
株式会社DOYAKAI 代表取締役社長 笠井 亮人
株式会社DOYAKAIは、食事制限のある方々「フード・マイノリティ」のための食のインフラ構築に取り組む企業です。日本初の食事制限者向け総合店舗検索サイト「Japanese Heart」の運営を軸に、アレルギー、ベジタリアン、ヴィーガン、ハラル食に対応した商品開発やECサイト運営を展開しています。独自開発の乳酸菌入りジェラートなど、「誰かが」ではなく「誰もが」食べられる商品の開発・販売を手掛け、食の多様性に配慮した社会の実現を目指しています。代表取締役社長の笠井 亮人氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
日本初「食事制限者向け」の総合店舗検索サイトを展開
事業の内容をお聞かせください
「フード・マイノリティ」のための食のインフラ向上と、社会貢献型ビジネスの新しい形を目指す企業として活動しています。
「フード・マイノリティ」とは、アレルギー、ベジタリアン、ヴィーガン、ハラルフードなど、食事制限のある方々のことを指しています。事業の始まりは、身内にアレルギーを持つ子どもができたことがきっかけでした。その子の親から「安心して子どもと外食したいが、お店が見つからない」といった相談を受けたのがきっかけでした。
当時、ハラル対応、ヴィーガン対応、アレルギー対応など、それぞれの団体が個別に情報発信をしていました。しかし、自分たちが推奨するお店を紹介するにとどまり、「今いる場所の近くで食事ができる店」を探せる総合的な店舗検索サイトではありませんでした。
また、ベジタリアンの方もハラルフードを食べられる場合があり、ハラルフードが食べられる人ももヴィーガン食を食べられるのに、連携がないことに疑問を感じました。
そこで2020年に、日本初となる食の有識者によるフード・マイノリティのための総合店舗検索サイト「Japanese Heart」を立ち上げました。現在5年目を迎え、食事制限のある方だけでなく、制限はないが友人に制限がある方や、健康志向で利用される方も多くいらっしゃいます。
日本国内では、食物アレルギーが約12%、ベジタリアンが5〜6%、ムスリムが約23万人と、フード・マイノリティは比較的少数です。そのため、これまでビジネスとして注目されてきませんでした。しかし、世界的に見ると、アレルギー、ベジタリアン、ウィーガン、ハラルの4つのカテゴリーに該当する人は約77億人中約31億人、つまり2人に1人の割合になります。
今後、3,500万人以上のインバウンド需要の増加や、少子化に伴う海外からの労働者の受け入れ拡大、大阪万博など国際的なイベントの開催により、日本にも世界基準の食のインフラの向上が必要不可欠となってきます。それに対応できる、食のインフラ整備に取り組んでいます。
また、コロナ禍での「行きたいお店に行けない」「遠方のお店の商品を食べたい」といったお客様の声に応え、食事制限の方に対応したオンラインショップも展開しています。
オンラインショップを展開していく中で、新たな気づきが出てきました。ヴィーガン対応と言いながら添加物だらけの商品、グルテンフリー対応というハンバーグなど、誰かは食べられるのでしょうが、誰かは食べられない商品が多いことに気づきました。そこで、フード・マイノリティの人たちでも食べられる=世界中の人たちが食べられるという発想の転換から、ヴィーガン対応の乳酸菌(ナリネ菌)を使用した「三ツ星ジェラート」の開発・販売を始めました。今後も第2弾、第3弾の商品開発を進め、世界中の人が食べられる商品ラインナップの拡充を目指しています。
店舗検索サイトに執筆する方のサポートもされているとお聞きしました
店舗検索サイト「Japanese Heart」では、食の有識者の方々に記事を書いていただいているのですが、その多くが独立を目指していたり、独立して弊社の取り組みに賛同してくれている管理栄養士の方々です。
実は管理栄養士という職業は、給与水準が決して高くありません。そこで私たちは、単なる記事執筆の場を提供するだけでなく、管理栄養士のキャリアアップをサポートする「MIND YOU」という講座を昨年7月から始めました。
一般的なオンラインサロンは「教えて終わり」になりがちですが、私たちは講座修了後の出口を用意しています。例えば、ライター講座を受講した後に、弊社のJapanese Heartのライターとして活動することで、講座に自己投資した費用を回収できる仕組みを整えています。顔出しで記事を書くことで実績にもなり、独立への足がかりにもなります。
この事業は、弊社がサポートする形で運営することで、管理栄養士の方々のキャリアアップを総合的にバックアップしています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は、杜氏の息子として生まれました。父は大手酒造メーカーで45年間杜氏として働き、黄綬褒章を頂く匠の父の背中を見て育ちました。父がお米や水にこだわり、酒造りを追求する姿を見る中で、自然と食材の品質や安全性について関心を持つようになったのです。
一方で、近年の食の安全に関する意識の低下が気になっていました。添加物や農薬、化学調味料の使用増加に伴い、アレルギーやアトピー性皮膚炎で悩む若い世代が増加している現状を目の当たりにし、強い危機感を覚えたのです。
そこで、「食の安全」に関する情報発信の環境を整備したいと考えました。特に、食物アレルギーをお持ちの方や、ベジタリアン、ヴィーガン、ハラルフードなど、食に制限のある方々が安心して利用できる店舗検索サイトの必要性を感じました。
日本から世界に向けて食の安全に関する情報を発信し、次世代に残せる仕事をしたい。そんな思いで、現在の事業を立ち上げました。
誰もが幸せになる事業を展開する
仕事におけるこだわりを教えてください。
最も大切にしているのは「誰かが」ではなく「誰もが」といった視点です。そして、すべての人たちがWin-Winの関係になれる事業を展開することにこだわっています。
この考えは、フード・マイノリティに向き合う中で生まれました。具体的に言うと、「ベジタリアンっていつからあるか知ってますか?」と私はよく質問します。多くの人は「私はベジタリアンだから」「肉を食べないから」といった表面的な理解で止まっています。
