった社会的孤立をなくしたい思いが、この事業の原点にあります。

 

人生100年時代と言われる中で、10年、20年、30年を持て余してしまうのは悲しいことです。そこで、手軽に非日常体験を提供したいと考えました。年に1、2回の高額な旅行ではなく、3,000円や5,000円程度の手頃な価格で、週1回や月1回のペースで参加できるツアーを提供しています。

 

私たちの会社名「J ELLNESS」は「 Japan Wellness」 の略で、「人生を余すことなく楽しめるひとを増やし、wellnessが当たり前の世界を創る」というミッションを掲げています。人生を楽しむには、自分の人生に価値があると思い続けることが大切です。子育てや仕事が終わり、やることがなくなったり、貢献の機会やコミュニティを失ったりすると、明日が楽しみにならなくなってしまいます。そこを解決したいと思っています。

 

現在、アプリ内では累計200弱のツアーが企画されています。リリースから2ヶ月で、ユーザー数も500名を超え、広告費0で口コミだけで成長しています。ユーザーがSNSで「奥多摩の七福神めぐり楽しかった」など体験を共有してくれていて、新しいユーザーが増え続けています。

 

継続率は93%ほどで、アプリとしてはかなり高い数字です。まだ検証期間中ですが、「シュミタイム」が確実にニーズに応えられていると実感しています。

 

シニア層向けのUIのこだわりや、他社との差別化についてお聞かせください

「シュミタイム」は、シニア世代向けにUIを細部まで工夫しています。例えば、プロフィール写真を他のSNSと比べ1.7倍大きくしたり、大きな文字サイズに対応した表示調整をしています。個人情報保護にも配慮し、SMS認証による簡単な電話番号認証を採用しています。本名を登録する必要もありません。

 

UIやUXの面では、アメリカの大手民泊アプリに近いかもしれません。ですが、私たちのターゲットは異なります。60代後半から70代の層は、一人で新幹線に乗って遠出するのを難しいと思う人が比較的多いです。

 

従来、シニア向け旅行と言えば、バスターミナルに集合して山登りなどのバスツアーに団体で参加するものが主流でしたが、「シュミタイム」では日帰り可能な範囲、具体的には在来線で1時間半程度で行ける距離内で、いかに楽しい予定を豊富に用意できるかに注力しています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

事業を始めたきっかけは、元々私がトレーナースクールを運営していたことに遡ります。2019年頃、フィットネス業界のHR領域で弊社のトレーナースクールが全国でナンバーワンになりました。そこからさらにスケールさせていくべきか、それとも別の道を探るべきか悩んでいました。

 

私のモットーは「人生の価値は何を得たかではなく、何と向き合ったかで決まる」です。そう考えたときに、シニアの社会的孤立こそ、向き合う価値のあるテーマだと感じました。

 

この事業領域を選んだ背景には、個人的な経験もあります。祖母が祖父の死後「死にたい」と毎日のように言い、それを聞いている母親の苦悩を目の当たりにしました。私も何とかしたいと思いましたが、結局は解決できず、祖母は施設に入所し認知症が進み会話もできない状況になりました。

 

この経験から「予定がないとダメだ」と気づきました。外に出たいと思える予定を手軽に届けられないかと考えたのです。当時はまだ高齢者がスマホを使いこなす時代ではありませんでした。ですが、2040年には、スマホを使いこなし余暇を楽しむ高齢者が生まれるでしょう。

 

その時代に向けて、高齢者の社会的孤立を防ぐ仕組みをつくることが、私たちの目標です。

 

意思決定の基準は常に「使命ファースト」

仕事におけるこだわりを教えてください。

仕事へのこだわりは、当社の行動指針に表れており、主に3つあります。

 

一つ目は、顧客理解です。

 

単に顧客の解像度が高いとか、顧客のことをよく理解しているだけでなく「自分の欲求が顧客の欲求と一致すること」が重要だと考えています。

 

例えば、シュミタイムの事業では、週に3回は社員もツアーに参加します。実際に参加することで、「ツアーの最後は温泉がいいな」など自然と想像できます。そうすると、自分が欲しいものがユーザーの欲しいものとほぼイコールになるのです。その状態で常に仕事をすることを、重視しています。

 

二つ目は、チーム内でのコミュニケーションについてです。

 

ぶつかり合い讃え合うことを大切にしています。0から1を生み出す事業は、やってみないと上手くいくかどうかわかりません。だからこそ、十分にぶつかり合って議論することが必要です。さらに、お互いを讃え合う文化があるからこそ、本気でぶつかり合えます。「お互いに研鑽し合う」文化は、私たちの仕事のやり方の根幹にあります。

