【#428】天王洲をクリエーションの最先端地にースタートアップ支援で「起業家精神の息づく街づくり」を目指す|寺田倉庫株式会社 ミライ創造室副室長 閑野 高広(Creation Camp TENNOZ)

Creation Camp TENNOZ 寺田倉庫株式会社 ミライ創造室 副室長 閑野 高広
Creation Camp TENNOZは、寺田倉庫が手がけるプレシード・シード期スタートアップ向けのインキュベーション事業です。最大2年間、寺田倉庫が「時」と「場」を提供し、適宜、採択企業の事業進捗や課題感に合わせた支援をしながらビジネスが自走できるところまで併走します。今回は、本事業を構想段階から主導し、現在も支援に携わり続けているミライ創造室 副室長の閑野高広氏に、事業立ち上げまでの経緯や想い、今後の展望などをお伺いしました。
スタートアップに「時(2年間)」と「場(天王洲)」を無償提供
Creation Camp TENNOZはどのようなインキュベーション施設ですか?
一言でいうと「時」と「場」を提供する施設です。
世の中にはさまざまなアクセラレータープログラムが存在していますが、その多くが半年から数ヶ月、長くても1年程度です。しかし我々は、プレシード、シードステージにあるスタートアップ企業、さらにいえばまだビジネスプランの構想段階にある人がしっかりと自走できるようになるまでに、2年くらいは必要だと思っています。
ビジネスとして勝負できるプロダクトを生み出すまでの2年間、試行錯誤や実証実験を重ねるスタートアップに対して、Creation Camp TENNOZは、場所と必要な支援を無償で提供します。これこそが、私たちの最大の強みです。
また、弊社代表が直接インキュベートに関わり続ける点も大きな特徴です。Creation Camp TENNOZでは、月1回、代表によるメンタリングを実施しています。その中で、当社のネットワークを活用した機会の提供も行われております。
私としては、「せっかく同じタイミングで選ばれたスタートアップ企業同士であるため、連帯を高めて助け合っていける環境を作りたい」という想いです。
さらに毎年新しい企業が10社入居し、2年のプログラムを終えた企業が卒業していくなかで、それこそ部活動のような伝統ができていくのではないかと想像しており、我々も含め、なるべくフラットな関係が築ける場が理想だと考えました。
支援体制やプログラムについてお聞かせください
基本としているのは、「Learning Camp」と呼ばれる定期的な学びの機会の提供などです。これは、マーケティングやファイナンスなどいくつかのカテゴリーを作って、必要な学びを選択して習得できる体制にしています。
さらに、月1回の進捗フィードバックによって、企業毎の課題感や進捗を把握し、それぞれの企業の状況に合わせて伴走的に必要な打ち手を提供しています。
例えば、営業面に課題のある企業に対しては、我々も営業会議に参加し、案件管理の仕方や営業で重視すべきことなど、改善に向けたアドバイスを伝え、各社の課題に寄り添った伴走をしています。
どのような企業を採択していますか?
選考の過程としては、書類審査、面談審査と絞り込みを行い、最終的には弊社代表を筆頭とした審査メンバーの評価によって採択企業を決めています。
ただ、創業者自身が熱い想いを抱いており、それに付随して明確な目標やビジネスモデル、プロダクト、サービスを持っている将来性のある企業が選ばれていると感じています。ちなみに採択企業は、寺田倉庫の既存事業との関連性や事業領域を問わず選定させていただいています。
昨年、1期生となる9社を採択させていただきましたが、応募してくださった企業は、「2年間」のサポート期間や、インキュベーション施設の利用が無料なうえに法人登記も可能な点など自分たちの活動の基盤を保障してもらえるということにメリットを感じていただいたところが多かったと思われます。ほかにも、資金面でのサポートも大きな魅力だということでした。
Creation Camp TENNOZでは入居している企業同士の連携も見られます。例えば、イベントのデモブース出展時に認知を広めたいターゲット層を同じとする業種の違う二社が、共同でブースを出して一緒に認知拡大を図ったということもありました。
天王洲をクリエイティブなことを仕掛ける人たちにとって居心地のいい街に
スタートアップを支援する理由
一番大きいのは、最終的に「街づくり」に繋げていきたいと考えているからです。
弊社では、天王洲エリアのリブランディング、アップデートを視野に、これまで磨き上げてきた水辺とアートのある環境が作用してビジネスイノベーションが興っていくような世界観を目指したプロジェクト「Isle of Creation TENNOZ」を始動しています。
この地をクリエイティブなことを仕掛ける人たちにとって居心地のよい街にしていくことを目指し、その核拠点の1つとしてCreation Camp TENNOZを位置づけております。
もともと天王洲は、水辺とアートが融合する地として認知されてきましたが、ビジネスイノベーションの先進地を見ると「水辺とアート」という文脈のあるところにスタートアップ拠点が誕生するなど、新たな起業文化を花開かせています。例えばニューヨークのブルックリンなどはその代表的なエリアではないでしょうか。
もともとその地に息づいていた既存ストックを効果的にリノベーションしているところや、多数のアーティストたちが参画しているところなど、そうしたところでは、天王洲も同様の下地があり、同じような方程式が成立するのではないかと私は目論んでいます。
起業家も「起業アイデアをビジネスとして形にする」という意味では「自己を表現するアーティスト」です。天王洲を「様々なアーティストのみなさんがクリエイションできる街」にしていきたいと思っています。
スタートアップとどういう街づくりをしていきたいのか
いくつかの観点があると思いますが、スタートアップを中心としたコミュニティの環をより大きく、より太くすることに注力しようと思っています。
天王洲には、数多くの本社や外資系日本支社機能を有する事業会社も集積しています。スタートアップ支援やオープンイノベーションで繋がる事業会社同士の接点を増やし、横のつながりもしっかりと形成していきたいと考えています。
