【#000】毎年数倍の成長を続ける黒字スタートアップ。テクノロジーで医療の課題を解決|代表取締役 宮井 崇行/堀 琢馬(株式会社Medical Shift)

株式会社Medical Shift 代表取締役 宮井 崇行/堀 琢馬
株式会社Medicalは、テクノロジーとマーケティングを活用し、歯科医療の業界改革に取り組む企業です。AIを活用した診断補助、矯正治療の情報、歯科衛生士の新しい働き方の創出などを提供しています。医療従事者と患者双方の課題解決を通じて、歯科医療の未来を切り拓いています。代表取締役の宮井崇行・堀琢馬氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
医療従事者と患者双方の課題解決へと導く
事業の内容をお聞かせください
宮井氏:
課題の多い産業において、テクノロジーやマーケティングを活用しながら、新しいサービスを生み出し、社会をより良くすることを目指しています。
具体的な事業内容としては、歯科業界においてさまざまなサービスを展開しています。その中の1つ「Dental Match」は、歯科衛生士の新しい働き方を提案するマッチングサービスです。
現在、歯科衛生士の資格保有者は約26万人いるものの、半数しか働いていません。フルタイムでの採用が主流で、短時間勤務やパートタイムの選択肢が少ないことが要因です。この状況は歯科医院の予約が取りにくくなるなど、患者さんの口腔環境にも影響を及ぼしています。
そこで私たちは、柔軟な働き方を可能にするマッチングサービスを提供しています。歯科衛生士は、実際の勤務前に職場を体験できるなど、職場との相性を確認できる仕組みを整えています。
歯科衛生士には働きやすい職場を、医院には人材確保の機会を提供することで、双方のニーズに応えています。現在、歯科衛生士の登録が約2,000人、歯科医院の登録が400件ほどあり、シャープファイナンスとの協業で事業を展開しています。
堀氏:
新しい取り組みとして、AIを活用した診断補助ツールの開発を進めています。歯科医院でのモノクロのレントゲン写真には、歯科医師にしか読み取れない多くの情報が含まれています。私たちは、AIを使ってこれらの情報を視覚化し、色をつけて患者さんに分かりやすく伝えられる技術開発に取り組んでいます。
歯列矯正に関する事業も展開しているとお聞きしました。
宮井氏:
1つは「ハーウェル」という矯正専門の情報サイトです。近年、歯科矯正を提供する歯科医院が増加し、患者さんが選択に困る状況になっています。
そこで、食べログの歯科矯正版のようなサービスを提供し、患者さんの適切な意思決定をサポートしています。現在約8,000人の登録があり、テクノロジーの進化に伴う業界変化に対応した新しいサービスとして評価をいただいています。
堀氏:
もう1つは「スマイルモア」という、独自の歯科矯正ブランドです。従来のワイヤー矯正では、歯科医師の中でも限られた方しか対応できませんでした。しかし、マウスピース矯正という技術革新により、多くの歯科医院で提供できるようになりました。
ただ、多くの歯科医院は経験不足などの問題から、導入を躊躇しています。そこで私たちは、ブランディングから患者集客、専門の医師によるコンサルティング、製品選定まで、包括的なサポートを整えています。また、「笑顔の時に見える前歯部分だけを、手頃な価格で矯正したい」といったニーズに対応し、これまで治療を諦めていた方々にも矯正の機会を提供するお手伝いをしています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
宮井氏:
2社目のベンチャー企業で、資金調達から売却まで経験しました。その過程で、新しいテクノロジーやマーケティングを活用して業界を変えていく面白さを感じました。より大きなインパクトを生み出したいといった思いがあり、課題の多い産業で何か変革を起こせないかと考えていました。
そこで注目したのが歯科業界です。医療といった大きな文脈の中で、歯科は重要な入り口になっています。それにも関わらず、Web予約やクレジットカード決済に対応していないなど、サービス面での遅れが目立ちました。ただし、それは歯科の先生方が悪いわけではなく、業界に詳しい推進者がいなかっただけだと感じています。
堀氏:
宮井とは大学時代からの友人で、私は元々「物事を仕組みで良くすること」に興味があり、大学のころから宮井ともいずれ起業したいという話をしていました。まずはそのためのスキルを身につけようと、IT系ベンチャーでマーケティング、エンジニアリングを経験し、その後に戦略コンサルティングも経験しました。
起業する領域を探す中で、歯科医療に注目したのは、4兆円といった大きな市場があるにも関わらず、隣接領域の医科が10倍の規模があることもあり、新しい技術やベンチャーが素通りしている状況に可能性を感じたからです。業界特有の課題を解決する新しいビジネスを、生み出したいと思いました。
現在は、私がエンジニアリングやマーケティングを中心に、宮井が営業を中心に担当していますが、お互いほぼ全ての職種を経験しているため、従業員とも意思疎通がしやすく、かつ裁量を持って活躍していただける環境を作れていると思います。
小さくまとまらない。新しい方法で業界を改革する
仕事におけるこだわりを教えてください。
宮井氏:
課題の多い産業に対して、インパクトを与えることです。明日の売上を上げるといった小さな目標ではなく、「業界がこう良くなった」「これだけのインパクトがあった」と言えるような成果を残したいです。
この考えは、過去の経験から生まれました。以前、ソーシャルグッドな事業に関わった際、資金調達はできても利益が出ず、持続可能なサービスにならなかったのです。そこから「せっかくの人生だから、大きな課題解決に挑戦したい」といった思いが強くなりました。
堀氏:
3つ大事にしている軸があります。1つ目は「確実な課題解決」です。誰かにとっての重要な課題をきちんと解決できているかを常に意識しています。2つ目は「新しいアプローチ」です。小さなものであっても、今までにない「発明」を提供できているかを大切にしています。
3つ目は「利益の確保」です。ベンチャー企業の中には「利益はあとから考える」といった方針の企業もありますが、それでは継続的で、本質的な解決に繋がりづらいと私は考えています。事業の持続可能性と品質向上のために、どの事業でも利益を出すことにこだわっています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
