【#494】信頼関係が失われた組織を救う。社員の本音が企業を変える組織改善プラットフォーム『yellba-イエルバ-』|代表 西川 和範(株式会社yellba)

株式会社yellba(イエルバ) 代表 西川 和範
株式会社yellbaは、社員と経営層の本音でのミュニケーションを実現するプラットフォーム「yellba(イエルバ)」を開発・提供する企業です。イエルバは、会社が一方的に社員の情報を収集する従来の社員サーベイとは異なり、完全ボトムアップで社員の自発的な声を集め、それを起点に組織改善を行うことで企業の信頼関係構築と離職防止、エンゲージメント向上を可能にします。代表の西川 和範氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
社員の本音を可視化し健全な組織を構築
事業の内容をお聞かせください
企業のエンゲージメント向上や離職防止を軸に、人事領域全般の課題解決を支援しています。
コンサルティングサービスをはじめ、自社開発の組織診断サーベイや組織改善プラットフォームを展開し、課題特定から解決まで一貫して伴走します。
その中核となるプラットフォームが「yellba(イエルバ)」です。経営層と社員が率直に向き合うための仕組みで、あらゆる業種・規模の組織で使用できます。特徴は、匿名投稿ができる目安箱の機能と、クラウドファンディングの応援投票の仕組みを組み合わせている点です。
イエルバは、Webアプリケーションとして提供され、一般社員が匿名または記名を選んで自由に意見投稿できます。投稿内容は全社員が閲覧できる掲示板に表示され、他の社員が共感した投稿に「いいね」やコメントを使って応援できるようになっています。
投稿された意見に対するいいねが積み上がることで、社内でどれくらい支持されているか、どれくらい共感されているかを可視化できるのです。
応援期間は概ね2週間程度で設定されることが多く、達成すれば「検討すべき意見」として扱われます。このように社内の支持率を可視化して意見の重要度を測れる点が大きな特徴です。
投稿フォームは、全員が閲覧できる掲示板に載る「会社への意見・提案」と、他の人に見られたくないけれど会社に知ってほしい個人的な相談を投稿する「なんでも相談ホットライン」の2種類を、どちらも匿名で投稿できるようになっています。
さらに、承認機能も備えており、個人名を出した誹謗中傷や不適切な内容は、コメントをつけて差し戻しすることができます。事前に投稿ルールやガイドラインを設定することで、管理者側の安心感も実現させています。
類似サービスとしては、オンライン目安箱や社員サーベイなどが挙げられますが、直接競合する企業はありません。この仕組み自体が国内外でも独自のもので、現在特許出願中です。
どのような状況にある企業が“イエルバ”を導入していますか?
組織の課題を「予防したい企業」と、すでに「問題が起きていて立て直したい企業」の双方に導入されています。
本来は予防的に活用するのが理想ですが、実際には、既に信頼関係が崩れてしまい、一度リセットが必要なケースに導入されることが多いです。
特に、転職サイトの口コミでネガティブな評価を受けている、または、その兆候を懸念している企業にとって有効です。現在、転職希望者の半数以上が口コミサイトを確認して応募を判断するというデータもあり、悪評が経営リスクに直結します。
ネガティブな口コミは、社員が在籍中に本音を言えないまま不満を抱えて退職し、外部の口コミサイトに書き込むことで生まれます。イエルバは、こうした事態を未然に防ぎたい企業にも、すでに問題が起きている企業にも効果的です。
また、労働人口の減少や採用競争の激化により、優秀な人材は企業間での取り合いになっています。従来通りのやり方だけでは通用しない時代となり、企業も社員との向き合い方を根本的に見直す必要があります。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
きっかけは新卒で入社したベンチャー企業での経験です。入社時は50人程度だった会社が、退職時には500人規模に急成長するまでの8年間、管理職として組織崩壊を何度も目の当たりにしました。
急成長の裏で起きていたのは、経営層と社員のコミュニケーション不足です。社員は会社のビジョンに共感して入社するものの、気がつけば疲弊し、次々と辞めていく状況が続きました。
当時は遅くまで働き、その後に飲みに行く時代でしたが、飲み会では社員の愚痴大会が頻発していました。その愚痴を聞いていて、すごくもったいないと思ったのです。
私は立場的に経営層に意見を伝えることができましたが、現場の社員はそうはいかず、本来会社に届けるべき声が愚痴として吐き出されてしまう。しかも、その内容は、会社の改善につながる有益な意見だったのに、飲み会で消えていってしまっていたのです。
「これを経営層に伝えられたら、会社はもっと良くなるのに」
そう強く感じ、現場の声を経営層に確実に届ける仕組みが必要だと思ったことが、現在の事業を始めるきっかけとなりました。
世の中や人が豊かになる事業に取り組む
仕事におけるこだわりを教えてください。
事業を考えるうえで、私が最も大切にしているのは「これは本当に社会のためになっているのか」「人が豊かに生きることにつながっているのか」という視点です。
目先の利益や流行に流されるのではなく、社会や人々にとって本質的な価値を生み出せるかどうかを常に問いかけています。
困難な課題に直面しても、「これは社会に必要とされているのか」という自分の軸に立ち返れば、迷うことなく前に進むことができます。社会や人々に本質的な価値を届けることこそが、私の原点であり、モチベーションの源泉です。
