【#483】営業・接客の教育トレーニングに革新を。VR研修「MasterVR」で鍛える実践力|代表取締役 山本 直弥(株式会社casaliz)

株式会社casaliz 代表取締役 山本 直弥
株式会社casalizは、VR×AIによる教育・研修ツール「MasterVR」を展開しています。実戦に近い現場のやり取りをVR空間で再現し、繰り返しの練習によって対応力を身につけられる仕組みが評価され、様々な業種で導入が進んでいます。VRだからこそ実現できる教育手法に挑む、代表取締役の山本直弥氏に、事業内容や今後の展望について詳しく伺いました。
VR×AIで、会話トレーニングの常識を変える
事業の内容をお聞かせください
弊社が提供するMasterVRは、VRとAIを組み合わせた従業員育成ツールです。
従業員教育の現場において、対面かつ実践形式で行われる教育手法の代替となるツールで、従来のe-ラーニングや講師による研修とは異なる形を実現しています。
トレーニングでは、AIキャラクターに実際のお客様役やお手本となる優秀な先輩役を演じさせることで、より実践的な接客スキルを身につけることができます。たとえば、鋭い質問を投げかけてくる方や、反応が乏しく会話のきっかけがつかみにくい方など、現場でも対応が難しいお客様をVR空間上でリアルに再現しています。
受講者はAIキャラクターとの対話を通じて、実際の接客に近い環境で臨機応変な対応力を養っていきます。
一連のトレーニングを終えると、AIが会話の内容を分析し、スコアやフィードバックを提示します。その結果を振り返りながら、何度でも繰り返し練習することができるため、定着にもつながります。
私たちは、一方的にコンテンツを納品するだけでなく、企業ごとの課題や営業スタイルに応じて、VR上でのトレーニング内容を柔軟にカスタマイズします。顧客像やターゲット層のヒアリングをもとに、声のトーンや語尾、返答の適切さなど、評価軸も企業ごとに設計が可能です。
サービスの導入企業は、主に会話力を重視する業界です。顧客の課題を引き出し、提案につなげるためのコミュニケーション力が求められる営業や接客、受付などの業務との親和性が高いです。
IT企業やメーカー、保険会社、携帯ショップ、結婚相談所、など幅広い業界で活用が進んでおり、現在は全国で200拠点以上、VR端末では500台以上の導入実績があります。
MasterVRの導入メリットを教えてください
導入のメリットは2つあります。
一つ目は、教育コストの削減です。通常は指導者の時間や人件費がかかりますが、その役割をVRが担うことで、戦力になるまでの育成にかかる時間とコストを大幅に抑えることができます。
実際に、従来の教育と比べてコストを8割削減できた事例もあります。
二つ目は、成果につながることです。例えばあるホテルでは、宿泊客に自然な流れで会員制度を案内するトークをVRで繰り返し練習した結果、会員獲得数が従来の2倍以上に増加しました。
多くの企業が、成果を出している営業担当者の対応力を言語化し、社内に共有することの難しさを感じています。
そこで当社では、優秀な社員がVR上で多様な顧客とやりとりする様子を記録・蓄積し、成功パターンを可視化しています。MasterVRの高精度なペルソナ再現技術を活かし、現場に近い形で実践的な学びを可能にしています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
もともとは、生成AIが話題になる以前から、ディープラーニングを活用したAIの開発で起業しました。当時は画像解析を中心に、人の作業を代替する方向性でプロダクト開発を行っていました。
しかし、現場に導入しようとすると、ビジネスモデル上の課題に直面し、思うように軌道に乗らない時期が続きました。その中で、人の代わりにAIを使うのではなく、人を強化するためにAIを活用する発想へと転換しました。
VRに注目したのは、バーチャル空間は徹底的な反復トレーニングと相性が良く、現在はVR=メタバースのイメージが強いですが、「現実のためのバーチャル」という側面に価値を感じたためです。
特に「話す」行為と相性がいいです。会議室に人を配置し、会話のシナリオを与えて実際に話してもらうだけで、軽量なプロンプトデータ、音声データだけで膨大なシチュエーションを再現、記録できます。VRとAIを組み合わせれば、現実的なコストで効果的なトレーニング環境が作れると考えました。
そもそも起業を選んだ背景には、建築業界での経験があります。大規模プロジェクトにチームの一員として関わるなかで、プログラミングスキルを生かし、その企業で働く選択肢もありました。
最終的には、自分で仕事をした方が楽しく自由に稼げると思い、就職の道は選びませんでした。
一時は海外での起業も視野に入れていましたが、インフラが整ったアメリカや中国などはすでに競争が激しく、逆にインフラが整っていない地域では、ロボットを作ろうにもネジひとつ簡単に手に入らないような環境なため、当時ロボット開発をしようと考えていた自分には困難な環境でした。
その点、日本は必要な部品やツールがすぐに揃い、十分に市場規模もあり、IT領域も非常に恵まれた環境だと実感し、国内での事業展開を決めました。
面白さこそ挑戦の源泉。まだ誰も見つけていない価値へ
仕事におけるこだわりを教えてください。
