株式会社ゼスト 代表取締役社長CEO 一色 淳之介

 

株式会社ゼストは、訪問看護や訪問介護に関わる職員の訪問スケジュール・ルートをAIが自動で作成するサービスを核に、事業所の収益を最大化するプラットフォームを提供しています。「業務負担の軽減と経営効率の向上を実現することで、業界のDXを加速させていく」と話す代表取締役社長CEO一色淳之介氏に、事業内容や業界の今後について伺いました。

 

在宅医療・介護業界のDXを加速するクラウドサービス

事業の内容をお聞かせください

在宅医療や介護事業者に対して、訪問スケジュールの自動作成を核に業務効率はもちろん、事業所の収益最大化をサポートするプラットフォーム「ZEST」を提供しています。

 

この業界の職員の方々は、自転車やバイク、車などを使いながら、一日にたくさんのご自宅や施設を訪問します。

 

我々はAIを活用し、職員とサービス利用者の最適なマッチングを実現し、双方のスケジュールを考慮した上で移動効率が最大化される訪問ルートを自動で作成するサービスを開発しました。

 

この業界では、電子カルテやレセプト請求システムといった電子ツールは多くの事業者が導入している一方、スケジューリングに関してはアナログな方法に頼る部分が少なくありません。ホワイトボードやExcel、ときには紙に手書きされることもあります。

 

スケジュールのデジタル化によって業務負担の軽減や訪問の円滑化を実現する当社のサービスは、独自性の高いものであり、昨年の外部調査でも導入者数No.1という結果でした。

 

サービスを利用される方の流入経路にはいくつかのパターンがありますが、訪問看護・訪問介護の事業者様同士の紹介が多いです。従事者の皆さまは地域ごとに協力し合う関係にあることが多いです。

 

例えば急な欠勤が出た際に、近隣の事業所と連携することも少なくありません。そのため、良いサービスがあれば「これ良かったよ」と自然に紹介が広がりやすいのです。

 

弊社サービスのご利用者さまからの声として、経営効率の向上の面でも高い評価をいただいています。1人の職員が1日に回る件数が例えば4件から5件と1件増えれば、報酬単価は変わらないため1日の売上が25%増加します。利益率でいえばインパクトはさらに大きくなります。

 

デジタルを活用してスケジュールを可視化することで、「どこに余力があるか」「どこを改善すればより効率的に訪問できるか」のポイントが明確になり、訪問件数の最大化を目指せるのです。

業界としてDX(デジタル・トランスフォーメーション)導入のハードルはとても高い

この業界でDX導入をすることに高いハードルを感じている事業者様が多いのが実状です。私たちはその課題に対して、3つの取り組みに力をいれております。

 

一つめは、導入から定着までサポートすることです。サービスを提供したら終わりではなく、実際に業務効率化や収益向上につなげるという結果を重視しています。そのため「カスタマーサクセス」と呼ばれる専門チームを設け、導入後の運用支援や定着サポートを徹底しています。

 

二つめは、 初期導入の負担を最小限にすることです。新しいシステムを導入する際に最もハードルが高いのは、最初の設定やデータ移行だと考えています。そこで当社では導入時のデータ移行をスムーズに行う仕組みを、お使いの電子カルテやレセプト請求システムにあわせて用意しています。

 

三つめは、精神論にはなってしまいますが、使いこなす覚悟を持ってもらえるように弊社も伴走の意識を持つことです。

 

最初の導入段階ではある程度の負担は避けることができません。しかし、その先に業務の効率化や収益の向上が待っていると理解してもらえるようにすることが重要だと考えています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

以前から、当社の筆頭株主である株式会社ミダスキャピタルの吉村代表に「一緒に何かやらないか」と誘われていました。しかし、当時は創業期から参画し、自分自身でも投資をしていた会社の上場を控えており、新しい挑戦を始められる状況ではありませんでした。

 

その後無事に上場を果たし一区切りがついた2022年、吉村代表から現在の事業について相談を受けました。話を聞く中で、在宅医療や介護業界は、DX化で変わる余地が大きい業界であることに可能性を感じ、「これは面白いチャレンジになる」と感じました。

 

具体的に、この業界は人手不足という明確な課題を抱えています。日本の労働者人口は少なくなっていく一方で、後期高齢者の人口は増え続けると予測されています。

 

業界従事者は減る一方で需要が上がり続けていることに明確な課題を感じ、それをITの力で解決したいと思うようになり、事業を始めることを決断しました。

「数字」と「感情」のバランスを大切にする経営

仕事におけるこだわりを教えてください。

経営において 「数字(定量的な指標)」と「感情的な要素(定性的な側面)」のバランスを大切にしています。

 

経営をしていく上で、KPI(重要業績評価指標)を明確に設定し、すべての判断を数字に基づいて行うことが重要です。営業部門やマーケティングチームであれば、営業の生産性やマーケティングの成果をすべて数値化できます。

 

エンジニア部門のように生産性を数字に落とし込みにくい領域でも、開発スピードを測る指標を設ける、顧客満足度やフィードバックを反映した評価を行うなど、適切な定量化を模索しています。

 

ただし、数字だけにとらわれても良くありません。定性的なフィードバックや、チームの雰囲気も重視して「数字と感情のバランスをとること」 が、経営において重要なポイントだと考えています。

 

