株式会社穴熊 代表取締役社長 西村 成城

株式会社穴熊は、テキスト通話アプリ「Jiffcy(ジフシー)を開発・運営する企業です。電話のように相手を呼び出せる機能と、リアルタイムでテキストメッセージを送れる独自技術を組み合わせ、対面で話しているようなコミュニケーションが可能です。Z世代を中心に世界150カ国以上で急速に普及が進んでいます。代表取締役社長の西村成城氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

 

声を出さずに電話ができる新しいコミュニケーションツール

事業の内容をお聞かせください

「電話の進化版」とも言えるコミュニケーションアプリJiffcyの開発・運営をおこなっています。従来のツールにはない、2つの特徴があります。

 

1つ目は「電話のような呼び出し機能を持ちながら、音声は使わない」点です。従来の電話の使い方だと、家族や友達、カップル間などで相手の声を聞きたい場合と、待ち合わせの連絡や急な予定変更などの緊急性の高い場合、この2つの目的がありました。特に後者の場合、実は音声である必要はありません。

 

さらに電話には、電車の中では周りに迷惑がかかり、オフィスでは仕事の妨げになり、カフェでは静かすぎてもうるさすぎても使いづらいといった制約があります。特に学生は、自宅に両親がいると電話がしづらいといった声も多く聞きます。Jiffcyは、この制約を「電話的な呼び出し」と「テキストコミュニケーション」を組み合わせることで解決します。

 

2つ目の特徴は、文字が1文字ずつリアルタイムで表示されるメッセージング機能です。従来のLINEなどと比べると、即時性といった点で大きな違いがあります。LINEには「いつ返してもいい」といった暗黙の了解があるため、緊急の用件でも気づいてもらえないことがあります。

 

実際、LINEでの即時返信率は約5%に対し、Jiffcyは約75%という高い即応性を実現しています。また、文字が1文字ずつリアルタイムで表示されることで、対面会話のような自然なやり取りが可能になります。

 

特にZ世代やα世代の間では、電話よりもJiffcyを選ぶケースが増えています。彼らの日常的なコミュニケーションの大半はすでにテキストベースであり、電話特有のハードルを避けたいといった需要があります。また、相手が声を出せる環境にいるとは限らないといった配慮の観点からも、Jiffcyは支持されています。

 

このように、Jiffcyは従来の電話やメッセージングの限界を超え、現代のコミュニケーションニーズにマッチした、より自然で使いやすいツールなのです。

企業や組織でJiffcyを展開する予定はありますか?

まずは、個人間のコミュニケーションツールとしてJiffcyを浸透させ、スタンダードな手段として確立することを目指しています。

 

ただし、すでに多くのビジネスユーザーに活用いただいているのも事実です。現状では、主に社内コミュニケーションツールとして使われています。というのも、馴染みのない新しいツールを社外とのビジネスコミュニケーションに使うのは、相当な関係性がないと難しいからです。

 

具体的な活用シーンとしては、営業担当者が外出中に社内の同僚と連絡を取り合う場合などです。従来であれば、オフィスの騒がしさを気にして電話に出られなかったり、電話を受けるために廊下やホームブースに移動する必要がありました。Jiffcyなら、Slackのような手軽さで、かつ確実に相手に気づいてもらえるコミュニケーションが可能です。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

2016年からサービス開発に携わり、さまざまなプロジェクトを手がけてきました。しかし「これは世界中で使われるようになるだろう」と確信できるサービスに巡り会えず、多くのサービスを終了させてきました。

 

転機は、2021年のコロナ禍に訪れました。当時、1人暮らしをしていた私は人と会えない日々が続き「自分には才能がないのかな」と落ち込んでいました。仲の良い人と話をしたいけれど、電話をするほどの元気もないといった状況だったのです。

 

LINEという選択肢もありましたが、お互いがアプリを開いていないとスムーズな会話ができず、返事が数時間後になることもあります。精神的に落ち込んでいる時は電話も疲れますし、かといって会うこともできません。そのような状況の中で「気軽に話せるツールがあったら使うのに」と思ったのです。

 

そこで考えたのが、「テキストベースでありながらリアルタイムなコミュニケーション」といった発想でした。実際にプロトタイプを作って試してみると、既存のメッセージングとは全く異なる特徴が見えてきました。

 

LINEなどの従来のメッセージングでは、お互いが好きなタイミングで離れていいという暗黙の了解があります。一方、リアルタイムのメッセージングでは、お互いがその場にいるという前提があるため、会話の盛り上がりや相手の存在感が全く違うものになったのです。

 

この気づきと電話のような呼び出し機能を組み合わせることで、従来のテキストコミュニケーションの課題を解決できるのではないかと考え、Jiffcyの開発をスタートさせました。

社会貢献と人生の充実を両立させる事業に取り組む

仕事におけるこだわりを教えてください。

「やりたいかどうか」といった単純な軸です。

 

日々の細かい業務レベルではなく、人生の方向性に合っているかといった大きな視点での「やりたいこと」です。

 

私は今まで、20個ほどのサービスを作ってきました。例えば、占いのサブスクサービスを手がけた時期がありました。収益は見込めそうでしたが、私自身が占いに興味がなく、やっているうちに眠くなるほどやる気が出なかったのです。長期的な視点で考えた時に、人生の充実感は得られないだろうと思いました。

