LIFEHUB株式会社 代表 中野 裕士

LIFEHUB株式会社は、次世代のパーソナルモビリティを開発・展開する会社です。ロボティクスやデザイン、モビリティを得意分野とし、「モビリティで今までできなかったことをできるようにし、人々に自由を届ける」ことを目指しています。世界展開も視野に入れて更なる開発に励む代表の中野裕士氏に、同社のパーソナルモビリティ「AVEST」をはじめとする事業について詳しくお話を伺いしました。

 

「人間の移動」に自由をもたらすパーソナルモビリティ「AVEST」

事業の内容をお聞かせください

我々は、ロボティクスやデザイン、モビリティ領域における高度なテクノロジーを活用し、次世代のパーソナルモビリティを製作しています。

 

今開発しているのは、パーソナルモビリティ「AVEST」です。AVESTは、ロボティクスの技術を活用して自らバリアフリーをつくり出すことで、階段やエスカレーターの昇降やこれまで電動車いすでは行けなかった場所への移動を実現します。

 

AVESTの特徴や性能を教えてください

技術面の大きな特徴は、平時は車輪で、段差を乗り越えるときはベルト駆動の「クローラー」で走行する点です。段差に差しかかるとショベルカーの足回りのような形状に切り替わり、乗り越えていきます。

 

乗車時の安定性を確保するために、アダプティブグラビティコントロール(以下、AGC)と呼ばれる技術を開発しました。AGC は、AVESTに乗っている方と車両との合算の重心位置を常に推定し、昇降状態にあっても身体が前後に転倒しないよう制御を行います。

 

AGCによってシート角度を調整することで姿勢の変化を抑え、さらに左右方向の揺れについてはアームレストとベルトで身体を支えることで、どの方向からみても安心して運転できるだけの安全性を確保しています。

 

AVESTの最大速度は、日本の電動車いすの速度上限である時速6㎞です。道路交通法では、時速6㎞以下であれば歩行者扱いになります。ただ、AVEST本来のスペックとしては、時速6㎞以上での走行も可能です。そのため、世界で展開していく際には、各国の法律に合わせて制限速度設定を変えていこうと思っています。

 

段差については、1段の高さは最大22㎝、角度は40°まで対応可能です。これは建築基準法における公共施設などに設置される階段の設計基準に合致しているため、個人住宅や、よほど狭い場所にある階段でない限りは乗り越えられるでしょう。

 

また、一般的な個人住宅の玄関は22㎝以下であることが多いため、帰宅してそのまま屋内に入ることが可能です。

 

そしてAVESTは、100Vの家庭用電源で充電可能です。一度の充電で40㎞ほど走行できるため、上限時速6㎞で走ったとしても、7時間程度は連続で使用できると推測されます。

 

AVESTと一般的な電動車いすとの違いはどんなところにありますか?

AVESTの強みは、自らバリアフリーをつくり出せる点と、デザイン性です。安全性を確保しつつ自由に移動できる製品を、豊富なカラーバリエーションのなかからお選びいただけます。

 

また、価格も注目ポイントのひとつです。実は「階段を昇降できる電動車いす」自体は国内外にすでに存在していますが、そのほとんどは高価です。そこで我々は、設計・生産過程で工夫しながらお求めやすい価格帯で販売できるようコスト削減に努めました。

 

操作性については、AVESTには用途に合わせた以下のモードが搭載されている点が特長です。

 

  • 平地走行モード
  • 階段昇降モード
  • エスカレーター昇降モード
  • クローラーモード

 

クローラーモードとは、クローラーを出して走行するモードのことです。少し起伏のあるような場所や走行路ではない道、雪道などを走る際に使用します。

 

モードは、ボタンで簡単に切り替えられます。ボタンやジョイスティックなどを右手で操作しづらい場合には、左手に付け替えることも可能です。

 

さらにAVESTでは、乗り込みやすさに対する操作性にも注力しました。乗り込み時に座高を低くできるようにすることで、ほかの場所に座っている状態からAVESTに移るときには移動元の高さに合わせて乗り込み、走行状態に入れば自動的に最適な高さに戻る、シームレスな乗り込み動作を実現します。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私がこの会社を立ち上げたのは、自分の専門知識を活かして「人間の移動」に自由をもたらしたい、という想いからです。

 

人間は、自転車や自動車などを利用し始めたことにより、速く、遠くまで移動できるようになりました。歩行だけではなかなか行けなかった場所にも簡単に行けるようになったことで、大きな自由を感じたことと思います。そういった生活の進化を、私の得意分野であるロボティクスやデザイン、モビリティを活かして実現したいのです。

 

私は、大学で博士課程修了までエルゴノミクス(人間工学)デザインやモビリティ、ロボティクスの領域で研究を行っていました。そして大学院修了後は大手メーカーで自動車のシステム研究開発に携わり、そこで自動運転や安全性を高める研究などを経験したのち、次世代モビリティ系のスタートアップに移り研究開発と車体のデザインを担当しました。

 

その後さらに解析ソフトウェアの会社に移り、自動車メーカー向けの研究開発コンサルティングを行いました。2020年には、TOKYO STARTUP GATEWAYのセミファイナリストにもなっています。

 

こうした経験をもとに2021年に創業したのが、LIFEHUB株式会社です。

 

