株式会社Pictoria 代表取締役 明渡 隼人

100%AIで駆動するVTuberをプロデュースし、配信の世界の常識を塗り替えた株式会社Pictoria。AI VTuberという新しいプロダクトでマネタイズに成功し、人間を必要としないAIの価値を証明したとして今業界の注目を集めています。今回は代表取締役の明渡隼人氏に、市場の開拓者となった経緯や今後の展望についてお聞きしました。

 

toB事業の拡大で、AIキャラクターの市場を育てる

事業の内容をお聞かせください

弊社はAI VTuberというエンタメコンテンツを提供している企業です。

 

これまで一般的にVTuberといえば、見た目は二次元のキャラクターでありつつ、実際には人間が裏側にいて配信活動を行うというものでした。しかし弊社のAI VTuberは100%AIで駆動しており、いわば人間を必要としないVTuberとなっています。

 

AI技術の進化に伴って接客用のAIキャラクターが活躍する場面も増えてきましたが、toCの純粋なエンターテイメントとしてAIキャラクターがファンを獲得している例は他になく、現状ではほとんど弊社の独走状態と言って差支えないと思います。

 

現在はこのAI VTuberのプロダクション事業が弊社の柱の1つです。

 

それに加えて、AIキャラクターを活用した企業向けのソリューション事業も展開しており、主に人手不足の課題を抱える大企業の方々にご利用いただいています。

 

AIキャラクターは広報のPRツールとして活躍できますし、店舗などでの接客用としてのニーズも非常に高いプロダクトです。

 

toB事業を手掛ける中で感じるのが、同じようにAIキャラクターを活用しようとしても、業界によってニーズが大きく異なるということです。

 

例えば同じ交通インフラであっても、空港に置くAIと駅に置くAIでは、求められる対応や知識は異なるといえるでしょう。そのため今後は各業界のニーズをしっかりと深掘りしていく必要性を感じています。

 

各業界のニーズに合わせたプロダクトを提供するべく、受託開発をはじめとしたAI技術の研究開発にも力を入れています。

 

弊社はAI VTuberという市場を自力で切り開くことができましたが、さらにAIキャラクターの経済圏を拡大していくためには、自社単独でできることには限界があります。

 

街中のいたるところでAIキャラクターの存在を根付かせるには、大企業と協力して駅や店舗にAIキャラクターを置くというのが最も効果的かつ現実的な手段だといえるでしょう。

 

そうしてAIキャラクターが日常的に人目に触れるようになり、その価値が普及して初めてAIキャラクターの市場が拡大したといえます。toB事業に力を入れるのは、そのフェーズにいち早く辿り着くためです。

 

ですから、今後弊社の競合となるような企業が新しく参入してくるのも大歓迎ですし、とにかく業界全体の活性化という視点で取り組んでいかなければならないと考えています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

学生の頃から自分の会社を作ることをずっと考えていて、そのための過程としてまずエンジニアリングを学ぶことにしました。

 

ゲーム会社など新しいプロダクトを作る会社でインターンを経験し、そこでプログラミングの基本を習得しました。また留学先のビジネススクールで、ビジネスのケーススタディやディスカッションのクラスにも参加して経営を学びました。

 

そんなとき、とある会社から「起業するなら、業務委託の形で仕事を振ってもいい」とお声がけいただき、そのおかげで起業を決断することができました。

 

ただ、自分の会社を立ち上げて順調に依頼も来ていたものの、与えられた仕事をこなすだけの日々に「会社勤めとあまり変わらないな」と感じるようになりました。そこで会社設立から半年ほど経った頃から、自社事業に力を入れるようになったのです。

 

3年ほどピボットを繰り返し、その1つとして通常のVTuberコンテンツの作成と運用も手掛けました。けれど当時すでにVTuberは世に溢れていて、私自身、そこに新しい価値や面白みは感じられませんでした。

 

そんな中、ふとAIを使ってみれば面白いのではと考えて、試しにAIキャラクターでクラウドファンディングをやってみました。すると300万円程の資金を集めることができ、「これはニーズがある」という確かな手応えを感じました。

 

そこで最初のAI VTuberをデビューさせたのが、今の事業の始まりです。

やるからにはオリジナルな概念の実現を

仕事におけるこだわりを教えてください。

私は保守的であることや、すでに存在しているものを手掛けることが嫌いです。

 

やるからには、自分やこの会社が存在しなかったら生まれなかったであろうオリジナルな概念を実現しなくてはならないと思っています。

 

AIVTuberを広めるという事業の目的はまさにそれです。

 

「人間は尊いんだ」「人間がやるから価値があるんだ」と思われている中でAIの価値を認めさせて、それが当たり前の認識になれば、世界は確実に変わるでしょう。

 

「人間が介在しなくても、AIキャラクターには価値がある」という認識が一般的になっている、新しい世界がそこに現れます。

 

