株式会社スマテン 代表取締役CEO 都築 啓一

株式会社スマテンは、ビルやマンションなど、建物の法定点検業務の課題を解決する企業です。建物管理者向けには点検履歴や進捗を瞬時に検索できるWebシステム、点検業者に向けては報告書作成が可能なアプリを提供し、従来は約3時間かかっていた事務作業を大幅に短縮しています。代表取締役CEOの都築 啓一氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。

法定点検業務を効率化し、安全性を向上させる建物管理プラットフォーム

事業の内容をお聞かせください

私たちは、法定点検のプラットフォーム事業を運営しています。提供しているのは2つのソリューションです。

 

1つ目は、建物管理者向けの「スマテンBASE」というWebシステムです。過去の点検履歴、報告書、今後の点検進捗状況などを一元管理できます。

 

2つ目は点検業者様向けの「スマテンUP」というアプリケーションです。従来、業者さんは現場で点検作業を行った後、オフィスに戻ってパソコンで報告書を作成していました。

 

ですが、スマテンUPなら隙間時間にアプリで簡単に作成できます。誰でも入力できる簡単なUIで、1日の稼働率を上げて現場の生産性向上に繋げています。

 

私たちがこのアプリを開発できたのは、会社立ち上げ前に消防設備会社をやっていた経験があるからです。点検業者様のリテラシーレベルを理解し、現場の方と一緒に作り込んでいきました。DX化に不安を感じる方もいますが、スマホが使える方なら問題なく操作できる仕様になっています。

 

「消防・ビル点検」というニッチかつ、レガシーな市場に挑戦する理由を教えてください

ニッチと言われますが、市場規模は大きいです。ビルメンテナンス市場は約5兆円の規模があり、毎年1,000億円ずつ拡大しています。

 

建物の老朽化が進んでいることに加え、建築資材の高騰や人件費上昇で新築建設が厳しくなり、既存建物をリノベーションして再生する流れが主流になってきています。リノベーションしても建物自体は古いままなので、メンテナンス需要が増えているのです。

 

また、点検業者様に関するDXは様々な業界で必要とされていますが、なかなか進まないのが現状です。そもそもDXを推進しようとする人たちがその業界を深く理解していないと、本質的な課題にアプローチできません。

 

点検業者様が圧倒的に多いこの業界では、点検業者様自身が資金調達してアプリ開発するのは非常にハードルが高いです。この点に課題を感じていました。最先端テクノロジーではなく、レガシーな業界だからこそまだまだ改善できることが多くあるはずだと思い、参入を決めました。

 

 

事業の将来性と社会的意義について、どう捉えていますか?

大きな市場には、すでに大手企業が参入しているため、スタートアップが競争で勝ち抜くのは非常に難しいです。スタートアップやベンチャーは、大手の参入が少ないニッチな市場の方が戦いやすいと考えています。

 

社会的意義の観点では、この分野は建物の安全を守るといった重要な社会インフラを支えています。

 

ビジネス面では、デジタル化が遅れているからこそ改善の余地が大きく、まだ誰も本格的に取り組んでいない市場での成長の可能性があります。社会貢献と事業成長、その両方を実現できる領域だと考えています。

 

事業を始めた経緯をお伺いできますか?

元々は名古屋で飲食店を経営していて、その後営業会社、太陽光発電所の販売、福祉の会社など様々な事業に携わってきました。

 

現在の事業を始めたきっかけは、東日本大震災です。震災が起きた1週間後にボランティアに行ったのですが、継続的に関わり続けることは難しいと感じました。震災を風化させないためにも、ビジネスとしてしっかりと社会貢献できるものはないかと考えた結果、消防関連の事業を始めました。


一時的な支援ではなく、継続的に社会の役に立てるビジネスを通じて貢献したいという思いが、現在の建物管理・点検事業に繋がっています。

 

 

安心した生活のため建物の点検率を上げていく

仕事におけるこだわりを教えてください。

この業界にチャレンジした以上、本当の意味での価値提供をして、日本一の建物管理プラットフォームを作りたいと思っています。


また、私たちは「全ての建物に安全な安心を」というビジョンを掲げています。現状では消防点検の実施率は55%程度しかなく、2つに1つの建物で本来やるべき点検がされていません。この実施率を上げることが、私たちのミッションです。

 

建物のメンテナンスは、日常で意識することが少ないのですが、皆さんが安全に生活する上で欠かせないものです。

 

