【#354】残された人が笑って過ごせる未来を作るためにーもしものときに「想い」と「情報」を届けるメッセージ送信サービス|代表取締役 直林 実咲(株式会社tayori)
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株式会社tayori 代表取締役 直林 実咲
株式会社tayoriは、大切な人に向けて生前に想いや必要な情報を残せるメッセージ管理サービス「tayorie(たよりえ)」を運営する会社です。出版社勤務ののち、個人事業主を経て起業し、2024年11月23日にtayorieをリリースした代表取締役の直林実咲氏に、起業の経緯や事業にかける想い、今後の展望などをお伺いしました。
「利用のハードルを下げる」ことにこだわったメッセージ送信サービス
事業の内容をお聞かせください
私たちが2024年11月にリリースしたtayorieは、ユーザー様にもしものことがあったときに、大切な人に想いや必要な情報を伝えられるサービスです。生前に残しておいた想いや情報が、 お亡くなりになったあとに自動で指定の相手に送信されます。
メッセージは基本的にtayorieの公式LINEを通じて送受信されるため、ユーザー様と、メッセージを届けたい相手が直接LINEで繋がる必要はありません。そしてメッセージは、便箋に文字が書かれてるような画像ファイルで届けられます。現在はまだテキストのみですが、今後は写真や動画、代筆による実物のお手紙など、ニーズに応えながら幅広く展開していくつもりです。
ユーザー様の生存確認方法は、「自動確認」と「手動確認」の2パターンから選べます。生存確認は、地方にお住まいのご家族の安否確認としてもご活用いただけます。
tayorieの特長や強みを教えてください
強みは「無料で」「身近なツールを使って」メッセージを残せる点です。tayorieの開発にあたり、私たちは「サービス利用のハードルを下げる」ことに徹底的にこだわりました。
tayorieには遺言書ほどの法的拘束力はありませんが、万が一の時のために何か残しておきたいという思いがある方に気軽に利用していただきたいと思っています。そこでまず考えたのは、金銭面のハードルを失くすことです。
また、心理面についても、いきなり正式な遺言書を作成するとなると行動に移すこと自体が大きなハードルとなると考え、年齢や健康状態に関わらず、誰もが手軽に利用できるツールでメッセージを残せないかと探しました。
そして最終的に辿り着いたのが、LINEです。すでに多くの方が利用するアプリであり、改めて会員登録などをすることなく無料で使えるため、私たちのサービスを形にするには最適なツールだと判断しました。
tayorieには、基本的に「想いを残す」部分と、「情報を残す」部分の2軸があります。
「想いを残す」部分でいうと、誰に宛てても残せる点が特長でしょう。遺言書は相続する相手にしか書けないものですが、tayorieは誰に宛ててもお届け可能です。
「情報を残す」部分については、銀行のパスワードなど、本当に重要な内容は記載できませんが、例えば「どこの銀行に口座を持っている」「どこの保険に加入している」といった情報を記載することは可能です。そうした情報だけでも残せれば、ご遺族が死亡届を持参することで口座が凍結できたり、保険申請の窓口や手続きなどで一次情報が得られたり、とご遺族の負担軽減につながります。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私はtayorieを通じて「残された人が笑って過ごせる未来を作る」ことをコンセプトに掲げているのですが、そこに至った経緯には、私自身の2つの実体験が関係しています。
1つ目は、学生のころに自分自身がうっかり死にかけた経験です。今となっては笑い話ですが、ステーキを喉に詰まらせて息ができなくなってしまい、「今日このまま死ぬんだな」と覚悟した瞬間がありました。そしてそのとき一番に思ったことが、「母親に申し訳ない」だったんです。愛情をかけて育ててくれた母親に対して感謝の言葉ひとつ伝えられないままこんな形で死んでしまうのは、あまりにも申し訳ないと思いました。
結局、そのときは運よく死なずに済みましたが、「人間、いつどうなるかわからない」と強く実感した出来事となりました。年齢や健康状態に関わらず、残される大切な人に想いを残せるようなサービスがあったらいいなと感じた最初のタイミングです。
2つ目は、自分が残される側の立場になった経験です。個人事業主時代に、私にとって「第二の父」ともいえるような存在の方がご自宅の階段から足を滑らせて亡くなりました。そのときに、残された側の人生は大切な人を失ったあとも続いていくことを身を持って知ったんです。
生命保険でお金を残すことはできても、お金だけではカバーできない精神面の悲しみであったり、突然であればあるほど大変なさまざまな手続きであったりがあることを知り、言葉でもしっかり想いや情報を残せるサービスがあればと思いました。
残された人が笑って過ごせる未来を作りたい
仕事におけるこだわりを教えてください。
コンセプトに掲げている、「残された人が笑って過ごせる未来をつくる」ことです。この点は、今後も一貫して目指し続けていきたいと思っています。
今はまだ、私たちが取り組んでいるものが本当に残された人の負担を減らせるツールになるのかどうか、私たち自身も確信が持てていない状態です。もしかすると、1年後は今とはまったく異なるアウトプットツールになっている可能性もあります。それでも、「残された人に寄り添い、サポートする会社」であるところは一貫していくつもりです。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最初の仲間探しの部分です。起業にあたって求めていたのはエンジニアとデザイナーでしたが、技術よりも「想い」の部分で共感できることを重視しました。
仲間探しをしていた頃は、本当にさまざまなところに顔を出し、いろいろな人に会って、自分の想いややりたいことを語り回っていました。そして最終的にプライベートの友人を介して繋げてもらったのが、現在の仲間たちです。