 

今取り組んでいるJiffcyは、私自身がヘビーユーザーであり、社会的に求められていると確信を持っています。

 

さらに、今までコミュニケーションツールは、電話からメール、LINEへとより便利な方向に進化してきました。ですが、緊急性が高い時は今でも電話という古いツールしか選択肢がありません。

 

もし、緊急性の高いコミュニケーションも、LINEのように手軽に取れるようになれば、人々のコミュニケーションは更に活性化されるはずです。そして、人類の進歩を加速させることにもつながるでしょう。

 

この「コミュニケーションの革新による人類の進化」といった方向性に、私は強い興味を持っています。だからこそ、たとえ上手くいかなかったり、投資家から批判を受けたりしても、諦めずに続けられるのです。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

「自分はこれをやりたい」「これが世界を変える」と思えるサービスに出会うまでの道のりでした。会社の資金が底をつき、数ヶ月間報酬がストップしたこともありましたが、今から思えば些細なことでした。

 

2016年からサービスを作り始めて、2021年にJiffcyの着想を得るまでの5年間は苦しかったです。アイデアが浮かび「これはいける」と思うのですが、進めていくうちに「これって何のためにやってるんだろう…」と落ち込んでいく。そのサイクルの繰り返しでした。

 

現在直面している壁は、SNS特有の「友達が使っていないから使わない」点です。Jiffcyは全く新しい概念のサービスなので、説明のコストが普及の壁になっています。この壁に対しては、TikTokでの戦略が効果を発揮しています。Jiffcyでのやり取りの様子を投稿すると、それを見た人が友達を誘っていく好循環が生まれています。

世界中のスタンダードとなるコミュニケーションツールへ

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

Jiffcyが人類や社会に必要とされているという確信です。自分自身もヘビーユーザーとして使っていて、これこそが自分のやりたいことだと感じています。

 

今まで続けてこられた原動力について考えると、「経営者」としての生き方への思いがあったからです。私は元々、冒険家になりたかったのですが、今では地球上のほとんどが探検され尽くされています。その中で、祖父の話から、経営者の道に冒険家に近い魅力を感じたのです。

 

誰も経験したことのない課題に直面し、誰かに教えてもらうこともできず、自分で決断を重ねていく。この生き方こそが自分の道だと決めていたので、他の選択肢は考えませんでした。新卒での就職活動もせず、「この道しかない」といった強い覚悟があったからこそ、失敗を恐れずに新しいことにチャレンジできたのだと思います。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

Jiffcyをスタンダードなコミュニケーションツールにしていきたいです。

 

世界中の人々が日常的に電話を使用している現状を見ると、Jiffcyが受け入れられる土壌は十分にあるはずです。私たちの目標は、LINEを超えるレベルまでの普及を実現することです。

 

その実現に向けて、直近では「グループ機能」を実装を予定しています。実際にテスト版で検証してみたところ、3人での会話でも、話し手と聞き手の役割が自然と生まれ、スムーズなコミュニケーションが実現できました。4人以上での会話においても、参加者が一斉に発言するのではなく、「なるほど、面白いね」といった相槌を交えながら、整理された会話が展開されています。

 

また、スタンプ機能の開発も進めています。会話中の気まずい瞬間や、困ったときに、スタンプを使うことで場の雰囲気を和らげる効果を期待しています。

夢中になれることを全力でやり続ける

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

まずはやってみてください。確かに失敗する理由は無数にあります。ですが、実際に始めてみると、意外とできるものです。

 

最初から、明確に言語化できなくても大丈夫です。試行錯誤を重ねる中で、自分が本当にやりたいことが見えてくるでしょう。取り組んでいて眠くなることは、おそらく長続きしません。考えるだけでワクワクしたり、つい夢中になってしまうことに全力で取り組んでください。

 

貴社のサービスに興味があるVC向けにメッセージをお願いします

これほど大きな可能性を持つスタートアップは、なかなかないと自負しています。当社のテキストコミュニケーションは唯一無二のもので、特許も取得済みです。歴史に残るチャレンジを共にしたい方からのご連絡を、心よりお待ちしております。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:西村成城 氏

幼少期からシンガポールとタイに居住。各国の文化的違いを肌で感じ育った。大学2年生の時に個人事業主として起業、大学在学中より学生向け情報集約サービス「学習支援サイト」、日本初の家政婦個人契約マッチング事業「家政婦のSERUSAPO」等を開発運営。数十のスマートフォンアプリの企画開発運営。アプリの累計インストール数は400万、内75%が海外ユーザー。2018年1月株式会社穴熊を設立。サイバーエージェントキャピタル、ジェネシアベンチャーズ等複数のベンチャーキャピタルから資金調達を行う。2023年4月テキスト通話アプリ「Jiffcy」をリリース。「Jiffcy」でのトーク回数は1,000万回を超え、世界150ヶ国以上で使われている。

 

企業情報

法人名

株式会社穴熊

HP

https://anaguma.co.jp/

設立

平成30年1月26日

事業内容

リアルタイムトークアプリ『Jiffcy(ジフシー)』の開発・運営

 

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