
ORKAホールディングス株式会社 代表取締役 神谷 卓宏
ORCAホールディングス株式会社は、「運動を超える、新たな病気予防の手段を創造する」を理念とするヘルステック企業です。科学的な根拠に基づいた研究を行い、細菌に着目したドクターズプロダクトを販売しています。同社代表取締役の神谷卓宏氏に、事業を始めた経緯や、今後の展望を伺いました。
病気予防の新たな製品を開発
事業の内容をお聞かせくださいほ
当社は酪酸菌をはじめとする、乳酸菌やビフィズス菌などのさまざまな細菌を研究しています。単一の菌に絞って研究するのではなく、複合的な菌体として研究を進めているのが大きな特徴です。
現在はバクテリアを軸とした医薬部外品や化粧品、健康食品といったプロダクトをクリニック向けに販売しています。
当社の製品は、医師が診察結果に基づいて推奨するいわゆる「ドクターズサプリ」です。この形態で患者さまにサプリを提供することで、病気の発生を防ぐ一次予防ではなく、病気を早期に治療する2次予防でもなく、病気になった人の機能を回復させる3次予防(リハビリ)の役割を果たしたいと考えています。
この事業を進める中での当社の強みとして、病院と提携しているため医療データを効率よく集めることができる点があります。
例えば、糖尿病の患者さんで既存の薬が効かない方に対し、どんなアプローチをかければいいのかを知るためには新規のデータが必要です。ただ被験者を集めることがとても難しいです。その点当社は、事業を進めながら貴重なデータがどんどん集まってくるのです。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
大学で脳と運動の研究をしていました。簡単にいうと「脳を興奮させるには運動が一番」であると証明する研究です。当時ジムでアルバイトをしていた私は、「メディカル要素が加わったトレーニングには需要があるのでは」と考え、新しいコンセプトのパーソナルトレーニングジムを中目黒で始めました。
当時としてはニッチな分野を攻めたこともあり、売り上げはすぐに立ちました。そのあと、大学の倫理委員会から認可を受け、日本初の医科学研究所併設トレーニングジムとして認められました。
ジムの利用者はさまざまな疾患を持った4-50代の方が大半です。研究をする上で一番難しいのは被験者として集めることだといわれている中で、当社はお客さまからジムの利用料をいただいた上で、貴重なデータを収集することができました。具体的には脳波を調べたり、ホルモンや腸内細菌、口腔内細菌を採取したりしました。
ただ、データが集まるにつれて奇妙な事実が浮かび上がってきました。運動をしていても、論文通りの良い結果がなかなか現れないのです。その理由は何なのか。さまざまなデータを調べた結果、ある2つの細菌の存在が関係しているのではと考えました。腸内細菌と口腔内細菌です。
そこで私は「脳の活動に良い影響を与えるには、腸内細菌の働きが大きく関わっている」との仮説をたて、腸内環境や口腔環境を改善すると人の健康状態はどう変化するのか、調べてみることにしました。
一番効果があるのは、腸内細菌を摂取した上で運動をしたグループです。ここまでは容易に想像できますが、驚いたことにその次に効果が高いのは腸内細菌を単体で採った人たちで、運動だけしている人は最下位だったのです。
手軽に腸内細菌を飲むだけで運動よりも良い効果が得られるなら、皆がこの選択肢を選ぶでしょう。ならば我々がやるべきことは、運動より腸内細菌の研究だと考えました。そのあと大学院の細胞生物学・生命科学研究室に入って研究を重ね、現在の事業へと舵を切りました。
運動よりも効果が高いとは驚きです。
そもそもの話ですが、日本におけるフィットネスの普及率は非常に低いです。米国だと15〜20%、韓国だと10%なのに対し、日本は約5%しかありません。
普及が進まない背景には、日本の充実した保険制度があると思っています。日本では病気になるとすぐに病院へ行こうと考える人が少なくありませんが、それは医療費の自己負担額が低く抑えられているからです。もし医療費が全額負担だったら、気持ちは違ってくるかもしれません。
あまりに充実した制度に守られているため、日本人のヘルスリテラシーがなかなか上がらないのだと思います。
加えて日本はサプリメントの普及率も低いです。運動するにしてもサプリメントを採るか採らないかで効果は変わるのに、その認識は一部の人だけにとどまります。病気になっても医者が処方した薬を飲んでおけば大丈夫との認識が強いからでしょう。効果もよくわからないままなのにです。
海外ではサプリメントが普及して医療費が7兆円下がったともいわれています。我々は今後、当社の研究成果や商品を学会で積極的に発表することで、サプリメントを使って日本のヘルスリテラシーを高めていきたいと考えています。
科学的根拠に基づいた高付加価値商品だけを提供
仕事におけるこだわりを教えてください。
運動はある程度病気を改善する万能薬だといわれています。糖尿病でも高血圧でもなんでも運動すれば良くなるでしょう。
でも私に言わせると、運動の効果は論文通りには現れません。とはいえ、運動は健康改善に30%の効果がありますが、健康食品などはせいぜい5%程度です。
運動よりも効果の少ない商品を世に出す必要性は感じません。当社の意義は、運動よりも効果が高くて新しい病気予防の手段を創ることです。科学的根拠に基づいた健康に関する研究開発を続け、高付加価値な商品だけを提供することにこだわっています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
幸いなことに、今まで資金を調達する必要がありませんでした。2014年には会社を立ち上げて以来黒字が続いており、被験者もお金を払ってジムに来てくれたからです。大学院に入学してからは研究費もほとんどかかりません。
ですが、ここからは今後現れるであろう資金調達の壁を乗り越えないといけないと思っています。
仮説を証明するのが楽しい
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
目標を決め、達成することが単純に好きなんです。今は、たくさんの人たちが簡単に健康になれる手段を生み出すことに、大きなモチベーションを感じています。
その延長として、皆が健康でいられる世の中になってほしい、と思っています。
もちろん、研究自体にもやりがいを感じます。研究では自分が立てた仮説を証明していくので、自分が思った通りのデータが出てきたときは、やっぱり気持ちが良いです。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
いずれは医療分野でのデータベース会社になろうと考えています。契約クリニックの数を5千、一万と増やしていき、そこから取得したデータを飲料会社や製薬会社、商品会社などに販売する未来を描いています。
そのためにも、今は主に首都圏でクリニックの開拓や病院の代理店との契約に力を入れています。当社のサプリメントは29の診療科目に適用できますが、まずは皮膚科、内科、歯科に絞って展開していきます。
サプリメントを発信するために、学会にも積極的に参加します。医学系の学会は年間1000回あるともいわれています。資金調達が決まれば、週に4回ほどは学会に出向くつもりです。この1年は、とにかく足を動かす期間だと捉えています。
ドクターズサプリメントと薬を併用して処方するやり方は、海外ではすでに主流なやり方です。日本でもこの方法をスタンダードにしていきたいです。
大事なのは自分の人生だということ
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
大事なのは自分の人生だということ。他の人に何を言われようと自分の思うようにやった方がいいと思います。
否定的な声が大半です。失敗する方が確率的に高いんですから、当然ですよね。いずれにせよ、人に迷惑をかけないことは大前提として、あとは思い存分好きにやった方がいいと思っています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:神谷卓宏氏
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 修士課程
京都大学大学院人間・環境学研究科 課程外博士(博士未取得)
早稲田大学大学院修了後、京都大学大学院細胞生物学研究室共同研究者として生理学研究に従事。2014年にORKAホールディングスを設立。
企業情報
法人名 |
ORKAホールディングス株式会社 |
HP |
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設立 |
2014年5月 |
事業内容 |
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