株式会社VoiceCast 代表 細谷 海

「VoiceCast」はデジタル絵本をはじめとした音声コンテンツの作成・配信をおもな事業とする一橋大学の認定学生ベンチャーです。代表の細谷海さんが「VoiceCast」を起業したのは大学3年生のとき。創業のきっかけや音声コンテンツへのこだわり、今後の展望について伺いました。

「創造の余白」を残す作品を配信

事業の内容をお聞かせください

”次世代の物語体験を創造する”をビジョンに掲げ、新しい動画コンテンツの企画・制作を事業としており、おもに子ども向けの動画で見られるデジタル絵本や3Dアニメーション作品をYouTubeで配信しています。

 

絵本の読み聞かせチャンネル『とびだせ!絵本の森』は、これまでに累計15万回以上再生されるなど、多くの方にご覧いただけるようになってきました。今年の夏からは3DCGアニメ『ぷかラボ!』がスタートしました。

 

これらの制作は脚本から動画制作、編集まで制作はすべて自社で行なっており、社内の脚本家が自社ツールを活用してストーリーを作り、イラストレーターがそれに合わせて絵を描き、ナレーションや動きの演出を加えながら、動画を完成させています。

 

社内制作を支援するAIプロダクトの開発も進めています。脚本の下書き、ラフ画の作成、BGM制作、絵コンテの作成や管理などを行うことができるツールを独自開発し、限られた予算の中でも質の高いコンテンツを生み出せるクリエイター支援ツールとして活用しています。

 

AIを活用した受託事業も事業の柱の一つです。上記開発を通じて得た技術力をもとに、企業様のAIを導入したシステム開発をお手伝いしています。ほかにも、声に関する強みを活かして、音声認識や合成音声の生成など、企業のDX支援にも取り組んでいます。

 

「デジタル絵本」の特徴を教えてください

デジタル絵本は動きや音を加えることで、より豊かな表現が可能になります。私たちが目指しているのは、絵本とアニメーションの中間のような新しい視聴体験です。本には、読者自身が想像力を膨らませながら読む楽しみがあります。一方でアニメは、視覚と聴覚を通じて明確な表現を届けるメディアです。

 

私たちの作品はその中間に位置し、想像の余白を残しつつも、臨場感のある体験を提供したいと考えています。また、子どもにとって心地よいとされる音やテンポは、大人とは異なることも多いです。そのため日々研究を重ね、アカデミアの研究者の方々とも連携しながら、試行錯誤を重ねて作品づくりに取り組んでいます。

 

また、YouTubeチャンネルでの収益化を目指しつつ、そこから生まれたキャラクターを軸にしたIP展開をしていきたいと考えています。たとえば、キャラクターを紙の絵本として出版したり、映画化・アニメ化といった展開につなげたり、IPライセンスとして外部に提供したりするなど可能性がたくさんあると考えています。

 

ただし、コンテンツのヒットには確実な正解がないのも事実です。だからこそ、安定した収益となる受託制作も大切な事業の一つとして位置づけています。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

実は弊社は当初から子ども向けに特化していたわけではなく、ポッドキャストやラジオといった音声コンテンツの制作からスタートしました。

 

もともと私自身がラジオが好きで、大学入学後は自らポッドキャストの配信も行っていました。ただ、実際に制作に関わる中で感じたのは、世の中にはまだ見つかっていないが面白い作品が数多く眠っているということです。

 

コンテンツの世界では、例えばYouTuberが職業として確立され、生活の糧として成り立つようになっています。しかし、音声の分野ではPodcastarと呼ばれても、それだけで生計を立てることはできない状況です。

 

しかし音声には、他のメディアにはない独自の魅力があります。だからこそ、まだ発見されていないが魅力のある作品を世の中に届けていきたいと考え、その思いをかたちにするために会社を立ち上げました。

 

AIはクリエイターの創造性を解放するツール 

仕事におけるこだわりを教えてください。

あくまで、AIはクリエイターをサポートするためのツールとして活用するということです。私たちの事業ではAIを活用していますが、AIだけでコンテンツ制作を完結させることは目指していません。

 

