株式会社ピクニックルーム 代表取締役 後藤 清子

企業主導型の保育園「ピクニックナーサリー」をはじめとする子育て支援事業を展開する株式会社ピクニックルーム。代表取締役の後藤 清子氏は、会社と街が関わる様々な取り組みによって、子どもたちが楽しく生きる環境を包括的にサポートすることが大事だと語ります。今回は、エンタメ業界から未経験で保育業界に足を踏み入れた後藤氏に、事業を始めた経緯や今後の展望などを詳しくお聞きしました。

 

企業主導型保育事業で、企業の子育て支援を伴走

事業の内容をお聞かせください

当社は、企業主導型保育園「ピクニックナーサリー」を運営する企業主導型保育事業をコア事業とし、スクール事業、ペアサポ®事業など、子育てを包括的に繋ぐ支援事業を展開しています。

 

1つ目の企業主導型保育事業は、待機児童問題をきっかけに始めました。「保育園落ちた日本死ね」という2016年に起きたムーヴメントは記憶に新しいですが、子どもに対して保育事業者数が足りておらず子どもが希望の保育園に入れない状況から当時は待機児童で溢れていました。

 

その対策の1つとして、認可保育園に比べて入園しやすい認可外保育施設を増やす動きが強まり、当社のピクニックナーサリーが誕生しました。20年ほど前に行われた保育業界の規制緩和によって、NPO法人や株式会社でも保育施設を設置できるようになり、今では多くの株式会社が保育事業に参入しています。

 

企業主導型保育園のほとんどは、企業同士で契約し、契約した企業の社員の子どもを預けられるよう、保育園の中で定員の枠を確保しておくことができます。この最大のメリットは、妊娠期からエントリーできることです。

 

社員が子育てをしながら働き続けられたり子育ての相談を気軽にできたりする。そして何より会社のことを保育園がよく理解しているので、勤務に対して私たちがフレキシブルに提案できる点が企業主導型保育事業の良さです。この制度を広く周知させるべく、近隣の中小企業をターゲットとして伴走支援を働きかけ展開させています。

2つ目のスクール事業は、学童とは違ったかたちの居場所支援事業として小学校中学年以上を対象に2018年から始めたもので、講師が常駐し宿題をみたり散歩に行ったり、工作をしたりして放課後を過ごします。

 

夏休みには2週間限定のサマースクールを組み、近隣の事業者さんをゲスト講師として招くワークショップや横浜DeNAベイスターズさんとのイベントなどを開催しています。

 

3つ目のペアサポ®事業では、子育て支援のカウンセリングとコンサルティングサービスを提供する「ペアサポ®」を通じて、保護者の支援を行っています。

 

多方面から子育て支援をする中で、お父さんやお母さんへの支援が足りないことをたびたび痛感します。例えば、自分の生き方やキャリアに迷っている方や、通っている保育園に相談事がしづらく悩んでいる方です。そのような方々に、将来に向けた提案をしたり相談できる役所を紹介したりします。

 

また今後、会社の中で子育て支援を内製化したいと考える企業には、私たちが一緒に構築・設計し準備するなどのお手伝いが可能です。自分がどう働きたいかを考えた時に、本人と会社、両者の認識が必要不可欠で、そこにペアサポのような中間に入れる専門家がいるとミスマッチが起こりにくくなります。

 

前向きな話で従業員である保護者がが安心感を持ち心をスッと軽くすることがペアサポの目指すところです。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は、元々保育とは全く関係のないエンタメ事業に従事していました。映画や映像のプロデューサーや現場制作に携わっていましたが、その時の会社がこの近隣に拠点を構えていました。

 

ある時、このビルの5階を拠点としていた女優さんと出会ったことがきっかけで、子育て広場を作ろうという話になり、一緒に準備を進めました。その後、さまざまな経緯があり、私がこのプロジェクトのトップを引き受けることになりました。

 

オープン当初は気持ちがふわっとしたままでしたが、メディアの取材により思わぬ注目を集める事態になりました。更に、保育園が足りない時代だったことで「企業主導型保育事業をやってみませんか」と勧められ、思い切ってチャレンジしたのが保育園設立のきっかけです。

