株式会社Tikaras 代表取締役 大島 勇飛

株式会社Tikarasは「写真を次世代のマーケティングツールに」という想いのもと、情報発信における課題解決を手がけるマーケティング会社です。主力製品である宿泊施設向け写真撮影アプリ「Byme(バイミ)」は、スマートフォンで素人でもプロ品質の写真が撮影可能になる独自のアプリです。地方の宿泊施設を中心に約3,000社が導入し、撮影コストを大幅に削減しながら、予約率と売上の向上を実現しています。代表取締役の大島勇飛氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

 

宿泊施設の撮影代を大幅削減するアプリ「Byme」を提供

事業の内容をお聞かせください

「伝わる未来を創り出す」という企業理念のもと、情報齟齬の少ない社会を目指し、ソフトウェア事業とコンサルティング事業を展開しています。特に観光業界での経験を活かし、宿泊施設の情報発信における課題解決に取り組んでいます。

 

従来、宿泊施設の写真撮影はプロのカメラマンに依頼する必要があり、特に地方の施設では大きな負担となっていました。1回の撮影で宿泊費や食事代も含めると40〜50万円のコストがかかります。また、季節ごとのメニュー更新で年4回の撮影が必要な場合、年間100〜200万円の予算が必要になるのです。

 

実際の口コミでは「ユニットバスだと知らなかった」「枕元にコンセントがなかった」など、設備に関する情報不足への指摘が多く見られます。これらの写真は必ずしもプロカメラマンによる撮影が必要ではなく、スマートフォンで十分対応できます。こうした気付きから、スマートフォンで誰でも簡単に品質の高い写真が撮影できるアプリ「Byme」を開発しました。

 

グリッド線や撮影ガイドなどの補助機能を搭載し、素人でもプロ品質の写真が撮影可能です。さらに、OTA(オンライントラベルエージェント)への一括アップロード機能も備えています。現在のアップロード先は7社となり、事前に十分な情報を提供することで宿泊後の予期せぬ不満を防ぐことができるのです。

 

現在、約3,000社の宿泊施設で利用されており、サブスクリプション形式で提供しています。また、主に地方の施設に導入いただいています。その理由は、首都圏は社内にカメラマンがいたり、本社スタッフが撮影を担当したりするケースが多いためです。

 

このサービスにより、写真撮影のコストを大幅に削減しながら、情報発信の質と量を向上させ、口コミ評価や予約率の改善にも貢献しています。さらに、このノウハウを活かして不動産分野への展開をしています。現在はプレリリース段階で数十社が利用しており、物件写真の撮影効率化とクオリティ向上を目指しています。

 

宿泊施設での具体的な成果を教えていただけますか?

コンサルティング事業と組み合わせることで、具体的な成果につながったケースがあります。伊豆のある宿泊施設では、既存のプロカメラマンによる写真を、当社のアプリ「Byme」で撮影した写真に全面的に差し替えました。

 

その結果、1室あたりの単価が4,000〜5,000円上昇し、年間売上は1.5倍以上に増加しました。プロカメラマンの写真を「Byme」で撮影した写真に差し替えても、予約のコンバージョン率は上昇し、口コミも改善傾向にあります。もちろん、プランの見直しなど他の施策も行っているため、写真の効果だけとは言えません。

 

アプリケーションという性質上、実際にどのくらい成果が出ているのかを正確に測定することは難しいのですが、サービスの有効性はある程度証明できていると考えています。

 

他社とはどのように差別化を図っていますか?

不動産分野では同様のサービスが複数ありますが、宿泊施設に特化したサービスは、写真のアップロード機能を持つ1社を除いてほぼありません。その1社も比較的高額なため、私たちはより安価な料金設定で撮影機能も提供することで差別化を図っています。

 

また一般的に「宿泊施設の写真は美しくなければならない」といった考えが主流ですが、実際の予約者は「見栄えの良さ」よりも「必要な情報が得られるか」を重視します。水回りの様子や部屋の様々な角度からの写真など、実用的な情報提供が予約率向上につながるといった発想で、ビジュアルマーケティングを展開しています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

母が旅館の女将として働き、父方の祖父は鉄道会社に勤務していたことから、幼い頃から旅が近くにある環境で育ちました。私自身も送迎や料理の運搬など、旅館での実務経験があり、「何かの形で旅館に恩返ししたい」といった思いを持っていたのです。

 

縁があり新卒でJTBに入社し、2年目に海外の旅行アプリ会社との協業プロジェクトに参画しました。特に印象的だったのが、写真のABテストによるコンバージョン率の向上など、ビジュアルマーケティングの可能性でした。

 

その後、コロナ禍でJTBを離れ、リクルート(じゃらん)に転職しました。新しいことにチャレンジするといった社風を活かし、JTBで学んだビジュアルマーケティングの知見を活かしたアプリ開発を個人事業として始めたのです。

 

当初は起業する予定は全くなく、リクルートの新規事業提案制度に応募することも検討していました。しかし、上司からの「じゃらんのサービスになると、他のOTAへの展開が制限され、本当に宿泊施設のためになるのか。自分でやってみたら」といったアドバイスがきっかけとなり、事業をスタートさせました。

 

カスタマーサクセスを重視したサービス展開

仕事におけるこだわりを教えてください。

お客様との対話を何よりも大切にしています。

 

まだ駆け出しのサービスのため、プロダクトマーケットフィットができているか日々不安があります。そこで、昨年カスタマーサクセス部門を新設し、お客様の声に真摯に耳を傾ける体制を整えました。