同時に、天王洲に定着するスタートアップ/ベンチャー企業を創出したり誘致したりする取組みが必要になります。
現在、Creation Camp TENNOZを卒業した企業だけでなく、外から天王洲の居心地の良さを求めて来ていただける企業の受け皿として天王洲アイルの空きフロア等をシェアオフィスのような形で提供する事業「Creation Hub TENNOZ」を、第2弾として展開していくところです。
スタートアップ/ベンチャーにとって、最小限の専有部分を持ちながら天王洲全体の屋内・屋外に広がるワークスペースを企業やビルの垣根を越えてシェア出来るようにし、自由にいつでも利用できるような姿を理想としています。
毎日のようにビジネスピッチやセッション、ネットワーキングが繰り広げられ、そうした熱量が街の活気につながっていくような理想を思い描いております。心地よい水辺の空気や景観、アートと融合した島の雰囲気が人と人との距離をより近づけ、それぞれのビジネスや親交を深めていけるようなイメージです。
そもそも天王洲は、四周を運河で切り取られた島状になっているため、まさに島全体をひとつの大学のキャンパスのように見立て、ホスピタリティをワンパッケージで提供し、天王洲に集う企業や人々が心のこもった街を享受できるようになれば素敵だと考えています。
天王洲には既に、我々だけでなく、日本航空㈱の「JAL INNOVATION LABO」やサツドラホールディングス㈱の「EZOHUB TOKYO」、三井物産マシンテック㈱の「Industrial Robot Hub」といった天王洲におけるビジネスイノベーションを促すような施設が存在しています。
ゆくゆくは、このような天王洲にある施設との連携や、我々のプログラム外のスタートアップ企業などに向けたイベントの開催や仕組みの構築などにも協働で取り組んでいきたいです。「企業同士が常にセッションしあう環境」を共に創り出して、スタートアップの皆様から「天王洲に行くと何かよいことが起こる」と思っていただけるような、起業家精神や文化が息づく街を目指していきたいと思っています。
Creation Camp TENNOZ開設から今までの最大の壁・課題
「募集をかけても応募があるのか」は大きな懸念点でした。
我々としては「スタートアップの熱量や勢いを、街づくりや活性化につなげたい」といった想いからCreation Camp TENNOZを始めました。
「なぜ寺田倉庫がインキュベーションに取り組むのか」からはじまり、「なぜ天王洲なのか」「このプロジェクトによってどのようなよいことがあるのか」を社内でまとめ上げて募集までたどり着くまでに、2年もの時間を要しました。
何度も経営会議にかけ、軌道修正を重ねながら準備をしてきましたが、我々の想いや意義は果たしてどれだけスタートアップのみなさまに伝わるのか、そして応募につながるのかといった恐怖心がありました。
そんな心配とは裏腹に第1期、第2期とも非常に多くのスタートアップ企業にご応募いただき、今は胸をなでおろしています。
採択された企業は「投資先」ではなく「しっかりと伴走する相手」
運営メンバーの思い
実は弊社は、Creation Camp TENNOZの構想が持ち上がる以前から、スタートアップやベンチャー企業10社ほどに出資をさせていただいてきた経緯があります。しかしこれらのほとんどはトップ案件としてご紹介いただいたものが中心で、都度個別に検討、対応してきたため、体系立てて実施しているものではありませんでした。
そこで体系的な仕組みづくりに動き始めた際に、せっかくであれば街全体の価値を上げるための施策と絡めた支援ができれば理想的だといった意見が上ってきたのが、2022年頃です。
弊社の代表も、現職に就く以前には社内ベンチャーで立ち上げたインターネットデータセンター事業会社を東証一部上場まで成長させた人物です。そういった自らの経験からも、特に若い経営者たちの手助けをしたいといった想いを強く持っています。
そのため我々としては、採択された企業は「投資先」ではなく、「我々がしっかりと伴走する相手」と捉えています。
「我々にしかできないこと」や「我々だからできること」をさらに明確化していきつつ、1社1社とともに同じ空気を吸いながら寄り添えるプロジェクトにしていきたいです。そして、こうした我々の取り組みが「天王洲モデル」といった形で広まっていけばと願っています。
今後やりたいこと・目標・展望など
天王洲エリアの特性をより活用できる環境を整備していきたいです。島状になっているこのエリアの地域資源、例えば陸・海・空それぞれを実験実証フィールドとして見立てていけたらと考えています。
さらに支援の環づくりとして、天王洲の事業会社とのセッティングや、Isle of Creation TENNOZの世界観を伝えられるようなイベント等も仕掛けていきながら、内外の認知を高めて、天王洲をあげてスタートアップを応援するような仕組みを醸成していきたいです。
応募を検討している方にメッセージやアドバイス
Creation Camp TENNOZでは、毎年、最大10社の採択・入居を予定していますので、「起業してみたい」「アイデアを実現したい」と少しでも迷ってる方は、とにかく応募していただきたいです。
2年間という長期の支援があれば、より、一歩が踏み出しやすいのではないでしょうか。もし採択されたら、我々、寺田倉庫と共に新たな挑戦に進む尊い機会にしていただければと思います。
Creation Camp TENNOZの情報はこちらから(https://ict.terrada.co.jp/)
本日は貴重なお話をありがとうございました!
代表者データ:閑野 高広 氏
1999年寺田倉庫へ入社、主に水辺開発や新規事業創出に関わる
企業情報
法人名 |
寺田倉庫株式会社 |
HP |
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設立 |
1950年10月 |
事業内容 |
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