株式会社vitom 代表取締役 林 幹晟

今までにない完全栄養食のおにぎりを開発した株式会社vitomは、素材や味に徹底的にこだわり、手軽に持ち運べる健康食の可能性を追求するフードテックです。「持続可能な新しい食品企業を目指す」と意気込む代表取締役の林幹晟氏に、起業のきっかけとなった食品業界の課題や、今後の展望についても伺いました。

 

「おにぎり×もち」で満足感 食材たっぷりの完全栄養食

事業の内容をお聞かせください

我々が販売しているのは、完全栄養食のおにぎり「おにもち」です。

 

完全栄養食とは一般に、厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準」に基づき、1食あたりに必要とされる栄養素を摂取できる食品を指します。

 

パンやパスタなどさまざまなタイプのものが販売されていますが、その中でも日本人になじみがあり、かつ腹持ちの良い健康食を作りたいとの思いから、もち米と玄米など3種類のお米を混ぜた商品「おにもち」を開発しました。「おにもち」は、おにぎりともちを掛け合わせた造語です。

 

現時点で展開している味は3種類あり、鳥のうまみがぎゅっと詰まった鶏五目味、スパイスの効いたカレーソースが決め手のカレーリゾット味、香ばしいごま油とコチュジャンの辛みがクセになる和風ビビンバ味です。

 

開発当初の想定ターゲットはビジネスマンで、男性にもがっつり食べてほしいとの思いからご飯の量は一般的なおにぎりより1.3倍ほど多くしました。しっかりした味付けとも相まって、時間がないときでもこれ一つで満足できる一品になっています。

 

また、当社のおにもちの1番の特徴は、レトルト製法を採用しているため1年間常温保存ができることです。レンジで温めたり、湯煎をしたりせずともすぐに食べられるため、災害備蓄・保存食といったキーワードが刺さりやすい商品ともいえます。

 

そしてこれは想定外でしたが、この特徴が山を走るトレイルランナーの方の要望ともマッチしました。特に人気なのがカレーリゾット味で、長距離を走破する上で手軽にカロリー摂取できる点を評価していただいています。

 

こうした即食性を大事にしつつも、当社のおにもちは「食べると健康になれる感覚」にこだわっています。

 

正直、完全栄養食は栄養素のパウダーを混ぜただけでも作れます。しかし当社は、できる限り食材そのものから栄養をとりたいと思っています。

 

メニューも食材一つひとつの栄養素を計算し、必要な量を設計した上で、パートナーシェフと共に考えました。味についても、企業のプレイングマネジャーなどを対象に100回以上のインタビューを行い、改良を重ねてきました。

 

どうしても食材から補えないビタミンCだけはパウダーにして配合していますが、今までの完全栄養食になかった「健康感」を十分に意識していただける商品になっています。

 

ありがたいことに、2024年7月に実施したクラウドファンディングでは36時間以内に3000個が完売しました。おにもちの主な販売ルートは当社のサイトですが、ECサイトからも購入できます。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は大学1年生の頃から食品業界に対して課題を感じており、特に3点の課題解決を感じていました。その時期から起業は考えていましたが、スキルを身につけるためにさまざまなビジネス経験を積もうと思い、2度休学してITスタートアップとECコンサルで働きました。

 

ここでスタートアップのスピード感を体感し、マーケティング戦略を実務レベルで学べたことは、現在の仕事にも生きていると感じます。そして、それらの経験を経て、大学在学中の2023年9月に立ち上げました。

 

食品業界の課題とは具体的にどのようなものでしょうか?

私が思う課題は主に3つあります。今でも水素水などの健康商品は世の中に多くありますが、化学科の人間としてその効果に疑問を感じることが少なくありませんでした。ただ、大手の食品会社ですら「バズり」を狙ってこうした商品を作っています。話題性を作ることでしかマーケットで勝てないこの状況が、日本の食品業界の課題の1つだと考えました。

 

2つ目の課題は、利益率が低いビジネスモデルである点です。原価が高い上に中間マージンも発生するため、利益がほとんど残りません。大きな原因は、複雑すぎるサプライチェーンにあります。これだと日本企業が世界に進出する以前に、国内のマーケット内で沈んでしまうでしょう。

 

最後は、フードロスの問題です。コンビニでいつでも手に入るおにぎりやパンは、1日単位で入れ替えないといけません。

 

これらの課題を解決し、本気で世の中を変えたいと思いました。実際、おにもちは1年以上の賞味期限がありますし、自社工場でレトルト加工までするため中間マージンも発生しないビジネスモデルとなっています。

 