 

現在は、使い心地や必要な機能についてお客様より細かくキャッチアップし、限られたリソースの中で優先順位をつけながら実現に向けて取り組んでいます。

 

当初は「アプリケーションだから、マニュアルを送れば使ってもらえる」と考えていましたが、昨年の夏頃「使い方がわからない」「3枚しか撮影できずに解約した」といった声が増えてきました。ちょうど利用施設数3,000件に向かう重要な時期だったのですが、カスタマーサクセスの重要性に気づかされました。

 

現在は、導入時の商談から、その後の利用状況の確認まで、きめ細かなフォローを心がけています。実地での指導は難しいため、アプリへのログインから撮影までのハードルをいかに下げられるか、日々改善を重ねています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

アプリ開発が最大の壁でした。プログラミングの知識がなく、要件定義の仕方すら分からない状態からのスタートで、アプリは1〜2回作り変えています。

 

個人事業主として始めたとき、投資できる金額は100万円程度でした。その予算でベトナムのオフショア開発に依頼しましたが、言語の壁もあり満足のいくものができませんでした。さらに、お客様にデモ利用を提案しても断られ、「こんな製品で営業していいのか」と悩む日々が続きました。

 

その経験もあって、エンジニアの方々をリスペクトしています。また、企画側の人間として、いかに意図を伝え、思い通りのものを作ってもらうといった点は、今でも課題だと感じています。

 

原動力は宿泊施設を活性化したいという強い思い

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

綺麗事のように聞こえてしまうかもしれませんが、「宿泊施設さんが元気になってほしい」という思いです。

 

最近は、メディアや地方自治体からセミナーやウェビナーの依頼をいただく機会が増え、ここ数ヶ月は月2〜3件ほど予定が入っています。アプリの売上よりも、これまで培ってきたビジュアルマーケティングの知見を宿泊施設に伝え、単価向上や売上増加につながる方法を共有できることが、今のモチベーションになっています。

 

宿泊施設との接点が増え、私たちの提案に「確かにそれは一理ありますね」といったリアクションをいただけたときに、心からやっていてよかったと思います。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

宿泊施設については、施設数の拡大を目指しています。現在は地方を強みとしていますが、首都圏や都市部への展開も視野に入れています。そこでは地方とは異なる課題があると考えており、新たな効率化の方法を模索していく必要があります。

 

効率化の観点では、海外のOTAとの連携を進め、機能の拡大をしていきたいです。また、現在取り組んでいる大きなプロジェクトとして、AI技術を活用した料理写真の撮影支援システムの開発があります。大規模な資金調達が必要となりますが、宿泊施設にとって料理は非常に重要な要素です。

 

不動産写真の撮影と異なり、料理写真は画角や水平・垂直の調整だけでは十分な品質を確保できません。和食、洋食、フレンチなど料理のジャンルによって撮影方法が異なり、お皿の形状も宿泊施設によってさまざまです。そこで、AIがお皿の形状を認識し、最適な配置やライティングを提案するアプリケーションの開発を進めています。

 

このシステムを商品化できれば、アップセルの機会創出だけでなく、将来的には飲食業界やEC分野への展開も可能になると考えています。また、TikTokなどの縦型動画による人材採用市場にも参入も視野に入れています。私たちの強みである「誰が撮影しても同じクオリティを実現できる仕組み」を活かし、新たなサービス展開を行っていく予定です。

 

安定した環境で徐々に拡大する方法を選ぶ

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私の経験からお伝えしたいのは「最初から大きなリスクを取る必要はない」ということです。

 

私のように安定した環境で小さく始めて、徐々に拡大していく方法もあります。ハードルを下げて、まずはPoCのような形で始めてみることをおすすめします。失敗しても次に進めばいいですし、成功したら規模を拡大していけばいいのです。

 

どこで当たるかは本当に予測できません。私自身、思いもよらないところで手応えを感じた経験があります。大切なのは、まず一歩を踏み出すことです。

 

採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?

営業職の募集もしていますが、エンジニアやクリエイティブ職を強化したいと考えています。特に、自ら考え行動できる人材を求めています。例えば「こういうものがあったらいいのでは」と提案し、実行できるデザイナー、エンジニア、ライターといった方々です。

 

実際、そういった主体性のある外注の方と働いた経験から、組織の強みになると実感しています。プロダクトをより良くするためのクリエイティブな発想や、私にはないデザイン的な考え方ができる人材とのつながりを持ちたいと思っています。



▼採用の詳細はこちら

https://tikaras.com/contact/?tab=tab_2

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:大島 勇飛氏

中央大学経済学部卒業。2018年株式会社JTBに入社。主に仕入造成部門でパンフレット商品やOTAの企画営業を経験。2021年からは株式会社リクルート(じゃらん)に転籍し、在籍中に個人事業主として創業しBymeをリリース。2023年業績拡大のため法人化。

 

企業情報

法人名

株式会社Tikaras

HP

https://tikaras.com/

設立

2023年12月8日

事業内容

  • インターネットを利用した通信販売業
  • インターネットを利用したアプリケーションの企画、開発、販売、受託及びコンサルティング
  • インターネットを利用した各種情報提供サービス
  • インターネットによる広告及びマーケティング事業
  • 経営コンサルティング業務
  • 不動産に関するコンサルタント業務
  • 小売業
  • 前各号に附帯関連する一切の事業
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