株式会社ガクシー 代表取締役 松原 良輔

株式会社ガクシーは、奨学金のプラットフォームを運営する企業です。わかりにくく煩雑という印象がある奨学金の仕組みを、情報の透明性を高め手続きをデジタル化することで利用体験を向上。若者の教育機会を拡大するため、新しい奨学金の創出にも取り組み、日本の奨学金事情の改善に貢献しています。代表取締役の松原 良輔氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

日本のほぼ全ての奨学金情報がわかる奨学金サイト「ガクシー」を運営

事業の内容をお聞かせください

奨学金のプラットフォームを運営しています。学生・保護者向け奨学金検索サイト「ガクシー」と、クラウド型の奨学金運営管理システム「ガクシーAgent」といった2つのサービスを展開し、これらを合わせてプラットフォームとして提供しています。


さらに、このプラットフォーム上に新しい奨学金を創出して学生に届ける、つまり奨学金の総量を増やす取り組みも始めています。

 

現在、日本では何らかの奨学金を利用している学生や若者は全体の55%以上で、2人に1人を超える割合で奨学金を活用している状況です。しかし、奨学金の情報が一か所に集約されておらず、十分に周知されていないことが現状の課題です。


また、日本と海外の奨学金事情には大きな差があります。まず流通している総額が圧倒的に差がありますし、仕組みや社会的な位置づけも全く違います。例えばアメリカでは、奨学金は積極的に活用すべきもので、奨学金を獲得することは名誉とされています。一方、日本では奨学金はまだ「借金」といったイメージが強く、借りていることが「家計が苦しい証拠」と思われて恥ずかしいといった認識も根強く残っています。

 

日本国内の奨学金の規模としては、当社が把握している限りでは、年間の流通額が約1.6兆円です。ただし、インターネット上に情報が公開されていないものもあるため、完全には把握できていません。この1.6兆円のうち、約6〜7割弱が日本学生支援機構(JASSO)のもので、残りが財団、企業、個人、自治体などから提供されています。つまり、数千億円規模の比較的知名度の低い奨学金が存在しているのです。

 

これらの情報収集については、最初の1〜2年はインターネット上の情報を収集しつつ、手作業でも情報を集めていました。最近では「ガクシーに掲載したい」といった問い合わせもいただくようになり、そうした形でも情報が集まるようになってきました。

 

奨学金には実はたくさんの種類があり、返済不要の給付型奨学金も多いのですが、そうした情報が十分に広まっていません。特に高校3年生になると学費は保護者が考えることも多くなるため、これらの情報は学生だけでなく保護者も知ることが重要だと考えています。

 

私たちのサービスの強みは、従来アナログで行われていたプロセスをオンライン化した点です。これにより、奨学金を提供・運営する側の負担が大幅に軽減されます。その結果、簡単に奨学金制度を構築・運営できる環境を整えることができました。
社会全体でも若者支援やSDGsが重視される中、手軽に奨学金事業が実施できるプラットフォームがあれば、資金提供者と受給者の両方が増えると考えています。

 

最近では認知度が広がり、会員数も35万人を超えました。(2025年4月時点)しかし、まだまだ知られていない奨学金も多く、中には100万円の給付型奨学金に応募者がゼロといったケースもあります。所得が低い層に対しては国の支援制度がありますが、中間所得層では自ら情報を収集しないと機会を逃してしまうといった状況が続いています。



そのため、私たちのサービスでは奨学金のアラート機能を強化し、各利用者の条件に合った奨学金情報を適切に通知できるよう努めています。サービスは無料で提供していますので、多くの方々にご登録いただきたいと考えています。

 

奨学金の使いにくさをどのように解決していますか?

従来の奨学金手続きは紙ベースで煩雑でしたが、当社システムでは全てデジタル化しています。現代的なUI/UXを採用し、奨学金に関わる全ての機能を1つのプラットフォームに集約しました。

 

運営側と学生側のコミュニケーションがスムーズに行えるメッセージ機能や、タスク管理機能を備え、締切や必要書類が明確に把握できます。また、紙を使わずに手続きを完了させることができます。


「いつまでに返済すべきか」「どこまで返済したか」といった情報管理の問題も解決し、奨学金の利用体験を大幅に向上させています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

三井化学に新卒入社したのち、1社目を起業して売却し、現在は2社目となるガクシーを経営しています。前職では、海外の学生を日本企業が採用する際のサポートを行っていました。

 

世界中の大学や学生と関わる中で強く感じたのは、海外の学生は経済的な心配をあまりせずに、自分のやりたいことや学業、新たな挑戦に集中できているということです。一方で、日本の学生の多くは、経済的な制約を抱えていました。

 

その中で「今後の日本を30年支えていくのは今の若者である」といった思いが強くなりました。そこで「日本と若者のために何か貢献できることはないか」と考え始めたのです。

 

最も多くの関係者が関わり、学生たちが大きな課題を抱えている「奨学金」の分野に注目し、この問題を解決する事業を立ち上げようと決断したのが、ガクシー設立のきっかけです。

 

事業拡大には仲間が必要不可欠

仕事における軸を教えてください。

徹底的に「こだわること」です。社会人として成果を上げる人の多くは、その姿勢を持っています。また、お金でも出世でも名誉欲でも何か動機があってこそ、取り組む仕事に対してこだわりを持てるのだと思います。

 