宮井氏:
1つは、外部環境の急激な変化です。起業初期は採用マッチングサイトを運営していましたが、コロナ禍で単発バイトの需要が激減し、登録者はいてもマッチングが発生しない時期がありました。しかし、この危機を機に業界構造を見直し、患者さんのニーズに応えるため新しいサービスを立ち上げるなど、事業転換を図りました。
もう1つは、事業の急成長に組織が追いつけない時期がありました。事業は順調に伸びているのに、仕組みや組織体制が整っていないために、伸ばしきれない感覚がありました。この経験から、現在は「チームとして強くなる」ことをテーマに掲げ、どんな拡大にも耐えられる組織づくりを目指しています。
堀氏:
心理的にはどの領域で、どのアイデアで起業するかを決める時期が最も悩んでいました。3〜6ヶ月間、さまざまな事業アイデアを検討しては却下する日々が続きました。いざ領域を決めて動き出してからは、課題が出てきてもそれほど大きな壁だと感じませんでした。領域を決める覚悟ができたことが、一番大きなブレイクスルスルーだったと思います。
業界にインパクトを与えるという目標を達成する
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
宮井氏:
目標を掲げることは誰でもできますが、大切なのは現実的なものにしていくプロセスです。さまざまな課題がある産業にインパクトを与えることを決めた以上、それを実現する。その過程で日々の具体的な行動に落とし込めているからこそ、モチベーションになっています。
また、BtoBとBtoC両方の事業があることで、エンドユーザーの反応も見えやすく、社会的なインパクトも実感しやすい環境にあると思います。
堀氏:
自分がアクションを起こすことで、世の中が少しでも変わっていく実感です。
例えば、東京だけだった事業を大阪に展開して、実際に大阪の患者さんから感謝の声を聞いたときに感じられます。もう1つは自分自身と会社の成長です。事業が大きくなるにつれて新しい課題が次々と現れ、解決していく過程で確実な成長を実感できます。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
宮井氏:
課題の多い産業において、AIやテクノロジーを活用しながら、業界構造を変えていくようなインパクトを生み出したいと考えています。具体的な数字で言えば、会社としては毎年2〜3倍の成長を目指しています。
当社では、複数の事業を展開し、全ての事業が黒字の状態を維持しています。これは業界への深い理解と、新規サービス開発の強みがあってこそだと考えています。毎年1つは新しい事業が生まれています。今後もこの成長モデルを継続させながら、業界の変化を捉えた新しいサービスを展開していきたいと考えています。
堀氏:
「歯科業界で必要とされる面白い事業は、全て当社が手がけている」というポジションを確立することが当面の目標です。その先には、歯科以外の業界への展開も視野に入れています。
「起業はリスク」という考え方を変える
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
宮井氏:
明日にでも起業してください。なぜなら、実行してみないとわからないことが多いからです。
ただし、学びの環境も重要です。会社の全体像が見え、事業の0から1、10から100といった各フェーズを体験できる場所に身を置くことをお勧めします。理想的なのは、単に新規事業を生み出すだけでなく、複数の事業を並行して展開し、かつ黒字を保っている会社で経験を積むことです。
堀氏:
起業する際に、多くの人がさまざまなことをリスクとして捉えて躊躇しがちですが、本当にそれはリスクなのか落ち着いて考えてみてください。特に若いうちの2〜3年は、失敗しても大きなリスクではないことが多いです。大切なのは、リスクの捉え方を変えること、一歩を踏み出すことです。
採用を強化しているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
宮井氏:
私たちが求めているのは、「自分が入ってこの会社を良くしたい」「自分の力でインパクトを生み出したい」といった意欲のある人材です。特に0から1を作り出すことに興味がある方、自分で事業を推進していきたい方を歓迎します。また、複数の事業が並行して進んでいることもあり、各プロダクトや職種で第一人者になれるチャンスが多くあります。
堀氏:
当社に入社した元歯科医師の方は、ビジネスの知識も経験もゼロの状態からスタートしました。しかし現在では、数億円規模のマーケティングを一人で担当し、ChatGPTを使ったプログラミングまでこなすようになっています。やる気さえあれば、たとえゼロからスタートしても、業界のトップランナーや社内の専門家として活躍できる機会を用意しています。
▼採用情報はこちら
https://eminent-tarsal-57d.notion.site/Medical-Shift-167d20fe5ca1800cb453c1042500b12e
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:宮井 崇行氏
東京大学を卒業後、2012年にリクルートに新卒入社、主に広告企画営業と商品戦略策定に従事。 2017年にクラウドファンディングサイトを運営するスタートアップに事業責任者として参画。その後売却、2019年にMedical Shiftを創業。
起業家データ:堀 琢馬氏
東京大学を卒業後、2014年にリブセンスに新卒入社、リスティング・SEOといったWebマーケティングによる事業推進に従事。その後WebエンジニアとしてWebサイト運営チームに参画。2017年にBain&Companyに入社しデジタル関連の案件に従事、2019年Medical Shiftを創業。
企業情報
法人名 |
株式会社Medical Shift |
HP |
|
設立 |
2019年 |
事業内容 |
歯科衛生士向け労働力マッチサイト『Dental Match』運営、歯科矯正の総合専門サイト『ハーウェル』運営、医院向けの集患サポート、その他事業 |
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