AIQ株式会社 代表取締役社長 渡辺 求

AIQ株式会社は、人の「個性」を再現する独自特許技術「HUMANISE AI」を活用し、新たな顧客体験価値を提供するAI企業です。空想のペルソナではなく、実在するユーザーをプロファイリングしSNSマーケティングに活かす独自SaaS「Moribus」の提供など、精緻な消費者分析に基づく戦略立案をサポートしています。

 

また、「デジタルクローン」技術により、アパレル店員など実在する人物の知識と個性を24時間活用できるサービスを提供しており、マーケティングとAI技術の両方に精通した視点で、新たな顧客体験価値を提供しています。代表取締役社長の渡辺 求氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

消費者を精緻にプロファイリングしたAIマーケティング

事業の内容をお聞かせください

人の「個性」を再現する独自特許技術「HUMANISE AI」を活用し、マーケティング領域やリアルに存在する人のデジタルクローン作成、DX化に取り組んでいます。

 

主軸はマーケティング事業です。マーケティングの本質は、商品やサービスを「こういう人たちに使ってほしい」「こういう人たちに認知してほしい」というターゲットとのマッチングだと考えています。


当社は、商品のターゲットユーザーを空想のペルソナで考えるのではなく、InstagramなどのSNSから実際のユーザーを見つけ出し「この商品のユーザーはこういう人たちです」とプロファイリングしながら具体的なアカウントを提示できる強みがあります。

 

独自開発のSaaS「Moribus」と特許AIを活用した緻密な消費者データ分析により、より正確なマーケティング戦略の立案をサポートしています。また、空想のペルソナだと、商品を作る人、マーケティング設計をする人、販売する人など、さまざまな立場の人がそれぞれの理解で戦略やメッセージを決めてしまいがちです。

 

そんな中具体的なユーザー像があれば、ターゲットの認識が合い商品開発から販売まで一気通貫で正しく進められるようになります。
SNSユーザーの投稿を時系列で分析すると、その人の好みや価値観が見えてきます。

 

例えば「iPhone 16を買いました」という投稿1つからは限られた情報しかわかりません。「旅行が好きで綺麗な写真を撮りたいから」という目的を持つユーザーと「良い音で音楽を聞きたいから」という異なる目的を持つユーザーでは、同じ商品でも価値観が異なります。

 

さらに過去の投稿を遡り「Macも使っている」という情報が得られたとして、「スティーブ・ジョブズのファンだ」という予測をすることもできます。

 

このようなプロファイリングを重ねていくと、本当のファン層のパターンが明確になりターゲット別のメッセージ設計や商品の機能拡張など、より具体的な戦略立案が可能になります。

 

デジタルクローンはどのような場面で活用されていますか?

個人の個性を活かしたビジネス展開の場面で活用されています。


当社のパーパスは「個性を、価値に。」を掲げています。個性を価値に変えることで、自分の個性でお金を稼げる社会を作りたいと考えています。

 

具体的な活用例として、アパレルのブランドの店舗スタッフのデジタルクローン「デジタルスタッフ」を約230人作りました。店舗スタッフそっくりの「もう一人の私」を作り、そのデジタルスタッフにEC上でアバターとしてチャットベースで接客してもらうものです。

 

店舗スタッフの多くは単にお金のためではなく、自分のコーディネートで誰かを幸せにしたいという思いのもと仕事をしています。お客様が会社の同僚や友人から「素敵だね」と言われて幸せになることが、彼らの喜びなのです。しかし、優秀な店舗スタッフでも実店舗で対応できるお客様の数には限りがあります。

 

「時間の有限性」は私がこの事業に踏み出すきっかけでもあります。例えば、接客以外にも商品陳列や在庫チェックなどの業務もあるため、幸せにできる人の数が限られてしまいます。デジタルクローンであれば、24時間365日、より多くのお客様を幸せにできます。個人の個性を価値に変え、最大化するソリューションとしてデジタルクローン技術を開発したのです。

 

一般的なAIチャットボットとの大きな違いは、個人の個性が反映されている点です。カスタマーサポートなどでみられる定型的な質問と回答を扱うAIよりも、接客のためのデジタルクローンを作るのは遥かに難しいと言えます。接客は正解がなく、自分の付加価値をどう反映させるかが重要だからです。

 

当社で作るデジタルクローンは、まず元となる店舗スタッフ自身に使ってもらいます。自身のデジタルクローンに対してさまざまな質問をしてもらうのですが、多くの方に「これ、私みたい」と言っていただけています。簡単には真似できない独自技術で、本人の個性が活きた上質なデジタルクローンを実現しています。

 

貴社ならではの強みを教えてください

当社の強みは、AIを使ったコンサルティングとマーケティング支援です。さらに、再現度の高いAIの使い方においても独自性があると考えます。

 

ハウスメーカーのケースで説明します。一般的なAI企業が提案する場合「営業マンのデジタルクローンを作りましょう」というアプローチになるでしょう。しかし、私たちは「御社で既に家を建てている先輩オーナーのデジタルクローンを作りませんか」という提案からスタートします。

 

この提案ができる理由は、私たちはマーケティングにAIを掛け合わせる事業も展開しているからです。家を建てたいと思っている人がハウスメーカーを決めるまでのカスタマージャーニーを描けるのです。

 

