株式会社Luna 代表取締役 後藤 慶士

口コミだけで世界46か国8万人のユーザーを獲得し、現在も拡大し続けているマッチングサービス「Luna」。特殊性癖を持つ人を対象としたそのサービスは、彼らが自身の嗜好や考えを否定されずに生きるための居場所なのだと、代表取締役の後藤慶士氏は語ります。今回は後藤氏に「Luna」の詳しい事業内容や今後の展望についてお聞きしました。

 

特殊性癖を持つ人たちが、仲間とつながれるマッチングアプリ

事業の内容をお聞かせください

弊社は特殊性癖を持つ方々の居場所づくりのための事業を手がけています。

 

具体的には、LGBTQ+やSM、フェティッシュ、いわゆるKinkyと呼ばれる方々を対象としたマッチングアプリが主力事業です。それに加えて各種イベントの運営や、性癖の問題が障害となってパートナー探しに悩んでいる男性の方の相談に乗る支援サービスなどを行っています。

 

マッチングアプリ「Luna」は特殊性癖を持つ方々を対象としている点を除けば、その他のマッチングアプリとほとんど変わりはありません。最初にお会いするときは、カフェでお茶をしたり、お食事をしたりといったところから始めるようお願いしていますし、実際に「Luna」の出会いをきっかけとしてパートナーが見つかった、結婚できたというお声もいただいています。

 

特殊性癖に特化したマッチングアプリというと、世間的にはどうしてもアダルトなイメージが先行してしまいます。海外の類似サービスを見ても、「Luna」のようにクリーンなイメージを打ち出しているものは見つかりません。つまり、純粋に「同じ性癖を持つ人と交流したい」というニーズを満たせるサービスが、これまで存在しなかったのです。

 

我々が取り組んでいるのは、そうした性癖がもはやアイデンティティの一部になっていて、世間からそれを否定されることで傷ついている方々に「あなたは独りじゃない」と寄り添うサービスを提供することです。自分を押し殺して生きている人も、同じような仲間が集まるコミュニティさえあれば、自分らしくいられます。実際にイベントなどを開催すると海外からもたくさんの人が集まり、私に直接「人生が変わりました!」とお手紙をくださる方もいます。

 

現在マッチングアプリ「Luna」は世界46か国の8万人のユーザーに支えられていますが、これまでサービスの認知拡大のために広告を出したことは一度もありません。すべてが口コミで広がっており、居場所を求める方々が自然と「Luna」に集まってきてくれることで事業が成り立っています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

多様性が叫ばれる今、特殊性癖を持った人にも安心して自分の嗜好をオープンにできるコミュニティが必要だと強く感じ、事業の立ち上げを決意しました。

 

私自身がKinkyの一人だからこそ分かるのですが、社会には本来の自分を必死に押し殺して生きる人がとても多く存在しています。

 

インターネット上にはKinkyの仲間が大勢いるのに、一般社会ではほとんど出会うことがないのは、ある意味で異常な状況です。それだけ多くの人が、「もしも知られてしまったら酷い扱いを受けるのではないか」という恐怖を感じながら、自分の嗜好を隠し続けているということだからです。

 

このような背景もあり、起業当時は起業のリスクや儲けのことなどは頭になく、ただ必要なサービスを自分の手で作り出すワクワク感だけで最初の一歩を踏み出しました。

 

それまでの経験から、新規事業の立ち上げと事業規模の拡大に関してはノウハウがありました。新しいサービスの立ち上げでは、いつも一人目のユーザーをどう捕まえるかを非常に重視していますが、「Luna」に関してもリリース前からいかにファンを作っていくかの戦略は練っていました。

 

ただ驚いたのは、実際に準備段階で「こういうサービスを始めようと考えている」と話しただけで、「自分も手伝いたい」と多くの人が集まってくれて、ベータ版リリース時点であっという間に1,000人ほどのユーザーを獲得できたことです。

 

さらにリリースから一ヶ月で1万人、その後も口コミだけで毎月ユーザーが増え続け、ありがたいことに借入や資金調達に頼ることなく初年度で黒字化を達成できました。実際に事業を始めてみて、こんなにも多くの人に望まれていたサービスだったのだと、創業者の私が改めて気づかされたのです。