起業から今までの最大の壁を教えてください
今も常に壁と向き合い続けています。
その最大の理由は、「社員の本音と正面から向き合う」という考え方が、まだ経営者の間で一般的ではないことです。多くの経営者にとって、社員の声に耳を傾けることは手間がかかる上、時に耳の痛い意見を受け止めなければならない心理的ハードルもあります。
そのため「社員の声を拾い上げて経営に活かす」という発想自体が、まだ十分に浸透していないのが現状です。
この背景から、私たちの取り組みは導入に至るまでに多くの壁があります。私自身も日々さまざまな問いに向き合いながら、試行錯誤を重ねています。
それでも挑戦を続けることでしか新しい可能性は開けないと信じています。まだ、手探りの部分は多いですが、一歩ずつでも確実に前に進むことが大切だと感じています。
会社と社員が向き合える健全な組織を増やす
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
「何者かになりたい」、「世の中に何かを残したい」という思いです。私は、ポジティブな形で世の中に貢献したいという強い欲求を常に抱いています。
音楽や絵画で活躍するアーティストに憧れがあるのですが、私にはその道は難しい。
しかし、ビジネスであれば、事業に自分の価値観を込めて自己表現ができると感じました。それがないと仕事はただの作業でしかなく、物足りなさを覚えます。
だからこそ、自分の事業を通じて世の中を少しでも良くし、後世に何かを残したい。その思いで走り続けています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
世の中に健全な組織を増やすことです。
日本ではフリーランスという働き方が広まりつつありますが、まだ労働者全体の1割程度に過ぎず、多くの人は組織に所属して働いています。しかし、その多くが活気を失った状態で働いているのが現実です。
組織で働く人たちがいきいきと働くためには、所属している組織が働きがいを持てる環境であることが不可欠です。
健全な組織には、組織と個人の信頼関係や、社員が自律性を発揮できる機会が必要です。その基盤になるのが、会社が現場の社員と真剣に向き合うことだと考えています。「イエルバ」を広めることは、こうした健全な組織を増やすことに直結します。
そのためには実績づくりが不可欠です。まずは多様な業種・規模の企業に導入いただき、成功事例を積み上げることを進めています。
同時に経営者の意識を変えるための啓蒙活動も重要です。発信は得意ではありませんでしたが、Xやnoteでの情報発信も始め、経営者の考え方をアップデートする活動を行っています。今後もプロダクトの実績づくりと啓蒙活動の両輪で「イエルバ」を広めていきます。
社会にどんな価値を届けたいのかを軸に
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
事業内容は自分自身としっかりと向き合って決めるべきだと思います。
世の中には「儲かりそうなビジネス」や「成功事例」が溢れています。しかし、それが本当に自分 のやりたいことなのかを、ぜひ一度立ち止まって考えてもらえればと思います。
スタートアップ界隈は華やかで魅力的に見えますし、憧れるのも自然なことです。
ですが、ビジネスの本質は「どんな世の中にしたいか」「社会にどんな価値を提供したいか」にあります。自分が胸を張ってやれるビジネスを見つけて、ぜひ挑戦してみてください。
御社のサービスに興味がある経営者・企業向けにメッセージをお願いします
人材確保が困難な今、社員から選ばれる組織でなければ、企業は存続も成長もできません。経営者の方には、この現実と正面から向き合ってほしいと思います。
現在は社員が外部情報を簡単に得られ、日常的にスカウトメールも届く時代です。油断していると、優秀な人材はあっという間に流出してしまいます。
これを防ぐには、社員に「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる組織を、明確な意思を持ってつくる必要があります。採用でも同じで、求職者に魅力を感じてもらえなければ、人材は集まりません。
そのために最も重要なのは、社員との信頼関係を築き、より良い組織をつくる姿勢を経営陣が示すことです。「イエルバ」は、そのためのツールです。
経営陣が本気で社員の声と向き合い、受け止め、実行する姿勢を示せば、価値観を共有でき、共感できる社員が残ります。実行しない場合でも、納得できる理由を誠実に示すことが大切です。
こうした健全な組織づくりこそが、企業の競争力となり、成長のカギとなります。
社員の声を聞くには勇気がいりますが、ぜひ覚悟を持って取り組んでいただきたい。その一歩を、私たちが後押しします。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ:西川 和範 氏
筑波大学生命環境科学研究科博士前期課程を修了。新卒で人材系ベンチャー企業に入社。その後、人事制度の構築・運用を支援する人事コンサルティング会社に転職し、2023年6月に法人を設立。
企業情報
法人名 |
株式会社yellba |
HP |
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設立 |
2023年6月 |
事業内容 |
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