
株式会社ANOBAKA シニアアソシエイト 小田 紘生
株式会社ANOBAKAは、起業家と同じ目線で伴走し、次のラウンドへの高い成功率を誇るシードVCです。主に事業開発の現場経験を持つキャピタリストで構成され、投資先が非常に高い確率で次回ラウンドに進むという成功実績を誇ります。
合宿や大規模マッチングイベントなど独自のコミュニティを構築し、生成AI領域に特化したファンドも運営。挑戦し続ける起業家を全力でサポートし、日本のスタートアップの発展に貢献しています。今回はシニアアソシエイトの小田 紘生氏に、VC業界に興味を持った経緯や今後の展望も含めて詳しくお聞きしました。
起業家と同じ目線で、高い成功率に導くVC
VC業界に興味を持ったきっかけを教えてください
学生時代に関西のスタートアップで働いていた経験から興味を持ちました。私はそのスタートアップのサービスがすごく好きで、世の中に広まっていくと考えていました。しかし、私がそのスタートアップを卒業するタイミングで、事業を縮小するという意思決定があり悔しい思いをしました。
その頃から「自分が好きな事業を勝たせる」ということにコミットするのを社会人としての軸にしようと思い、リクルートやスタートアップの社員・役員を経験し、自分で起業して事業売却までいろいろと経験してきました。
28歳の時に前職を退任した後、この先何をするか考えました。事業会社でさまざまな経験をしてきたものの、「思いを持って事業を推進する人の力になる」といった仕事をしたいと思っており、VC業界に魅力を感じるようになったのです。事業会社とVCそれぞれの世界を見てきた中で、ANOBAKAが自分にとって最適な環境だと感じ、入社を決めました。
貴社の特徴や方向性をお聞かせください
私たちは、独立系のシードVCとして活動しています。元々は、KLab株式会社のCVCとして10年前に発足し、約5年前に当社代表の長野がMBOの形で独立した歴史があります。
基本的にはオールジャンルで投資を行っていますが、シード期のスタートアップへの投資に特化しています。その中でも特にこだわっているポイントは、シード期に投資させていただいた後、必ず次回ラウンドのファイナンスを成功させる点にコミットしていることです。
実績としては、投資後に次回ラウンドのファイナンスに至らず撤退に至った会社は5%未満しかありません。かなり高い確率で次のラウンドまで進んでいただけるよう、こだわった投資支援を行っています。
シード期のスタートアップは、PMFを実現していくことが重要です。そのため、当社のキャピタリストは金融やコンサル出身者ではなく、基本的に事業開発を現場で経験してきた人間のみで構成されているのも特徴のひとつです。
また、コミュニティ活動にも力を入れており、年に1度、投資先の経営者約100人を集めた合宿を開催したり、同時期に投資させていただいたスタートアップ15社ほどを集めて「同期コミュニティ」といった形で半年間の勉強会を実施したりしています。
さらに、国内の投資家約150社を集め、ファイナンスを求める企業と投資家をマッチングする大規模なイベントを半年に1回開催しています。YouTubeでの情報発信活動にも注力しており、担当者個人のサポートはもちろん、コミュニティを通じたサポートも充実させています。
本気で頑張る起業家に貢献し続けたい
仕事におけるやりがいを教えてください
VCは、非常にやりがいのある職業だと感じています。最新のアイデアに触れられること、世界各国のスタートアップのトレンドをキャッチしながら、日本で次に大きく成長する可能性のある企業を見極めていく過程は、個人的に魅力的です。
ですが、私が最も価値を感じるのは、事業に本気で向き合う起業家の方々と仕事ができることです。高い能力を持ちながら、安定した高収入の道を選ばず、リソースの限られたスタートアップの世界で、「こういう世界を実現したい」といった思いを頼りに不確実性に挑戦する起業家たちの姿に、深い感動と尊敬の念を抱いています。
本気で挑戦する方々に少しでも貢献できることが私の喜びであり、起業家の隣で伴走できることに幸せを感じながら日々仕事をしています。
VC業界に入ってから今までの最大の壁を教えてください
未経験からVCになって立ち上がっていくまでが本当に大変でした。
VC業界には、投資銀行出身者や連続起業家、この業界で何十年も経験を積んだベテランなど、優秀な方が数多く存在します。その中で起業家に選ばれなければならないことは、プレッシャーでした。さらに、独自の人脈やソーシングネットワーク、専門知識も持ち合わせていないゼロの状態から構築していくのは、未経験者にとって難しかったです。
私は2023年4月に入社し同年の12月まで、投資案件を1件も成立させることができませんでした。その後、徐々に経験を積み、2024年度には10件ほどの投資を実行でき、今年も既に数件決まっています。
成長の秘訣を聞かれることもありますが、特にありません。キャピタリストには事業領域の知識はもちろん、ファイナンス、法務、財務、会社法などの専門知識が求められます。また、スタートアップ経営者とのネットワーク、他VCとのつながり、スタートアップの顧客となる事業会社や税理士などの専門家とのネットワークも不可欠です。
つまり、「キャッチアップするべき知識」「形作る必要があるネットワーク」「自分なりの考えを養う」といった3つの要素が、どれも広く深く必要です。全方位的に地道にキャッチアップし、ネットワークを広げ、勉強するといった基本的なことを1年近く徹底して行う中で、ようやく形になってきたと感じています。
最初の投資先はどのように決まったのでしょうか?
