株式会社クラウドケア 共同創業者・COO 桐山典悦

株式会社クラウドケアは、介護保険外の訪問介護や訪問リハビリ、生活支援サービスに特化したマッチングプラットフォーム「Crowd Care(クラウドケア)」を運営しています。利用者に寄り添い、介護保険制度の枠を超えた柔軟なサービスを提供しています。共同創業者・COOの桐山典悦氏に、事業内容や今後の展望について詳しくお話を伺いました。

介護保険制度を補う「介護保険外サービス」を提供

事業の内容をお聞かせください

株式会社クラウドケアは、介護保険外の訪問介護・ 家事・ 生活支援サービスをマッチングするプラットフォームを運営しています。依頼したい高齢者や障がい者の方と働きたいヘルパーをマッチングする、介護保険外に特化したサービスです。

 

日本の介護保険という制度は素晴らしいですが、利用するうえでの制限があります。具体的には、介護保険は要介護認定を受けてから利用できるようになりますが、認定まで1ヶ月以上かかることが多いです。

 

また、介護保険を利用できる内容にも制限があり、代表的な内容ですと、病院内までの通院付き添いは対応できません。

 

さらに、要介護度によって回数や時間に制限があります。もちろん介護保険制度は皆さんが払う介護保険料や税金を財源にしているため、どうしても制限が必要になりますが、自由度の低さに課題を感じる方もいらっしゃいます。

 

そんな介護保険の制度を補うため、また介護業界に人手が足りていないことから、介護保険外のサービスを始めました。マッチングによる介護保険外サービスは比較的新しい市場なので、数多くの競合がいるわけではありません。

 

現在は首都圏を中心に、サービスを展開しており、数多くのヘルパーが活躍しています。スポット的にも働けることや、高時給で働ける体制をつくっていることも、魅力の一つだと思っています。

 

一人一人の利用者の方にマンツーマンで寄り添える当社のサービスが、働き方にやりがいを感じているヘルパーも多い印象です。ヘルパーの登録時に大切にしていることは、必ずヘルパー登録希望者と直接会って面接することです。

 

介護スキルだけでなく、自分の親を任せられるパートナーかどうかという観点で、安心して仕事を頼めるか、責任を持ってやってくれる人かなど、ヘルパーの人間性も見極めることが大切だと感じています。

 

登録ヘルパーは、専業の方も介護事業書や施設で働きながら副業で仕事をしている方もいます。9割以上の方は介護に関する資格をもっていますが、資格をもっていない方の登録も可能にしています。

 

当社サービスは独自のマッチングシステムにより、ヘルパーの持つスキルに対応した仕事だけが提案されるような仕組みにしています。そのため、家事や話し相手、買い出しといった依頼については、資格がない未経験の方でも活躍しています。

 

少子高齢化や、介護業界で働く人が足りない状況が続くと、私たちの親世代や私たちが高齢者になったときに、介護サービスが破綻することも考えられます。だからこそ、間口を広く設定することで介護の仕事をしたい人も育てていきたいと思っています。

 

また、当社では介護専門メディア「けあむすび」というオウンドメディアの運営を始めており、基本的な介護の知識に関する記事に加え、介護の悩みや体験談、働く人の声などを掲載しています。 当社で働いているヘルパーさんを中心にインタビューにご協力をいただいています。

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

私は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科で、介護保険や医療保険や地域包括ケアシステム政策の第一人者である田中滋先生のもとで勉強してきました。在学中に研究をする中で、高齢者の介護に関して課題を感じました。

 

研究だけでなく、現場に行かなければわからないこともあると感じ、その後青梅慶友病院で働きました。この病院はユニークな病院で、医療より介護、介護より生活が大切と、生活に重きを置いていました。

 

青梅慶友病院では、患者様がやりたいことを諦めるのではなく、生活をより豊かにしていくような、例えば、高齢の患者様が「お寿司が食べたい」と言えば、どんなに身体機能が衰えていても、それを叶える。そんな、患者様のやりたいことを実現することにこだわっている病院でした。

