株式会社Playbox 代表取締役 CEO スコット アトム

スポーツ選手の動きを撮影・分析するAI技術を開発した株式会社Playbox。FC東京のオーナーである株式会社MIXIとも共同で研究を進める同社は、筑波大学大学院・名古屋大学大学院に在籍する3人が2024年に立ち上げました。今回は代表取締役CEOのスコット アトム氏に、人間の動きを分析するAI技術の展望についてお聞きしました。

AIが撮影を自動化!スポーツ選手の動きを分析して戦略立案へ

事業の内容をお聞かせください

「人の動きを計算可能にする」というミッションを掲げ、AIのシステムに繋げたカメラを設置し、自動で撮影と編集、そして改善すべき点を分析できるサービスを提供しています。

 

現在AIを活用した多くのサービスが登場していますが、大半はテキストベースのものです。それに対して我々はAIに「目」を持たせ、より人間に近い感覚で人間を分析できるテクノロジーの開発を手掛けています。

 

このサービスを利用するメリットとして、まず撮影を自動化することによる人件費の削減が挙げられます。加えてAIカメラが最初から最後まで全体を撮影できるため、撮り逃しもなく、撮影の質が担保されることもポイントです。

 

そしてAIカメラのサービスというと従来は費用が高額になりがちでした。しかし現在ではより手頃なGoProを活用することができるため、サービス導入のコストを格段に安くすることができます。

 

我々はもっと誰もが手にしているデバイスでAIカメラのサービスが利用できるようにと考えています。

 

すでに我々の技術も社会実装が進んでいて、現状は人の動きを解析するニーズが最も高いスポーツの領域で活用してもらっています。

 

私自身スポーツの経験が長く、知人にスポーツチームのコーチがいる関係もあって、これまでセミプロから小学生まで様々なチームに導入してもらうことができました。

 

プロチーム向けには、AIカメラによる撮影と編集とは別に、映像から抽出したデータをもとにした高度な分析を提供するコンサルティングプランもご用意しています。

 

強豪チームであっても、映像を通じて自チームの傾向や弱点を把握し、次の試合に活かすための研究を行っています。私たちは、そうしたチームの戦略的な意思決定を支援したいと考えています。

 

Playboxカメラのシステムは、①映像からデータを抽出する技術 ②抽出したデータを分析・活用する技術の、2段階で構成されています。映像データの抽出技術はあらゆる分野に共通して利用でき、分析・活用技術はそれぞれの現場に応じたカスタマイズが可能です。

 

この技術をより多様な分野へ広げるべく、今盛り上がりを見せているバスケットボールなどのスポーツ、さらには商業施設や建設現場などへの実装も進めていこうとしています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

元々スポーツの研究に興味を持った始まりは、私が通っていた中高一貫校の自由研究のような授業でした。

 

テーマは自由に決められたので、私はスポーツに関するテーマで大量の文献を集めて、自分なりに頑張って取り組んでいました。しかし、先生方から受けた評価は散々なものでした。

 

それでも、「このテーマをもっと本格的に研究してみよう」と声をかけてくださった先生がいらっしゃいました。その先生は、当時50万円ほどもするハイスピードカメラを研究のために用意してくださったのです。

 

それを使用してまた1年間研究に取り組んだ結果、大きな研究成果を得ることができ、その成果をもとに筑波大にも入学しました。

 

大学に入ってからは、やりたいことが沢山あって将来どの道に進むべきか決めきれず、全てを並行して進めていました。研究にも打ち込んでいましたし、スポーツチームのアナリストとしてJリーグのクラブからオファーもありました。

 

ただ、研究者やアナリストとしての道に進んでも、将来的なキャリアや収入面に少し不安を感じていたため、修士課程2年の頃には就職活動にも真剣に取り組みました。企業に就職すれば安定した高収入が期待できる、そんな現実的な魅力も確かに感じていました。

 

しかし、企業に属することで自分の興味や探求心に従って自由に研究を進めることは難しくなるとも感じていました。

 

いずれの選択肢も諦めたくなかったため、「すべてを叶える道は自分で切り開くしかない」と考え、起業を選びました。

 

幸い同じ志を持った仲間にも恵まれて、共にAIやスポーツを研究してきた大学院の仲間3人と一緒に起業することができました。

海外にも目を向け、マーケットサイズの問題を乗り越える

仕事におけるこだわりを教えてください。

仕事のこだわりと言えるものはあまりないのですが、自分自身で徹底的に理解し、納得できたことでなければ前に進めない性格だと思います。

 

チームのメンバーと議論を交わす際にも、自分が本当に理解し、納得できるまで徹底的に話し合うスタイルを貫いています。その分、どうしても時間がかかってしまうこともあります。理解を深めた上で前に進むことが、自分にとっては何よりも重要なのです。

 

