テレ株式会社 代表取締役 平野 晃弘
テレ株式会社は「電話をかけて名前と住所を言うだけで注文ができる」という、革新的な音声通販サービスを開発・提供しています。AIによる24時間365日の受注システムにより、従来比141%の注文率アップとコスト46%削減を実現するなど、通販の新しいスタンダードを創造する企業として、注目を集めています。代表取締役の平野 晃弘氏に、事業内容や今後の展望なども含めて、詳しくお聞きしました。
電話とAI技術でボイスコマースプラットフォームを構築
事業の内容をお聞かせください
当社では、電話をかけて名前と住所を言うだけで注文ができる音声通販サービス(ボイスコマース)を展開しています。
従来の通販では、コールセンターに電話をかけて人が対応する形が一般的でした。しかし、私たちは発想を変えて、商品に直接電話番号をつける仕組みをつくりました。
商品に記載された番号に電話をかけて「3個」と言えば3個届きます。会員登録についても、メールアドレスやパスワードの入力も必要ありません。電話をかけて名前と住所と個数を言うだけです。2回目以降は、データベースに情報が残っているので、個数を言うだけで届くのです。
特徴的なのが、AIによる受注システムです。従来のテレビ通販では、仮にコールセンターでオペレーターを100人用意しても、同時に300件の注文が入ると、100人しか対応できず、200人が待たされる状況でした。ですが、私たちはAIで受注するため、1万件でも同時に受けられます。つまり、24時間365日対応できる上に、コストも大幅に削減できるのです。
また、複数の商品をまとめて注文できる「テレAIカート」という機能もあります。例えば、通販サイトで複数の商品を買い物かごに入れると、その商品専用の電話番号が生成されます。この番号に電話をかけて名前と住所を言うだけで、かごに入れた商品全部が届きます。
さらに、有名俳優やミュージシャン、キャラクターなどの「推しの声」でお客様に電話対応する「推し活コマース」を始めています。好きなタレントの声を聞きながら注文するという新しい買い物体験を提供しています。
当社の推計では、今までEコマースを使えずに困っていた60代、70代の方々が2,200万人もいらっしゃいます。そういった方々でも簡単に、電話を使って楽しく買い物ができる仕組みを提供しています。
ご高齢の方が電話で注文される場合、コミュニケーションに問題は生じませんか?
1番多い質問です。通販の本質の話になるのですが、通販はお客様が「欲しい」と思ったときに、すぐに購入できる状態が一番大切です。
以前、私は宝石を販売していた経験があります。お客様は私が提案するダイヤモンドが欲しいのに、コールセンターに電話しても平均4分はつながりません。「ではEコマースで購入してください」とお伝えしても、「私にはできない」と言われてしまいます。欲しいと思ったタイミングで買えなかったお客様は、数時間後にご連絡をしても「もういらない」となってしまうのです。
大事なのは、AIや文字起こしの精度ではありません。注文の電話の声が聞きづらい場合、私たちから折り返して「タナカ様、下のお名前がフミオ様でしょうか、フミエ様でしょうか」と確認すればいいのです。
企業は新規のお客様1人を獲得するために、数万円の広告費を使います。ですが確認の電話を1本かけるのは数百円でできます。つまり、お客様が欲しいと思った瞬間に買える環境をつくることが重要となります。
もちろんAIの精度向上には努めていますが、まずは電話をいただくことが大切で、聞き取れない場合は聞き返すことが良いと考えています。
今までの通販は、難しくしすぎていたと私は感じています。「パスワードは20文字で記号も入れてください」「このフォームに入力してください」など、本当に大変です。もっと簡単に、エンタメ性を持たせて、誰でも簡単に通販ができる世の中をつくることが、当社の考え方です。
BtoB向けにはどのようにサービス展開されていますか?
BtoBでも本質は同じで「電話」といったシンプルさがポイントです。
例えば、農薬や肥料の発注は今でもファックスが主流であり、「これって9かな?6なのかな」といった読み間違いも起きがちです。ファックスに丸をつけて数を書いて送るといったアナログな業務プロセスを、もっと簡単にできないかと考えています。
BtoBからの要望もたくさん来ていますが、現在は買い物難民の解決や地方創生など、BtoC向けのサービス強化を優先しています。
例えば、我々のサービスは旅行業界での活用の可能性があります。オーバーツーリズムの課題の一つに「買い物ができない」といった問題が挙げられます。例えば、数万円するツアーに参加したのに、浅草の人気のお土産屋に行列ができていて購入できないといった現状があります。
しかし、当社のサービスなら電話して「3個」と言えば日本酒が届き、「2個」と言えば唐辛子が届きます。つまり、お客様はアイスを食べながら、余裕を持ってバスに乗れるのです。
また、店舗側のメリットも大きいです。例えばレジスター月5,000円、レジ打ち担当者の人件費20万円など、3か所合わせて月60万円以上かかっていた経費が大幅に削減でき、固定費の心配も大幅に軽減します。
そうすることで、レジ打ち人員の代わりに、接客のプロを前面に出して、より付加価値の高いサービスを提供できます。また、旅行会社はツアーでお客さんを連れて行ったお土産屋さんなどから販売数にあわせた手数料(一個あたり何円キックバック)をもらうようなビジネスモデルを展開しています。
テレAIを使うことで、何が何個売れたかの管理が自動化されるため、旅行会社はお金を落としてくれる旅行者を、より付加価値が高い商品を置いている観光地へ連れていくようになることが考えられます。
その結果、ECが登場した当時に、スーパーでも買えるじゃがいもをインターネット上でどう売ろうかと考え、単品の野菜を売るだけでなく「野菜嫌いの子供が残さず食べる野菜カレーセット」といった付加価値をつけて販売していったように、地方の事業者でも、付加価値の高い商品が売れるようになり、地方経済の活性化も期待できます。
このように、誰もが簡単に使える仕組みによって取引全体がDX化され、新しいビジネスチャンスが生まれると考えています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
