【#485】オリジナルの「ビジネスゲーム」で真に学びある企業研修を提供する|最高執行責任者 徳一輝(合同会社Smart Ape)

合同会社Smart Ape 最高執行責任者 徳一輝
ボードゲームの企画・販売からスタートし、採用・研修代行へと事業を広げている合同会社Smart Ape。オリジナルのゲームを用いたビジネス研修は「学びにつながる研修」「心を変える研修」と高い評価を集めています。今回は最高執行責任者 徳一輝氏に「ビジネスゲーム」という新たな市場の開拓にチャレンジすることになった経緯ややりがいについてお話を伺いました。
自律型人材を育成するオリジナルゲームを開発
事業の内容をお聞かせください
もともとはオリジナルのボードゲームの企画・制作・販売をしていたのですが、現在は「ビジネスゲーム」を活用した社員研修や採用イベントの代行が主力事業の一つとなりました。
クライアント企業のオリジナルボードゲームを制作するプランもありますが、制作期間が長く、開発費も高額になるため、多くの企業様には既存のパッケージプランをご利用いただいています。この事業は始めてまだ1年あまりですが、複数の上場企業様に導入いただいています。
研修にはどのようなゲームを使うのですか
現在、主に使っているのは自律型人材の育成をテーマにしたボードゲーム『TEAM CLIP』です。これは弊社が開発したオリジナルゲームで、架空の映像制作会社を舞台に、メンバーそれぞれが日々のタスクをこなしながら、期限までにチームプロジェクトをやり遂げることを目指します。
このゲームのキーワードは「自律型人材」です。“じりつ”には二つの意味があって、一つは自分で立つ「自立」です。これは、与えられた仕事をきちんとこなし、オペレーションを正確に遂行できる人を指します。もう一つが、自分を律する「自律」です。組織の課題に主体的に向き合い、積極的に貢献していく人材を意味します。
特に後者の「自律型人材」を育てたいというニーズは非常に高いのですが、このゲームを通して自分を見つめ直し、”自律”について気づきを得ることができます。
内定者研修や新入社員研修、中間管理職研修など、いろいろな場面で活用されていて、いずれもリーダーシップを発揮できる人材を育成する目的で導入されるケースが多いです。
研修にゲームを使うメリットを教えてください。
座学の研修は、知識を広く伝えることはできる反面、どうしても内容が薄まりやすい側面があります。一方、私たちのゲーム研修は、一つのテーマにじっくり時間をかけるため、自分に何が足りていないかを深く内省することができます。
研修を終えると、明日からどんな意識を持つべきかが明確になり、導入いただいた企業からは「記憶に残る」「心を変える研修だった」といったお声をいただいています。
また、自分の体験と結びつけて何かを学ぶ「体験学習」は、より深い気づきを得られるものですが、OJTや実際の業務で「失敗」を経験させることは簡単ではありません。
その点、ゲーム研修であれば「こういう場面、現場でもよくあるよね」という状況を安全に再現できます。企業も個人もリスクを負うことなく、健全に失敗を学びに変えられるのが大きな特長です。
これは他の研修ではなかなか実現できない、ゲームだからこそ可能になる価値だと思います。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
私は新卒で飲食業の会社に入り、そこで人材育成を担当していました。研修を実施する側だったのですが、現場からは研修に対する反発がありましたし、研修をしてもその効果を実感できませんでした。正直、企業研修に対して懐疑的な気持ちを持っていました。
その後、いくつかの会社に参画し、独立を考えていたタイミングで、今の会社の代表から「ビジネスゲームというものがあるらしいから、一度体験してみよう」と誘われたのです。
試しにやってみると、これがとても面白く、代表と「これなら一緒に取り組めるのではないか」と盛り上がったのがきっかけです。
従来の研修にある課題をゲームという道具を使って変えていくことは、とても面白い挑戦だと感じています。
無料体験で価値をダイレクトに伝える
仕事におけるこだわりを教えてください。
こだわっているのは「品質」です。ゲーム研修の歴史は長いのですが、導入している企業はそれほど多くなく、サービスを提供している会社も限られています。市場としてはニッチなので、そもそも「ビジネスゲームとは何か」という定義もまだ確立されていません。
「ゲームの形をしているだけで、他の研修と大差がないもの」も多く存在しているのが現状なので、ゲーム研修に対してよくない印象をもつ方もいらっしゃいます。とても残念なことですし、そうした積み重ねがこの業界の現状を作ったのは確かです。
ビジネスゲームでしか得られない学びや、受講した方の心を動かすような体験を、どうしたら提供できるのかを突き詰めて考え続けていきます。
起業から今までの最大の壁を教えてください