 

ある時、嚥下機能が弱ってソフト食しか食べられなかった患者様が、「最後は思い出の食事を食べたい」ということでステーキを希望されました。その方はステーキを美味しそうに召し上がっていて、嚥下機能の低下を感じさせない様子に驚きました。

 

こうした青梅慶友病院での経験から、患者様の生活を豊かにする介護・生活支援のかたちを広げたいと強く感じるようになりました。単に生きるための介護ではなく、「人生の最期までその人らしく満足して生きられる介護」の重要性を実感したからです。

 

青梅慶友病院のような施設を数多くつくるのは現実的ではないため、介護だけはなくさまざまなことをサポートできる仕組みとしてマッチングサービスをクラウドケア代表である小嶋と共同創業しました。

 

小嶋とは、会社員時代の同僚でした。その後、別々の道に進み、10年ほど経った頃、私が青梅市の青梅慶友病院で働いて、小嶋が青梅市で介護のデイサービス事業を立ち上げていました。

 

小嶋もデイサービスにおいて保険内でできることへの限界を感じており、私も保険外サービスを広げたいと思っていたので、打ち合わせを重ね、一緒に事業を始めることに決めました。

 

介護専門メディア「けあむすび」を始めた経緯は、介護保険外サービスがあまり知られていない現状にあります。ケアプランを作成するケアマネジャーでさえ、介護保険外サービスの具体的な利用方法について十分に理解していないことがわかりました。

 

その結果、「要介護になると趣味や楽しみを諦めなければならない」と思い込んでいる方が多いことも見えてきました。

 

また、ヘルパー側では、介護スキルを持ちながら様々な事情で現場を離れた「潜在介護士」も多くいます。柔軟な働き方ができるなら、再び力を発揮したいと考えている方が少なくありません。

 

しかし、こうした方々の体験談や介護保険外サービスの具体例は、世の中にほとんど紹介されていません。その課題を解決するため、「共助」と「自助」を組み合わせた暮らしの知恵や、現場でいきいきと働くヘルパーの姿を発信するメディアとして「けあむすび」を立ち上げました。

ケアを通して、多くの人々を幸せに

仕事におけるこだわりを教えてください。

「ケアを通して、多くの人々を幸せにする。」という我々のミッションに通じます。

 

その人らしい人生を最後まで支えていくことを、当社のミッションに掲げています。できなくなったものを補うというよりも、夢や目標の実現にむけてできることをサポートして、その人らしく生きる支えになることを大切にしています。

 

その結果、家族と一緒に過ごしたり、最後まで人生の質を上げたりすることにつなげていきたいです。

起業から今までの最大の壁を教えてください

ヘルパーの面接は、創業当初は、オンラインで面接をしていました。しかし、仕事を任せる中で当日現場に来ないと言ったトラブルなどが重なって起きたことがありました。

 

そこで、介護を受ける家族も安心して任せられるヘルパーかどうかを見極めるために、直接会って面接して登録するようにしました。その結果トラブルは激減しました。

 

その他には、資金調達においても苦労しました。資金調達のために時間が奪われるので、その間は事業を進められないことがありました。

 

特に創業したての頃は自分たちもヘルパーとして現場に行っていたため、調達に力を入れることで、クラウドケアというサービスをなかなか進めることができていませんでした。

 

もちろん、事業を行う上で資金調達は重要です。しかし、高齢者や障がい者のお客様の課題を最優先で解決するために、まずは資金調達より事業を進めようと決めました。

「けあむすび」を通して介護保険外サービスを知ってもらいたい

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

ケアを通して、多くの人々を幸せにすることです。

 

創業当初のお客様で記憶に残っている方がいます。その方は、一人暮らしの女性でした。ご家族は遠方に住んでいるのですが、病院での入院中に末期ガンで余命1ヶ月と宣告されました。

 

彼女は一人暮らしだけど最後は自宅に戻って生活したいという思いがあり、退院後に当社がご自宅でのケアに入りました。

 

