アグリペディア株式会社 代表取締役 石田 渡
2019年創業のアグリペディア株式会社は、全国の農家と繋がりを構築し、独自開発の生産管理システムを活用して生産者と販路をマッチングしています。全国の農家および大手企業と連携しながら、効率的で持続可能な農業の実現に向け「農家の大規模化」を促進することを目標に掲げています。代表取締役を務めるのは、学生時代より農業コンサルティングに携わってきた石田 渡氏です。事業の内容や起業のきっかけ、さらに今後の目標などについても詳しくお聞きしました。
農産物流通を支えるBtoBプラットフォームを提供
事業の内容をお聞かせください
当社は、BtoBの農産物流通プラットフォームを運営しています。簡単に言うと、野菜を扱う商社のような事業です。
取引のある事業者は大きく分けて2つです。
一つ目は仕入れ元の農家さんで、北海道から九州までの比較的大規模な農家さん約100件と取引があります。
もう一つは、卸先である販売事業者です。現在は食品工場が大きな割合を占めており、売上の5割以上がコンビニエンスストアに関わる食品工場との取引によるものです。
たとえば、セブンイレブン向けの弁当や冷凍食品、漬物などを製造している工場が該当します。調達元を農家さんからの直接仕入れに切り替えたいが、従来の仕組みでは大量の野菜を直接仕入れるのは難しいという課題があったため、我々が3年前からその橋渡し役を担う形で商流に加わりました。中には、一部工場の全調達を当社に切り替えていただいたケースもあります。
我々から調達することで、トレーサビリティの確保やPDCAサイクルの実施が可能となり、安定した供給体制を実現できる点を評価していただいています。
また、我々の強みは提携農家さんに関するデータベースを保有している点です。このデータベースでは、各農家さんの野菜の種類、品質、在庫状況を一元管理しており、これまで農業界に存在しなかった新しい仕組みとして、大手企業からの信頼と発注をいただく基盤となっています。
さらに農家さんにとっても、このプラットフォームは大きな意義を持っています。自分たちの仕事ぶりがきちんと評価される、より資本主義的な取引環境を望む農家さんから「この仕組みはありがたい」とのお声をいただいています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
きっかけは、前職で知り合った農家さんの存在が大きく関係しています。
私は18歳で宮崎から上京し、東京大学に入学したのですが、想像していた「東大」と現実のギャップに衝撃を受け、入学式の翌日から学校に通わなくなってしまいました。やることがなく、「アルバイトでも始めよう」と考えていたときに出会ったのが、農業コンサルティングを提供するアグリコネクト株式会社です。学生インターンとして入社し、当初役員2名からスタートした会社で幅広い業務を経験しながら、4年半ほど在籍しました。
ある時、長野を訪れる機会があり、そこで出会ったのが当時30歳ほどの若い農家さんでした。その方は地域の人を従業員として雇い、農地を拡大しながらビジネスライクに農業に取り組んでいました。何も知らない私が「なぜ続けているのですか?」と率直に尋ねたところ、「地域のためにやっています」との答えが返ってきました。
社会や地域のために情熱を注ぐその純粋な思いに衝撃を受けると同時に、彼のまっすぐな熱意を目の当たりにし、深く感銘を受けました。そして、農業のみでなく社会で大きな革命が起こるとしたら、こうした情熱を持つ人が起点となり変化が起こっていくのだろうと感じ、彼らと一緒に何か仕事がしたいと思ったのです。
ただ、最初から今の事業を思いついていた訳ではありません。農業人材事業や、農業資材販売、畑センサーの販売など、いくつかの事業をやりながらも手応えが掴めない期間が何年も続いていました。
ちょうどその頃、トレーサビリティ管理が注目され始めていた時期だったこともあり、ある食品工場に営業の電話をしてみたところ、思いがけず「来月から取引しましょう」と話が進み、月100万円ほどの売り上げがいきなり立ち上がりました。
こうした偶然や出会いが重なり、現在の事業が形になっていきました。
すべての活動は「農業の大規模化」のため
仕事におけるこだわりを教えてください
我々が行うすべての事業活動の軸は、「農業の大規模化」に繋がっているかどうかにあります。もちろん企業として収益を上げることは大前提ですが、それ以上に社会に対して良いインパクトを残したいという強い思いがあります。
人生の大切な時間をこの事業に費やし、資金提供もしていただきながら事業を進めている以上、我々の使命は農業の大規模化を実現し、社会に確かな爪痕を残すことです。
今のままでは人口減少が進むスピードに対して農業の大規模化が追いつかないのは明らかです。だからこそ、この課題を少しでも早く解決できるよう全力を注いでいます。