もしビルメンテナンス業界がなくなり、誰も点検しなくなったら、エレベーターが落ちたり、火事が起きても消火器がなく、火災が拡大したりします。そうなると常に不安との隣り合わせになってしまいます。

 

日々法律に基づいて、業界の方たちがメンテナンスしているからこそ、最小限の損害で収まっているのです。点検実施率を上げることで建物の安全性を高め、安心した生活につなげていくことが私たちの使命だと考えています。

 

起業から今までの最大の壁を教えてください

私はこれまでの事業の中で、外部的な壁を感じることはあまりありませんでした。むしろ壁があるとすれば、それは自分自身の中に存在しているのだと思います。

 

外部環境の変化や競合との競争といった要素ももちろん事業には影響します。しかし、それ以上に大きいのは、自分がどこまで課題を正しく認識できているか、そしてその課題に真正面から向き合えているかどうかです。

 

壁が目に見える形であれば、どう乗り越えるかを冷静に考え、手立てを講じることができます。ですが、そもそも壁の存在に気づいていなければ、課題を解決することも、事業を前に進めることもできません。

 

たとえば会社を成長させていく過程では、本質が明確でないことがあります。これこそが最も大きな壁になると私は考えています。

 

また事業面での壁でいうと、私たちは建物管理者向けに点検工事とシステムを提供していますが、そういうサービスがあることを企業の総務部の方々は知らないことがほとんどのため、立ち上げ当初はユーザーの獲得に苦労しました。

 

 

質の高い価値提供こそが事業の基盤

進み続けるモチベーションは何でしょうか?

後悔しない人生を送りたいという思いです。

 

「若い時にもっとやっておけばよかった」「勉強しておけばよかった」と、将来思う人生は歩みたくないと思っています。今やっていることが正解か不正解かは正直わかりませんが、自分が決めた道なら走り続けるしかありません。

 

そのため、実はこれまでモチベーションの上がり下がりについて深く考えたことはほとんどありません。常に気持ちを一定に保つというよりも、今この瞬間に全力を尽くすことが自分にとって自然な姿だからです。

 

これが最もシンプルで、最も大切な姿勢なのだと思っています。

 

今後やりたいことや展望をお聞かせください 

しっかりと価値提供できる会社に成長させていくことが、一番大切だと考えています。売上や利益を上げることは会社として重要ですが、まずは価値提供があってこその売上、利益だと思います。

 

現在私たちが取り組んでいるビルメンテナンス業界において、建物の管理者や点検業者様それぞれが抱える課題にフォーカスし、課題を解決できるソリューションやシステム、サービスを磨き続けていくことが必要です。

 

そうした取り組みを続けることで、新たな展開が生まれるかもしれません。ですが、まずは本質的な価値創造に集中したいと考えています。このような姿勢で事業を進めていくことが、結果的には日本の明るい未来にも繋がっていくと信じています。

 

また、AIが進歩する時代だからこそ、人間が本来やるべきことを見つめ直し、心ある人を増やしていきたいと思っています。

 

物質的には豊かになりましたが、震災のボランティア経験から、日々当たり前に生きていることは当たり前ではないと実感しました。そうした感謝の心を持つ人たちを増やしていくことが、今後はより大切だと感じています。

 

小さくてもいいので、まずは始める

起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします

あれこれと頭の中で考え込みすぎるよりも、まずは行動に移すことが何より重要だと思います。完璧な答えや戦略を描こうとして立ち止まってしまうより、たとえ小さな一歩でも踏み出すことが未来への道筋をつくるのです。

 

実際に動いてみると、机上では見えなかった課題や新しい気づきが必ず出てきます。その一つひとつの経験が、自分や組織を次のステップへと導いてくれます。だからこそ私は、まずはやってみるという姿勢を常に大切にしています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

起業家データ:都築 啓一

生年月日:1990年3月28日 出身:愛知県碧南市 18歳のときに飲食店を開業。2011年の東日本大震災の復興支援をきっかけに太陽光発電の事業に参入。自然エネルギー普及に務める一方で、防災・消防業界に社会課題を感じるように。消防業界のアナログな部分をITの力でアップデートすべく、2018年に株式会社スマテンを設立、代表取締役CEO就任。

企業情報

法人名

株式会社スマテン

HP

https://corp.sumaten.co/

設立

2018年4月

事業内容

  • インターネットサービスの開発・運用
  • 法令点検管理ソフト「スマテンBASE」
  • 消防点検アプリ「スマテンUP」
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