 

三つ目は、使命に集中することです。

 

事業をやっていると儲けるためにやらなければいけないことが出てきます。ですがその結果、お客様のベネフィットと私たちが目指す世界観が一致しない場合もあります。私たちは、「10年後、20年後にあったらいいなと思う世界をつくるために今取り組んでいる」という考えを大切にしています。意思決定の際には常に「使命ファースト」の基準を設けているのです。

 

この3つのこだわりは、毎日のようにチーム内で言葉にして確認し合うほど大切にしています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

起業して最大の壁は、事業の転換と組織の変革でした。フィットネス事業からシュミタイムへと移行する際、自分がフィットネス事業に関わらなくてもいい環境をつくるべきと考え、組織改革に着手しました。

 

その結果、今ではシュミタイムに99%集中できる状態になっています。ただ、この組織改革には2年半ほどかかりました。私のつながりで仕事をしていた部分も多く、チームとして成立させていくためには非常に工夫が必要でした。

 

また、シュミタイムの開発から運用までは、4年以上かかっています。最初の構想から何が最適な解決策なのかを見出すまで、本当にたくさんのPOCを重ねてきました。全くクリアできたとは思っておらず、今も壁を乗り越え続けている状態が続いています。

 

シニア向けエンタメ領域で世界的に成功する

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションと言えるものはありません。ですが、この事業をやめる選択肢はありません。結果がどうであれ、自分の人生をかけて向き合うべきテーマだと思っています。

 

また、私たちが取り組んでいることで、より良い世界や社会的なあり方に貢献できると信じています。その世界を自分で見たいといった思いもあります。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

スマホネイティブ世代の高齢者マーケットで、世界的な成功事例をつくることです。

 

高齢者マーケットは約100兆円と言われていますが、その半分の50兆円ほどが生活産業のマーケットです。ヘルスケアや介護予防の分野では成功事例がありますが、シニア向けエンターテイメントの領域ではまだ目立った成功例がありません。だからこそ、日本からグローバルに展開できる可能性があると考えています。

 

日本では2040年頃には900万人ほどの単身高齢者が生まれると予測されています。単身率は約35%ですが、離婚率が高い国や個人主義の強い国では約45%にも達します。つまり、日本以上に単身高齢者が増える国が多数あるということです。日本で成功モデルをつくり、海外に展開してグローバルなシニア向けテックプロダクトを提供することは、非常に夢がある挑戦だと考えています。

 

私たちが目指しているのは、高齢者向けの旅行会社ではありません。シニアの方の生活の中で、楽しみな予定を届けていくことが当社のミッションです。

 

例えば、お金を払ってツアーに参加するだけでなく、人手不足の農家や宿泊施設のお手伝いツアーのような、社会貢献できる機会を提供しています。特に男性は、定年後に単発バイトに近く、かつエンターテイメント性のある仕事を求めている方が多いため、非常に喜んでいただいています。

 

それに加え、地域活性化のための大規模イベントを毎月開催しています。江ノ島で500名が集まる大会を開催したり、横浜のウォーキングツアーには450名の方が参加してくれました。

 

将来的には、旅行市場だけでなく、シルバー人材センターが提供しているような単発の仕事も、エンターテイメントとしての仕事として共通のUXで届けていくことを目指しています。

 

人生をかけて向き合う価値のあるテーマを見つける

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業で結果以上に大切なのは、自分にとって本当に向き合う価値のあるテーマを見つけることです。

 

私自身、これまでの4年間で、目に見える成果を上げていません。それでも続けてこられたのは、成果がなくても多くの方が応援してくださっているからです。ユーザーの方から「素晴らしいプロダクトになって、使えることを願っています」といったお手紙をいただくことがあります。こういった経験は、リスクを取って行動した人だけが得られる貴重な体験です。

 

利益を出すのも大切ですが、それ以上に大切なのは、自分が何と向き合うかを軸に考え、行動することです。その先には、起業家だけが味わえる幸せな体験が待っているはずです。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

起業家データ:樗澤一樹 氏

 

企業情報

法人名

株式会社ジェイエルネス

HP

https://jellness.co.jp/

設立

2016年5月2日

事業内容

  • パーソナルトレーナー養成スクールを全国20校舎展開
  • フィットネス業界特化の人材紹介サービスを全国3400店舗に提供
  • アクティブシニア向けの、イベントSNS

 

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