 

それから数年後、スクール事業を立ち上げたのは娘が学童に通いたがらなかったことがきっかけです。保育園を運営しているならば、そこに娘も関わらせてあげることはできないだろうかと考え、当社の従業員の子どもを含め放課後支援や学習支援ができる場づくりを始めました。

 

子どもの安心安全のため俯瞰視点で視野を広げる

仕事におけるこだわりを教えてください

私の仕事は、子どもを育てるのではなく、子どもや保護者のやりたいことをフォローすることであり、あくまで主役は子ども、保護者、保育者だと思っています。この三者と施設側が権利で担保され、笑顔でいられる風土を作っていくことがこだわりです。

 

三者が安心安全で過ごせることが大事なため、昔からの風習などに囚われず、常識をも疑って、アウトフォーカスする視点は管理者として外してはいけないと思っています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

事業自体は楽しくやれていたものの、保育施設の運営に対して全くの素人で挑んでしまったため、学びながら、探りながらやっていくことが難しかったです。

 

自分の知識が充填している状態ではなく、施設長として責任管理能力を発揮できるほどまだ実力が伴っていなかったため、対応が流暢にできませんでした。毅然とした態度でいるべきところで学習不足により明確に述べることができず、そんな自分と向き合うことが一番辛かったです。

 

自分がワクワクしながらとにかくやり続けることが大事

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

一般的な保育事業者が持っていない視点を持つことに面白さがあります。今でこそ制度がしっかりしてきましたが、私たちはその制度がままならない頃から参入していたため、自分で様々な案を編み出していくことができました。保育事業の私のビジョンを面白がってくれるユーザーがいるのではないかと思い、ワクワクしながらできていたことがやる気に繋がっていたと思います。

 

また、コロナ禍での経験が私にとって良い部分もありました。世の中が閉鎖されている中、私たち保育事業者は、警察や消防、医療従事者などエッセンシャルワーカーのお子さんの受け皿だったため、閉鎖することはできませんでした。そのため、1日も休まず仕事をしていて、その間にどうやったら止まっている世の中を動かすことができるかを考えられた時間はとても有意義なものでした。

 

コロナ禍に開園していたことで人や環境設定の良さを存分に享受できましたし、子どもたちにもそれが提供できました。私の存在が求められている、たとえ落ち込んでも待ってくれている人がいる、この実感があったことが一番のモチベーションです。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください

関内地域の中では、一番子育て支援に対して長けている事業者だと胸を張って言えるので、今後は横浜の面白い事業の方々と繋がって一緒にコンテンツを作ったり発信したりしたいです。

 

当社の事業は当社だけで完結するより、様々な事業者と接点を持ち子育て支援の通りがよくなるように展開されることが理想です。当社の事業が街に開かれた状態で、子どもたちのために有意義に活動ができればと思っています。

 

そして、私がこれまで保育事業者として7年間努めている中で取り込んできた様々な学びや要素をテキスト化することや、自分なりに研究や検証も今後行っていきたいです。

 

起業とライフプラン設計を切り離して考えてみる

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私自身、2社の起業を経験していますが、起業は誰でも簡単にできるものだと思っています。起業することに高いハードルを感じる人は多いのだろうなと思う一方で、私のように考えすぎる前から行動し、ダメならやめればいいくらいの気持ちでどんどんやってほしいなと思います。成功しても失敗しても絶対に評価してくれる人はいるので、是非ポジティブな意識を持ってください。

 

また、起業したいけれど子どもも欲しいという相談をたびたび受けます。実は、私自身の息子の妊娠が発覚したのが、会社を登記したその1週間後でした。起業後の即妊娠にびっくりしたのを覚えています。

 

それでも、自分の会社だったことで働き方をアジャストすることができ、2人の子どもを育てながら今の会社を構えることができました。そのため、起業も子どもも諦める必要は全くないと思います。仕事とライフプランを混合せず、全く違う視点で考えてみるといいかもしれません。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:後藤 清子

 

企業情報

法人名

株式会社ピクニックルーム

HP

https://picnicroom.co.jp/

設立

2017年4月

事業内容

保育事業および行政や地域を含めた包括的な子育て支援事業

 

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