チームワークを継続する上での軸は、明確な共通目標があり、それをメンバー全員が理解していることです。ガクシーでは部門ごとに個別の目標設定もありますが、会社全体としては「奨学金を変える。運命が変わる。社会が変わる。」というビジョンを掲げています。そのプロセスの中で、事業拡大や上場といった具体的な成長目標も設定しています。

 

共通認識を浸透させるため、月に一度の全体会議を開催するとともに、社員一人ひとりと直接話をする時間を設けるようにしています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

働く仲間を集めることにとても苦労しました。特に創業メンバーである二人を説得して、奨学金事業が軌道に乗るまでの2年間、彼らにチームに残ってもらうことが最大のチャレンジでした。

 

彼らを説得するのに特別な方法はなく、ただ粘り強く「こういう目的でこのようなことをやりたい」と伝え続けるしかありませんでした。


10年という時間の中でタイミングが合ったこと、奨学金という若者支援の事業が社会に必要とされていること、そしてこの分野が比較的未開拓で「今がチャンス」という認識が重なり、最終的にチームを結成できました。事業を拡大していくためには、こうした仲間が必要不可欠です。

 

奨学金の力で若者の未来を支える

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

私たちのサービスやプロダクトなどを通じて、世の中が良くなっていると実感できることです。

 

学生からの声は、アプリなどで口コミとして送られてくることもありますし、直接私に連絡をくださることもあります。

 

「ガクシーでこの奨学金を見つけて申し込んだら、無事受け取ることができました。本当にありがとうございます」といった声や、保護者の方から「子どもの学費について、本当に助かりました」といった感謝の言葉をいただくと、大きなやりがいを感じます。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

今後やりたいのは、奨学金のプラットフォームといった便利な仕組みが少しずつ出来上がってきたので、奨学金の原資総量を増やす「新しい奨学金」を作っていくことをひたすらやっていきたいと考えています。


日本の学費は年間約16兆円あるのに対して、奨学金の流通は1.6兆円のうち10%ほどしか賄われていません。一方、アメリカでは学費の80%以上が奨学金で賄われています。アメリカは寄付も多いですが、選択肢もたくさんあるため、学生からすると動きやすい環境です。


そのような状況の中で、現状の課題を解決するのも大事ですが、やはり総量を増やさないと根本的な解決にはなりません。そのために総量を増やし、新しい奨学金を作ることが本当の意味での若者支援だと思っています。

 

例えば去年は大手信託銀行と組んで資金を投資し、その投資リターンを奨学金として配るといったアメリカの仕組みを参考にしました。今後は富裕層や寄付したい方が財団を作らなくても簡単に奨学金ができる仕組みを、私たちがお預かりしてやっていきたいと思います。


また、企業様と協同の企画も実施したいと考えています。例えば大手のコーヒーチェーンのように「このコーヒーを買うと1%が森林団体に寄付される」といったモデルを奨学金でも実現したいと考えています。。クレジットカードの利用金額の1%が奨学金として拠出されたり、貯まったポイントを奨学金に充てることができる仕組みなどを作るイメージです。

 

今後は、こうした仕組みをさらに発展させ、奨学金として若者のもとへ届く資金の総量を一層増やしていくことが、私たちにとっての次なる挑戦です。


寄付したいと思った時に、ユニセフのような有名な団体はありますが、奨学金に寄付したいと思った時の便利な仕組みがないのが現状です。私たちがその部分を担うことで、手軽かつ気軽に奨学金の寄付を始められる、新しい世の中に変えていきたいと考えています。

 

ベンチャーの価値は社会課題の解決にある

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

日本の社会課題を企業や事業の力で解決したいといった思いを持っている人は、どんどん行動してください。現在の日本において、スタートアップ、ベンチャーの最大の価値は社会課題の解決だと考えているので、ぜひそういう仲間が増えてくれたらと思っています。

起業する前に「これをやっておくべき」といった具体的な行動はありません。大切なのは「やってみること」です。考えすぎたり準備しすぎたりするといった起業前のあれこれは、ほぼ意味がありません。実際に行動してみないと、何も始まらない世界なので、まずは始めてみてください。

 

採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?

社会を良くしたいという思いを持った人材を求めています。

社会人になると時間の多くを仕事に費やすことになりますから、その時間を使って日本をより良くすることに興味を持ち、情熱を注げる人と一緒に働きたいです。そういった価値観を共有できる方とチームを作っていければと考えています。

 

▼Wantedlyはこちら

https://www.wantedly.com/companies/company_7973604

 

▼採用情報の詳細はこちら
https://gaxi.co.jp/recruit

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:松原 良輔 氏

慶應義塾大学卒業。三井化学株式会社にて経営企画/採用業務に従事。2008年ジョブテシオ株式会社を海外の優秀な工学系人材と日本企業をマッチングする新しいビジネスモデルで創業。欧米をはじめ中国/インドなど33地域270以上の大学にて高度IT人材採用企画を立案・運営。2017年に同社を売却。日本の将来を担う若者のために奨学金事業で「株式会社ガクシー」を2019年に設立。日本最大級の奨学金プラットフォームを運営。

 

企業情報

法人名

株式会社ガクシー

HP

https://gaxi.co.jp/

設立

2019年3月1日

事業内容

  • 学生・保護者向け奨学金情報サイト「ガクシー」の開発・運営
  • 奨学金運営管理システム「ガクシーAgent」およびBPO(業務支援)の提供
  • 奨学金設立サービス「シン・奨学金」及び「奨学金設立コンサルティング」
  • 学生採用・集客支援

 

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