ベジタリアンの歴史は紀元前7世紀のインダス文明から始まっていて、シルクロードを通じてキリスト教文化圏にも広がっていきました。ただ、少数派だったために一時期は途絶えてしまい、日本の隠れキリシタンのように陰で続いていました。
この話を知っている人は、なかなかいません。しかし、これは決して誰かを否定するためではなく、お互いの理解を深めるためにあります。
だからこそ、私たちは三つ星ジェラートでも「誰もが食べられるもの」を目指しています。食の有識者キャリアアップ講座「MIND YOU」でも、誰かが誰かを助けることで、関わるすべての人がプラスになるといった、みんなが幸せになれる関係性づくりを大切にしています。
これは私たちのビジネスの根幹にある考え方で、今後も変える予定はありません。誰かが幸せで誰かが不幸になるのではなく、みんなが幸せになれるWin-Winの関係を作ることが、私たちのこだわりです。
起業から今までの最大の壁を教えてください
「0から1」を生み出す難しさと、新しい価値を理解してもらうまでの道のりです。
私たちは今、まったく新しいものを作っています。そのため、興味を持ってもらうことが非常に難しいです。良い事業であるといった自負はありますが、売上に直結するかというと簡単ではありません。
例えば、弊社で1日10円の社会貢献ができる「Japanese Heart」のWebアプリを制作しました。東京だと、電車のルートを少し変えるだけで10円なんて簡単に浮きます。しかし、その1日10円、月額330円の有料アプリを買うといった発想が、なかなか受け入れられません。
先ほど申し上げたように、日本ではベジタリアンは10人に1人程度です。つまり、残りの9割の方々にとっては「自分には直接関係ない」「なくてもいい」と思われがちです。いい取り組みであっても、なかなか賛同してもらえなかったり、興味を持ってもらえなかったりといった経験を何度もしてきました。
店舗検索サイトもWebアプリも、立ち上げた後の継続の難しさを痛感しています。今、三つ星ジェラートでチャレンジしているのも、これまでの経験を活かしながら、壁を乗り越えたい思いがあるからです。
次世代に繋がる必要な事業だと確信している
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
「これは絶対に必要だ」と自信を持っていることです。世の中にこれから必要なものを作っている確信があります。確実に次世代に繋がる、伸び代のある取り組みだと感じています。
もう一つは、純粋な好奇心です。「これがうまくいったら楽しいかも」という期待感やワクワク感、0から会社を作り上げていく新規事業ならではの面白さがあります。それ自体が、私にとって大きなやりがいになっています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
「三つ星ジェラート」を成功モデルとして確立させたいと考えています。
正直、まだトライアンドエラーの段階で、ビジネスとして売上や利益に直結していない部分もありますが、うまく形にしていきたいです。具体的には、国内外で100の販路確保を目指し、ブランド認知度を高めていくことが当面の目標です。
特に注目しているのが、世界展開の可能性です。国内と海外では、戦略が大きく異なります。例えば、日本では「乳酸菌」という言葉に慎重な反応を示される方もいらっしゃるので、あえて前面には出していません。
しかし、乳酸菌はすでにヨーロッパの20数か国で認められていて、サプリメントとして広く普及しています。特に海外では、この乳酸菌のエビデンスを見れば、即座に価値を認めてもらえる確かなデータがあります。
そのため、市場特性に合わせた柔軟な戦略を考えています。三つ星ジェラートのブランドを軸にしながらも、海外では乳酸菌を前面に出すなど、さまざまな形での展開を検討しています。
最終的な目標は、単なる利益追求ではありません。世界中の人々が楽しめる商品を提供し、新しい食の可能性を広げていける環境を実現したいと考えています。
年齢も経験も関係ない。興味があることを追求し続ける。
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
「起業したい」と思ったときが、始めるベストなタイミングです。
私自身、食のプロではありませんが、身内に食事制限のある人がいたことをきっかけに、その課題に向き合ってみました。面白い発見がたくさんあり、追求していくうちに「マイノリティ食の研究家」になっていました。これは、自分の中で気づいたことを突き詰めていった結果です。
起業したい方は、日々アンテナを張り、変化に気づく感性を大切にしてください。また、自分の時間の使い方、生活リズムを大切にすることで、新しい視点や考え方が見えてくるものです。「これはうまくいくかも」といった直感を大切に、諦めずに追求していけば、きっと面白い展開が起こるでしょう。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:笠井 亮人氏
大手酒造メーカーで杜氏として黄綬褒章受章という、匠の父の背中を見て育つ。大学卒業後、色々な業界で営業を経験。
2007年から異業種交流の食事会「どや会」主宰。
2018年IT企業で勤務しながら現会社「株式会社DOYAKAI」設立。
2020年日本初!食の有識者によるフード・マイノリティのための総合店舗検索サイト「Japanese Heart」を中心にECサイト運営。
2024年11月6日あるようでなかった、世界中の人たちが食べられる!「三ツ星ジェラート」販売開始。
食に制限のある人たちが、安心して安全に食べられるように、日本の食のインフラの向上と社会貢献に向き合いながら、「誰か」ではなく、「誰も」の考えを軸の食品メーカーを目指して活動中。
企業情報
法人名 |
株式会社DOYAKAI |
HP |
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設立 |
2018年6月6日 |
事業内容 |
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