面白いと思えることに取り組むことです。面白くないことを頑張ろうとすると、途端に難易度が上がるように感じます。
営業でも開発でも、面白いと感じながら取り組んでいる人の方がのめり込みますし、結果として強いと思います。
VR事業の面白さは、その価値がまだ多くの人に理解されていない点にあります。現在のVR市場の主な用途はゲームで、教育分野でも海の中を見たり、歴史的建造物を見たりするような体験要素が中心です。
一方で、VRを30分ほど使用するだけでも何かを身につけることができるなど、トレーニングとの相性が良いにもかかわらず、こうした活用方法はまだ一般的に知られていません。
アメリカの有名な起業家が「誰も気付いていないことで、あなたが気付いていることはなんですか?それがヒントです」と語っています。実際に、VRを事業として手がけている人がまだ少ないからこそ、そこに可能性を感じました。
VRは難しそうに思われがちですが、まだ体験したことがない人も多くいます。だからこそ、その価値に気付いてもらえた瞬間に立ち会えたときに、事業の面白さを感じます。
起業から今までの最大の壁を教えてください
VR事業については、ビジネスモデルをどう確立していくかを模索する中で、多くの学びがありました。
この事業は、もともと大学との共同研究で、VRトレーニングの前後に脳波を測定する取り組みから始まりました。
そのなかで偶然ホテル業界とつながりが生まれ、外国人観光客への対応で従業員がストレスを感じ、離職につながるという課題を知りました。
そこで、VRで外国人との会話を事前に体験できれば、ストレスを軽減できるのではないかと考え、再現状況をシミュレーションし、会話の発音を分析・フィードバックする仕組みを提案したところ、実際にホテルで導入されることになりました。
最初からホテル業界に絞っていたわけではなく、飲食店や建築業界などさまざまな業種に提案を重ねる中で、この入り口を見つけることができました。
価値あるプロダクトであっても、どの業界に、どの価格帯で届けるかの見極めは今も重要なテーマです。業界によって、同じプロダクトでも感じる価値やコスト感覚が異なる点は、事業を進めるうえで大切にしている部分です。
立ち上げ当初は自問自答の日々でしたが、「これはいける」と確信できるようになるまで挑戦を続けてきたことが、今につながっていると感じています。
まだ見ぬ可能性を証明する。VRで切り拓く未来
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
この事業を進めるなかで、頻繁にVRである必要性、VRの意味を問われます。多くの人が、VRの本質的な価値にまだ気付いていないからです。
私の中では、VRで実現できることが100あるとしたら、今はまだ20ほどしか形にできていません。残りの可能性を証明したいという思いが、モチベーションになっています。
そしてその証明は、数字で示すしかないと思っています。何百社、何千社に導入され、幅広い業種で活用され、何十億円もの売上を生み出すといった結果が出るまで、取り組み続けたいです。
VRには確かなポテンシャルがあります。それが活かされずに埋もれてしまうのは、非常にもったいないことです。私たちがやらなければ、世の中にその可能性が現れないかもしれません。だからこそ、やり切る価値があると信じています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
直近の目標は、現在展開しているVR事業を着実に成長させていくことです。営業現場で使えると評価されても、実際に現場で使われなければ意味がありません。
まずは、営業や接客における実践的なトレーニングツールとして、広く普及させていきたいです。
起業はレベル1から。持ち堪える設計で挑め
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
起業のスタートラインに立つとき、多くの人が初心者です。1000人いれば999人が未経験者とも言えるなかで、「自分はレベル1だ」と認識することが大切だと思います。
そのうえで重要なのは、事業が持ちこたえられる設計にしておくことです。最初から安易に資金調達に頼ると、短期間で成果を求められ、かえってリスクが高くなることもあります。
大切なのは、無理のない形でチャレンジできる環境を整えることだと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:山本 直弥 氏
静岡県島田市出身。沼津工業高等専門学校を卒業後、イギリスのオックスフォードに1年留学。帰国後、千葉大学工学部に編入し、建築学を学ぶ。2016年に大学を卒業後、1年間にわたり世界各国を巡る旅を実施。帰国後、共同で株式会社casalizを設立。創業当初より、ロボット開発をはじめとする「ものづくり」に注力し、先進的な技術を活用した多様な事業に挑戦。現在はVR領域における革新的なサービスの開発・普及に注力している。
企業情報
法人名 |
株式会社casaliz |
HP |
|
設立 |
2017年11月27日 |
事業内容 |
バーチャルAIトレーニング「MasterVR」のサービス提供 |
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