保険制度の介護や訪問看護、訪問診療など、いろいろなサービスを利用されることになり、足りない部分を補うように当社が保険外サービスを提供しました。

 

余命1ヶ月といわれていたにも関わらず、在宅に戻ってから元気を取り戻し、半年以上生活を楽しまれました。最後まで寄り添うことができ、サポートができて本当によかったと、ものすごく幸せな気持ちになりました。

 

今では、同じようなケースがさまざまなところで実現できています。当社のヘルパーが結婚式や旅行に付き添ったり、レストランで食事介助をしたりする依頼も増えています。

 

このようなことをサポートすることで、お客様の笑顔を見ることが私の力の源となっています。 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

保険外サービスの認知度の向上を継続させていきたいと考えています。

 

そのために「けあむすび」を立ち上げたので、保険外サービスの使い方やヘルパーとしての働き方、介護に困ったときの知識などを知ってもらいたいと思います。

 

多くの人が我慢をするのではなく、他の選択肢もあるということを知ってもらえたら、本人や家族が幸せになると感じています。特に最近はビジネスケアラーの問題があります。そのような方々にこそ、保険外サービスをうまく使ってもらいたいと思います。

 

今までの保険外サービスというと、定期利用が必須だったり、利用料金が高額だったりと、気軽に利用できるものではありませんでした。一方でクラウドケアはマッチング形式のサービスにすることで、スポット利用もでき、かつリーズナブルな価格で提供できるような仕組みをつくりました。

 

「けあむすび」の記事を通して、決して富裕層だけではなく、どのような人でも使いたいときだけ手軽に利用できるサービスだと知ってほしいですね。

 

業界全体の取り組みでいうと、2025年2月27日に「介護関連サービス事業協会」という業界団体が立ち上がりました。当社も業界の健全な発展のため、協会に参画しています。生活支援サービスに関するガイドラインの策定と公開にも貢献しています。

 

この団体では、ケアマネジャーなどに介護保険外サービスについて知ってもらう活動に加え、安心して介護保険外サービスを利用できるよう認証制度を作っていく予定です。

学んで実行し、やり切ることが大切

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

まずは、その業界に飛び込んで学ぶことが大切だと思います。私の場合は、慶應ビジネススクールで田中滋先生のもとで学んだことで、日本の介護業界にはさまざまな課題があるとわかりました。

 

しかし、学びだけでは見えてこないこともあります。実際の介護現場に身を置くことで、より深く課題や気づきが浮かび上がってきました。だからこそ、業界に飛び込み、実際に仕事を経験することが重要だと感じています。

 

また、何かをやりたいと思って起業したとしても、同じアイデアを考えている人は数多くいると思います。考えたアイデアを実行するかどうか、そしてやり切ることが大切です。

 

苦労することは当たり前と考えるように、自分がやりたいことにおいて信念があれば、ほとんど苦労と思わないものです。起業すると大変なこともありますが、あくまでもゴールに向かう過程なので、苦労も含めて楽しめるかどうかが大切です。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:共同創業者・COO 桐山典悦

介護福祉士・経営学修士 (MBA)。事業会社でデジタルマーケティング業務などに従事したのち、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 (慶應義塾大学ビジネス・スクール) に入学。在学中は、医療・介護・地域包括ケアシステム政策の第一人者である田中滋研究室に所属。修了後、療養型病院の青梅慶友病院に入職し、医療介護の現場でマネジメント業務を行う。2016年、株式会社クラウドケアを共同創業し、介護保険外の自費訪問介護サービスを開発・提供している。

企業情報

法人名

株式会社クラウドケア

HP

https://www.crowdcare.jp/(サービスサイト)

https://www.crowdcare.jp/care-musubi/(けあむすび)

設立

2016年8月2日

事業内容

  • 訪問介護・家事・生活支援マッチングプラットフォーム「Crowd Care(クラウドケア)」の開発・運営
  • 介護専門メディア「けあむすび」での情報発信
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