
株式会社Tours 代表取締役CEO 濵田祐輔
株式会社Toursが運営する、職場見学プラットフォーム「バチャナビ」では、360°のパノラマビューで職場のリアルな姿を見ることができます。新しい形での企業情報の発信にこだわったという代表取締役の濵田祐輔氏に、事業の詳細や立ち上げの経緯についてお聞きしました。
360°パノラマビューで企業のリアルが伝わる、新しい就活体験
事業の内容をお聞かせください
弊社は、遠隔でも求職者に企業のリアルな姿が伝わるオンライン採用サービス「Tours」と、そこからさらに企業理解を深めてもらう採用代行サービス「Tours RPO」、そして「Tours」で制作したコンテンツをキュレーションして表示する職場見学プラットフォーム「バチャナビ」の3つの事業を手がけています。
我々のミッションは「時間と距離の制約をなくす」ことです。テクノロジーを活用し、現場に行かずとも就職活動で必要な情報の99%が取得できるようになれば、地方と都市部の情報格差は解消できます。
そして複数の企業の「その場にいく」必要がなくなるので、自分が興味のある企業にしっかりとお金と時間を使えるようになります。
また、採用活動・求職活動のオンライン化は、新型コロナウイルス以降で大きく進展し、効率の面では格段に向上しました。しかしその一方で、職場のリアルな空気感が見えなくなったという新たな課題が生まれています。
特にオンライン面接では、社内の雰囲気や働く人の様子といった“言語化しづらい情報”が伝わりづらく、入社後のギャップやミスマッチの原因になっています。
さらに、企業が発信する採用情報はどうしても「自社を良く見せる」バイアスがかかりがちで、求職者はその“作られた理想像”に違和感を抱き、疲弊しています。今、必要とされているのは効率ではなく、納得感や安心感をもたらす“リアリティ”です。Toursはその課題に真正面から向き合い、解決します。
「Tours」は、まるでその場にいるかのように職場を見渡せる360°パノラマビューをはじめ働く人を紹介できるような各種機能を通じて、求職者が“自分の目で見て、感じて、判断する”ことを可能にします。
企業側が作り込んだ動画や美辞麗句ではなく、自分が見たい部分を、好きなときに、好きなだけ見ることができる。だからこそ、そこに「押しつけられている」感覚はなく、ユーザー自身が主体的に職場を探索できる体験が生まれるのです。
実際にToursを体験した学生からは、「トイレやデスク周りまで見られて、細かい部分で働くイメージができた」「ネイルや服装など、日常のリアルが伝わって安心できた」といった声が寄せられています。
働く場所を選ぶということは、日々の“当たり前”を選ぶことでもあります。だからこそ、人は細部の“空気”に触れて初めて、本当に納得してエントリーできるのです。
また、この「リアルを見せること」は、企業側にとっても大きな価値があります。とくに中小企業やベンチャー、ハードワークなイメージを持たれやすい業界では、「見えないこと」そのものが不安を生み、候補者に敬遠される要因になっています。Toursを使えば、「これ以上見せるところはない」と思えるほどリアルを開示でき、それが信頼と納得を生み出す武器になります。
すでに新卒・第二新卒の採用領域では、「Tours」によって“働くイメージの可視化”がエントリー率の向上に寄与しています。さらに中途採用においてもスカウト返信率の改善が見られ、あらゆる採用フェーズでの活用が広がっています。
導入もシンプルで、写真撮影さえできれば最短1週間ほどで利用を開始できるため、スピード感を持って“リアルな職場の魅力”を届けることが可能です。すぐにでも効果を実感していただけると思います。
資金調達情報はこちら。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
前職で企業の採用活動に関わる仕事をしていたとき、採用の現場を俯瞰して「採用のあり方を変えなくてはいけない」と感じるようになったことが始まりでした。求職者に選ばれるために、企業が本来見せるべき情報を隠したり、実態よりも良く見せたりといったことが、今も当たり前に行われています。
これは採用に限らず、相手を承諾させたいという場面ではどうしても起こり得ることです。ただし、これらのいわゆる「盛る」という行為が過剰になると、必然的にミスマッチが起こります。
さらに求職者側にも課題があります。日本では、自ら進んで情報を収集・判断し、キャリアを設計することに不慣れな人も多く見られます。この傾向が就職活動にも影響し、企業が提供する情報をそのまま受け入れてしまい、結果的にミスマッチに繋がるケースが少なくありません。
この問題について考えたとき、今ある課題の解決策を出すのではなく、「いかに仕事選びにおける新しい習慣を作っていくか」という視点で取り組む必要があると思いました。そこに着想を得たのが「Tours」や「バチャナビ」です。
「Tours」のようなサービスがあれば、求職者は現地に行かなくてもオンラインで企業のリアルを見ることができて十分満足感が得られます。
さらにサービスが浸透していけば、「Tours」が入っていない企業はリアルな姿を見せられない企業だから怪しいという認識が一般化するでしょう。そういった社会全体の行動変容を見てみたいという思いから、起業を決意しました。
新しい領域だからこそ、プロダクトアウトの発想を
仕事におけるこだわりを教えてください。
プロダクトアウトの発想は常に意識しています。通常のサービスであれば「こういう課題に対してこのサービスを使えば、こういう成果が得られます」というセオリーがあると思います。
一方でToursによる情報収集という体験はまだ一般化していません。そのため我々発信でToursによる体験についてある程度定義していく必要があり、チームにも自由な発想をするよう伝えています。
もう一つ、チームには「常に考え続けること」の大切さも伝えています。せっかく弊社のようなスタートアップに来てくれたのですから、他では得られない成長環境を生かしてほしいのです。
