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株式会社ネコノメ 代表取締役 工藤 ショーン
株式会社ネコノメは、ゲーム開発を通じて、ゲーム産業に新しい価値を創造する企業です。主力タイトル「メソロギア」では、従来にない戦略性の高いゲーム体験を提供し、ノープロモーションで20万ダウンロードを達成。VRやブロックチェーンなど新技術との融合も視野に、特定のジャンルやプラットフォームに固執せず、「面白さ」を追求し続けています。今回は同社の代表取締役を務める工藤ショーン 氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
常識にとらわれないゲーム開発で、革新的なゲームを世界に届ける
事業の内容をお聞かせください
弊社はiOS、Android、Steamプラットフォーム向けのゲーム開発を行っています。将来的にはVRやブロックチェーンなどの新領域への展開も視野に入れています。
主力タイトル「メソロギア」は、従来のデジタルカードゲームとは異なるアプローチを取っています。最大の特徴は「同時ターン制」の採用です。従来のカードゲームが交互にターンを進行するのに対し、メソロギアでは両プレイヤーが同時に考え、同時にカードを出す仕様になっています。
同時ターン制が実現できた理由は、既存IPに依存しない新規タイトルだからです。従来の多くのデジタルカードゲームは、既存IPの影響でターン制を採用せざるを得ませんでした。
もう1つの特徴は、将棋に近い「完全情報」のシステムです。すべてのカード情報が公開されているため、プレイヤーは相手の次の一手、さらにその先の展開まで予測しながらゲームを進めることができます。
この特徴は、ユーザー層にも表れています。10代後半から30代の男性が中心で、カードゲームや将棋などの戦略的なゲームを好む方が多いです。ユーザーの多くが分析力に非常に優れており、ゲーム改善への提案も的確で洞察が鋭いです。
また、私は千葉県でカードショップを運営し、実際のプレイヤーの声を直接収集しています。その中でわかったのが、デジタルカードゲームにおける「ソーシャル要素」の不足です。実際のカードゲームでは、効果の処理を話し合ったり、チーム戦を楽しんだりするコミュニケーションが重要です。
充実したソーシャル機能を持つゲームジャンルもある中で、デジタルカードゲームではこの要素が十分に活かされていません。そこで私たちは、ギルド機能やギルド対抗戦など、ユーザー間のコミュニケーションや社交が活発化する要素の実装を重視しています。
現在、メソロギアはノープロモーションで20万ダウンロードを達成し、日次アクティブユーザー2,000〜3,000人、毎日ログインするコアユーザー約500人の規模を維持しています。今後はイベントの実施を通じて、さらなるユーザー基盤の拡大を目指しています。
この春に新しいゲームをリリースするそうですね。現行版とどのような違いがありますか?
主に3つの変更を実施します。
1つがデザインの全面刷新です。現行版は大学時代の制作で、フリー素材を使用し予算も数十万円程度でした。新バージョンでは試合欲が高まり、ユーザーが自信を持って他者に紹介できるデザインになります。
2つ目がイベントの充実です。現行版は過去5年間ほとんどイベントを実施できておらず、戦略性は高いものの、カジュアルなユーザーの継続的な参加を促すには不十分でした。新バージョンでは定期的なイベントを実施し、より多くのユーザーが長期的に楽しめる環境を整えます。
3つ目は、デジタルカードゲーム全般に不足しているソーシャル機能を強化し、ユーザー間の交流を促進する点です。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は中高生の頃から事業をしたいと思っていました。学生時代は、1日に複数のゲームを同時にプレイし、毎月新作が登場する中で早くクリアすることと同時プレイを両立させていました。
ゲーム業界に進んだのは、単純にゲームが1番好きだったからです。私は、全てのゲームには改善の余地があると考えています。他のゲーム会社は競合ではなく味方だと思っていますし、私たちが開発した機能を他社が採用することで、業界全体が発展していくことを望んでいます。
起業の成功確率を高めるため、知っておくべきことが2つあります。1つは、インターンを通じたスタートアップの初期段階の理解、もう1つは、中長期的な成長過程を学ぶための大企業での経験です。
そのため、私はモバイルゲーム市場で世界第2位のNetEase Gamesの日本支社に入社しました。立ち上げメンバーの1人として参画し、数百人規模の急成長を経験したのです。約4年間の勤務を経て、コロナ禍が落ち着いたタイミングで独立しました。
エゴを排除し、ユーザーが純粋に楽しめるゲーム作りを
仕事におけるこだわりを教えてください。
スピード感とユーザー理解、そしてゲームの継続的な運営にこだわっています。
ゲームの面白さを損なう最大の要因は、クリエイターのエゴです。映画監督や漫画家にも見られるように、自分の好みや理想にこだわりすぎることで、ユーザーにとって物足りない作品になってしまいます。そのため、過度なこだわりを持たず、ユーザーを理解することを重視しています。
また、開発に時間をかけすぎると、完成時には社会やニーズが変化してしまう恐れがあります。スピード感を保ちながら、ユーザーに価値を届けることが重要です。
ゲーム産業全体としては、サービスを継続する運営を心がけています。たとえユーザーが100人しかいなくても、ゲームがなくなるとそのユーザーは悲しみます。「楽しみたい」というユーザーの思いに応え続けていきたいと考えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
