プライシングスタジオ株式会社 代表取締役CEO 高橋 嘉尋
「日本中の企業のプライシングをアップデートしたい」と語る、プライシングスタジオ株式会社の代表高橋氏。事業の可能性を引き出すために、戦略的なプライシングサービスを提供し、企業の価格問題を解決しています。
企業の時価総額にも大きな影響を与える、プライシングとはいったいどのようなものなのか、詳しくお話を伺いました。
価格に対する徹底したリサーチで価値あるプライシングを提案する
事業の内容をお聞かせください
プライシングスタジオという名前の通り、プライシングにまつわる支援をしています。
具体的には、値上げをしたい時にどうやって値上げを成功させるのか、また具体的にいくらまでだったら値上げしても大丈夫なのかなどについて、リサーチやコンサルティングをするのが弊社の事業内容です。反対に、値下げをしてお客さんを増やしたい企業には、誰に対していくら値下げをすれば、効果が最大化するのかというのを一緒に考えています。
それ以外にも中期経営計画でプライシングの改善や、プライシング改革を押し出す会社の数が劇的に増えているので、場合によってはその中期経営計画のプライシング部分から一緒に作り、伴走支援をします。
また最近では、コンサルティング事業に加えて、研修や専門人材育成を行い、さらには内製化支援をしています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
大学で受けた授業が、起業に大きな影響を及ぼしたと思います。
僕の出身大学はSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)なのですが、事業創造入門という授業が、当時開講されたのです。卒業生の起業家の中でも特に成功している方々が、週代わりで授業をしにくるという形で、その授業は欠かさず行きました。その授業がきっかけで、起業がキャリアの選択肢として大きくなり、大学2年の時に起業しました。
一個目の事業はうまくいかず振り出しに戻ったのですが、そんな時「プライシングが面白いんじゃないか」と言った人がいたのです。そこでプライシングについて調べてみたところ「価格の掟」という本がありました。ドイツのサイモン・クチャーが書いた本なのですが、価格が経営に与えるインパクトは非常に大きいということが書いてあったのです。
分かりやすく例えると、もしもトヨタが価格を2%上げた場合、時価総額が4兆円あがります。つまり、それだけ事業成長に価格が起因すると分かりました。同時に BCG が出したレポートでも、産業のトップを取っているようなグローバルの主要300社のうち、150社以上が価格に根拠がないという結果が報告されていたのです。
世の中では、まだ価格に戦略を持たせず、根拠がない状態でビジネスをしているケースが多いと分かりました。これらのきっかけから、プライシングはインパクトが大きく、且つまだ成熟してない産業であると分かり、この領域に魅力を感じて事業をスタートしたのです。
データ分析で大事なのは、データに忠実に向き合うということ
仕事におけるこだわりを教えてください。
仕事におけるこだわりは、「顧客を馬鹿にしないこと」です。突き詰めて考え、ここに到達しました。弊社では仕事上、よくデータ分析をするのですが、その際「データに忠実であること」を大事にしています。
例えば顧客から、「30%値上げをしたい」と言われた時に、データをみると10%しか値上げができないという分析結果がでる場合があるのです。その際は、「分析結果的には10%が最大値です」ときちんとお伝えします。その上で、30%の値上げに近づけて行くための方法を議論します。値上げの理想値に近づけるための議論なので、分析データはこねくり回しません。
また新しい業界などで参照できるデータや価格がない場合でも、弊社にはさまざまなアプローチ方法があります。
そのひとつが、市場調査です。価格がないのであれば、自分たちが最初に出した価格が相場になるケースが多いです。顧客が獲得したい層はどういった人々なのか、そしてその層はどのくらい支払えるのかを調べ、結果を導き出すのです。
その他にも、提供価値から逆算する方法などもあります。市場価格が無い場合でも、サービスを使い削れるコストを算出し、どのくらい売上が伸びるのか数字に落として価格の根拠をつくることで、合理的な価格の説明が可能です。
プライシングスタジオでは、データや数字に忠実に、顧客に対してしっかり事実ベースで向き合うことを徹底しています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
あえて考えるとしたら、最初は経営感覚が掴めていなかったことでしょうか。
経営は、車の運転と一緒です。アクセルを踏んでみないと、どのぐらいのスピードが出るかわかりません。そして、踏みすぎると事故がおこります。
このぐらいの売り上げの時はこれぐらいしか人を採用してはいけないとか、これぐらいしかマーケティングにコストを使ってはいけないとか、そういう勘所が最初は有りませんでした。
財務諸表一つとっても、今では財務諸表が頭にすぐ浮かぶほどなくてはならないものとなりましたが、当時はどうしてそうなっているのか等を分からず進めてしまっており、倒産の危機も経験しました。