実際、家を建てようとしている人の多くは、営業マンに会う前にSNSなどで「どんな家に住みたいか」を調べます。理想の家を投稿している人を見つけた後「この人はどこで家を建てたんだろう」とさらに調べ、「このハウスメーカーで建てているんだ」と知り、情報収集し、検討を進めるわけです。

 

つまり、営業マンに会う前に勝負はある程度決まっているということです。だとしたら、営業マンのデジタルクローンより勝負を決める場所にいる「先輩オーナー」のデジタルクローンを作った方が効果的です。このような提案ができるのは、マーケティングとAI、デジタルクローン技術の両方を手がけている当社ならではの強みだと思います。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は人に非常に興味があります。「この人はなぜこういう話をするんだろう」「なぜこのスマホケースを使ってるんだろう」ということがとても気になるのです。

 

しかし、繰り返し「なぜですか?」と聞くと、相手は嫌な気持ちになります。それなら普段の生活の中にあるデータを連続的に見ればわざわざ聞かなくても理解できるのでは、と考えました。

 

最初からマーケティング事業をしようと思ったわけではなく、その人が「なぜそう考えるのか」という起点をベースに、今の会社や事業を立ち上げたのです。また「自分がやりたいことをやるならば、自分がリスクを取って会社を作るべき」だとも思っています。

 

起業前に、上場企業で新規事業を担当していたとき「こういう事業をやりましょう」と提案して実行することがありましたが、最終的な判断は社長次第でした。つまり、リスクを取るのは常に社長だということです。

 

これに気づいてからは、自分が本当にやりたいことをやるなら、自分でリスクを取るべきだと考えています。新しい世界を作るには、自分でリスクを引き受ける覚悟が必要だと感じているのです。

 

自分のやりたいことに妥協しない

仕事におけるこだわりを教えてください。

妥協しないことです。進めている事業が自分が納得いくクオリティになっているか、自分が本当にやりたいことなのかを常に問いかけています。

 

社内の誰かからヒントをもらうことはあっても、自分の中で消化した上で「自分はこうする」という「自分らしさ」をどう仕事に落としていくか。ここにこだわりを持っています。例えば、デジタルクローンの事業を始める前に社員にコンセプトを説明した際、ほぼ全員が半信半疑の表情でした。

 

しかし、これを自分たちがやりたい、社会貢献ができるはずだと思ったときに、共感してくれる人が少なくても信念を持ち続けることが大切だと考えます。一人でできることは限られているため、社内外の人を巻き込んでいくには、妥協しない気持ちが必要だということです。

起業から今までの最大の壁を教えてください

志を共にする仲間を集め続けることです。「誰と何をやるか」という点で、私は「誰と」の部分が特に重要だと考えています。「誰がやるか」が先で、その後に「何をやるか」が決まるのです。

 

チーム作りは、取り組む内容や会社のフェーズによって常に変化します。そこで仲間を増やしていくのはとても大変です。今、多くの企業が労働力の確保に苦労していると言われていますが、量の問題だけではなく質の問題もあります。

 

志を共にする人を常に集め続けることは今でも大きな課題であり、常に挑み続けなければならない壁かもしれません。


自分のデジタルクローンを持つことが当り前の社会に

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

常に世の中にないものを生み出していくことにワクワクすることです。

ビジネスでは「0→1」型や「1→10」型があると言われますが、私は完全な「0→1」型です。デジタルクローンは大きな領域ではありますが、より小さな領域でも同様のことが言えると考えています。

 

0から何かを生み出そうとするということは、自分たちなりの工夫をして、共感する社内の人や社外の人たちが現れ、お金をいただけるようになる、という一連の流れを生み出します。この起点を作ろうと思い続けることが、モチベーションになっています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

3年後には、自分の個性を反映したデジタルクローンを、1人1体持つ時代を創ることを目指しています。

 

現在のAIやデジタルクローンはネット上に存在していますが、将来的には現実世界に存在するようになると考えています。自分の時間が有限であるからこそデジタルクローンを作るため、デジタルクローンの活動範囲も人間と同じでないと意味がないからです。

 

だからこそ、自分のデジタルクローンが自分と同じような生活ができる社会の構築が必要になります。これは当社だけではなく、同じ世界を描いている方々と共に創り上げていくことになると考えています。

孤独であることを前提に事業を進める

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

「孤独であること」を前提として、進んでください。

 

社長として矢面に立ち方向性を決めていくときに、常に多くの人が共感してくれるわけではありません。孤独であることを認めないと「なぜ分かってくれないのか」とストレスが溜まりますが、孤独であることを前提にしておくと「どうすれば理解してもらえるか」というポジティブな発想に転換できます。

 

また、社長が明確な信念を持っていないと会社の方向性にブレが生じやすくなります。信念を押し付けるのではなく、孤独を前提にどうすれば仲間を増やせるかという視点でコミュニケーションを取ることを意識してみてください。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:渡辺 求 

大阪工業大学工学部経営工学科卒業。カシオ計算機、バンダイナムコエンターテイメントの新規事業開発責任者を経て、JNSホールディングス常務取締役とインミミック代表を兼務。主に大手通信事業者との大型プロジェクト及び新規技術を活用した新規ビジネス創出を担当。2019年に取締役に、2021年には代表取締役に就任。

企業情報

法人名

AIQ株式会社

HP

https://www.aiqlab.com/

設立

2017年7月6日

事業内容

独自特許AIなどを活用した新たな顧客体験価値を創出するAX支援

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