例えば、営業として与えられた目標をただ達成し続けるというのは、単なるキャリアの積み上げでどこの企業にいてもできる経験でしょう。私が求めているのは、与えられたタスクだけに向き合うのではなく、より高い視座で物事を捉えて、そこに対してやるべき仕事を自分で作っていく姿勢です。
そうして日々与えられるミッションの中で非連続的な成長を繰り返し、いつかどこかの時点でそれらの点と点が繋がって飛躍するという経験をしてほしいと思っています。そのために必要なのが「常に考え続けること」です。
考えながら仕事をしていれば、自分がやりたいことや次にやるべきことが次々と見えてきます。弊社で働くメンバーには、その繰り返しによって得られる成長機会をうまく生かしてほしいと思っています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
壁に囲まれているので高さを計りかねる状況ではありますが、組織文化の基盤を作るコミュニケーションの設計は特に難しいと思います。自分では良かれと思って言っているのに、それが空回りしてしまったケースも何度もあります。
きちんと伝えているつもりなのですが、相手にはまったく伝わっていない。メンバーから「何を考えているのか分からない」「会社がどういう方向に向かっているのか分からない」と訴えられて、組織として大きな課題を抱えている状況だと気づくことも多いです。
この問題は、ひとえに私が自分の考えをうまく言語化できていなかったことが原因だと考えています。1人の会社員として働いていた頃は、正直なところ自分の言語化スキルに自信がありました。
けれど現在ではコミュニケーションはチャットツールが中心になり、相手の顔を見て話すときでもオンラインというケースが増えています。数年前とは比べものにならないレベルの言語化スキルが求められる時代なのです。
そのことに気づいたときから、noteで自分の考えを発信するなど努力しています。自分の考えを他人に正確に伝えるのは容易ではありませんが、その壁を乗り越えるための努力は今後も続けていきたいと思っています。
IPOは社会的価値の証明になる
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
この「Tours」というプロダクトの社会的意義を確信しているからこそ、これまで数々の苦労も乗り越えることができました。
「Tours」のように求職者の情報収集の体験そのものを変える、あるいは企業側の情報発信のスタイルを変えるプロダクトが現れるのはHR界隈では珍しいのではないかと思っています。
我々が目指している「遠く離れた場所にいてもその場のリアリティが感じられる」サービスはまだ完全に実現しているとは言えませんが、「Tours」はその大きな一歩だと思っています。
ビジネスの手法としては資金力を頼りに後発で市場を席巻するやり方もありますが、社会における新たな体験の基盤を作るという仕事には何にも替え難い面白さがあります。
誰も正解を知らない道を進むのは容易ではありませんが、「この事業によって社会は確実に良くなる」という確信が私の原動力となっています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
大きな目標としては、弊社もIPOを目指しています。個人的には財務面などのメリットを感じてはいないのですが、やはり社会的に信頼を得られるという点においてIPOには大きな意味があります。
特に「Tours」のようにユーザーにとって新しい体験を提供するプロダクトにおいては、IPOが「そのプロダクトが確かに社会的価値のあるものだ」と証明する指標になるのです。
我々がミッションである「時間と距離の制約をなくす」を確かに体現できていると証明するために、IPOを目指したいと思っています。
もう少し足元で取り組むべき仕事としては、遠隔でもリアリティが感じられるように「Tours」を充実させることと、このサービスをより多くの人に知ってもらうことの2つに注力していきます。
「Tours」を見れば本当にリアルな情報が得られると世間で認識されるようになり、将来的には「Tours」無しにはもう生活できないという社会を作っていきたいです。
起業の目的は何なのか、自分に問う
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
自分自身をよく知ることが大切だと思います。自分はなぜ起業したいと思うのか、起業の前にまずその動機について分析してみてください。
お金のためか、自己実現のためか、社会に何らかの価値を提供したいのか。目的は人によって違うでしょうし、どれが正解というものはありません。例えば「タワーマンションに住みたい」と思って起業しているのに、スタートアップの経営者になるというのは明らかに間違いです。
スタートアップで成功できるのはごく一部で、お金を稼ぐという目的に対する正しい手段とは言えません。ただお金だけが目的であれば、もっとリスクが低く確実に稼げる道はあります。
正直に自分自身と向き合い、世の中の在り方を変えたいと本気で考えているのか問いかけてみてください。そこで確信と覚悟が得られないようであれば、今はまだ起業のタイミングではないと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:濵田祐輔 氏
関西学院大学商学部卒業、多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム修了。リクルートの事業開発室にて新たなHRサービスの立ち上げ段階に携わる。経済産業省のデザイン思考で政策を立案するプロジェクトに民間代表として参画し、育児/介護離職問題における政策デザインを経験。ToursではCEOとしてデザインアプローチを活用したHR組織コンサルテーションや自社プロダクトのマネジメントに従事。
企業情報
法人名 |
株式会社Tours |
HP |
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設立 |
2021年1月 |
事業内容 |
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