デザインにこだわることで、気分が高まる製品や選ぶ楽しさを提供したい

仕事におけるこだわりを教えてください

パーソナルモビリティに限らず、あらゆる領域でデザインを重視することです。何においてもやはり「見て感じる印象が良い」ことはプラスだと思っています。

 

私が初めてデザインしたモビリティは、高専時代に制作した電気自動車です。高専では仲間6人でサークルを立ち上げ、電気自動車のレースに参加しました。その頃から、自分がデザインしたモビリティを形にしたい想いを抱き続けています。

 

AVESTも、乗る方や周囲の方の気分が高まるようなデザインを目指して私自身がデザインしました。車を選ぶときのように、ご購入いただく方が「かっこいい」「かわいい」といったデザイン性で選べるところを理想としています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

資金調達です。ハードウェア系やディープテック系の開発にはまとまった資金が必要ですが、成果が見える形になるまでには長い時間を要します。そのため、投資家には結果がすぐに出やすいSaaS系が好まれる傾向にあるのが最近の実情です。

 

しかし個人的には、SaaS系は完成後もサービスを向上させ続けなければ売り上げの維持・拡大が難しいと感じています。その反面、ハードウェア系は一度技術を確立してしまえば、それを元手に安定的に売り上げを維持しやすい点がメリットです。

 

そういったメリットを伝えながら、現在も資金調達に取り組んでいます。

 

ロボティクスで多様な価値観を創造できる

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

ロボティクスの領域のみで生きていると当たり前になってしまいがちですが、周囲からの驚きや感動を感じることがモチベーションになっています。例えばロボットアームひとつにしても、実際に動くと一般の方から「すごい」と感心されます。そういった些細な動きでも驚かれる姿を見ると、魅力的な領域で生きているなと実感します。

 

「今までできなかったことができるようになる」ことは、やはり感動的なことでしょう。そうした感動を、いかにして製品に活かせるかと常に考えています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

目標は、多種多様なパーソナルモビリティを開発し、人々に自由を届ける世界的なパーソナルモビリティカンパニーへと成長していくことです。AVESTに限らず、さまざまなパーソナルモビリティの開発に取り組んでいきたいと考えています。

 

最近、電動キックボード領域で「特定小型原付」という規格ができました。ここでもロボティクスの技術を用いて「安価だが安定して走れる車両」を企画しているところです。

 

また、我々は「ニーズに応える」だけでなく「ニーズを創出する」役割も担っていると自負しています。

 

例えば、「電動車いすとは平地を走るものだ」といった固定観念を持っている方は、電動車いすで階段を上ろうなどとは思いもしないでしょう。そういう方のなかには「階段を上る」というニーズは存在していないのです。

 

一般的には「できない」と決めつけられていることをロボティクスの技術で実現し、製品に落とし込むことで新たなニーズを生み出すことが、新たな価値の発見や世界を広げることにつながっていくと感じています。

 

さらに我々は、電動車いすは足が不自由な方だけのものではないとも考えています。「誰もが気軽に出かけられるパーソナルモビリティ」として幅広い方々にAVESTをご活用いただけるよう、認知を拡大していきたいです。

 

現在、どのような人材を求めていますか?

ハードウェア(機械系や電気系)のシステム設計・構築ができる方や、ソフトウェアエンジニアなど、広くエンジニアを募集中です。

 

「つくる」を一緒に楽しめるかどうかを重視しており、とにかくものづくりが楽しくて、ずっとつくっていたい、という方を求めています。

 

今すぐ「好きなこと」をしよう

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

何をおいても、行動力が重要です。加えて綿密に考える能力が備わっていれば、多くのことはうまくいくのではないでしょうか。まだ行動してない人は、今すぐ動いてみてください。

 

起業される場合、ご自身の「好きなこと」で起業されている方が多いと思います。私自身も、基本的に「好きなことしかしていない」人間です。起業する前もあとも、常に1日中好きなことばかりをしてきました。

 

事業に直接関係ないようなことでも、あとになって「やっておいてよかった」と思うことは決して少なくありません。例えば、私はスポーツをさまざま経験してきましたが、自分自身で体験したからこそ、身体の動かし方がわかるのです。振り返ると、すべての経験が現在のどこかに活かされているように感じます。

 

反対に、後回しにしたいことは「人にお願いすればよいこと」です。好きなことに没頭した経験やチャレンジした経験から身につけたスキルを組み合わせることで、新しいことをより簡単に乗り越えられる力につながっていきます。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:中野裕士 氏

東北大学大学院修了、博士(工学)。複数の大手企業にて自動車制御システムの新規開発や製品開発プロジェクトを手掛ける。2020年TSGセミファイナリスト。2021年1月にLIFEHUB株式会社を起業。ロボティクスの技術を活用した先進的なパーソナルモビリティ製品の開発・製品化を通し、誰もが自由に移動出来る世界を創ることに取り組んでいる。

 

企業情報

法人名

LIFEHUB株式会社 LIFEHUB Inc.

HP

https://www.lifehub.co.jp/

設立

2021年1月

事業内容

  • モビリティ製品の研究開発。関連サービスの提供
  • 医療・福祉機器の製品開発・関連サービスの提供
  • 機械の設計・開発に関する事業

 

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