ゲーム事業は、スタートアップとして展開しにくい特殊な領域です。それ故に、最大の壁は事業価値の理解と資金調達の困難さにあります。
一般的なスタートアップであれば、具体的なニーズと販売戦略を示すことができますが、ゲーム開発においては「面白さ」という価値を理解してもらうことが難しいです。「これが面白い」という提案に対して、銀行やベンチャーキャピタルからの理解を得ることは容易ではありません。
また、ゲーム事業は「運要素が高い」という認識から、銀行融資には向いていません。本来はエクイティに適した事業特性を持っているにもかかわらず、投資側からはリスクが高いと判断されてしまうという、負のスパイラルが存在します。
この状況は、日本において顕著です。中国やアメリカではゲームファンドが存在し、エクイティ調達の環境が整っています。一方、日本国内では、ゲーム産業の成熟度の高さや競合の多さから、資金調達の環境は厳しい状況が続いています。
世界を視野に入れ「より面白いゲーム」を作り続ける
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
ユーザーと自分自身のために、より面白いゲームを創出することです。
ゲーム産業への投資が増えるほど、新しい技術や環境が進化し、より面白いゲームが生まれます。例えばVRゲームは、ハードウェアの普及やソフトウェアの不足という課題があります。ですが、適切な投資があれば、より没入感のある体験や、仮想空間での体験も可能になるでしょう。
私が目指すのは、生きている間により面白いゲームを作り続けることです。誰もゲームを作らなくなれば、今のゲームが最高峰で止まってしまいます。だからこそ、ユーザーのため、そして1人のゲームユーザーである自分自身のために、より面白いゲームの創出に挑戦し続けたいと考えています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
今後は特定のジャンルやプラットフォームの展開と、「面白さ」の数値化、そしてグローバル展開に取り組みたいと考えています。
ゲーム産業は、プラットフォームの変遷とともに成長と停滞を繰り返してきました。PCから始まり、ファミリー向け、ポータブル、モバイル、そしてスマホへと、プラットフォームの進化に伴いゲームの形態も変化を続けています。新しいプラットフォームの登場は、予測が難しいですが、その変化に柔軟に対応できる体制が必要です。
また私は、ゲーム産業はより大きくなっていくと考えています。その理由は、AI、ブロックチェーン、VRなど、新しい技術やトレンドのほとんどがゲームと親和性が高いからです。例えば、ブロックチェーンはMMO(多人数同時参加型オンライン)やカードゲームと、VRはホラーゲームや恋愛シミュレーションゲームと、相性がいいと言えるでしょう。
日本のゲーム企業は、成功したジャンルに特化する傾向があります。リスク回避の観点からは理解できますが、新たな可能性を制限することにもなります。例えば、戦略シミュレーションを得意とする会社が、カードゲームを手掛けることで革新的な作品が生まれる可能性もあるのです。
私たちは特定のジャンルやプラットフォームに固執せず、さまざまなジャンルの「面白さ」を分析し、新しい技術との相性を見極めながら、ゲーム開発を進めていきます。
起業することにリスクはない
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
私は起業することに対して、リスクはほぼないと考えています。それは、起業という経験自体が大きな価値を持つからです。
企業が求めているのは、新しい事業を創出し、価値の掛け算ができる人材です。仮に事業が成功しなかったとしても、失敗の理由を論理的に説明でき、その経験から学んだことを明確に示せる人材は、企業にとって非常に価値があります。
特に新規事業の開発においては、実際に経営者として事業に取り組んだ経験があることで、より上位のポジションを獲得しやすくなるでしょう。
起業にはメリットしかありません。迷っているならば、早く挑戦することをお勧めします。
採用を強化されているそうですね。どんな人材が理想でしょうか?
現在は主にエンジニアとクリエイティブ分野の人材を求めています。
エンジニアについては、特にUnity・C#を使用してゲーム設計から実装まで手がけるクライアントエンジニアです。重要なのは、単なる技術力だけでなく、ゲームへの深い理解です。例えば、「このダッシュ速度だと爽快感が足りない」「この数値設定では物足りない」といった、ゲーム体験の質に関する議論ができる方を求めています。
クリエイティブ職、UIデザイナーやイラストレーターには、優れたユーザー理解を持つ方が理想です。「20代男性のカードゲームユーザーが好むイラストの特徴」「はい/いいえボタンの色使いが、ユーザーの直感的な理解を助ける」といった、ユーザー視点に立った細やかな考察ができる方を歓迎します。
共通して重視しているのは、コミュニケーション能力です。ゲームの面白さを追求する過程では、チーム内で議論が必要となります。そのため、自分の考えを明確に伝え、建設的な対話ができる方を求めています。
▼採用情報の詳細はこちら
https://neconome.co.jp/#recruit
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:工藤ショーン 氏
企業情報
法人名 |
株式会社ネコノメ |
HP |
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設立 |
2024年1月23日 |
事業内容 |
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