正しい情報を、消費者に届ける

仕事におけるこだわりを教えてください。

弊社のモットーは「Do the right thing – 人として正しいことをする」です。

 

健康や栄養に関するさまざまな情報や、消費者を引きつけるための広告があふれている世の中において、正しい情報だけを提供することを第一に掲げています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

キャッシュフロー(現金収入)を回すのが大変でした。学生という立場上、工場側と強く交渉できず、原価を支払ってからでないと商品を仕入れられない状況だったのです。原価を払うと2カ月後にキャッシュアウトになるので、その間でいかに調達先を確保するかが勝負でした。

 

このとき助けてくれたのが、以前働いていたITスタートアップの社長です。たくさんの経営者とつなげてくれたり、アドバイスをくれたりと、力を貸してくれました。この経験から人とのつながりの大切さを実感しました。

 

健康的な携帯食をもっと身近に 世界進出も視野

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

うまくいけば、食品業界を根本から変えられるビジネスモデルだと感じています。そうすれば世界で戦える日本企業が生まれると思っているため、そこが大きなモチベーションです。

 

ほかにも、お客さまから素敵なお言葉をいただいたときは純粋にうれしくなります。例えば、国際線の客室乗務員の方からは「海外でどうしてもおにぎりが食べたいときに助かった」、「おにぎりが持ち運べて良かった」などの声をいただきました。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

当社としては、保存食マーケットのみならず、手軽に持ち運びができる携帯食としての地位を確立したいと考えています。

 

即食性のある食品はすでに多くの商品が世に出ていますが、すぐに食べようとすればするほどジャンクなインスタント食品を選ぶしかありません。当社の保存技術を使い、健康的な携帯食としての選択肢を増やしたいと思っています。

 

会社の寮の近くにコンビニもスーパーもなく、インスタント食品に頼らざるを得ない人も少なくないと聞きます。こうした状況でも健康的な食事をしたいと思ったとき、弊社の商品が唯一の選択肢になると考えています。

 

直近でやろうとしているのは、パッケージのリニューアルです。開けやすい形態になるほか、より洗練された高級感のあるパッケージに変わる予定のため、多くの方に手に取っていただけるとうれしいです。

 

パッケージでいうと、現在はレトルトいらずのパッケージの研究・開発にも取り組んでいます。そのパッケージに入れれば、普通のおにぎりが30日間保存できるようになるのです。

 

生鮮食品を真空パックに入れればいいのでは?と思われるかもしれませんが、やはり食品自体に水分が多いので限界があります。このパッケージが実現すれば、サラダやフルーツも気軽に持ち運びができる世界が見えてきます。ジャンクフード一択の現状から、消費者の選択肢が一気に広がるのではないでしょうか。

 

また将来的には、海外展開を視野に入れています。おにぎりは海外でも認知度が高く、売れる可能性が高い商品でもあります。最初は米食文化が発達している東南アジアを中心に攻めるつもりですが、米国でも十分に商機はあるでしょう。

 

私が学生時代に留学していたワシントン大学は学生の半分以上が海外からの留学生でしたし、大学があるワシントン州シアトルには白米や玄米を食べる文化があると感じたからです。

 

海外留学を経験した日本の学生は海外で外資系の企業に就職するケースが少なくありませんが、私は日本からでも世界と戦えると思っています。海外に行ったことで日本の良さに気付いた部分も大きかったため、日本の良さを伸ばしながら、いずれは国を代表する企業へと成長したいです。

行動の前に、熟考を

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私はどちらかといえば行動力が高いタイプではないので、「思い立ったら即行動」には100%賛成できません。きちんと考えた上で起業した方がいいと思っています。

 

単純に起業だけしようと思うとどうしてもスモールビジネスになりがちですが、もっと大きなことがやりたいのであれば、それ相応に考える時間が必要でしょう。仕事をしているのなら、辞めてから半年位は時間を取ってもいいのではないでしょうか。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:林幹晟 氏

立命館大学生命科学部応用化学科出身。在学中に2度休学し、ITスタートアップやECコンサルにてビジネス経験を積む。その後、University of Washingtonへ1年間留学し、ビジネスを学んだ後、復学中の2023年9月に学生起業にて「vitom」を設立。研究テーマは「高分子担体を用いたビタミン類の制御リリースに関する研究」。2024年3月に立命館大学を卒業。2024年10月に客員研究員に就任。

 

企業情報

法人名

株式会社vitom

HP

https://vitom.co.jp/

設立

2023年9月8日

事業内容

おにぎりと餅をかけ合わせた完全栄養食「おにもち」を開発・販売

 

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