 

何かを選択するときは、自分が楽しいと思える道を

仕事におけるこだわりを教えてください。

仕事においては、自分自身が楽しむことを大切にしています。

 

何かを選択するとき、損得やデメリットについて考えるのは一旦後回しにして、まずは自分が楽しいと思える道を選んでいます。何を楽しいと感じるかでいうと、私の場合は、モノづくりとユーザーに喜んでもらうことの2つです。

 

「Luna」は大勢のKinkyの仲間に喜んでもらえるサービスですし、多様な性を持つ方々が交流できるプラットフォームをこの手で作ることができて、本当に嬉しく思っています。さらにその仕組みが今どんどん大きくなっていって、これからもこの事業を続けられることを心から「楽しい」と感じています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

つい最近のことではありますが、巨額の予算をかけたシステム開発がうまくいかず、「Luna」のリニューアルが失敗に終わってしまったことです。

 

大規模なプロジェクトが頓挫するのはかなりの痛手ですし、何よりも「Luna」のユーザーの方々に多大なご迷惑をお掛けしてしまったのは精神的にも辛い出来事でした。

 

予算をかけたリニューアルではありましたが、ユーザーの皆さまへの影響を考えて、最終的には完全に白紙に戻すことを決めました。一旦新しいシステムの開発は諦めて、現在は従来のシステムで「Luna」のサービスを継続させています。

 

リニューアルの失敗はショックが大きかったですが、ユーザーの皆さまにとってベストな選択ができたと考えています。

 

傷ついている人たちを、バッシングから守りたいという想い

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

「Luna」というサービスの存在意義が、今の私のモチベーションです。

 

特殊性癖を持つ方々への社会の風当たりは非常に強く、事業として取り組んでみて、それはより一層強く感じられるようになりました。この事業内容では公庫からの借り入れもできませんし、民間のサービスにもいくつも利用を断られています。他の企業であれば当たり前にできることが弊社にはできないのです。

 

これと同じことが、一般ユーザーのレベルでも起きています。他の人が普通にパートナーを見つけて普通に結婚していくのに、特殊性癖を持つ方にはそれができません。彼らは、パートナーに自分の嗜好を知られると「気持ち悪い」と拒絶されるリスクを常に抱えているからです。

 

それだけでなく、世間からのバッシングに晒されて孤立感を深め、助けを求めたくても誰に求めていいのか分からないのが現状です。そのため人によっては自ら命を断ってしまうケースもあります。私は「Luna」がそうした世間からの攻撃の防波堤になればと願っていますし、傷ついている方々を守りたいという想いが事業を続けていくモチベーションになっています。

 

そしてもう一つ「Luna」の存在意義として重視しているのが、ユーザー側に正しい情報を届けることです。

 

特殊性癖は世間で認められにくいがゆえに、情報が圧倒的に不足している世界です。例えばSMなどは、アダルトビデオの影響もあってか肉体的なものだと捉えられがちですが、実際には限りなく精神的な嗜好なのです。

 

ただ、当事者であってもそうした正しい知識を持っていない人がとても多く、誤った認識の下で事故が起きてしまうケースもあります。この領域で安全に嗜好を深めていくためには、もっと教育が必要だと感じます。

 

まずは国内でそうした内側に向けての正しい情報発信をしていき、ゆくゆくはそれをグローバルに広げていきたいと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

今後の展望としては、「Luna」で一つの経済圏を確立したいと考えています。「Luna」を入口として、その世界に入れば、特殊性癖を持つ方々のすべてのニーズが満たされるような場を作りたいと考えています。

 

具体的なユーザーのニーズとしては、「出会いたい」「知りたい」「つながりたい」「物が欲しい」の4つを想定しています。そのうちの「出会いたい」については、現在まさに取り組んでいるマッチングアプリと、男性向けに恋愛相談やサポートを行うコンシェルジュサービスで、すでに実践しています。

 