最大の壁は、事業開始当初、商品が全く売れなかったことです。
ゲーム開発にはお金も時間もかかるので、当初はさまざまな企業とアライアンスを組んで既存のゲームを使わせていただき、商品ラインナップを揃えました。そして半年間、営業に走り回ったのですが、売れたのはわずか2社。
しかも1件あたり単価は30万円で、売上はたったの60万円。このときは「もうやめようか」と本気で迷いました。でも、やめるのであれば自分たちが心から納得できるものを作ってからにしようと話し合い、開発したのが『TEAM CLIP』でした。
ゲーム開発とその体験会の開催費用をクラウドファンディングで募ったところ、1か月で140万円が集まりました。
そこからSNS営業を強化していくと、100通メッセージを送ったら平均15〜20件は商談につながるようになり、「やり方次第でいけるかもしれない」と感じることができました。
そのタイミングで他社のゲームを使うのはやめ、自分たちのオリジナルゲームをどう売っていくかを試行錯誤しながら進めてきました。
ゲームそのもののキャッチーさはあるので、その価値をどう伝えるかが課題でした。そこで具体的なメリットは商談で行い、同時に決裁権を持つ方に無料体験会へ参加いただくというステップを踏むことにしました。
これによって受注率は大きく上がりました。体験していただくと、約半分は成約につながるほどです。この勝ちパターンを見つけたことが、大きなブレークスルーになりました。
使命感と支えてくれた人への感謝が続ける原動力
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
市場開拓から始めているので、他の事業に比べると成長はゆっくりですし、正直、全然お金になりません。おそらく、こんなことに挑戦しているのは自分くらいです。
だからこそ「これは自分にしかできない」という使命感が、続ける原動力になっています。ビジネスゲームには未だ大きな可能性がありますが、私がやめたら終わってしまうだろうという感覚もあります。
事業を進めるためのノウハウも蓄積できてきました。ただ、ここまで来られたのは決して自分一人の力ではなく、たくさんの方に支えていただいたおかげです。だからこそ、ここでやめるという選択肢は私にはありません。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
『TEAM CLIP』には大きな伸びしろがありますが、テーマが「自律型人材」と限定されているため、どうしても売りづらい面があります。
そのため、ゲームのバリエーションを増やしていきたいと考えています。深く学べるタイプのものからカジュアルに体験できるものまで、4〜5本ラインナップを揃えていきたいです。
あともう一つ、教育の延長線上のテーマになりますが、学生向けに就職活動やキャリアの考え方を学べるゲームの開発をしたいと考えています。
私自身、就職活動でとても苦労しました。また、現在採用代行で学生さんに会う機会が多いのですが、通り一遍の志望動機や自己紹介しか話せない人が少なくありません。そういう方が、本質的なキャリアを考えられるようになるゲームを作れたらいいなと思っています。
こだわりを貫き続ける“狂気”も必要
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
この価値を世の中に広げたいと思って起業するなら、ある種の狂気にとりつかれるくらいがちょうどいいと感じています。
「これはすごい」「これが絶対にいい」と思っているだけでは単なる自己満足に終わってしまいますが、それが「誰かのためになる」ものであれば、いつか必ず芽は出るはずです。
事業を続けていると、周囲から理解されなかったり、諦めてしまいそうになったりするフェーズは必ずあります。
でも、強い信念やこだわりがあるのであれば、お客さんの声を受け止めつつ、それ以外の意見にはあえて目を向けないくらいの頑固さで突き進めばいいと思います。
最後まで諦めずに、誰のために何のこだわりを持ち続けるのかを考え抜いていただければと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:徳一輝 氏
これまで飲食、フィットネス、専門商社など複数の企業に参画し、MVV設計および浸透を主とした組織開発およびスキル開発や新卒採用のプロジェクトリーダーなどを担当。現在はビジネスゲームを活用した研修事業や採用支援事業の責任者として活動。ベンチャー企業から東証プライム上場企業まで幅広い採用、教育課題解決に向けたアプローチに従事。
企業情報
法人名 |
合同会社Smart Ape |
HP |
|
設立 |
2021年4月5日 |
事業内容 |
ボードゲーム開発・採用、研修代行事業 |
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