株式会社AgeWellJapan CEO 赤木 円香

「Age-Wellな人生の相棒になる」をビジョンを掲げ、シニア世代向けのウェルビーイング事業を展開する株式会社AgeWellJapan。年齢を重ねることをポジティブに捉える社会の実現を目指しています。同社のCEO 赤木 円香氏は、シニアをサポートするZ世代の育成にも力を入れていると話します。事業内容や起業の経緯、今後の展望なども含めて、詳しくお聞きしました。

シニアのポジティブな人生を一緒に創造する

事業の内容をお聞かせください

シニア向けのウェルビーイング事業を展開しています。「Age-Well」という概念を掲げ、「挑戦と発見を通じて、ポジティブに歳を重ねる」ことを目指しています。

 

この事業の背景には「エイジズム」といった年齢における差別、偏見、固定概念の問題があります。例えば「80歳だから耳が聞こえないに違いない」と決めつけたり、70歳の方が本当は着たいピンク色の服を年齢を理由に諦めたりすることも、エイジズムの一種です。

 

私たちは、従来のシニア向け事業のように介護や医療だけに焦点を当てるのではなく、社会学的な観点から、年齢による差別のない社会をつくることを目指しています。

 

この考え方は、健康な方だけでなく、介護が必要な方にも適用されます。健康状態に関係なく、挑戦や発見、ポジティブな行動や考え方を促進することが「Age-Well」です。

 

その実現のために「Age-Well Designer」という新しい職業を定義しました。これは、シニアの方々の豊かな人生をデザインする伴走者のことです。主に大学生で構成される130名ほどのAge-Well Designerが、シニアの方々の豊かな人生をデザインする伴走者として活動しています。

 

具体的なサービスとしては、自宅訪問型でスマホレクチャーや趣味のお供を行う相棒サービス「もっとメイト」と、横浜・二俣川駅直結の多世代コミュニティスペース「モットバ!」を展開しています。

 

これらを通じて、Age-Well Designerがシニアの方々との信頼関係を築き、人生がもっと楽しく豊かになるよう提案・伴走しています。当社の目標は、年齢に関係なく「明日起きるのが楽しみ」「人生まだまだこれから」と感じられるシニアの方を増やすことです。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

17歳のとき、ソーシャルビジネスの存在を知りました。ある女性起業家が書いた本を読み、社会問題を解決しながらビジネスを展開する姿に感動し、心の底から起業家になりたいと思いました。

 

その夢を追いかけて慶応大学に入学し、インターンとしてウェブマーケティングやインスタ広告運用なども学んでいました。

 

しかし「本当に人生をかけられるビジョンや顧客に出会うまでは起業しない方がいい」と恩師からアドバイスをもらい、新卒で味の素に就職しました。起業に必要な経験を得ようと思い選択したのですが、どこか違和感を覚えるようになりました。

 

そんな中、転機が訪れました。私が26歳のとき、86歳の祖母が大腿骨骨折と圧迾骨折で倒れてしまいました。それ以来、祖母はほとんど家に引きこもりがちになって「ちょっと長く生きすぎちゃったかしら。手伝ってもらってごめんね」と言うようになったのです。

 

その言葉を聞いたとき、そんなことを言わせてしまった自分への不甲斐なさと社会への憤りを感じました。そして、同時に、これだったら、祖母のためなら人生を賭けられると思いました。祖母は86歳、人生100年としてあと14年、急がないと思い会社を辞めて起業しました。長年温めてきたソーシャルビジネスの夢と、大切な祖母の経験が重なって、起業の道が開かれました。

シニアをお金儲けの対象にしないビジネス

仕事におけるこだわりを教えてください。

仕事のこだわりは、社会的価値とビジネスの持続可能性のバランスを保つことです。

 

ソーシャルインパクトをビジネスで実現することは、大変な挑戦です。特に、シニアの方々を対象としたサービスでは、純粋に相手のためを思う気持ちと、事業として成立させる必要性の間で葛藤することが多いです。

 

例えば、当社の訪問事業では、お客様との信頼関係を利用して利益を追求することは絶対にしたくありません。シニアの方々を単なる「お金儲けの対象」とは考えず、温かいサービスを提供し続けることが私たちの基本姿勢です。

 

一方で、スタートアップとして成長していくためには、資金調達や事業拡大も避けられません。実際、現在の売上の9割はBtoBとBtoG事業のものです。Age-Well Designerの派遣や、育成ノウハウを企業に提供するなど、表に見えない部分で事業を支えています。

 

葛藤しているとき、シニアに本質的価値を届ける「バリューポイント」と利益を作る「キャッシュポイント」をしっかり分けて会社を成長させるといった考え方に出会いました。これは私にとって大きな転機でした。

 

バリューポイントでは、理想的な世界を追求し、キャッシュポイントでは事業の存続を図る、ただし、私たちの信念に反するクライアントとは組まないというスタンスを取ることにしました。

 

この考え方に至るまでに3年かかりましたが、今では両方を譲らずに進めていく自信があります。シニアの方々を大切にしながら、彼らが本当に喜ぶサービスを提供し続けるために、私自身も現場に出続けることにもこだわっています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

最大の壁は、社会に事業を受け入れてもらう過程にありました。

 

創業当初、私たちは純粋な思いで「シニアの人生を前向きにする」とのミッションを掲げ、本気で事業に取り組めると信じていました。しかし、善意だけでは通用しないことを痛感しました。

 