もう一つの譲れない軸は「Consumer is Bossr」という考え方です。

 

これは、私が新卒時に外資系消費財メーカーのマーケティング部門に入社したことが影響しています。同社の企業文化にはこの考え方が根付いており、マーケティングの仕事では、消費者の声を徹底的に把握する姿勢が求められます。

 

当社でも、役員陣の意見だけで開発を進めるのではなく、顧客視点に立ったプロダクト作りを徹底し、本当に価値のあるサービスを生み出すことを意識しています。

起業から今までの最大の壁を教えてください

大きく二つあります。一つめは仲間を集めることでした。会社をほぼゼロから立ち上げるに近い状況であり、当時はオフィスもなく、正社員もわずか3人でした。その中で、営業や開発、マーケティングなど各分野で強みを持つ優秀な人材をどう集めるかが大きなポイントでした。

 

しかし、ヘルスケア業界は、誰もがいずれ関わる分野です。

 

「将来の自分自身や家族にも関わる業界を良くしたい」という思いを共有し、DXが進んでいないヘルスケア業界にはまだまだ大きなチャンスがあること、これから事業をスケールさせていく過程で経営や組織作りにも関われることなどを伝えることで、理解を得ることができました。

 

もう一つの大きな壁は、2024年3月に行ったプロダクトの全面リニューアルです。当時のプロダクトは技術的に古く、いずれ大規模に展開した際にはその手法では持続が難しくなることは明白でした。

 

大きなリスクはありましたが、結果として1年以内に、利用者の離脱を最低限に抑えながら、既存ユーザーのほぼ全てを新システムへ移行することができました。

医療・介護業界の持続可能な成長を支える

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

進み続けるモチベーションは人にあると考えています。会社を成長させる上で、人は最も重要な要素の一つだと考えているからです。

 

特にスタートアップでは、優秀な人材を集め、同じ目標に向かって進むことが成功の鍵です。「仲間のためにも会社を成長させたい」と強く感じています。

 

会社が成長すれば社員のキャリアも形成できます。ベンチャーでは一定数の転職は避けられませんが、「この会社で働いたことが市場価値を高める経験になる」 環境を作ることが重要だと考えています。

 

もう一つ大切なのは、会社の成長が社会への貢献につながることです。ただのビジネスではなく、社会の課題を解決して自分が世の中に貢献できたとの実感を持てることが、長期的なモチベーションにつながるのではないでしょうか。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

この業界の大半の事業者は、収益のほとんどが国の保険報酬で成り立っています。しかし少子高齢化が進む日本は若年層の納税額が減少する一方、高齢者の医療や介護費用が増加し、数年に1回に行われる診療報酬改定で報酬が引き下げられる可能性があります。

 

長期的に事業を継続するためには、国の財政状況に依存する不安定な収益構造からの脱却は重要な視点です。

 

在宅医療・介護業界は株式会社が運営する事業者も多く、訪問看護・診療に保険外サービスを組み合わせることで収益拡大のチャンスが生まれます。

 

医療・介護の提供が本業である看護師やヘルパーさんの意識を尊重しつつ、自然に新しい収益モデルを組み込む必要があります。特に高齢者のご家族に向けたサービスをDXで実現することで、新たな価値を生み出せると考えています。

 

単に業界を変えるのではなく、 時代に即した形へと進化させる。これが私たちの使命だと思っています。

ビジョンと仲間が大切

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

若いうちは「稼ぎたい」、「能力を身につけたい」などの軸で物事を考えがちですが、成し遂げたいビジョンの共有や、仲間との思いの共有が非常に重要です。

 

私自身、ヘルスケア業界に深く精通しているわけでもなく、エンジニアでもありません。各分野で経験を積んできた仲間が集まり、今の会社が成り立っています。誰と何を成し遂げるのかが、企業を成長させる上でとても大切な要素です。

 

ただビジョンといった定性的な要素だけではなく、事業を成長させるためには定量的な要素や実現性の高い戦略思考も不可欠です。起業を考えるならノリや勢いだけではなく、数字と向き合い戦略的に進めることも大切だと考えています。

御社に興味がある人に一言お願いします

当社はまだ50人規模の企業で、急成長フェーズにあります。売上はこの2年半で約40倍になり、従業員数も大幅に拡大しました。

 

看護師や介護士などの資格者はもちろん、コンサルティングやマーケティング出身のビジネス経験豊富なメンバーも多く在籍しているため、実践的なビジネススキルや、ロジカルな経営手法を学ぶこともできます。

 

「業界をより良い方向へ進化できる」やりがいを持って働ける会社だと自負しています。少しでも興味を持っていただけたら、ぜひご連絡ください。

 

▽お問い合わせはこちらから

https://zest.jp/corporate/recruit

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:一色 淳之介

P&Gジャパンのマーケティング部門に所属し、日本及びシンガポールでヘアケアブランドのマーケティングに従事。その後、株式会社YCP Solidianceの創業期に参画し、パートナーとして、投資先企業の事業再生や、様々な企業に対するマーケティング、経営戦略、さらには新規事業立案等のコンサルティング支援を行う。2022年9月1日付けで代表取締役社長に就任。

 

企業情報

 

法人名

株式会社ゼスト

HP

https://zest.jp/

設立

1988年12月

事業内容

在宅医療・介護事業所向け収益改善プラットフォーム『ZEST』の提供

 

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