プロダクトに対しても、私自身が1人のユーザーとしての視点で見たときに何か違和感を覚えると、それを見逃すことができません。小さな違和感だとしてもいつかどこかで必ず表面化してくると思っているため、ボタン1つ設置するのにも真剣に吟味しています。

 

そういう意味では、非常にこだわりが強いタイプと言えるのかもしれません。

起業から今までの最大の壁を教えてください

起業からこれまでに大きな問題に直面してはいませんが、今後の壁となるのはどれだけ大きなマーケットサイズを取りに行けるかという点だと思います。

 

国内では、スポーツ分野のマーケットは非常に小さいことで知られています。私自身もそのように考えていたのですが、海外に目を転じてみると、スポーツ用のAIカメラの開発で年間100億を売り上げる会社は珍しくありません。

 

そうとなれば、自分たちも目指せるのではないかと考え、この事業に本気で取り組むことにしました。

 

スポーツに取り組む人はたくさんいます。また、今の時代なら私たちが挑戦できるマーケットがきっとあると考えています。

 

今はそれを証明するべく、海外に視察に行くなどして、本気でマーケットを取ろうと戦っている最中です。

「やりたいことは全部やりたい」という欲張りな気持ち

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

モチベーションとして明確に意識しているものはないのですが、1つには「やりたいことは全部やりたい」という私自身の欲張りな気持ちがあると思います。

 

また、好きなことでしっかりとお金を生み出していきたいという強い思いもあります。

 

以前、スポーツの世界で有名なアナリストの方と1対1でお話しさせていただいたとき、「10年後のアナリストはどうなっているのか」ということを話し合いました。

 

その中で、アナリストが年収1億円を稼ぐためにはどうすればいいかというテーマが出たのですが、結局答えが出ないまま終わってしまいました。

 

おそらく、自分の中でその問いに対する答えを見つけたいという思いが根底にあるのだと思います。やりたいことで生計を立て、かつ社会に対して大きなインパクトを残したいという考えに、どこかエゴイスティックなまでに強くこだわっているのだと感じます。

 

ただそれだけではなく、新しい技術で世界が変わっていくのを見るのが面白いという気持ちもあります。

 

今私たちが取り組んでいるのは、目があり感覚もあって、より本来の人間に近い形の新しいAIテクノロジーです。そうした新しい技術に実際に触れて、自分たちの好きなものに当てはめていくのが面白くて、こうして続けられるのだと思います。

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

現状で最もニーズを感じているのがスポーツの分野で、さまざまな種類のスポーツへの技術展開を進めたいと思っています。特にバスケットボールはこれから盛り上がっていくスポーツで、データの活用ニーズも増えると見込んでいます。

 

また国内のスポーツ業界に限定することなく、海外市場への展開も検討しているところです。

 

ただし、国内であれば自分たちの知人を介して各スポーツ関係者にアプローチできたのですが、海外の場合はそうしたコネクションの構築が難しいので、マーケット獲得にはまだまだ課題があります。

 

現状として検討段階ではありますが、商業施設や建設現場、街中での防犯といったシーンでも私たちの技術を応用していきたいと考えています。

 

カメラを通して人の動きを把握し改善していく技術というのは、スポーツ分野だけに留まるものではありません。この技術が社会の共通基盤として進化すれば、今後あらゆる業界により良いソリューションを提供できます。

 

我々の企業としての選択は、その中でも最もフィットする分野を見つけて、そこに大きく投資していくことになると思います。

学生起業なら、まず資金を自力で獲得するノウハウを

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

もしまだ学生という立場なのであれば、やりたいと思ったことを全部やってみるのがいいと思います。

 

全部やってみれば、自分にとって何が良くて、何なら頑張れるのかということが分かります。その中で、やる気が出ないときでも「これならやりたい!」と思えるものが見つかれば、自然と継続できるようになるでしょう。

 

何よりも「やりたいことを全部やった」という納得感さえあれば、後悔はありません。自分の中で納得さえできれば、本気で頑張れるはずです。

 

それと、学生で起業を考えている人にもう1つ伝えておきたいのが、研究資金などを自力で獲得するためのノウハウは必要だということです。

 

私自身、起業した当初は学生でお金がなかったので、「未踏IT・未踏アドバンスト」や、「ICTスタートアップリーグ」などを活用させてもらいました。そういった資金を獲得する力さえあれば、起業のスタートラインには立てます。

 

そこからどうやって事業を伸ばしていくかは、今実際に私も取り組んでいるところです。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:スコット アトム

筑波大学で情報技術を学びつつ、蹴球部のデータ分析を担当。産総研やPreferred Networksでの勤務と並行して、同大学院にてスポーツ×AIの研究に取り組む。その後、名古屋で博士課程に進学し、強化学習や画像処理分野の国際会議で複数回発表。2022年度には未踏IT人材としてスーパークリエイターに認定。

 

企業情報

法人名

株式会社Playbox

HP

https://www.play-box.ai/

設立

2024年11月28日

事業内容

  • スポーツ
  • AI

 

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