人材探しの機会は、必ずしもビジネスの場に限られるものではないと実感しています。
実現できれば、世界を変えられるー自分がやりたいことだから頑張れる
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
「自分が本当にやりたいことをやっている」ところだと思います。
まだ世にないサービスを広めることはとても大変なことですが、それを実現できれば、世界を変えられると信じているんです。
現在、終活と聞けば高齢者のものという印象が強く、多くの現役世代にとっては死は自分ごととして捉えずらいかもしれませんが、誰しもがいつか必ず通る道です。つまりtayorieは世の中の全員に関われる可能性のあるサービスで、世界を変えられるかもしれないからこそ、そこに向かってがんばろうと思えます。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
サービス面では、今後も「ハードルを下げる」ところにこだわっていきたいです。
例えば、「長年エンディングノートを書こうと思っているが、まだ書けていない」といった声がユーザー様からよく寄せられています。このようなユーザー様からのニーズを今後吸収していき、たとえば、毎日1問1答形式で手軽に答えられる質問をこちらから投げかけ、数ヶ月経って気づいてみればエンディングノートが完成しているといった形を提供していければと考えています。
「死」や「エンディング」と聞くとどうしてもネガティブな印象を抱かれがちですが、「人生の最期に送られる最愛のギフト」といった温かいサービスを目指してアップデートをしていけたらと思っています。
事業全体としては、「日本に知らない人がいない」サービスに成長させたいです。tayorieはLINEを使ったサービスで、LINEは今や多くのご高齢の方も使っているツールです。将来的には、LINEを使うように幅広い世代の方から当たり前のように活用していただくことを想定しています。
また、tayorieが目指しているのは、生命保険と同じ使われ方です。現在、日本国民の約8割が生命保険に加入しているといわれています。そしてその加入理由は「自分自身が病気・怪我をしてしまったときのため」と、「残された家族が困らないため」の2パターンに大別され、人数も約半数ずつに分かれるそうです。
つまり、単純計算で約4割の日本人は「大切な人が困らないように何か準備をしておきたい」と考えていることになりますが、現状はまだ「言葉を残す」概念があまり広まってないために、そのニーズが潜在化してしまっています。その約4割の人たちに認知拡大するのが目下の目標です。
そして将来的には、生命保険や銀行、信託、葬儀会社といった企業との連携も視野に入れています。日本国民全員に届けるためには、すでにそういったユーザーを有している企業で、かつその企業側にもメリットがあるような業界との連携は今後必須になってくると思っています。
起業家として熱量を保ち続けるなら、自分のやりたいことを貫こう
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
周囲の言葉に惑わされず、自分のやりたいことを貫くのも手だと思います。
「マーケットイン(market in)」と「プロダクトアウト(product out)」をご存じでしょうか。 マーケットインは、すでに市場にニーズが存在しているものに対してプロダクトを投入していくやり方で、一方のプロダクトアウトは、自分たちが必要だと思うプロダクトを市場に投入していく方法です。マーケットインのほうがビジネスの成功確率が高いとされていますが、今私たちが展開しているサービスはプロダクトアウトに該当するでしょう。
成功確率や安全性から見るとマーケットインが有利なことは否めませんが、それと同時に、自分たちが本当にやりたいことをやる、ニーズに合う形にして届けていくことも、起業家として熱量を保ち続けるひとつの方法だと思っています。私自身も、tayorieを成功させて世に広めることで、こういった成功の形もあり得ると示していきたいです。
tayorieを利用される方へのメッセージもお願いします
tayorieの本質的な価値は「自分が書いたものが相手に届けられたときに、受け取った人があたたかい気持ちや前向きな気分になれる」ところにあると考えていますが、ユーザー様からは、「メッセージを書いているときにも新たな気づきがあった」といったご意見をよくいただきます。
「こんなに大好きな相手なのに、日頃あまりありがとうを伝えられていなかった」「改めて相手をもっと大切にしたいと思った」など、メッセージを書くなかで気づくことも多いようです。そしてこれは、私自身も自分で書いて実感したことでもあります。
ですので、想いを「届ける」ことももちろん大事ですが、「自分の大切な人と向き合う時間を作る」ところも含めて、tayorieを楽しんでいただけたらと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:直林 実咲氏
大学卒業後、出版社 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンへ入社。その後、2023年に株式会社tayoriを設立。「残された人が笑って過ごしてくれる未来を作るための頼りとなる」をミッションに掲げ、もしものときに想いと情報を指定の相手に自動で送信するWEBサービス「tayorie(たよりえ)」を運営。
企業情報
法人名 |
株式会社tayori |
HP |
https://tayorie.jp/?utm_source=kigyouka_jp&utm_medium=article&utm_campaign=post_202502 |
設立 |
2023年12月14日 |
事業内容 |
メッセージ管理サービス「tayorie」の運営 |
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