【#523】「子連れ旅行の不完全燃焼感」を解消する。インバウンド向けベビーシッターサービス『Parent Time™』|代表取締役 菅原沙耶(Synk株式会社)

Synk株式会社 代表取締役 菅原沙耶
Synk株式会社は、訪日観光客向けベビーシッターサービスを展開する企業です。子連れ旅行の制約を解消し、保護者が安心して日本の文化体験やミシュランレストランなどを楽しめる環境を創出しています。代表取締役の菅原沙耶氏に、事業内容や今後の展望なども含めて詳しくお聞きしました。
訪日富裕層の子連れ旅行をサポートするベビーシッターサービス
事業の内容をお聞かせください
弊社は旅行業と保育業をしており、「Parent Time™」という訪日観光客向けのベビーシッターサービスを展開しています。
BtoBtoCのビジネスモデルで、予約窓口を厳選して事業を行っています。主な取引先は、都内のラグジュアリーホテルのコンシェルジュ経由のご予約と、世界的なラグジュアリー向けの旅行会社、そしてプライベートジェットのお客様を中心に現在サービスを提供しています。
サービスの流れとしては、取引先からParent Timeのトラベルナニーを予約したいとご依頼があり、弊社にご予約リクエストが入ります。ナニー確保のお返事をした後に、お子様の健康状態や、どのように過ごしたいかをお客様と直接やり取りします。
これにより間に入る方たちにとっては手離れがよく、細かいところまでお客様と弊社でやり取りができるため、安心してご利用いただいています。
さらに、弊社のスタッフは全員が保育士資格を持ち、かつ英語が堪能なため、販売パートナー様にとってマッチングコストがかからないといった点もご評価いただいています。
基本の利用時間は1枠3時間で、2枠のご予約で6時間の利用が最も多いです。3時間にしている理由は、子連れの旅行で感じる不完全燃焼感を解消するためです。
子どもがいると無意識に子ども向けのアクティビティを選んだり、子どもが眠くなると部屋から出られなくなったりします。3時間だけでも子どもを安心して預けることができれば、ゆっくりお買い物をしたり、子どもがいてはできないアクティビティを楽しめるのではないかと考えました。
利用者層はラグジュアリー層で、最も多いのはミシュランの寿司店や和食店に行きたいといったご要望です。こうした店舗は大体15歳未満入店お断りとなっているため、お子様をホテルの部屋でルームサービスを頼んで寝かせるところまで担当してほしいといったご要望が多くあります。
その他には、同行型サービスとして皇居の散歩や外出に一緒に行くご要望もあります。現在、ラグジュアリーな日本文化コンテンツを海外の方に提供している企業とのご縁で、静謐な環境下での文化体験など他社のコンテンツにナニーを同行させる取り組みも予定しています。
また、中目黒・横浜・鎌倉で提携しているインターナショナル保育園で、日本の子どもたちと交流する「プチ留学」のプログラムも提供しています。集団にいきなり入るのではなく、弊社のナニーが専属でつきながら交流するプログラムです。
さらに現在、クリニックと提携を進めており、体調不良のお子様の預かりも始める予定です。発熱があっても子どもは元気で遊べますが、急変に備えてクリニックでナニーと過ごしてもらい、必要時にはすぐに医師の診察を受けられる環境を整えたいと考えています。
利用者からはどのような感想をいただいていますか?
直近では、弊社を選んだ理由として「信頼している旅行会社が勧めてくれたので、全く迷わずに申し込んだ」と回答いただきました。窓口を絞っていることで信頼を得られていると感じています。
このお客様は、世界的な旅行業界のネットワークに加盟している旅行会社を通じてご依頼をいただきました。このようなネットワーク内の信頼関係により、お客様には「ここに頼めば大丈夫」といった安心感を持って利用していただいています。
事業を始めた経緯をお伺いできますか?