例えば、若いスタッフがシニアの自宅を訪問して「なんでもやります」といったチラシを配布したところ、怪しまれて通報されたことがありました。自分たちが良いと思っても、社会に受け入れてもらえないことがあると気づかされました。

 

戦略を見直し、100人以上のシニアの方々にインタビューを行いました。そこで分かったのは、スマホの使い方に困っている方や、コロナワクチンのオンライン予約ができず苦労している方が多いといった現状でした。

 

そこで私たちは「シニア特化型の日本一分かりやすいスマホの先生」というコンセプトに方向転換しました。これが功を奏し、徐々に認知度が上がり、信頼を得られるようになりました。

 

人を笑顔にすることが前に進む原動力

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションは、人々の笑顔と成長を目の当たりにすることです。

 

日々の仕事を通じて、心温まるエピソードがたくさん舞い込んできます。95歳の会員さんが初めてスマホを購入したり、みんなでスタバに行って初めてモバイルオーダーを体験したといった話を聞くと、本当に嬉しいです。「今日も何人もの人を笑顔にした」という実感が、私の自己肯定感を支えてくれています。

 

もう一つは、若いAge-Well Designerたちの成長を見守ることです。Z世代の彼らは、自己肯定感が低い傾向にありますが、人のためになりたい、新しい価値観を作りたいといった強い思いを持っています。彼らに対して「よくできたね、偉いよ」と伝えるよりも、「ありがとう」「あなたのおかげだよ」を具体的に伝えることを大切にしています。

 

シニアの方々が心の底から「ありがとう」と言ってくれることで、Age-Well Designerも「こんなに喜んでもらえるんだ」と実感できます。この相互作用が、みんなの自己肯定感を高め、さらなる成長でありAge-Wellにつながっていくのです。


今後やりたいことや展望をお聞かせください 

2030年までに3.7万人のAge-Well Designerを育成することを目標にしています。

 

この目標を達成することで、約3,650万人のシニアの方々の人生をより前向きにできると考えています。また、当社ではこの知見をプラットフォーム上にデータとして蓄積・解析し、新しい事業創出や、シニアの方のことを考えた事業展開に活用したいと考えています。

 

具体的な取り組みとして、大規模なカンファレンスのフェスティバルを開催しました。そこで「Age-Well Design Award」という賞を設けました。これは、シニアの方々のことを真剣に考えてサービスを提供している事業者の方々に自称していただくものです。

 

私たちはシニアの方々を深く理解し、Age-Wellにできるという自負を持っています。同時に、若い世代として新しい超高齢社会を創造するといった独自の立ち位置を維持したいと考えています。さらに、シニアの市場で最大の売上を誇る企業に成長することも目指しています。

 

Age-Well の価値観が広まれば、それに伴って文化や制度も変わっていくでしょう。65歳定年退職制度のような概念を見直し、何歳からでも十分に活躍できる自由で前向きな社会をつくっていきたいです。

経営に社会経験は必須ではない

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業したいなら、今すぐ行動に移すことをおすすめします。「半年後に」「もう少し経験を積んでから」と言い続けている人は、なかなか一歩を踏み出せないものです。

 

確かに、経験を積むことは大切です。私自身、大企業での経験もあれば、スタートアップでのインターン経験もあります。貴重な社会経験になりましたが、実際の経営には直接結びつかないことも多かったです。

 

最近思うことは、結局、経営において本当に大切なのは、余計なプライドを持たずに頼む力、間違ったら素直に謝る力、感謝を忘れず相手に伝える力だと思います。

 

これらがあれば、経営は何とかなります。特にソーシャルグッドな事業では、長く続けられるかどうかが重要です。粘り強く踏ん張れる人が、最後には成功を掴むことができます。

 

経営陣の採用を強化しているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?

私たちが求めているのは、Age-Wellの理念に共感し、さらにスタートアップのタフさも持ち合わせている方です。新しい市場をつくりながら事業を拡大していく能力や、チームを牽引できるリーダーシップも重要視しています。

 

また、外部とのアライアンス構築や営業推進ができる方も探しています。Age-Wellの概念を社会に浸透させながら、ビジネスとしても成長させていく挑戦的な仕事に共に取り組んでくれる仲間を、経営陣やアライアンス、営業推進などの重要なポジションで積極的に募集しています。

 

▼採用情報はこちら
https://www.wantedly.com/companies/company_7466125

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:赤木 円香氏

慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学中、人材コンサルティング会社に参画。法人向けのコミュニケーションやホスピタリティ研修の企画・営業を担当。2017年に味の素株式会社に新卒で入社。財務経理部にて決算および原価計算業務を担当。2020年に「Age-Well社会の創造」を掲げ、株式会社MIHARU(現株式会社AgeWellJapan)を創業。シニア世代のウェルビーイングを実現する孫世代の相棒サービス「もっとメイト」や多世代コミュニティスペース「モットバ!」を運営。法人や自治体向けに、シニアDXやシニアWell-being事業の企画・運営を支援。超高齢社会のAge-Wellをテーマにしたカンファレンスイベントを主催。2023年にAge-Wellな生き方をデザインする研究所「Age-Well Design Lab」を設立。IMPACT STARTUP SUMMIT 2024」のピッチコンテストにて大賞を含む4冠受賞。Forbes JAPAN「世界を救う希望NEXT100」選出。メディア出演も多数。

 

企業情報

法人名

株式会社AgeWellJapan

HP

https://agewelljapan.co.jp/

設立

2020年1月10日

事業内容

シニアと若年層の世代間、生活者・研究者・事業者の業界間をつなぐ「サービス」と「場」を生み出すAge-Well Produce事業

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