【#390】高品質で大規模な「教師データ」で最先端のAIを開発する企業を支援ー顧客志向で使いやすさを追及する|代表 鈴木 健史(FastLabel株式会社)

FastLabel株式会社 代表 鈴木 健史
FastLabel株式会社は、製造業やメーカーをはじめ、自動車業、建設業や農業、医療など幅広い業界で最先端のAIを開発する企業に対し、高品質で大規模な「教師データ」の作成を、プロフェッショナルサービスとプロダクトの両軸から支援する会社です。株式会社ワークスアプリケーションズを経験後、法人向けフードデリバリーサービスを創業・撤退したのちFastLabelを立ち上げた代表の鈴木氏に、事業の詳細や今後の展望などについてお伺いしました。
自分が社会貢献できそうで、かつ、人が避ける作業をやりたい
事業の内容をお聞かせください
最先端のAIを開発する企業に対し、AIに学習させる「教師データ」をプロフェッショナルサービスとプロダクトの両軸から提供しています。
AI開発は「アルゴリズム」と「教師データ」の2軸で構成されていますが、弊社が主に力を注いでいるのは、教師データの部分です。弊社独自のプロダクト「FastLabel Data Factory」を活用し、質のよい教師データを作成・管理することで、「教師データを作って終わり」ではなく、前後のプロセスを包括的に支援しています。
弊社の特徴は、データ収集にはじまり、アノテーション(ラベリング)、お困りであればモデル開発まで一気通貫で行う点です。例えば農業ロボットの開発では、自動収穫の精度を高めることに成功しました。
トマトを自動で収穫するロボットを製作する場合、まず「トマトはどこになっているのか」「どういった状態なら収穫してよいのか」などをAIに判断させる必要があります。そこで弊社が収集・作成した質のよい教師データを増やすことで、より正確かつ効率的に収穫すべきトマトを識別できるようになりました。このような弊社の技術は、自動運転での対向車や人の認識などにも応用できます。
▽事例はこちら
https://fastlabel.ai/casestudy/denso
AI開発における課題はどのような点ですか?
「いかに質のよい教師データを効率的に作成できるか」が大きな課題です。
AI開発では「全体の作業時間のうち約80%を教師データの作成に費やす」といわれており、開発を進めるうえでネックとなっています。
例えば画像系のAIであれば、画像内で物体がある部分を四角で囲い、認識させる作業を、何十万件も重ねる必要があるのです。さらに、AIの精度を落とさないためには少しのラベルミスも許されないため、「高品質かつ大量に」データを作ることが重要です。
そのために弊社が行っている工夫のひとつは、ラベリングの自動化です。ある程度AIでラベル付けを行い、その後に人が修正することで、品質を高めつつ、効率化も実現しています。
また、データの収集に苦戦することもあります。例えば「信号機」の検出でいうと、青、黄、赤色の状態のなかでも「黄色」は特に珍しい状態です。撮影できるタイミングが少ないために、データ自体があまりありません。そういったレアなデータを集めることに苦労されるケースは少なくないです。
加えて今の日本ではAIエンジニアが不足しているため、「データは作成できても、モデルの学習や評価、分析、改善といった部分のリソースが足りない」といった課題も多いです。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
この事業をはじめたきっかけは、ビジネスAIを開発するうえではデータ作成が欠かせないと知ったことです。
私は大学、大学院で機械学習の研究をしており、新卒で会計や人事のなどの企業ソフトウェアを作成する企業に入社しました。ビジネスの世界でAIを扱う中で、「まずデータを作る必要がある」ことに気づきました。研究室では決められたデータがあり、そこに対していかに優秀なアルゴリズムを作るかにフォーカスする研究が多かったため、データを作る経験をしたことがありませんでした。
しかし、ビジネスでAIを作るためには、まずデータを集めなければいけません。そこでオープンソースを使用しましたが、こうしたものでデータ作成を行うと、多くの時間をデータ作成に費やす必要がありました。そこで思いついたのが教師データの提案です。
とはいえ、そこからすぐにFastLabelを立ち上げたわけではありません。友人から誘われる形で法人向けのフードデリバリー事業を起業し、10年ほど経営した後、改めてこの事業を始めました。
フードデリバリー事業を撤退した理由は、ユーザーの課題がそれほど深刻ではないと感じたからです。コンビニや外食などの選択肢もあるなかで、お弁当の配達に対するユーザーの需要の小ささに気が付きました。
より社会貢献度が高く、人が避ける作業をやりたいと思い、データの作成のビジネスを始めました。
テクノロジーを信じて、顧客志向にこだわる
仕事におけるこだわりを教えてください。
重要視しているのは、「顧客志向であること」です。お客様の課題の本質に向き合い、根本解決を目指す姿勢はこれからも大事にしていきたいと思っています。
そして、その実現のために私自身が軸として持っておかなければならないのは、テクノロジーへのこだわりでしょう。例えば自動運転の分野では、ここ10年ほどあまり進展がみられない期間が続いていましたが、最近ようやく社会実装が果たされるところまで到達しました。
こうした事実を見ても、私自身のスタンスとして「自動運転なんて夢物語だ」ではなく「自動運転の時代は絶対に来る」とテクノロジーを信じて、こだわり続ける必要があると感じています。
他社との差別化を図るうえでこだわっていることはありますか?