チーム作りにおいても、チームの活動がこの目標に繋がっているのか、また採用の際にはこの理念に共感してもらえるかを大切にしています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大の壁は、自分の「思い込み」と向き合うことです。これまで、自分の考えと現実が食い違っていたことが何度もありました。その経験から、今では常に自分自身を疑うよう心がけています。
たとえば、起業当初は「チームでやるより、1人でやったほうが早い」という思い込みがありました。大きなことを成し遂げたい野望はあったものの、チームで取り組むという発想が自分の中になかったのです。実際にはチームで取り組んだほうが圧倒的に効率的なのですが、それに気づくまでにかなりの時間がかかりました。今でも、知らず知らずのうちに抱いている思い込みは多いと感じています。
実は現在の事業を始めるまでに10以上のサービスを立ち上げたのですが、そのほとんどを成功までやりきれませんでした。これも、自分の考えと実際の社会のニーズとの間に大きなズレがあることを痛感した経験でした。
自分の思い込みとどう向き合い、修正していくかの戦いは、今もなお続いている最大の壁です。
1兆円規模の事業を作り、社会に良いインパクトを残す
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
12年前に「農業の大規模化を進めたい」というビジョンを思い描いたときから、1兆円規模の事業を作り上げたいと考えていました。その思いは今も変わりません。
農業は国内で約9兆円の大きな産業です。農業の大規模化に真剣に取り組み、社会にインパクトを与えるためには、1兆円規模の事業を実現しなければ、その舞台にすら立てないと感じています。
人生で挑戦したいことは数多くありますが、まずはこの事業を1兆円規模に育て上げることが、進み続ける最大のモチベーションです。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
農業は数ある産業の一つに過ぎないかもしれません。しかし、人口減少が進む中で、私たちの世代が農業の課題に少しでも解決の道筋を示し、「少しでも役に立てた」と思いながら人生を終えられれば、それが一つの目標を達成した証になると信じています。
そのためにも、農業の大規模化を加速させることに全力で取り組んでいきます。提携農家の数を増やすこと以上に重要なのは、現在取引のある農家さんの規模をさらに拡大し、持続可能な農業モデルを築いていくことです。
1人では成し得ないこともチームを作れば可能に
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業において大切なのは「チーム作り」です。おそらく多くの起業家が同じことを言うと思いますが、事業を形にして成長させるには、同じ志を持った仲間と共に取り組むのが何よりも重要だと実感しています。
私は現在、正社員が10数名、業務委託を含めると約30名のチームです。昨年はメンバー数がその3分の1程度だったことを考えると、少しずつ仲間が増えてきた状況です。これからはさらに経営陣を強化し、農業の大規模化に本気で取り組める組織を作らなければ、1兆円規模の事業や多くの人に心から喜ばれる価値ある事業の実現には至らないと痛感しています。
起業を目指す方には、ぜひ強いチーム作りに意識的に取り組んでいただきたいと思います。
一緒に働きたい人物像や現在募集中のポジションについて教えてください
産業変革に関心を持つ方と一緒に働きたいと考えています。農業へのこだわりや知識は問いません。実際、現在のメンバーも農業関係の出身者はほとんどおらず、親が農家という人もほぼいません。ただ、多くのメンバーが「人口減少による社会の停滞感」への危機感を持ち、産業変革によってその課題にアプローチしたいという思いを共有しています。そうした思いに共感してくださる方にぜひ来ていただきたいです。
また、現在募集しているポジションは、COOです。これまではリファラル採用を中心に行ってきたため、同質的なメンバーが集まり、自然とチームとして機能していますが、今後は知り合い以外からも積極的に採用し、多様な視点を取り入れながら、より強いチームを構築していきたいと考えています。チーム作りやカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上をサポートしてくれる方をお待ちしています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:石田渡 氏
東京大学出身。農業コンサルティング会社・アグリコネクト株式会社に、4年半勤務。担い手農家向けのコンサルティングの他、担い手農家向けの事業立ち上げを複数経験。 独立後は個人で農業コンサルティングを実施。 2021年10月より、BtoB農産物流通プラットフォームの運営を開始。
企業情報
法人名 |
アグリペディア株式会社 |
HP |
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設立 |
2019年6月 |
事業内容 |
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