大学卒業後、日本最大のクルーズ客船で5年ほど乗務し、世界を周遊しました。様々な国や町を見る中で、成熟した社会は教育によって成り立っていることを感じました。そして教育の「良い受け皿」となるためには、幼少期の育ちの内容や、愛情の受け取りが大切だろうと思いました。
30歳頃に結婚・出産を経て、陸上でクルーズの仕事を始めました。その後、ラグジュアリートラベル業界でBtoBマーケティングを中心に約20年仕事をしていました。ですが、コロナにより休業状態になってしまったのです。
旅行業だけに頼るのは危険だと思ったのがきっかけで、元々興味があった幼少期の育ちの重要性に着目し、保育士資格を取得しました。
それまで、保育士の仕事の深い部分を知らずに過ごしていましたが、勉強と実習を通じて、保育士が大変で崇高な使命を帯びた仕事だと知りました。人の命を預かって適切な育ちを保障するという、人間を育てる仕事なのです。
また、乳幼児の心身の健全な発達を保障するだけでなく、保護者支援も保育士の重要なミッションだと知りました。素晴らしい仕事をしているのに、社会的評価とのギャップに大きな課題を感じ、何かできることはないかと1年ほど考えていました。
その後、旅行業が回復し、インバウンドの勢いを見た時に、海外からの観光客の金銭感覚が日本の3倍程度ではないかと気づきました。そこで、インバウンドの観光客に託児サービスを提供すれば保育士にも高い給料を支払えるのではないかと考えたのです。
確証はありませんでしたが、PRタイムズで事業を発表したところ、ホテルや施設から利用したいといった声や、保育士から仕事をしてみたいといった声をいただき、双方に需要があるならやってみようと思ったのがきっかけです。
保育士のやりがい搾取になる仕事は一切しない
仕事におけるこだわりを教えてください。
保育士ファーストであることです。
保育士のやりがい搾取につながる仕事はお受けしません。ベビーシッターの仕事では、家事手伝いのような業務を頼まれることがよくあると聞きますが、保育士の仕事はお子様を見ることであり、例え就寝していても呼吸や体勢の確認のために存在している、といったことをお客様にご理解いただける契約にするなど、保育士を守ることを徹底しています。
また、保育士ファーストでありながらも、三方良しであることを大切にしています。クライアントであるホテルや旅行会社の方が使いやすいサービスにすることも重視していますし、弊社自身が持続していけるよう、利益を残しながら事業を行うことを心がけています。
起業から今までの最大の壁を教えてください
人の命を預かる仕事で、外国人旅行者がエンドユーザーになるので、何かあった時のリスクが非常に重いと感じています。その中でも、弊社のリスクを最小限に抑えつつ、利用者の利便性を阻害しない利用規約を整えるのがとても大変でした。
神奈川県のアクセラレータープログラムのご縁で国際的な弁護士事務所のパートナー弁護士さんと知り合い、グローバルに対応可能で、かつ旅行業や児童福祉法も考慮した内容の利用規約に整えていただけたので、ようやく安心して運用できるようになりました。
子どもたちの健やかな成長に貢献したい
進み続けるモチベーションは何でしょうか?
元々子どもが好きという思いもありますし、幼少期の育ちの重要性を感じていることが原体験としてあります。
禅寺のご住職にご協力いただいて、坐禅プログラムを提供しているのですが、その方がお仕事柄、重大な罪を犯した方と接することが多く、そういう人たちは、幼少期の愛情の受け取りが圧倒的に少ないとお話してくださいました。愛情を受けて育たないと自分を大切に思えず、それが他人の命も軽く扱ってしまう可能性があるそうです。
小さい頃に愛されて育つことの大切さを強く感じています。乳幼児期の教育が人間の一生を左右するということを実感し、保育士の仕事にも大きな意義があると思っています。私の事業が子どもたちの健やかな成長に少しでも貢献できることが、大きなモチベーションになっています。
今後やりたいことや展望をお聞かせください
現在トラベルナニーの事業を行っていますが、需要に対して対応可能な人員数が不足しています。弊社では6名の直接契約ナニーがおり、インターナショナル保育園と提携して約100人の保育士にリーチできる状態です。
ですが、英語ができる方となるとそんなに人数を確保できないため、グローバルナニーとしてデビューしていただくための保育士向けリスキリングプログラムの実施を考えています。
スキルアップを希望する保育士に向けたリスキリングプログラムは、4つの柱で構成する予定です。まず語学力として基礎英語力の向上、次に異文化理解、そして外国人の子どもに適切に対応する異文化保育、最後に富裕層マインドの理解です。
また、その前段として、語学スキルのない保育士と、子供好きなバイリンガル学生のバディ制度を導入しようと考えています。
当初はトラベルナニーの人材確保が目的でしたが、このバディ制度の仕組みができれば、特別なリスキリングをしなくても保育士の価値向上につながるのではないかと考えています。これが現在最も力を入れて取り組みたい事業です。
24時間夢中になれるもので起業する
起業しようとしている方へのアドバイスをお願いします
私もまだ始めたばかりなのですが、そのことを24時間考えていても楽しいと思えるなら、ぜひ挑戦してみることをおすすめします。
私の場合、最初は小さくスタートして、失敗しても失うものがほとんどありませんでした。そういう状況の方は、ぜひやってみるといいのではないでしょうか。
採用を強化されているそうですね。どのような人材が理想でしょうか?
自分で考えてアクティブに動ける方が理想です。
英語は、TOEICの点数で測れるような単純な問題ではなく、重要なのはコミュニケーション力です。
子どもの様子を報告するなど保護者と話をする機会がありますが、その際に英語を流暢に話せることよりも、会話でわからないことがあった時に「わからなかったのでもう一度お願いします」と言えるコミュニケーション能力がある方に来ていただきたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました!
起業家データ: 菅原沙耶氏
1982年生まれ 鎌倉市出身 大学卒業後に客船乗組員を経てラグジュアリートラベル業界で20年。マーケティング、ブランディング、B2Bセールスの経験と旅行業・コロナ禍で取得した保育士資格を活かし2022年にインバウンドトラベルを扱う「Synk株式会社」を設立。現在は、保育士に高単価な仕事を創出・提供するべく、訪日観光客向けナニーサービスを展開中。訪日観光客の滞在の充実と、保育士のHappyが日本の子どもたちの笑顔につながる世界観を目指している。
企業情報
法人名 |
Synk株式会社 |
HP |
|
設立 |
2022年6月 |
事業内容 |
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