株式会社DROBE 代表取締役CEO 山敷 守

プロのスタイリストが選んだ洋服を自宅に届け、気に入ったものだけ購入できる。そんな新しい買い物体験を提供するのが株式会社DROBEです。2019年の創業以来、20万人を超える利用者がおり、今では大手アパレル企業との協業や業務効率化にも取り組んでいます。代表の山敷守氏に、事業の背景や起業の経緯、そしてAIを活用したファッション業界の未来について伺いました。

 

パーソナルスタイリングから始まった挑戦

事業の内容をお聞かせください

当社は、個人向けと企業向けの2つの領域で事業を展開しています。

 

1つ目は、パーソナルスタイリング事業です。これは、スタイリストが選んだ洋服をお客様のご自宅にお届けし、気に入ったものだけご購入いただけるサービスです。2019年のリリース以来、すでに20万人を超えるお客様にご利用いただいています。

 

利用者の中心は30〜40代の働く女性で、最近は50代にも広がっています。創業当初はオン・オフ兼用で着用できる洋服のご要望が多かったのですが、直近はオフシーンでのご要望が増えてきました。

 

登録はLINEから簡単に始められ、身長や体重、予算、ライフスタイルなど約70問のアンケートに答えていただくと、その情報をもとにスタイリストがアイテムを選び、事前提案を行います。実際に届くのは5〜8点で、ご自宅で1週間試着して気に入ったものだけを購入、残りは集荷ボタンで簡単に返品できます。

 

このサービスの大きな特徴は、女性ならではの体型やアイテム選びの難しさに寄り添える点です。男性と比べて女性は体型のバリエーションが幅広く、誰かに似合う服がそのまま自分に似合うとは限りません。

 

そこで、好みや理想像を踏まえた上で、プロのスタイリストが最適なアドバイスを行うことで、安心して選べる環境を提供しています。レンタル型の類似サービスもありますが、当社は購入型である点が大きな違いで、「なりたい姿はあるけれど、膨大な服の中から何を選べばいいか分からない」という方に特に喜ばれています。

 

さらに、この事業の基盤を支えているのが独自のAI技術です。以前はスタイリストが1件あたり約4時間かけて選んでいた作業が、AIの導入によって15〜30分に短縮されました。

 

ファッション業界の課題に、どのように取り組まれていますか?

もうひとつの事業領域は、大手アパレル企業との協業を中心とした、当社がtoC領域で培ってきたファッション×テクノロジーの知見を活かしたサービス開発や業務効率化の支援です。

 

直近の事例では、オンワード樫山様のシューズブランド「steppi(ステッピ)」のECサイト立ち上げに参画し、特に返品対応に強みを持たせた仕組みを導入しました。

 

背景には、アパレル業界が抱える課題があります。EC化率が高く、消費者との接点こそデジタル化が進んでいる一方で、商品企画や発注、物流といった業務は今もアナログに依存しており、効率化が進みにくい状況です。市場が分散しているためIT投資が進みにくく、結果として非効率な業務が残っています。

 

私たちは、こうした課題をテクノロジーで解決しています。たとえば返品はアパレル企業にとって大きな負担ですが、システム化することで「誰から、どの商品が、どんな状態で返ってきたのか」を即時に把握し、在庫復活までの時間を大幅に短縮することができます。倉庫での検品作業もAIで効率化し、最近ではコストを従来の3分の1に抑えた事例も出ています。

 

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

当社はまず、toC向けのファッションスタイリングサービスからスタートしました。その背景には、日本の女性が抱えるファッションへの悩みに対する強い思いがあります。調査をしてみると、7割近くの女性が「ファッションは好きだけれど、自信がない」と答えています。

 

自分に似合う服が分からず、選び方が分からないことで自信を持てない人が多い現状を変えたいという思いが、起業の原点です。

 

スタイリストが伴走するサービスの形にたどり着いたのは、過去の国内外の事例からの学びも大きいです。2016〜2018年頃に、スタイリスト付きサービスはいくつか登場しましたが、効率面の課題からすぐに終息してしまいました。

 

私はファッション出身ではなくテクノロジーのバックグラウンドがあったからこそ、仕組みを工夫すれば成立すると信じて挑戦できたのだと思います。

 

また、起業自体を志したのは大学時代からです。学生の頃にビジネスサークルに入り、周囲にも起業やフリーランスに挑戦する仲間が多く、自分も自然とその道を意識するようになりました。

 

学生時代の起業経験や、大企業での勤務を経て、自分が心からやりたい事業としてファッションに挑戦することを決めました。

 