テクノロジーとオペレーションを組み合わせて高品質なデータを作成、提供することです。
近年、この業界では、元々オフショアのアジア圏で労働集約系のビジネスをしていた会社の参入が多く見られます。なぜなら、画像のラベル付け作業を行うために、安く労働力を提供できるためです。
ただ、そういった会社ではテクノロジーに関して詳しい知識を持つ人材は少ないのが実情です。そもそもAI開発経験がない人が大勢参入してきているなかで、我々は創業以来培ってきたノウハウや開発してきたプロダクトを活用したデータ作成を提供している部分が大きな強みとなっています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
お客様に事業の効果や意義を実感していただけるようになるまでは、もどかしいときを過ごしました。データを作ることが大変なことは理解していたものの、実際に効率的かつお客様に響くように提供するにはどうすればよいのかよくわからないまま、暗闇を走り続けた期間があります。
しかし、そうした状況でも試行錯誤を繰り返すうちに、徐々にお客様の課題や、やるべきことが明確になりはじめていきました。
最初の突破口となったのは、プロダクトの開発です。当初、ツールだけを提供するビジネス形態と、現在のようにお客様各々のニーズに合わせて開発する形態とで迷った時期がありました。
結果的には、高品質なデータを得るためにはお客様と緻密にコミュニケーションを取る必要があることがわかり、ならばプロダクトをプラットフォームにして緻密にやり取りしようと思い至ったのです。
「プロダクトか、サービスか」のどちらか一方を選択するのではなく、融合する形のソリューションになったことで他社と大きく差別化ができたところが最初のポイントだったと思います。
これまで一番難しかった依頼はどういったものですか?
3Dのデータに対する、物体の検出・ラベル付けです。
弊社では、物体検出のご依頼に対して自社プロダクトを活用しています。3Dデータのラベル付けに対応する機能を開発してるのは、日本国内ではおそらく我々だけです。
この機能は特殊なものではありますが、自動運転を開発するお客様などからは、よくそういったデータを求められます。
趣味感覚で楽しめるーどれだけ研究してもこの分野に「飽きない」
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
この分野に「飽きない」ことです。私自身、現在もAIに関する研究を続けていますが、どれだけ研究してもこの分野に飽きません。気づけば勝手に、ある意味趣味のような形で常に最新情報をキャッチアップしている状態で進み続けています。
今、AIの進化はこれまでとは比べ物にならないほど急速に進んでいます。その早いスピードのなかでも飽きずに、振り落とされずに、しっかりとサービスを提供していきたいです。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
今までの技術よりも先の技術をより早く、先行してサービス提供していきたいと考えています。
当社は『AIインフラを創造し、日本を再び「世界レベル」へ』というパーパスのもと、AIの開発・運用を支える「AIインフラ」としての役割を果たすことをミッションに掲げています。例えるなら、今の「電力インフラ」くらい重要な役割を担いたいと思っています。
AIの技術は常に進化しているので、インフラも常に進化し続けないといけません。
今、米国や欧州が実現しているAI技術のレベルまで、日本を持っていきたい。そのためには、我々のインフラも世界レベルになっていなければならない、と考えています。
また、経営的な視点からは、採用領域に力を入れていきたいです。我々が掲げている目標は世界レベルと高いところにあるため、そこにしっかりとコミットしてくれる人を集めたいとと思っています。
求めているのはどのような人材ですか?
求める人材像は、テクノロジーを信じられて、パーパスを共有できる方です。
AIの世界を前進させ、日本の産業を再び世界一にしたいと本気で思っている方と一緒に働きたい。そんな志高き仲間を求めています。
具体的な職種としては、エンタープライズ向けのAI開発者、なかでもコアなデータの収集・作成に貢献できる方を求めています。シニアコンサルタントや、エンジニアといった方からのご応募をお待ちしています。
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本当に自分が解決したいと思える課題で起業を
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
初めてのフードデリバリー事業での起業と撤退を通じて強く感じたのは、「自分がなぜその事業を手がけるのか」という納得感や意義、そして情熱の有無が、事業の持続性において極めて重要だということです。
ただし、起業は最初から使命感に駆られて始める必要はなく、「収益性が高そう」「面白そう」といった動機でも十分だと思います。
実際、初期段階で本当に自分が取り組みたいテーマを明確にできている起業家はごく一部です。
重要なのは、まず一歩踏み出すこと。そして経験を積みながら、自分が本当に解決したいと思える課題や領域を見つけていくことが理想的なプロセスだと考えています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:鈴木 健史 氏
早稲田大学大学院創造理工研究科修了。
在学中、国内外4つの学会にて研究発表、査読付き論文採択を経験。
株式会社ワークスアプリケーションズで、会計SaaS立ち上げや複数のAIプロジェクトを経験後、法人向けフードデリバリー企業を共同創業。
その後、独立しFastLabelを創業。
企業情報
法人名 |
FastLabel株式会社 |
HP |
|
設立 |
2020年01月23日 |
事業内容 |
AI開発に欠かせない「高品質で大規模なデータ」をプロフェッショナルサービスとプロダクトの両軸で提供 |
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