
株式会社KOKUA 代表取締役(共同代表) 泉勇作
防災意識の低さに課題を感じた原体験から「人々が正しくリスクを知る社会」を目指し、起業されました。「物を備えるだけの防災から、正しくリスクを知る防災へ」を提唱し、カタログギフトの形で防災グッズを届ける新しい防災サービスを展開されています。今回は行政や企業とも連携しながら、防災意識の向上に取り組まれている泉氏にお話を伺いました。
防災を日常に。社会課題に挑むソーシャルスタートアップの挑戦
事業の内容をお聞かせください
現在は、防災サービスの企画・開発・販売・卸売、商品の企画・制作・販売、社会問題に関する教育・研修サービスを行っています。
しかし「防災」を単体でそのまま展開してもなかなか広がりません。弊社の別事業の予算を防災普及に繋げていきたいという考えからギフト市場に向け防災グッズを展開しています。
防災グッズは、「堅苦しい」や「とっつきづらい」「行政っぽい」などという印象が強く、防災の啓蒙啓発の足かせになっているのではないかと感じています。
そのため、弊社の防災グッズはスタイリッシュに設計しています。
また、デザイン性を重視した理由として、多くの方に早く普及をさせていくかを考えた際、今までと同様の一般的な啓蒙啓発では届かないと感じたのも1つの理由です。
デザインは、ギフトシーンに馴染むことを想定しているため、BtoCの場合には結婚式の引き出物として、またBtoBの場合には成約時のギフトの他、周年祝いなどでご利用いただいております。
防災への意識は高い一方で、準備をしていない人は4割にも達していると言われています。「カタログギフト」で販売することによって、準備のきっかけになれればと思います。
また、個人向けに診断事業、「pasobo(パーソナライズされた防災セット)」も展開しています。
「pasobo」は「防災力をどのように向上させていけばいいのか」という悩みを抱えた方に向けた、お客様だけのリスク情報と防災対策が表示されるサービスとなっております。
「pasobo」がそれぞれの利用者にグッズを割り当てる際に立地条件、ご家族の背景、周辺地域の災害の可能性を総合的に判断しグッズの選択を行います。
すべての災害に対応する防災グッズを揃えることは、スペース的にも現実的ではありません。
どれを選択すればいいのかなど、パーソナライズできる防災セットが「pasobo」となっています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私が事業を始めようと決意したきっかけは、これまでの災害の経験にあります。
幼少期には阪神・淡路大震災を経験し、大学1年生のときには東日本大震災が発生しました。こうした被災の現場を実際に見て、支援活動にも携わってきました。その経験が事業を始めるきっかけになりました。
その上で私は、本当の意味で意義のある仕事をしたいと感じるようになりました。
起業当時私は、サラリーマンとして営業をしていましたが、この事業をすることで人生の満足度は大きく変わると感じ、起業することとしました。
防災グッズの市場は決して大きくはありません。原因は明確で、いつ起こるか分からない災害に対してお金と時間を割くことへの抵抗です。
私たちはこういった現状に対して、売り上げは勿論社会にどう大きなインパクトを残すかを常に考えています。
一人でも多く守るために「正しい防災」を社会に届ける
仕事におけるこだわりを教えてください。
「売上だけを追い求めすぎない」ことです。
お客様に貢献することで対価としてお金をいただくことになり、結果的に売上に反映されます。
しかし、弊社の場合には、プラスアルファとして「どれだけ防災に寄与したのか」「参画していただいた方々にどれだけ寄与できたのか」といった部分も、非常に重要となっています。
「ソーシャルスタートアップだから良いことをしている」と胡坐をかくのではなく、商談や打ち合わせでお出しする計画書の見やすさであったり、メールへのレスポンスの早さなどに対し、メンバー一同、注意を払いつつ行動をしております。
プロとしてどれだけこだわれるかといった部分が、社会を変えていくことにも繋がっていくと考えています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
常に課題は存在し続けるものだと思っています。例えば、防災意識がどれだけ広まったかという指標づくりはとても難しいです。
何をもって達成とするかについては、まだ明確な基準はありません。
たとえば、カタログギフトが全国民に行き渡った時点で達成と言えるのかなど、そういった指標の設定は、現時点での私たちの課題であり、向き合わなければいけません。
プロモーションにつきましても、当初はBtoCがメインターゲットで、広告を中心とした事業展開を予定していました。
しかし、広告だけでは訴求できない要素があることに気づき、新聞やテレビ、ラジオといったメディアとのコミュニケーションを図りつつ、弊社から企画を持ち込む形で広げていきました。