 困難の先にあった「信頼」の力

仕事におけるこだわりを教えてください。

私自身の中で「ここだけは譲れない」と思う部分に絞ってこだわり、それ以外はメンバーに任せています。その譲れない部分とは、本質的に必要かどうか、整合性が取れているか、統一感があるかといった点です。自分なりのバランス感覚を持ち、重要だと考える部分に集中することを大切にしています。

 

チーム運営において意識しているのは、肩書きや立場にとらわれないことです。これは私が以前所属していた会社のカルチャーの影響もありますが、社長だから意見が通るわけでもないですし、新人の意見が通ることもあります。意見の本質を捉えて評価する姿勢を徹底しています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

2年ごとに壁がくる感覚があります。最初の壁はMBOでした。もともと当社は大手企業の子会社として始まりました。独立を果たすにあたり、大企業の子会社に出資はしないと断られることが多く、門前払いの対応も数多く受けました。

 

時はコロナ禍の影響もあり、市場環境の先行きが見えない中で資金調達を進めるのは非常に厳しかったです。

 

そんな状況を支えてくれたのは、これまで積み重ねてきた日々の仕事そのものです。手を抜かずに真摯に働き、人との信頼関係を築いてきたからこそ、最終的に資金を託してくださる方々と出会うことができました。特別な打開策というより、日々の姿勢が次につながったのだと思います。

 

 

ファッションをすべての人に。リスペクトを力に変える

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

事業そのものが、私のモチベーションです。自分で言うのもなんですが、本当に良い事業だと信じていますし、もっと広げたいとの思いが原動力になっています。

 

一方で、会社を大きくしたいとか、個人としてお金持ちになりたい気持ちはあまりありません。会社の規模が大きくなることは、あくまで結果としてついてくるものだと思っています。サービスをどれだけ多くの人に届けられるかを今は大切にしています。

 

だからこそ、私たちのビジョンにも「すべての人」という言葉を込めています。一部の人だけが使うサービスではなく、誰もが当たり前に手に取れる存在になること。生活の一部として広く浸透するサービスにしていきたい気持ちが根底にあります。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

私たちが原点としているのは「ファッションは好きだけど自信がない人」に寄り添うことです。パーソナルスタイリング事業から始まりましたが、今後は形にこだわらず、この課題を解決するソリューションを広げていきたいと考えています。

 

ファッション業界に関わるようになって5年以上が経ち、大手アパレル企業の方々とお話しする中で、改めて業界へのリスペクトも深まりました。良質な服がこれほど豊かに存在する日本は素晴らしい環境です。だからこそ、その価値を広く届けていきたいと思います。

 

 やりたい気持ちを力に。強い思いが挑戦を支える

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

起業は、割に合わないことの方が多いと感じています。資金調達や株主対応、従業員の雇用責任など、背負うものは非常に大きく、心労も尽きません。何か問題が起きれば、最終的にはすべて経営者の責任になります。

 

これらのリスクを踏まえると、起業はキャリアにおける選択肢として、比較的捉えづらいものなのかなと思います。

 

ただ一方で、それでもやりたいと心から思えることや、成し遂げたいことに対する手段として起業が最適なのであれば、その選択肢もありです。決して楽な道ではありませんが、やりたい強い思いがあるなら、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。

 

 

協業を検討される方へメッセージをお願いします

アパレル業界は、消費者との接点はEC化が進んでいる一方で、業務の多くがまだアナログのままです。ここに生成AIを取り入れることで、できなかったことが可能になり、大きな効率化が実現できます。

 

実際に当社では、月2万点以上の商品タグ付けをAIで自動化し、人力では不可能だった業務をスムーズに処理できるようになりました。こうした事例は、業界にとって大きな可能性を示しています。

 

生成AIは、かつての「服がネットで売れるわけがない」と言われていた時代のECと同じく、近い将来なくてはならない存在になります。だからこそ今から動き出すことが重要です。

 

AI活用に課題を感じている企業はご相談いただければと思います。

 

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:山敷 守

東京都出身。東京大学在学中、学生向けSNS「LinNo」を立ち上げる。2010年、DeNAに入社。ヤフーとの事業提携などを成功させた後、無料通話アプリ「comm」の立ち上げプロジェクトの責任者を担当。2016年にBCG Digital Venturesの日本拠点の立ち上げフェーズから参画し、様々な大手企業との新規事業開発に取り組む。2019年4月、DROBEを設立し代表に就任。

 

企業情報

法人名

株式会社DROBE

HP

https://www.drobe.co.jp/

設立

2019年4月1日

事業内容

  • 女性向けパーソナルスタイリングサービス「DROBE」の開発・提供
  • ファッション業界向けAI・DX事業

 

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