2つ目の「知りたい」、つまり特殊性癖についての情報が欲しいというニーズに応えるために、現在は大学の研究室と連携して、SMを科学的・医学的に分析する試みを始めています。いずれは学術論文も公表する予定で、それによって「Luna」の内側だけでなく、外の世界に向けても、Kinkyの正しい姿を知ってもらいたいと考えています。

 

3つ目の「つながりたい」というニーズを満たすのは、特殊性癖を持つ人同士で交流ができるコミュニティの構築です。これはどんな趣味嗜好の方にも言えることですが、人間には仲間同士で横のつながりを持ち、自分の好きなことについて語り合いたいという欲求があります。

 

弊社では海外からも人が集まる大きなイベントを定期的に実施していますが、そうしたリアルなつながりによって特殊性癖のコミュニティを構築し、マッチングアプリで「出会いたい」というニーズを満たしたら、次はそのコミュニティ内で楽しんでもらう流れを作りたいです。

 

最後の「物が欲しい」というニーズは物販の事業としてEコマースで対応できます。特殊性癖の人が求めるアイテムは、一般的なECサイトではまず手に入りません。通常は職人が個人で制作を請け負うのですが、情報が無ければどこの誰に依頼すればよいのか分からないのが現状です。そこで弊社が間に入って、求める人に商品が届くようにすれば、職人とユーザー双方にメリットがあると考えています。

 

今後はこの4つのサービスに注力して、5年以内に世界で30万〜40万人のユーザー獲得を目標にしています。

 

同じ時間をかけるのであれば、起業家としての経験を

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

私はスタートアップに創業メンバーとして加わった経験も含めて、17年間会社勤めをしてきました。その経験から一つ言えることは、自分で起業してからの2年間のほうが仕事としての密度は遥かに濃いということです。

 

将来的に起業を考えていて、まずはスタートアップなどに参加して経験を積もうと考える人は多いと思います。ですが今では、同じ時間をかけるのであれば絶対に自分で事業をやったほうが良いと確信を持って言えます。

 

たとえ失敗したとしても、若いうちであれば大した痛手にはなりません。だからこそ起業は一日でも早いほうがいいのです。同じ時間をかけても、得られるものがまったく違います。構想があるのであれば、ぜひ起業して自分の力でやってみて欲しいと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:後藤 慶士氏

大学在学中にわずか2名のスタートアップ企業へ飛び込み、会社の創業メンバーからキャリアをスタートしました。

2012年に立命館アジア太平洋大学を卒業後は、新卒採用コンサルティング業務を担い、大手企業やスタートアップに対しての採用支援を行っていました。その後AI×適性検査を活用したBtoB事業を立ち上げPMFを達成させ、さらに2020年からはAI×メンタルヘルスの新規事業を立ち上げ、こちらも短期間でPMF&事業規模を拡大。担当していた事業を数億円規模へと成長させたのちに退社。その後、自ら設立した株式会社Lunaにて、SM/Kinky分野に特化したマッチングコミュニティ「Luna」をリリース。ローンチからわずか1ヶ月で1万人のユーザーを獲得したうえ、初年度から借り入れや調達に頼らず黒字化を達成。

サービス開始から2年半が経過した現在では、世界46カ国8万人規模の利用者を抱える日本最大級のSM/Kinkyコミュニティへと成長。新規事業立ち上げのプロフェッショナルとして多様な嗜好を持つ人々が安心して集えるプラットフォームを提供し続けています。

 

企業情報

法人名

株式会社Luna

HP

https://luna-company.com/

設立

2022年8月

事業内容

LGBTQ+コミュニティ/マッチングサイト運営

沿革

2022年7月 SM/Kinky嗜好に特化したマッチングサイト「Luna」を正式リリース 

2022年8月 株式会社Lunaを創業 

2023年8月 「Luna」のユーザー数が4万人を突破 

2024年4月 「Luna」のユーザー数が6万人を突破 

2024年7月 SM/Kinky婚活・お見合い特化型サービス「Lunaコンシェルジュ」をプレローンチ(試験的サービス開始)

2024年9月 「Luna」のユーザー数が世界46か国7万人突破 

2024年10月 エンジェルラウンドでの資金調達を完了

2025年2月 「Luna」のユーザー数が世界46か国8万人突破 

 

送る 送る

関連記事