ただ、その形にたどり着くまでは広告のみでしたので、BtoBの展開は視野に入れておらず、思うように成果が出ない時期も経験しました。
見据えるゴールを教えてください。
全国民が、「正しく自分のリスクを知る、正しい知識を持つ」ところに指標を置いています。
物を揃えることももちろん重要なことなのですが、知識がないことにより適切に行動できず、被災した方が多くおられます。
最近では南海トラフ地震への関心が高まっていますが、最もリスクが高いのは東京だと考えています。被害想定の規模や都市機能への影響を踏まえると、圧倒的に厳しい状況です。
まずは、こうした現実を多くの方に知っていただくことが、今私たちが何よりも優先して取り組んでいることです。
ただ、リスクを知っていただくだけで本当に実効性が高まるのかどうか、学術的に防災力の向上となり得るのかといった部分に関しては、未だ不透明です。
そこで弊社では、大学の関係機関及び教授の方々と協議をさせていただきながら、共同研究の形式で指標を追いかけ、防災の社会的影響が表せられないかと考えているところです。
原体験から生まれた使命感で、防災を“あたりまえ”に
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
モチベーションという軸では仕事をしないことが大事だと思っています。
モチベーションという言葉を使うのであれば、自分の原体験に基づいているなど、自分がモチベーションを意識せずとも進み続けられる仕事を選ぶことが大切だと思います。
やはり人間ですから、『今日はしんどいな』と感じる日は当然あります。そんなときに無理をしないという判断も、長く続けるためには大事だと思っています。
モチベーションに頼らず、いかに自分の時間をコントロールするか、その仕組みをつくることが、非常に重要だと感じています。
メンバーに対しても、気持ちや気合いだけで突き進むのではなく、しっかりと計画を立てて仕事をマネジメントしていくことを意識しています。
自分の状態を正しく把握できる環境を整えることが、個々のパフォーマンスを高める上で不可欠だと考えています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
現在、防災グッズのブランド立ち上げに向けて、鋭意取り組んでいるところです。今のところ、防災グッズとして信頼の置ける定番ブランドがまだ存在していません。
だからこそ、機能性はもちろん、使う人の気持ちにも寄り添えるような商品を提供することで、安心感を届けながら影響力も大きくしていきたいと考えています。
もうひとつは、防災の取り組みを広げたいと考えている行政や企業の皆さまに対して、『弊社にはこうしたご提案ができます』と具体的に提示できるよう、あらかじめ準備を整えておくことが重要だと考えています。
そうした体制を今後しっかりと築いていきたいと思っています。
防災グッズは受け取る方に「嬉しい」といった感覚だけでなく、防災を考えるきっかけとなり、防災グッズにはこんなものもあったのかなどの発見にも繋がってくるものになるはずです。
また、弊社のプロダクトがギフト市場という大きなマーケットで流通することで日本の皆さんの防災意識をあげ、災害から味を防ぐことができる社会を実現していきたいです。
動き出す前に問うべきは、“なぜそれをやるのか”
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業で達成したいことを言語化・数値化できていないと、失敗する原因になってしまいます。
そのため起業が手段の目的化となって、とりあえず起業するのではなく、何のためにやるのか、何を成したいのかなどを起業の手前で考えて欲しいと思います。もちろんそれらは自己実現でも良いと思います。
その想いやビジョンがしっかりと固まっているのであれば、迷わず突き進んでほしいと思います。成功者の意見というのは、参考にはなっても、必ずしも自分に当てはまるとは限りません。
だからこそ、思いが定まっているのであれば、まずは自ら動き出すことが何よりも大切だと感じています。
反対に迷っている方や、どういうビジネスモデルにするか、どんな仕組みにしようかなどと迷われている方であれば、一旦立ち止まってみてください。
そして、なぜ起業をしようと思ったのか、何を成し遂げたいのかという部分を突き詰めていくことが、自分の人生をよりよくしていくと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:泉勇作 氏
幼少期に神戸市にて阪神淡路大震災で被災。大学の入学式直前に発生した東日本大震災をきっかけに、NPOで災害ボランティアを始める。2019年に一般社団法人防災ガールのアクセラレータープログラムに参画し、防災事業の立ち上げに向けて取り組む。一人の力ではなく協力し合うことで防災を解決することを信念に、協力するという意味がある「KOKUA」という名前で創業。事業企画や全体の意思決定を担う。
企業情報
法人名 |
株式会社KOKUA |
HP |
|
設立 |
2020年9月 |
事業内容 |
|
関連記事