よく使われる表現ではありますが、クリエイターファーストの姿勢はこれからも大切にしていきたいと考えています。人の手でしか生み出せない心に響く表現や感性のこもった作品には、やはり特別な魅力があります。そうした人間だからこそできる創作の価値を、AIに置き換えるべきだとは思っていませんし、できるとも考えていません。

 

AIはあくまで、クリエイター一人ひとりの創造性を解放するためのものであり、それが私たちのこだわりです。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

大きな挫折を経験していないことが、ある意味で私たちにとっての壁なのかもしれません。順調にここまで進めてこれた一方で、大きな失敗がないということは、本当に大きなチャレンジにもまだ踏み切れていないことでもあると思います。

 

現在、私たちのチームは業務委託を含めて15名ほどの体制です。学生発のスタートアップで、メンバーにも学生が多く在籍しています。今後は、社員をしっかりと増やし、いわゆる組織としての基盤を築いていく必要があると感じています。

 

また3期目に入り、人材採用やオフィス環境の整備にも取り組み、これまで以上に事業に力を注いで、大きくチャレンジしていきたいと考えています。

 

 

子どもたちがワクワクする「体験」をつくる 

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

絵本は子ども向けという印象が強いかもしれませんが、大人が見ても十分に楽しめる、奥深いコンテンツです。その魅力に気づいたことで、私たち自身、ワクワクしながら作品づくりに取り組むことができています。

 

また、私個人のことを言えば、悩むことも少なくありませんが、たとえばスタッフが自律的に動いてくれる瞬間など、組織の成長を実感できる場面に立ち会えることが、大きなやりがいになっています。日々の中でそうした変化や進化を感じられることが、ここまで続けてこられた原動力かもしれません。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

現在は絵本チャンネルが中心ですが、3Dアニメーションやパペット動画など表現の形式にはとらわれず、子ども向けという広いジャンルの中で、ユニークで魅力的な作品を自由な発想でつくり続けていきたいと考えています。

 

また、同時に既存の出版社の絵本を私たちが動画化したり、商業施設や自治体が保有している既存キャラクターを3Dアニメとして制作・配信したりするなど、他社さんとの協業も進めていきたいです。

 

3D動画の制作には一般的にコストがかかりますが、私たちはAIを活用することで、低予算でも高品質な映像制作を実現できる体制を整えています。そうした強みを活かし、パートナーと一緒に価値ある作品を届けていけたらと思っています。

 

そして、将来的には絵本アプリの開発にも取り組みたいと考えています。動画は基本的に受動的な視聴が中心ですが、アプリにすることで、子どもが画面をタッチすると絵が動くような、仕掛け絵本に似た体験を提供できるようになります。そうした体験を通して、子どもたちがより深く、より楽しく作品に触れられるような環境をつくっていきたいです。

 

 

自分のタイミングで踏み出せばいい

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

父が著述業をしていたこともあり、幼いころから家にはビジネス書がたくさん並んでいて、高校2年生のときにいつか事業を立ち上げてみたいと考えるようになりました。文系の大学へ進学し、エンジニアとしてのスキルも身につけるためインターンを経験し、大学3年生のときに、起業をしました。

 

実際のところインターン期間に時間を無駄にしてしまったことも少なくありません。もっと早く起業できたという反省がある一方、社会人経験がないので今でも日々学ぶことばかりです。そう思うと、起業に正しいタイミングはないのではないかと思っています。

 

私たちは一橋大学の認定第1号ベンチャーの称号をいただき、登記場所の提供やオフィススペースの支援など、大学ならではのリソースを活用させていただいています。

 

起業支援をしている大学は少なくなく、そうしたサポートや大学ならではの使えるリソースを積極的に生かせるのは在学中から起業するメリットだといえます。

 

一方で社会人経験を経てから起業することにも大きなメリットがあり、それぞれに良さがあります。いつ起業してもいいと思いますし、やってみたいと思ったタイミングで足を踏み入れることが、その人にとっての最良のスタートなのだと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:細谷 海
企業情報

法人名

株式会社VoiceCast

HP

https://voicecast.co.jp/

設立

2023年8月22日

事業内容

  • コンテンツ制作
  • 配信・AIを活用した受託開発
  • コンサル事業
送る 送る

関連記事