私の最初の投資先は、人が搭乗できるロボットを活用したエンターテインメント体験を創出するMOVeLOT株式会社でした。いわゆるガンダムのような、人が実際に乗って操作できるロボットを使ったエンターテインメント事業です。
「ロボットに乗りたい」という思いを持つ子どもや大人は多いのですが、実際にロボットに乗って動かすといった体験ができる施設はなかなかありません。そこで、エンターテインメント用の動くロボットを低コストで製作し、体験施設として展開することで、多くの人にロボット搭乗体験を提供するといったビジョンを持っている企業でした。
代表の廣井さんは、全くの異業種から、ロボットレストランのアルバイトに転職し、そこから営業本部長まで上り詰め、そこからロボットスタートアップを自分で立ち上げて売却した経験もある、生粋のロボット好きな方です。
投資判断といった観点では、正直なところ難しい部分もありました。当時の私はまだ知見も十分ではなく、ロボットを活用したエンターテインメント体験でIPOまで成長するといったシナリオは不確実性が高く、描くのが難しいものでした。
しかし、代表の廣井さんの強い思いと、不確実性は高いもののアップサイドのシナリオ、そしてダウンサイドのヘッジの方法などを、時間をかけてディスカッションし、検討を重ねました。その結果、投資判断が通り、廣井さんにもオファーを受けていただいたことは、私にとって非常に感動的な体験でした。
成し遂げたい世界が明確な起業家と出会いたい
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
学生時代に「自分が好きだと思った事業を成功させたい」と強く思った経験と、スタートアップの役員として働く中で「熱狂して本気で頑張る起業家を側で応援したい」といった気持ちから生まれています。
起業家が人生をかけて成し遂げようとしていることに対して、私たちVCはまず資金といったリソースを提供することが主な役割ですが、それ以外にもさまざまな形でサポートができます。そうした起業家の支えとなる瞬間を少しでも多く創出することで、日本のスタートアップの発展に貢献したいと考えています。
今後どのような企業と出会いたいと考えていますか?
私たちは生成AI特化ファンドを運営しています。これは生成AIネイティブで起業したスタートアップに専門で投資させていただくファンドで、2022年末頃から来ている生成AIの波をいち早く国内で形にしていくといった背景の元、立ち上げました。
米国では特定の産業領域に対して生成AIのパワーを活用して業務効率化や半自動化を行うスタートアップが盛り上がっている中で、日本国内の生成AI領域の企業は今年の頭ぐらいからようやく増えてきたといった印象です。しかし、まだ社会実装までは追いついていません。そこで、特定の産業領域×生成AIで起業している企業家の方には積極的にお会いしたいと考えています。
産業領域へのこだわりを語るVCの方は多いですが、私は「人が好きで仕事している」部分があります。自分が成し遂げたい世界が明確にあって、「それについて誰よりも自分は考え抜いている」といった自負がある方であれば、どんな方とでもお会いしたいと思っています。事業化に向けてアイデアが足りない部分があっても、しっかりと向き合ってディスカッションできればと思いますので、強い思いを持つ方がいれば積極的にお話ししたいです。
私が会いたいと思う起業家の共通項は主に2つあります。1つは、思いのベクトルが人や社会に向いている方です。例えば、当社が支援したロボット会社の廣井さんが「僕らが挑戦しないと、ロボットに乗りたいという人の夢はこの10年、20年叶わないままになってしまう」と言った言葉に感銘を受け、「絶対最後まで頑張ろう」と思いました。
2つ目は、必ずしも社会に思いが向いていなくても、これまでやってきた仕事内容や持っている技術を振り返り、「これを強く世に広めていきたい」といった特定のユニークな強み・コンピテンスがあって、それを広く社会に広げていきたいといった思いがある方です。
チャレンジし続けることに価値がある
起業家・経営者へのメッセージをお願いします
多くの経営者が社員には見せられない弱さや、外部からの期待に応えるプレッシャー、VCからの資金調達後の成長への使命感など、さまざまな重圧と向き合っています。
時に自信を失う経営者も多く見かけますが、私が伝えたいのは「何かを成し遂げたいといった思いを持ち、それに向かってチャレンジし、少しでも前に進んでいる」こと自体が、VCから資金調達できたかどうかに関わらず、非常に尊いことだということです。
私たちは「チャレンジを至高の概念とする」とのミッションのもとファンド運営をしていますが、チャレンジを続けること自体に大きな価値があると信じています。起業家の皆さんには、自信と誇りを持って事業運営に邁進していただきたいですし、チャレンジ自体が尊いものだということを、ぜひ忘れないでいただきたいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:小田 紘生氏
広島県出身。神戸大学経営学部卒業。
新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、既存事業・新規事業の営業企画を担当。
2019年にHRtechSaaSのスタートアップである株式会社リフカムに入社。
同社にてカスタマーサクセス部門のマネージャー、ビジネスサイドを統括する執行役員を務める。
2023年にANOBAKAに入社。投資担当として、新規投資先候補の開拓や既存投資先の支援業務に従事。
企業情報
法人名 |
株式会社ANOBAKA |
HP |
|
設立 |
2015年10月21日 |
事業内容 |
シードのインターネット企業を対象としたVCファンドの運営 |
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