事業としてイケてないから赤字になっているのか、事業としてはイケているけれども、しっかり投資をしているから赤字になっているのかで、大きく意味合いが違うのです。後者の状態でないと、いつか破綻します。当時の僕は、どんどんそこから遠ざかっていて、気づくまでが本当に大変でした。
自分がわくわくし続ける事業で、世の中に還元する。それが経営する上での大切なマインド
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
僕の場合、常に成長し続けたいというのがモチベーションです。今の位置にい続けるのが嫌で、常に上に上がっていかないと、生きている感じがしません。成長してないと、自己嫌悪におちいります。
しかし少し前までは、時価総額の金額がモチベーションになっている時期もありました。いろいろな事業領域で時価総額がありますが、それを相対比較していました。本来事業とは、踊り場から伸びる事業もあれば、マーケットが追い風だったからたまたま伸びた事業もあります。
そのため、今この瞬間の時価総額で比べても、何も意味がありません。それに気が付いてからは、自分が今社会に対して何をすべきで、何をしているのが一番わくわくするかを考えるようになりました。常に自分がわくわくし続けられるよう行動し、世の中に還元していくと、結果として会社が伸びます。
この絶対評価していくマインドに変わってからは、モチベーションにブレがなくなりました。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
僕らの会社としては、今後全国展開をしていきつつ、しっかりと大企業の実績を増やしていきたいと思っています。会社として経営体力をつけ、実績を作り、ノウハウ溜めるためにも大企業案件の獲得をしていくつもりです。
そこからソリューションの種を見つけて、それに AI などを絡めた製品を開発していきます。そのような積み重ねから、日本中の企業全体で使われるプライシングサービスを作るのが、僕らの目標です。
またBtoC向けの事業者にもプライシングのサポートを強化していきたいと考えています。
最近多くの企業が値上げをしなきゃならない状況にありますが、弊社では「一律値上げはやめましょう」という話をさせて頂いています。一律値上げというのは、その顧客全員に対して行う値上げです。
しかし、いまの世の中では一律値上げは厳しくなっています。様々な会社が値上げをしているものの、所得はそんなに増えておらず、平均値も上がっていません。そのため、どこかが削られている状態です。時代的にも、値上げが「受け入れられる時代」から「受け入れられない時代」になってきています。そのため、値上げをして業績悪化している企業が増えているのです。
そこで対応としては、「価格をパーソナライズすること」だと僕は考えます。地域で価格を変える、購入する時間帯によって価格を変える、曜日によって価格を変えるなど。つまり、高く取れる人から高く取る方法です。僕はそれを「一物多価」と言っているのですが、一つのものを複数の価格で売るという形で設計しないと、これから先の時代生き残れなくなると思っています。
所得が上がらない中、値上げに対するニーズが爆発的に増えているからこそ、対策を考えることが必要です。
辛いことの多くある起業だからこそ、心を鍛えてから望んでほしい
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業しようとする人に今何を言っても、たぶん壁にぶつかると思います。大事なのは、起業して壁にぶつかった時にやめない、そして諦めないことです。
もちろん、起業しないと得られないものや、いいこともいっぱいあります。そうしたものも味わってほしいとは思うのですけれど、それを全て打ち消す、むしろマイナスになるぐらいの、しんどいことが山のようにやってくるのです。
ですので、「メンタルが弱いかも」と思う人は、起業をやめた方がいいでしょう。大事なのは諦めずやり続け、逃げない、それしかありません。それができる人は、起業すべきです。そして心が弱いのだったら、心を鍛えてから起業するといいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:高橋嘉尋 氏
2019年にプライシングスタジオ株式会社を設立。著書に「値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識」(日経BP)。2023年Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」に部門で選出される。
企業情報
法人名 |
プライシングスタジオ株式会社 |
HP |
https://pricing.co.jp/ |
設立 |
2019年6月 |
事業内容 |
戦略的な価格設定・変更(プライシング)のコンサルティングをはじめ、顧客が抱える値付けに関する課題へのソリューションを提供 |
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