オリジナルなものを生み出し、そしてそれをメジャーにするという2つの信念を持って仕事に取り組んでいます。

起業から今までの最大の壁を教えてください

起業の一番の試練は、やはり資金が底を尽きるときです。

 

お金が無くなり、すぐに投資が受けられるわけでもなく、会社を潰すか否かという選択を迫られたことが過去2回ほどありました。

 

その経験から学んだのは、苦しいときほど1人で抱え込まずに周囲にアドバイスを求めるべきということでした。実際に資金が尽きて追い込まれたときも、色々な人に話を聞いたことで状況を切り抜けるための糸口が掴めたのです。

 

他の人に教えてもらった方法で必死に試行錯誤し、再び売り上げが立つようになれば、今度は全てを賭けて勝負に出る、ということの繰り返しでした。

 

その経験から、追い込まれた状況でも人に聞けば打開できると頭では分かっていましたが、それでもお金がないことによる不安を完全に拭い去ることはできません。

 

ただ、反対にお金があるときには「ここで判断を1つ間違えても何とかなる」という気の緩みがあったのも確かです。

 

その点では、人はお金が無いときこそ真剣になれるもので、常にお金が無いという気持ちで経営に臨むことが重要なのかもしれません。

世界が進化するスピードに乗り遅れないために

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

根底にあるのは、先ほど申し上げたようにオリジナルなものをメジャーにするという信念です。そして、いつも私を駆り立ててきたのは「もっと拡大したい」という強い気持ち、拡大欲でした。

 

経営者にも色々な価値観があると思います。

 

優れたものを作りたい人、センスが良いと思われたい人、あえて小規模な組織にこだわっている人など価値観は様々ですが、私の場合はとにかく拡大したいのです。

 

これは高校生の頃に読んだ本に影響を受けているところがあります。

 

その本には、まさに現在のAIの進化に代表されるような、技術革新のスピードについて書かれていました。ある時点で進化のスピードが極度に早くなり、そこからは社会が激変するという内容です。

 

私はそのときに大きな危機感を覚えて、世界の変化に乗り遅れると、否応なしに弱者と呼ばれる立場になってしまうのだろうと考えました。

 

だからこそ起業の道を選び、世界が変わるスピードに乗り遅れないように、事業を拡大し続けようとしています。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

我々が目指すべきところはただ1つ、AIVTuberをはじめとしたAIキャラクターという存在をメジャーなものにすることです。これは誰に何を思われようと、手段を選ばずにやり抜く覚悟でいます。

 

まずは自社が抱える8名のAI VTuberを、次のひと夏で100名に増やすことを計画中です。

 

もちろんただ作るだけでなく、キャラクターとして育てていく必要があるので、かなり大変な挑戦になるとは思っていますが、認知拡大のためには必要なことです。

 

加えてAIの強みを活かし、AI VTuberをグローバルに展開していく構想も持っています。

 

日本のキャラクターは全般的に海外で高い人気がありますが、通常であればキャラクターのセリフに字幕を付けるなどしないと海外の人たちは気軽に楽しむことができません。

 

そもそも海外では日本のコンテンツを消費する機会も限られているでしょう。

 

AIキャラクターであれば、どの国でも現地の言葉を話すことができるので、エンターテイメントを提供する可能性は無限に広がります。

 

最先端のAIベンチャーとして、そういったチャンスを見逃さないようにしたいです。

起業とは本来もっと自由であるべき

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業家についての古いイメージや価値観に囚われないで欲しい、とは思います。

 

10年くらい前の起業家といえば、「世界で通用する大企業を目指す」とお題目を唱えているイメージでした。

 

けれど世界で戦うことを考え続けた結果、苦しい状況に追いやられた人も少なくありませんし、上場したところで大きな企業になれるとも限りません。

 

また小さく上場してしまうと、それはそれで困難が付きものです。そうした多くの起業家たちが置かれている状況を考えると、かつての起業家像が本当に正しかったのかという疑問が残ります。

 

起業とは本来もっと自由であるべきなのです。

 

今は小規模でも意義のあることを着実にやるタイプの起業家も増えています。

 

これから起業する人も、あまり昔からある起業家のイメージに固執せず、自分と価値観が合う人に応援してもらいながら、自由にやっていくのがいいのではないかと思っています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ: 明渡 隼人氏

明治大学在学中にカリフォルニア大学バークレー校に留学。帰国後、コンサルティング系の会社やゲーム開発会社でインターンを行い、経験を積む。2017年12月に株式会社Pictoria を設立。独自のAIVTuberを開発し、クラウドファンディングで1400万円を集める。AITuber事務所の設立等、AI技術を活用したエンタメ・サービス開発に注力している。

 

企業情報

法人名

株式会社Pictoria

HP

https://www.pictoria.co.jp/

設立

2017年12月22日

事業内容

AIを使ったエンタメ・サービス開発

 

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