実は、2000年から宝石の通販サイトを運営しているのですが、他とは違うアプローチをとっていました。宝石をただ通販サイトに掲載するだけではなく、恋愛ドラマを毎月1本制作して、トップページで配信していたのです。
あえて、友人とは一緒に見られないようなくさい演出を全面に出した内容でつくってみたのですが、お客様から「1人で笑いながら見ています」といったメールをよくいただいていました。
当時は「サイトに100人来訪して1人が購入してくれれば成功」といった考え方が主流の中で、私は違いました。100人がサイトに来ていただいたら、100人全員が感動や大爆笑して帰ってほしいと考えておりました。誕生日は365日あるのですから、そのときに「面白い店長がいた店があったな」と思い出してもらえれば良いという考えでした。
そのような中、4年前のコロナ禍で新たな気づきがありました。それは、基礎疾患のある母が買い物に行けず、欲しいものをLINEで連絡してくるようになったのです。これは他のご年配の方も同じ状況なのではと思い、スーパーや薬局に行ってみると、やはりご高齢の方々が感染リスクを抱えながら買い物をされていました。
そこで気づいたのが、ご高齢の方もガラケーやスマートフォンを持っていることでした。総務省のデータによると、携帯電話の普及率はほぼ100%だったのです。「それなら、電話を使って通販ができれば良いのでは」と考えたのです。
通販に楽しさを取り入れることから始まり、今度は誰もが簡単に使える仕組みづくりへと挑戦することになりました。
家族との時間を何よりも優先する
仕事におけるこだわりを教えてください。
20代の頃は、朝まで働くことも珍しくなく、子供が野球の大会に出るにもかかわらず、出張を理由に見に行かなかったこともありました。
今、振り返ってみると、本当にもったいないことをしたと後悔しています。だからこそ今は、家族との大切な時間を最優先にしながら、仕事の時間を徹底的に充実させています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
仕事をしていると、壁ばかりに直面します。ですが、私はそういう状況に直面することが楽しく感じるのです。
例えば、過去にピンチに直面して従業員が涙を見せたり、メディアから過度に反応されたりすることもありました。そのたびに「これをどうやってクリアしていこうか」といった発想が自然と出てくるのです。「メディアに取り上げられるということは、それだけ注目が集まっているのでは?」と考える習慣が、いつの間にか身についていました。
私自身が落ち込んでしまっていたら、おそらく乗り越えられなかったでしょう。ピンチな状況でも「さあ、きたきた」といった感じで、前向きに受け止められるようになりました。結果的に、そのような考え方が壁を乗り越える力につながったと思います。
「自分たちにしかできないこと」を追求する
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
私も今年48歳になり、もうすぐ50代が見えてくる中で、モチベーションの形が変化してきました。若い頃は「絶対1番になる」と思っており、ライバル企業との競争がモチベーションになっていました。
しかし今は、そういった段階を超えて「自分たちにしかできないこと」を追求する方向に変わってきています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
誰もが簡単に自分の声を使って通販ができる点に、大きな可能性を感じています。
これまでは「地方の美味しい商品を知ってもらいたいけれど、一度食べてもらわないとわからない」といった悩みに対して、「ホームページをつくりましょう。費用は200万円です」のような回答が多数ありました。
しかし、動画プラットフォームの普及や当社サービスの登場により、電話番号一つで商品を販売できる環境が整ってきました。つまり、専門的なホームページ制作の技術は必要ありません。今この瞬間から、誰もが売り手になれる時代なのです。
これから数年かけて、さまざまな成功事例をつくっていきたいと考えています。多くの人が楽しみながら自分の声や話で商品を届けられる、そのような世の中にしていきたいと思ってます。
また、ネット上にはさまざまな伝えるツールがあり、チャンスは確実に広がっています。この可能性を最大限に活かすことにも、取り組んでいきたいと考えています。
やると決めたら迷わず進む
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
アドバイスなんておこがましいのですが、最初に「これをやりたい」と思ったことをするのが、大事だと思っています。
それに加え、やると決めたときに、信頼できる仲間や良い相談相手がいたら、なお良いでしょう。その人たちとしっかり対話を重ねた上で「やる」と決断したら、迷わずに進んでください。たとえ失敗したとしても、次につながる経験となりますし、チャレンジできる機会は何度でもあります。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:平野晃弘 氏
1976 年 4 月 15 日、神奈川県横浜市生まれ。2001 年にネットショップを立ち上げ、2006 年から EC ショップ、上場企業など多数の経営支援・経営顧問を行いながら、全国で公演をしたり、大手テレビ通販にベンダーとして出演したりとマルチに活動。ライフワークとして、歌舞伎座の舞台に出演や、プロデューサーとしてドキュメンタリー映画「霧が晴れるとき」を制作と、「残すべきもの後世を紡ぐこと」をテーマに文化的活動にも勤しむ。コロナ禍の緊急事態宣言時に「命をかけてでも買い物に出かけなければならない人がいる」と知り、AI 技術と電話を使ったサービスを開発し、2021 年にテレ株式会社を創業。ボイスコマースプラットフォーム事業を通して、新たな消費体験・販売チャネルを提供している。
企業情報
法人名 |
テレ株式会社 |
HP |
|
設立 |
2021年4月26日 |
事業内容 |
ボイスコマースプラットフォーム事業 |
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